参加希望 国際協力について語ろう

「小泉内閣タウンミーティングin 東京」(議事要旨)ODAを考える

1.日時

 平成16年10月3日(日)15:00-17:00

2.場所

 東京都 日比谷公会堂

3.出席閣僚

 町村 信孝 外務大臣
 弓削 昭子 国連開発計画(UNDP)駐日代表
 草野  厚 慶應大学総合政策学部教授兼政策・メディア研究科委員
 河合 正弘 東京大学社会科学研究所教授

4.参加者名

 304名

5.概要

(町村外務大臣からの挨拶)

  • 町村外務大臣写真 日本のODAは、50年前から始まり、みなさんが理解しているよりも世界で高い評価を得ている。その例として、日本のODAの成果を描写したバングラデシュの通貨やガーナの切手などが挙げられる。
  • 1954年10月6日、当時日本は世界銀行から支援を受けていたが、コロンボ・プランへの加盟を閣議決定し、これを機に発展途上国への経済協力に取組むことになった。
  • 日本は、2003年度までの累計で、166の国や地域に対して7万人の専門家と2万5,000人の青年海外協力隊を派遣するとともに、176の国や地域からを27万5000人の研修員を受け入れた。また、日本は、2003年までに総額2,210億ドル、平均すると1年あたり国民一人当たりで約3,700円の援助を実施している。
  • 日本は援助大国である。1991年から2000年まで10年連続して日本のODA供与総額は世界第1位、2001年以降はアメリカに次いで第2位であった。国連総会では、先進国は国民総所得の0.7%をODAに当てるという目標が採択されているが、日本のODAの対国民総所得比は0.2%で主要22ヶ国の中で第19位である。国民総所得の多い日本やアメリカがこの数値をクリアするためには努力が必要である。
  • 日本にとってのODAの意義として、第一に、ODAを通じて開発途上国の安定と発展に貢献することが日本の安全と繁栄の確保に資すること、第二に、テロや紛争の原因ともなっている貧困問題をODAを通じて解決をすることは国際社会の共感を得、日本が国際社会の信頼と尊敬を得るために最もふさわしい政策であることが挙げられる。
  • 平成15年の8月、政府開発援助大綱(以下、「ODA大綱」)を改定した。旧ODA大綱(平成4年6月)策定後の約10年間の国内外の情勢変化を踏まえつつ、ODAの戦略性、機動性、透明性、効率性等を高め、幅広い国民参加を促進し、我が国のODAに対する内外の理解を深めるために改定を実施したもの。今後は新しいODA大綱に基づき、国民の理解を得つつ、新たなる気持ちでODAを実施していきたい。

(弓削代表からの挨拶)

  • 国連開発計画は、発展途上国へ無償援助を行なっている国連機関である。現在、134ヵ国の途上国に事務所を置き、貧困削減、紛争後の復興支援などを行なっている。私は12年間、タイ、インドネシア、ブータンに駐在して開発援助の仕事をしてきたが、日本の援助は途上国から非常に感謝されていると感じた。
  • 去年はアフガニスタンで雇用創出とインフラ整備の援助事業を視察した。これは日本政府が資金拠出してUNDPが現地の方々と協力して進めているプロジェクトである。アフガニスタンは、紛争のために非常に大きな被害を受けたが、このプロジェクトでは現地の方々を雇い、瓦礫の撤廃や小学校・医療施設の修復、道路の修復、下水道設備の修復等、様々なインフラ整備を行なっている。その結果、失業率の高い中、多くの方々に雇用を与え、同時に多くの壊れたインフラを修復できた。南部のカンダハールでは、このプロジェクトの道路建設現場でODAのリサーチを行ない、日本の援助に対する感謝の言葉を聞くことができた。
  • ODAに対する日本国民の理解は、まだまだである。内閣府の世論調査では、ODA予算を削減すべきという意見の40%は、ODA内容の不明確によるものであった。途上国に感謝されているにも関わらず、日本国民がその内容を理解しておらず、マスコミによってマイナス面がクローズアップされている現状を残念に思う。
  • ODAの広報は改善されてきてはいるが、国民にODAを理解してもらうための努力は、援助関係者、マスコミ、教育システムを含め引き続き重要な課題である。情報を広める側の努力と同時に、国民側の知ろうとする努力も必要である。
  • 日本はいろいろな資源を途上国に頼っているので、途上国なしには、日本国民の生活は成り立たない。現在、世界はすべての国が何かしらのつながりを持っている。よって、紛争やテロが世界のある地域で起きれば日本にも影響がある。途上国の環境汚染やHIVなどの感染症も日本や他国に影響を与える。このような相互依存の世界では、途上国問題は世界の問題であり日本の問題でもある。世界の人々との共存、共生を理解する必要がある。
  • 世界は今まで以上に共通の問題について解決策を模索することが必要である。日本人も他の国々の国民とともに、安心して生活できる地球にしていくことが求められている。世界中の人間の共存、共生、連帯の意識が必要であり、協力して貧困を削減しなければならない。このため、先進国であり、経済大国である日本の力が期待されている。

