1.日時
平成20年6月27日(金曜日)9時30分-12時15分
2.場所
外務省 共用国際会議室(南庁舎893)
3.出席者
「国際協力に関する有識者会議」委員
外務省より、宇野大臣政務官、別所国際協力局長、木寺アフリカ審議官、廣木国際協力局参事官他が出席。
佐渡島国際協力機構(JICA)総務部長
岡村国際協力銀行(JBIC)開発業務部長
関係府省庁がオブザーバーとして参加。
4.議題
(1)第4回アフリカ開発会議(TICAD IV)についての報告
(2)新JICA発足に向けた準備状況についての報告
5.議事次第
- 開会
- 宇野大臣政務官の挨拶
- 第4回アフリカ開発会議(TICAD IV)についての報告
- 新JICA発足に向けた準備状況についての報告
- 次回会合
- 閉会
6.議事概要
(1)開会
冒頭、渡辺議長より、以下の通り述べた。
- 本日の議題は二つある。まず、外務省からTICAD IVについての報告を受け、議論したい。次に、国際協力機構(JICA)と国際協力銀行(JBIC)から新JICA発足に向けた準備状況についてのご報告を頂き、議論したい。
- 新JICA発足に向けた準備状況については、昨年11月の会合でも熱心な議論を行った。今回は、そのときの議論や本年1月の中間報告における指摘、提言を踏まえ、現在どういう取組を行っているかを中心に、報告を頂きたい。
(2)宇野大臣政務官の挨拶
- TICAD IVにおいては、前回の24名より大幅に多く、41名のアフリカの首脳級の方が出席された。日本としても、アフリカ向けODAの倍増など、各種支援策を発表し、議論をリードすることができたと考えている。TICAD IVで表明されたアフリカの声を北海道洞爺湖サミットの議論に反映させていきたい。
- 新JICAの発足まで残すところ3か月余となった。世界最大級の援助実施機関の誕生は内外で高い関心を集めており、援助現場における国際競争力の向上が期待されている。技術協力、有償資金協力、無償資金協力の3援助手法間の有機的な連携を可能にするため、昨年の会議で有識者会議委員から頂いたご意見も踏まえ、外務省、JICA、JBICの関係者により鋭意準備が進められている。
- 残念ながら公務により途中で退席させて頂くが、活発なご意見を賜りたい。
(3)TICAD IVについての報告
(イ)資料1に基づき、木寺アフリカ審議官より、以下のとおり説明があった。
(a)TICAD IVの概要及び成果
- 今回は、「元気なアフリカを目指して-希望と機会の大陸」との基本メッセージの下、「経済成長の加速化」、「人間の安全保障の確立」、「環境・気候変動問題への対処」という3つの議題について活発な議論が行われた。
- 準備には約2年をかけてアフリカ側の意見をよく聞いた。また、TICADは日本とアフリカだけの会議ではなく、世銀、国連、国連開発計画(UNDP)を共催者とし、他の先進諸国や、アジアの経験をアフリカに伝えるとの側面からアジアの諸国も招いている。
- 福田総理が全体議長を務め、基調演説において、対アフリカODAの倍増、対アフリカの民間投資の倍増支援等の我が国の対アフリカ支援策を発表した。福田総理が47の二国間会談を行う間、森元総理に全体会合の審議を取り進めて頂いた。
- アフリカから41名の首脳級が参加するなど、規模、参加レベルにおいて歴史的な会議であった。また、もう一つの歴史的な側面として、成果文書として、今後のアフリカ開発の取組・方向性を示す「横浜宣言」、具体的な支援策のロードマップである「横浜行動計画」のほか、「TICADフォローアップ・メカニズム」が作られた。さらに、アフリカ開発をアジアの経験を踏まえて、経済的な離陸も視野に入れながら投資を正面からとらえ、21世紀をアフリカの世紀にする、という新しい考え方が示された。
(b)日本の対アフリカ支援策
- 福田総理が表明した日本の対アフリカ支援策は、広域インフラ整備(道路網、電力網等)、農業・食料(緊急食料支援、コメの生産量倍増を含む農業生産性の向上)、貿易・投資の促進(2012年までに対アフリカ投資を34億ドルに倍増するよう支援)等の分野で、様々な施策を講じていく。
- 米倉住友化学社長に座長を務めて頂いた「TICAD・日本アフリカ交流年協力推進協議会」の提言を受け、ODAと民間投資の連携や民間企業の対アフリカ投資のリスク軽減も進めていきたい。