(草野教授からの挨拶)

  • 私はODAよりも、より広い視野からの国際平和協力に関心があるが、そのODAに対して、会場の皆さんはあまり良い印象を持っていないと思う。ただ、ODAというのは、日本国内の公共事業とは違って、文化や習慣、異なる言語の中で行われるわけで、非効率になる部分があることは、ある程度やむを得ない。国内の公共事業でさえも失敗案件がある。うまくいったケースを二つ紹介したい。
  • 日本が随分前にタイに供与したバンコク保健衛生訓練センターが、保健衛生を専門の大学院になり、現在では、大学院がミャンマー、フィリピンなどからの留学生を受入れている。現在、日本は大学院に対して人材育成の資金援助をしている。これは「南南協力」と言われている。このような支援は、日本の援助が周辺に波及しているという効果である。
  • バングラデシュでは日本の無償資金協力でゼネコンの大林組が現地の方々を雇用し、大きな橋(メグナ橋)を施工した。大林組の人によれば、最初は日本での作業よりも効率は悪かったが、結果的には日本での作業と同じレベルの仕事ができるようになった。嬉しいことに、大林組はこの工事後、バングラデシュで雇用した人たちを再度ODAとは関係のない、自社のシンガポールでの工事に雇用したという。このように、ODAの波及効果は想像を超えてある。
  • 前のODA大綱で不足した内容を議論し、昨年の8月に新しいODA大綱が策定された。新しいODA大綱には、今後の進むべき方向について戦略性、機動性、透明性、効率性等を高める積極的な内容が盛り込まれている。ということは、これまでのODAには、そういう点が欠落していたということである。

(河合教授からの挨拶)

  • 日本は50年前にODAに取り組み始めた。以来、一貫してODAを拡大する努力を進めてきた。結果として、1991年から2000年まで10年連続ODA供与総額は世界1位で世界最大のODA供与国だった。2001年以降、供与額は減っているが、大きな貢献を果たしてきている。
  • 国内においてODAは批判の対象になることが多いが、東アジアを中心として、発展途上国の経済発展、貧困の削減という点で非常に大きな貢献をしてきたことは間違いない。その結果、東アジア諸国の中にはODAを卒業する国もたくさん出てきている。このような日本の国際貢献を自国の国民が知らないことは非常に残念だ。
  • ODA反対の理由には、ODAの透明性や援助のあり方、中国のように経済発展を遂げている国にODAは不必要など無駄があるのではないかという疑問を持っている人々が多いことが挙げられる。このような疑問を踏まえ、これからの日本のODAは、効率性、透明性などその「質」を高めていくことで、ODAに対する国民の信頼を得ことが必要だと考える。
  • 国民の信頼を得るためには、日本がODAを行なう理由や意図を明確にし、相手国に適した援助戦略を考えなければいけない。そのためには現地の大使館等が中心となり、JICA、JBIC、JETROなどがこれまで以上に密接に協力して行くことが必要である。またODA実施機関に加えてNGOも参加し、生の日本人の顔が見えるかたちでODAを行っていくことも必要である。
  • また、受け手である発展途上国自身が、みずから主体的かつ明確な開発計画を持たなければならないなど、ODAの質を高めるには日本だけではできない部分もある。主体的かつ明確な開発計画を作成する準備がまだできていない国には、統計の整備、経済分析、政策設定、政策遂行など各種の能力増強を支援する技術協力が必要になる。
  • 発展途上国もODA資金を受けるだけではなく、民間経済活動と連携することを考えなければならない。日本が質の高いODA戦略を持ち、発展途上国が主体的な経済開発戦略の下で健全な経済政策をとり、それを民間部民が支えることが必要である。
  • UNDP、世界銀行、ADBなど国際機関との連携も重要である。日本はこれまで国際的な連携でうまくいかなかった面も多かった。これからはカネを出すだけではなく、アイデアを出して国際援助社会全体をリードしていくことが必要である。その結果ODAの国民理解が得られると思う。

(会場からの主な発言と大臣、その他登壇者からのコメント)

(情報公開のあり方と政策等について)

  • 援助国に対しては、日本のODAに政治的意図はないと理解できるが、日本国民には援助の意図を明確にすべきだ。自衛隊に予算をつけるよりも、ODAに予算をつける方が、日本は世界の高い評価を得られると思う。(会場)
  • 防衛予算を削減し、その分をODAに充てることが適当か否かについては色々な考え方があろうし、ここではお答えできないが、援助の意図を明確にすべきだというご意見には賛成である。また、ODAには、日本国内の景気が悪いのにどうして外国に予算を廻すのかなどいろいろな批判があると承知している。しかし、日本のODAは被援助国のためでなく、日本のためにもなっている。このような点について、国民の理解を得ることが大切であると思う。(町村大臣)
  • 2000年のミレニアム開発サミットにおいて採択された国連の「ミレニアム開発目標」なくして、ODAを語る事はできないと思っているが、この目標は日本国内に浸透していないと思う。このことが、ODAの国民理解の妨げになっているのではないか。他の先進諸国は援助を増額しようとしているが、日本は逆に減額している。このミレニアム開発目標を達成するために日本はどのように貢献しようとしているのかについて、国民や諸外国にも理解されていない。(会場)
  • 「ミレニアム開発目標」の浸透は非常に重要だと思う。確かに日本国内における「ミレニアム開発目標」に対する理解は不足している。「ミレニアム開発目標」の中には、非常に大事な内容が盛り込まれているので、国民にどのように浸透させていくのか、よりいっそうのPR活動、啓発活動をやっていかなくてはいけないと思う。私は以前文部大臣を務めたが、「ミレニアム開発目標」には教育問題なども盛り込まれており、それがあまり知られていないのは非常に残念なことである。また、世界の流れはODAの増額に向いているが、日本は減額の方向にある。世界の流れから見れば疑問を感じるが、日本は今、国家歳出約80兆円の半分を借金でまかなっている。この財政状況から抜け出すために様々な分野の予算を減らしているところであり、ODAもその対象にならざるを得ない。しかし平成17年度以降はODA予算を若干でも増やせるよう努力したい。(町村大臣)
  • 「ミレニアム開発目標」は、国際社会での共通の枠組みで、2015年までに8つの開発目標を達成するというものである。先進国では、国内委員会やキャンペーンなど様々な活動が進んでいるが、日本はまだまだである。来年の秋に国連ミレニアム宣言から5年目のレビューが、首脳レベルで行われる。そこでは、「ミレニアム開発目標」についての進展、各国の実施内容とその成果、2015年に向けての方針などが議論される。それに向けて各国とも様々な対策を練り、研究、調査を現在進めている。日本にもODA大国という点から大きな関心が集まるので、国民の積極的な取り組みが重要になる。(弓削代表)
  • ODAの予算は削減され、過去7年間で3割減って8,000億円になり削減しすぎ。新しいODA大綱と国別援助計画の間に中期政策があるが、中期政策の最大のポイントは「ミレニアム開発目標」に沿った貧困削減である。2015年までに達成可能な目標は初等教育の普及、他の目標は不可能であろうと言われている。日本は、DAC(開発援助委員会)の昨年の審査で、これまで、出遅れていると指摘されている。(草野教授)
  • 日本はODAを今まで拡大してきたが、その間自国の経済情勢が深刻な事態になってしまった。そうした中でODAの予算を増やすためにはODAに対する国民の信頼がないと難しい。「ミレニアム開発目標」については、予算削減の中でいかに貢献できるかであるが、重要な課題は「質」を高めていくことに尽きる。発展途上国の貧困緩和に役立たないODAを行なっても効果がないので、真に役立つODAを掘り起こすべきだ。また、政策の一貫性の観点から、日本はODA以外にも発展途上国の経済発展に役立つ政策 ―たとえば途上国の農作物輸入の自由化など― をとる必要もある。予算をつけるだけでではなく、このような総合的な政策をとることで、ODAの質が高まり、発展途上国の経済支援ができ、「ミレニアム開発目標」にも貢献できる。(河合教授)
  • ODAによって、世界の貧困などに寄与することはよいことだ。日本の国民、援助国に対して、情報公開をしっかりやってほしい。また、ODAと同時に、日本経済の建て直しも考えることが必要なのではないか。(会場)