- また、ミレニアム開発目標(MDGs)に対する支援策やクールアース・パートナーシップによる支援も行っていく。
(c)TICAD IVに対する評価
- 大きな不測の事態もなく、会議はきわめてスムーズに進んだ。福田総理からは、成功裏に全ての議事を終了したとの発言を閉会式で頂いた。参加した各国首脳や国際機関の代表、国内外のメディア等からも、好意的な評価を頂いた。
(ロ)続いて、別所国際協力局長より、以下の補足説明があった。
(a)総論
- TICAD IVでは、国内外から様々なご協力を頂いた。民間の方々には、経済関係の交流を深める特別セッションなどでご尽力頂いた。また、経済産業大臣、農林水産大臣、環境大臣にも各種分科会、特別セッションを通じて発信を行って頂いた。
- 夫人プログラムでは、一般的な交流だけでなく、福田総理夫人から日本の母子手帳を紹介するなど、特別セッションで母子保健について議論して頂いた。
(b)フォローアップについて
- フォローアップを政策面で反映させていくために、予算をしっかりと確保していく必要がある。本日閣議決定される「骨太の方針2008」の中でこれだけ別扱いにというわけにはいかないが、アフリカ向けODAの倍増やクールアース・パートナーシップの構築を通じて途上国の支援を充実することが盛り込まれている。
- 世銀などの国際機関や、また、南南協力を行っているタイやベトナムは、TICAD IVで発表された行動計画の別添に各々の支援策を書き込んでいる。日本を中心としたアフリカ政策に向けてのネットワークが新たにできつつあるのは喜ばしい。
- 昨今、食料価格高騰の問題で農業の問題が注目を浴びている。一昨日までOECD諸国の援助機関の長や、世界食糧計画(WFP)や国際農業開発基金(IFAD)等を含む国際機関の長が集まる会議に出席し、農業問題について自由な意見交換をしてきたが、北海道洞爺湖サミットでも重要な論点になる。TICAD IVでこの問題をしっかりと取り上げることができたのはよかったと考えている。
(ハ)意見交換
以上のプレゼンテーションをもとに意見交換が行われた。主な意見は以下のとおり。
(a)対アフリカ支援倍増、ODAの量
- 円借款については様々な施策が講じられていくと思うが、技術協力と無償資金協力を拡充していった場合、アフリカ以外の地域への支援が減るのか。どう資金を手当てすることを検討しているか。
(これに対し、別所局長より、「他の地域への支援を減らさない形でやっていきたいと考えており、財務当局とも種々議論している」と応答した。)
- 対アフリカODAの倍増は、2005年なり2006年なりを基礎として、倍増の結果、最も金額が大きかった頃の水準を目指しているとの理解でよいか。
(これに対し、別所局長より、「ただ倍増にするという趣旨ではなく、どういった援助需要があるか、日本に何ができるかを考えた結果として倍増ということになった」と述べた。)
- 政府として、ODAの対GNI比0.7%目標をどのように実現していくのか。
(これに対し、別所局長より、「政府として達成に向け努力していきたいと考えているが、簡単な話ではない」と述べた。)
(b)日本のアフリカ支援策のあり方
- 教育に関しては、教科書の内容を現地化することが重要。また、人材育成においては、アジアの発展を見ると現地の中間技術者の育成が重要であり、そこに具体的に焦点を当てて頂きたい。
(これに対し、別所局長より、「日本はこれまでも職業訓練など、初・中等教育後の教育がその国の成長と自立の基礎として重要だと主張してきており、TICAD IVでも重点の一つとして取り上げている。教科書自体については難しいが、教材や教え方について、日本の経験を活かして取り組んでいくことが重要だろう」と述べた。)
- 企業が個別の事業を長期にわたって成功させようとする中で、政府と民間が一緒になって職業訓練学校等を作るために協力する、そのために日本の中小企業の技術者に協力してもらうといった形で進めていく方が、単に職業訓練所を作るから援助をするというやり方よりも現実的である。
- 「横浜行動計画」の別表で示された多くのイニシアティブをどう組み合わせていくかについて、国ごとに具体的に考えていく必要があると考える。例えば、経済成長の加速化につなげていくために、インフラ整備や大規模資源プロジェクトを中心とした民間投資の促進だけでなく、地場産業の振興や経済構造の多様化への助言等、現地の雇用促進等にも広がるような支援のあり方を考えて頂きたい。