  • 10月1日の閣議で、本年度の経済協力白書(以下、「ODA白書」)が報告された。ODA白書を始めとしてホームページやメールマガジンなど様々な方法でODAに関する情報を提供している。また、民間モニター制度を数年前から開始した。民間モニターは、実際に現地に行き、その結果を報告会などにおいて報告している。この民間モニター制度も情報公開の一部として重要だと思う。(町村大臣)
  • どの国にどれだけお金をかけたかだけではなく、どういった分野に投資し、どのような効果があったのかについて国民に知らせるべきだ。(会場)
  • 現在、日本のODAについては、個々の案件だけではなく、政策全体についても事後評価を実施している。今後も様々なレベルの評価をしっかり実施するとともに、その結果を公表していきたい。(町村大臣)
  • 実行したODAの評価に関しては、改善の余地はまだまだあるが、10年前に比べると改善されていることが理解できる。情報公開に関しては、国民の皆さんにとっての分かりやすさという点において、もう少し改善の余地はあると思う。しかし良い方向に向かっていることは確かなので、今後も前向きに考えて行きたい。(弓削代表)
  • 一般の企業に置き換えて考えてみると、評価という分野は予算を確保しにくい部分である。しかしODAに関しては十分な予算をつけて頂きたい。途上国のプロジェクトにだけではなく、評価という分野に予算をつけることによって、質の向上が期待できると考える。評価を行なうにあたって、人材が足りないという障害が出たときは、積極的にアウトソーシングすれば問題は解決できる。(草野教授)
  • 評価システムを導入しても、よく見かけるように大半が成功だったというような予定調和的な内容では、ODAの「質」の向上は期待できない。もっと厳格な事後評価をしなければならない。そして問題点を議論しうまくいかなかったところを次のプロジェクトにプラスのかたちで活かさなければならない。これからどういうふうにプラスに向けていくのかという姿勢で、評価システムを強化していくことが重要である。(河合教授)
  • ODAと内政干渉という問題がある。援助国に民族的内紛があったとき、その後の結果報告がなく、外務省に責任があると思う。今後は、国民に分かりやすい援助を期待したい。(会場)
  • 日本のODAのやり方に無駄があり、批判の対象になっていることは承知している。また過去に不祥事があり、それが批判に繋がっていることも事実である。今まで以上に会計検査院の検査をしっかりやり、外部の監査法人による抜き打ち監査をやることで事後評価を行ない、その結果を公表して行きたい。また大きな政策の評価を引き続き実施することが大切だと思う。(町村大臣)
  • 結果報告がおろそかになっていることに関しては同感だ。新ODA大綱では、ついに「要請主義」という言葉がなくなり「需要」という言葉に置き換えられた。これはマイナーチェンジのように感じられるかもしれないが、実際は大きな変化である。途上国と一緒になって考えるということが新ODA大綱では明確にされている。(草野教授)
  • 22兆円の援助金を出して、何割が成功し、何割が失敗しているのか。良い報告だけを聞いているような気がするが、現地では70%が失敗していると聞いている。失敗の例ももっと公表すべきである。(会場)
  • ODAはトータルで見れば成績を上げてきたと思う。しかし山積みされた問題があることも一方の事実である。ODAにおける案件は期間が長く、評価までたどりつくには、5年、6年というスパンを必要とする。外務省の人事は2年程で交代を迎えるので、ODAの現場に適していない。現地の外務省の同じ人間が、最初から最後まですべてをフォローできない点や情報が伝わらないとか、失敗などの非効率を作っているのではないかと思う。このような情報が伝えられにくいシステムになっている点が大きいと思う。(草野教授)
  • 今年から来年、そして再来年にかけては、日本にとっては非常に重要な時期である。今年はODA50周年という重要な時期で、来年はサミットレベルでの国連ミレニアム宣言のレビューということで、ミレニアム開発目標についてのディスカッションがある。それと同時に、国連改革の動きがあり、国連事務総長が設置したハイレベル委員会の報告書が提出されると、国連改革の議論が深まり、その実現に向けての動きが活発になる。国連における日本の役割と可能性が非常に大きく注目されると思う。日本が平和と安全や開発援助の分野で何をしてきたか、そして今後何をするのか、どのようなリーダーシップをとるのか、などに国際社会の関心が集中すると思う。そして2006年は日本の国連加盟50周年なので、国際社会での日本の役割をアピールする絶好の機会である。これらの年にはODAに関する日本の立場は特に重要である。このチャンスを最大限に活かし、日本が世界の中で活躍することを期待する。(弓削代表)

(現地の意向を反映したプロジェクトの実施について)

  • 高校で後発発展途上国の開発について研究を行なっている。日本のODAの取組や実績は評価できるが、後発発展途上国の政権は民主的ではないので、国際援助が現地住民の意向を反映したものかどうか疑問に思う。そうであれば、日本のODAは一方通行になるのではないか。(会場)
  • 開発途上国の政権の意向のみを反映し、国民の意向を反映しない援助は過去に一部あったかもしれない。今後は、現地のニーズを正確に把握してODAを実施することが非常に重要である。そのため、現地の大使館だけではなく、JBIC、JICA、NGOなどが、現地でしっかりした情報収集を行ない、ニーズを正確に把握するように努める必要がある。また、被援助国側に完成度の高いプロジェクトを作成する能力がない場合には、相手国の自治能力、行政能力を高めるような援助も必要である。いずれにしても開発途上国の政権や大統領の国威発揚のみに資するようなプロジェクトは実施すべきではないと考える(町村大臣)
  • 非民主的な政権とどのように協力していくかという問題であるが、UNDPの重点分野である「民主的ガバナンスの促進」と非常に関係が深い部分である。具体的には相手国政府との十分な対話を通じて改善を求めることが必要となる。また、現場の意向を反映したプロジェクトを形成するには、中央政府や地方政府だけでなく、現場の社会的弱者の声も反映する必要がある。そのようなプロジェクトを形成するには時間を必要とするだけでなく、プロジェクトを実施している間も、確認、修正する機会を設けるため、モニタリングと評価も重要となる。(弓削代表)
  • ODAを進めながら随時成果を確認をし、確認できたら援助を増やす方法を日本は採用している。ODAの成果を出すためには、人材育成という教育も大切であり、国別の援助計画が非常に重要になる。(草野教授)
  • 国家を充実させるためには、医療や教育、交通や水道などの公共サービス、農業などが不可欠であり、民主国家でも非民主国家でも同様である。日本としてはODAを進める中で、グッドガバナンスを創りあげる方向に向けることが必要である。また非民主的国家は、財政に不透明な部分が多いので公表するように指導し、法制度や公務員制度の整備も重要な課題となる。(河合教授)

(経済的発展を遂げた中国に対するODAの必要について)

  • 中国へのODAについて、現在中国は有人宇宙飛行を成功させるなど、経済的に非常に発展しているので、今後もODAを続けていく必要があるかどうか疑問に思う。まして、日本に対して良い感情を持っていないと思われる中国に対して、このままODAを続けていくことは得策か。(会場)
  • 日本のODAは被援助国のためでなく、日本のためにもなっている。例えば、中国におけるSARSの流行は、日本人の安全にも影響を与える。そのため、日本は中国のSARS対策に積極的に協力したのだが、この協力に対し、胡錦濤国家主席から小泉総理に対して謝意が表明されている。他方、対中国ODAを批判する意見が増えていることなどに鑑みて、対中円借款は2000年からの3年間で約55%減少するとともに、主として環境問題や人材育成等に特化する形で実施されている。中国は隣国であり、環境問題を放置すれば汚染された空気や酸性雨など日本に直接被害が及ぶからである。なお、中国の沿海部は経済的に発展しているものの、内陸部は未だ貧しいことも事実である。いずれにせよ、いつまでも中国に対して援助し続けていくとは考えられない。いずれ中国が日本のODAから卒業する日がくるものと予想される。(町村大臣)
  • 中国がWTOに加盟できるレベルまで発展を遂げたのは、日本のODAの成果も大きい。13億人の人口を抱える中国が経済発展せずに政治的に不安定のままであったなら、日本の平和にも影を落とした可能性もある。また、中国の経済発展は日本の企業の活性化にもつながり、今まで日本が中国に行って来たODAは評価できる。しかし、日本は「草の根人間安全保障プロジェクト」によって小学校まで援助しているが、今後、初等教育は中国自身でやるべきだろう。(草野教授)
  • 環境と人材に対する中国へのODAは有用だと思う。日本と中国にお互いに不信感が払拭できない歴史があるが、人材交流を通じて変えて行く必要があると思う。そのためには、とくに若者の間で人材交流を行うことが重要である。具体的には中国からの留学生を増やし、日本の理解を深めてもらう。日本からも若者に中国に出かけてもらう。国民のレベルで理解や交流が活発になるためにもODAは有用であると思う。(河合教授)