(これに対し、別所局長より、「TICADはアフリカ全体のことを考えて開催されたものであり、内陸国の海外へのアクセスや、農業の生産物の市場へのアクセス等を含めた広域インフラの整備支援を重点的に考えている。他のドナーとも協調しながら、経済成長や日本からの投資促進につながる支援となるよう取り組んでいきたい」と応答した。また、木寺アフリカ審議官より、「福田総理がTICAD IVの開会式の演説の中で述べたように、官民ミッションを出すこととした」と述べた。)
- インフラ整備や食料問題については円借款を、MDGs達成は無償・技協を通じて支援を行っていくという理解でよいか。
(これに対し、別所局長より、「基本的にはMDGsは無償・技協で、インフラは円借款でということになろうが、借款を出せない国もあり、対象国の状況を踏まえながら進めていかなければならない」と応答した。)
- アフリカの環境問題は大きなテーマだったと思うが、クールアース・パートナーシップを通じた支援をどのように行っていくのか。
(これに対し、別所局長より、「既にセネガル、マダガスカル等とは政策協議を行いながら資金を提供している。アフリカについては約10か国と政策協議を始めようと動いている。その中で、すべての国が温室効果ガスの排出削減に参加するよう促す国際世論の形成、中国やインドを取り込んでいくことにつなげていきたい」と応答した。)
- NGOの経験では、「成長の加速化」の部分があまり強く出ると、貧富の差が広がり極端な貧困が増える。人間の安全保障の確立やMDGsの達成、環境・気候変動問題への対処等を前面に出しながら、それらを実現するために経済成長を支援するという位置づけで考えてほしい。
(これに対し、別所局長より、「経済成長が、貧困削減や人間の安全保障の確立を目指すものでなければならないというのは、そのとおりである」と述べた。)
- コメの生産量倍増の支援は、どの国を重点的に行うか。集中的に支援するモデル国のようなものを選んで実績を上げ、アフリカ全体に対するサンプリング的な役割を果たすような形で支援を進めていって頂きたい。
(これに対し、別所局長より、「食料問題への取組については、米国も主要作物の生産量倍増を支援するとしており、国際社会に広く呼びかけながら進めていきたい。日本としては、まずは10か国前後を対象とすることを考えており、インフラ整備等も通じ、増産された食糧をアフリカ全体に流通させることによって問題の解決につなげていきたい。そのためにも、貿易、輸出規制、備蓄等についてG8サミットでも議論されよう」と応答した。)
(c)官民連携
- インフラ整備と貿易・投資の促進は切り離せない関係にある。両者をリンクさせた形で議論を深めていかなければ、官民連携や、その中で出てくる民間提案型支援、一社支援の問題がきちんとはまらないと考える。
(これに対し、別所局長より、「官民連携については、4月18日に政府より促進策を発表した。具体的なプロジェクトについて民間側からご提案を頂き、政府内でその検討を行い、良い案件であるということになれば、日本から被援助国に提案を行っていくこととしている。そのために、外務省のほか財務省、経産省、JICA、JBICにも官民連携相談窓口を設ける。また、現地ODAタスクフォースを拡大するとともに、東京でも定期的に官民政策対話を行うこととしており、経済界の方々にもご協力頂きたいと考えている」と述べた。)
- アフリカで中小企業を起業する人々を支援する体制が必要であり、そのための投融資もある程度必要ではないか。
(これに対し、別所局長より、「中小企業への支援策としては、アフリカ開発銀行との協調融資(アフリカの民間セクター開発のための共同イニシアティブ(EPSA))があり、これを増やしていく議論をしている」と応答した。)
- 具体的な案件をどこの国でどう実施していくかを議論する上で、関係各省庁の間でそうしたことに関するヒアリングを行う横断的な組織を作ってはどうか。その取組を進める中で、具体的に民間企業の事業を応援するようなインフラ整備を進めることが官民連携の典型になろう。