(機関の連携と援助のあり方について)

  • 日本の援助制度は、JBIC、JICA、JETROが連携することが必要だと思うが、現地では、それぞれが自分の機関のことだけを考えて行動しているように思う。連携強化のためにはJBICとJICAが一緒になることが効率的だ。また、日本の単年度予算制度がODAにもそのまま適用されていることが、弊害となっており、外向きで一方通行に終わることが多い。タイやマレーシアなどは、日本の援助はもう必要ないと言っているが、このような国に対する援助をどのようにすべきか検討しなければならないと思う。(会場)
  • 現在、60数カ国に現地ODAタスクフォース(以下、「タスクフォース」)を設置している。タスクフォースでは、大使館をはじめ、JICAやJBICなどの組織の方々が一同に会して議論をしている。それぞれの機関の専門家の意見を十分聞くことができる非常に重要な場となっている。また、タイやマレーシアなどがより発展の遅れているラオスなどを支援する、いわゆる「南南協力」に日本が支援をしていくことは望ましく、今後は、国際機関等の意見も聞きながら「南南協力」を促進していきたい。(町村大臣)
  • JICAとJBICの統合は、私の専門の政策過程論とも関連がある。結局は日本の行政システム全体の問題であり、国内の縦割り行政が改善されない限りは改善されない。ODAだけの問題ではない。(草野教授)
  • 現場で十分な連携がなされていないとすれば残念である。スムーズな連携を構築するためには、援助実施機関の間で人材交流を活発にする必要があると考える。また中央レベルで、本当の連携を強めていくという自覚がないと改善されないと思う。(河合教授)

(ODAの還元等について)

  • ODAの効果が日本に還元されるのであれば、どのように援助金を使えばよいかの答えが出ると思う。資金援助は、お金だけではなく、環境などで還元してもらうという方法があると思う。また、すでに開発された国に対しては、ODAは必要ないのではないか。(会場)
  • 確かにすでに開発された国にはODAが必要ないので、現在、一般的には、被援助国の一人当たりの国民総所得(GNI)が約1,400ドルに達すると無償資金協力は終了となり、約3,000ドルに達すると円借款も、環境や人材案件を除いて終了するという基準を採用している。(町村大臣)
  • ODAの効果には環境の改善がある。ODAによりある国の環境問題を解決すると地球益や地域益になる。このように地球全体への還元という効果があることも理解して欲しい。(弓削代表)
  • 国民に還元するという問題は、短期的、中期的、長期的に考える必要があると思う。中国のように、日本がODAをすることにより経済が発展し、結果として日本の企業が進出し、利益を生むことになった例もある。また日本と途上国の間で人材のネットワークができているが、これも貴重な資源である。(草野教授)
  • ODAの目的のひとつに外交がある。しかし外交に関して実際問題としては、ODAがどのような外交利益をもたらしたのかという点で、具体的に目に見えるような結果を生まないことが多い。ODAの外交的な付加価値として分かりにくい部分が多いようだ。(河合教授)

(予算の増減と政策等について)

  • 今後はどのように諸外国と連携していき、どのような事業に対して予算を増減していくのかを知りたい。今後、日本はODAと国連などの国際機関への援助とをどのように区別していくのか。(会場)
  • 日本のODAについては、重要であるという認識を持っている国民の方々は多いのだが、予算の使い道に関しては、懐疑的な気持ちを持っている方が多いと感じている。国民の方々の視点から、予算の使い方に信頼してもらえるようにしなければならない。厳しい財政状況が続いているので、国民理解が得られなければODA予算の削減も致し方ない。質や効率性を高めるために重要なことは、厳格な事後評価システムを確立することだと思う。現地のニーズがどこまでODAの中に吸い上げられているか、また日本のアイデアがどこまで活かされているのかなどを情報公開していくことが重要だと思う。(河合教授)
  • 限られた国家予算の中からできるだけ増すことを希望する。しかし、たんに増やしていけばいいという問題でもない。予算を増やす必然性となるキーワードは、効率性や戦略性であると思う。(草野教授)
  • 日本のODAと国際機関が、いかなる形態で連携すれば、単独で援助するよりも効果が上がるかということであると思う。日本にない専門性を持つ国際機関と組むことによって効果的な援助がすすめられる。また独立していない国で、政府間の協力が始められない状況にあるときは、国際機関を通じて援助するなど様々な形がある。日本政府と国際機関との協力事例は蓄積され、様々なかたちで広がりを見せている。(弓削代表)

(以上)

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