- アフリカ支援は、まず民間が主導で、ODAがそれをサポートする形になっていかないといけない。本年5月には、官民連携の強化・緊密化に向けて、TICAD・日本アフリカ交流年協力推進協議会で提言をまとめ、福田総理に提出して協力をお願いした。また、MDGsの達成に民間企業も関わっていくという観点で、5月にロンドンで英国と国連開発計画(UNDP)の共催で80社程度の大企業が呼び集められ、8社がアフリカに対する投資計画を発表した。サミットに向け、各国のアフリカ支援策への関心が高まっている。民間側が政府のサポートがなければ投資ができないと消極的な態度をとることは甘えであり、民間が強い意志を持って官民連携を主導していかなければいけない時代になってきていると考える。
(d)ガバナンス、市民社会の参加
- ガバナンスの問題は、TICAD IVで議論されたのか、あるいはフォローアップ・メカニズムの中でなされていくのか。また、市民社会・NGOとの連携はフォローアップ・メカニズムの中に入っていくのか。
- TICAD IVや関連会合において、アフリカの市民社会の声が直接聞かれたことを高く評価したい。また、日本側の市民も様々な形で参加し、すそ野を広げることができたこともこの会議の成果であった。
- アフリカのガバナンスの良い国については、その国の財政上の優先事項に合わせて財政支援型の援助を行っていくことを考えているか。
(これに対し、別所局長より、「ガバナンスの問題は横浜宣言の中でも触れられている。経済成長やインフラ整備の重要性については国際的な援助の議論の中でも意見が一致しつつあるが、貧困削減につながる経済成長のためには当然ガバナンスが重要であり、アフリカ各国とも議論している」と応答した。)
(e)フォローアップ・メカニズム
- 中間報告において、マルチ・ステークホルダーによるアフリカ支援の協議・実施促進のための恒常的なフォーラムの形成を提言させて頂いたが、マルチ・ステークホルダーとともにフォローアップを行うことを考えているか。
- 市民社会が参加する形でのフォローアップ・メカニズムについて、どのような構想を持っているか。
- 80年代のインフラ整備への円借款の充当が、その後のアフリカの債務問題につながっていったと考えているが、債務状況のチェックはフォローアップ・メカニズムの中で具体化されるのか。
- フォローアップ・メカニズムが作られたことは評価できる。今後、どのようにしっかりとしたものを作っていくか、国際機関等を含めていくかが課題になる。
- もう少し具体的な行程表が想定されていないと、フォローアップをしにくいのではないか。
(これに対し、木寺アフリカ審議官より、「外務省のアフリカ審議官組織が事務局となり、新JICAの研究所のデータを活用するなどして取り組んでいく。在京のアフリカの大使や関係する国際機関の方々と協力しながら実施状況についてフォローアップをしっかりと行い、TICAD関連の閣僚級会議等で報告することを考えている。TICAD IVを開催するにあたって、市民社会の代表と7回協議を重ねてきており、今後もそのような形で伺ったご意見を反映していく」と述べた。)
- 5年間で成果を出すためには、ここ1-2年で相当の案件形成を行う必要がある。案件の発掘・形成を含めたフォローアップを関係省庁で横断的に行って頂きたい。
- 横浜行動計画をどう現地において具体化していくかが、最も重要。現地主導型に切り替えて、来年・再来年には行動計画の具体化が進んでいるという声がアフリカ側から聞こえてくるようにしなければならない。国レベルで国際機関やJICAが既に行っているものを有効活用することがその第一歩であり、情報共有を進めている。また、具体化に当たって、新JICAと大使館、民間等との連携を国連組織として推進していきたい。
(これに対し、佐渡島JICA総務部長より、「JICAとしてその点は強く意識しており、支援対策会議のような横断的な組織を作りつつある、来週にはアフリカ駐在の次長級の会合をパリで開き、具体的な行動に結びつけていきたいと考えている」と述べた。)
(f)広報等
- 広報には百点満点を差し上げられる。横浜市では「一校一国運動」や横浜市営地下鉄の「一駅一国運動」が行われたほか、テレビもアフリカ一色であった。ただ、その成功の理由は日本だけに帰するものではなく、アジア全体の元気の良さに対してアフリカが期待した結果ではないかと考える。
(これに対し、木寺アフリカ審議官より、「横浜市に大変熱心に準備して頂いたことに大変感謝している」と述べた。)
- アフリカへの支援の雰囲気を幅広く作ることが出来たことは、大きな成果。
- 今回の広報面での成功には、政府の努力だけでなく、日本の市民社会による地道な広報活動の展開も貢献していたことを指摘しておきたい。
(g)他のG8諸国の反応
- TICAD IVに参加した他のG8諸国の反応はどのようなものであったか。
(これに対し、別所局長より、「一昨日まで参加していたOECDの援助機関の会議でも、DAC諸国や国際機関等の代表から、内容と共に、多くの方々と議論する中で会議を作ってきたという点でもよかったと評価を頂いた」と応答した。また、木寺アフリカ審議官より、「フランスは投資促進の部分を高く評価していた。北海道洞爺湖サミットでは、福田総理とアフリカ首脳からTICAD IVの結果を説明して頂き、G8の首脳の議論につなげ、そのような考え方でG8としてもアフリカ支援を行っていくことが確認されれば大変良い結果になると考えている」と述べた。)
(h)アフリカ開発における中国等との協力
- 中国がアフリカにおける存在感を高め、また日中関係が良好になっている中、日中がアフリカでどう協力していくかは、重要な課題。日本に来たアフリカの首脳は中国や韓国にも立ち寄っていると思うが、どう考えているか。
(これに対し、別所局長より、「具体的な協力は簡単ではないが、将来的に様々な協力関係を作っていきたいと考えている」と述べた。また、木寺アフリカ審議官より、「先般の福田総理訪中の際の演説でもアフリカにおける協力の可能性について言及している。日中間の協力が成功する分野をよく特定することが必要である」と述べた。)
- 日本の企業と中国・韓国の企業が進めている個別の案件について、双方で政府の支援も得ようということになり、結果的に日中や日中韓での協力案件を形成するということは十分可能である。
(i)次回のTICADに向けて
- 次のTICAD Vに向けてどのようなことを考えているか。
(これに対し、木寺アフリカ審議官より、「今回のTICAD IVは、これまでの日本のTICADでの取組がよかったということを教えてくれた。TICAD Vについては未定だが、どういう形で開催するか、どのような工夫が必要かをよく考えていきたい」と応答した。)
(4)新JICA発足に向けた準備状況についての報告
(イ)資料2に基づき、岡村JBIC開発業務部長より、以下のとおり説明があった。
(a)新JICAの組織
- 新JICAの体制は、本部組織が24部5室2局1研究所と現行よりスリム化する形で現在準備を進めている。企画部のほか、7つの地域担当部、6つの課題部、業務支援部門を設ける。3つの援助手法の一体的運用を担保すべく、地域部が業務の司令塔となり、課題部が専門的見地から業務の質を確保し、これを資金協力支援部等が支援する。現JBICの在外事務所19か所はすべて現JICAの在外事務所に統合し、56事務所とする。
- 調査・研究は新JICAの本来業務(国際協力機構法第13条第1項第8号)
であり、途上国の開発課題と新JICA組織戦略への貢献や国内外への発信強化を目的として研究所を設立する。平和と開発、成長と貧困削減、気候変動、援助戦略を4つの柱とする。
(b)新JICAの業務
- 3つの援助手法をすべてカバーする形で、国別援助実施方針(仮称)の作成、事業展開計画案の作成、協力準備調査(仮称)の導入を行っていく。また、援助政策の策定を行う外務省と援助の実施を行う新JICAは、明確な役割分担の下、緊密な連携を図る。
- 緊急無償、草の根・人間の安全保障無償等、外交政策遂行上の必要から外務省が実施するもの以外の無償資金協力の実施が新JICAに移管される。
- 国際機関との連携については、戦略的な補完関係を構築し、国際援助潮流への発信を行うことにより援助効果の飛躍的向上を目指す。新興ドナーとの連携については、政府・外務省とも協力しながら、特にアジアの国々と積極的に進めたい。NGOとの連携についても、現行の対話等の取組を発展させていく。また、日本政策金融公庫の国際協力銀行業務(新JBIC)との連携の具体策を協議中。現地ODAタスクフォースには、日本貿易振興機構(JETRO)、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)等に参加頂いているところもある。
(c)最近の取組
- 危機管理態勢・ガバナンスに関し、受注企業の不正等に備えた対応については、新JICAの準備として現行のJICA・JBICの措置の規定を統一する作業を行っている。また、事件・事故発生時の緊急対応の体制を確保し、事業関係者に安全重視原則を徹底している。さらに、新JICAの組織のガバナンス強化のための内部統制体制を構築している。
- 気候変動問題に関しては、JICA・JBIC双方の気候変動対策室が統合を先取りする形ですでに協働しており、本年4月に「気候変動に係る取り組みの方向性」を共同発表する等している。
- 官民連携については、関連インフラ型、PPPインフラ型、政策制度改善型、新たなフロンティア型の形態が考えられる。新JICAに民間連携室(仮称)を設置すべく検討している。企業ダイナミズムに遅れないような迅速な対応と透明性に配慮していく。
- 環境社会配慮ガイドラインに関しては、現行のJICA・JBICとも世界標準として恥ずかしくないものを持っており、これを損なうことなく統一したものを作るべく、作業中。本年2月に有識者会議を立ち上げ、議論を行っている。今後、パブリック・コメント、パブリック・コンサルテーションを実施する予定。
(d)その他
- 新JICAとしてのビジョン、組織戦略については、今まさに内部で議論を行っている。
- 新JICAとして新たな組織文化を作るために、双方の良いところをうまくブレンドしていく必要がある。一方、今年度付託されている業務が統合によって止まってしまうことがないよう、人事配置の内示を早めに出すよう人事部門の要請している。
- 万全な準備をしても漏れや不足、改善点は出てくるので、見直しの仕組みをあらかじめ取り入れて統合を迎えたい。
(ロ)続いて、佐渡島JICA総務部長より、以下のとおり説明があった。
- 新JICAの国別援助実施方針(仮称)は、ベトナム、タイ、バングラデシュでJICA・JBICが合意したドラフトが完成済み。まだドラフト作成中の国も多いが、早く完成させたい。このように、組織についてだけではなく、中身の議論でも、双方の組織が日夜議論して統合を進めている。
- 人事配置については、7月頃に内示が出るようにしたい。フォローアップ・メカニズムに関しては、15ヶ月くらいのプランを考えて定期的な間隔で点検を行いたい。そのためのユニットを総務部に設けることで準備を進めている。
- 統合に向けた準備は、総じて7合目くらいに来た。残りの3分の1が大変であり、昨年11月頃と比べると進捗の速度が落ちてきているため、統合までの3ヶ月でしっかりとやっていきたい。
(ハ)意見交換
以上のプレゼンテーションをもとに意見交換が行われた。主な意見は以下のとおり。
(a)外務省と新JICAの関係
- 外務省と新JICAのインターフェースについて伺いたい。自分(委員)は財務省の主計官等と勉強会を行っているが、ODAについては非常に厳しい認識で、横ばいが精一杯ではないかという状況である。対アフリカODAを倍増すれば、それ以外の地域の分が削減されるトレードオフ関係が出てくると考えるが、外務省の援助政策全体の配分、その下での新JICAの予算と人材の配分をどのように考えているか。
- 組織においては危機管理が重要であり、新JICAとして仮にODA予算が10%削減された場合にどこを重点にするかを、どこの部署が決めるのか。そのような準備を行っておく必要があろう。
(これに対し、JBIC(岡村部長)より、「新JICA内では企画部、総務部が中心となって議論していくこととなろう」と述べた。JICA(佐渡島部長)より、「ODAの資金については、基本的には政策部門が固めるべき話であると考える。JICAとしては、コストが意識できるようなマネジメント体制に組織全体を合理化し、現場にインパクトを与える方向に変えていきたい。人的資源についても同様である」と応答した。また、外務省(別所局長)より、「ODAは、開発政策であると同時に国どうしの付き合いであり、その地域を日本としてどう見ていくかということにつながる。その点、予算の配分については、様々なインプットを頂きながら、外務省が責任を持って行うことが必要」と述べた。)
- 外務省にとっては、重点国・地域への配分や国別の総合的な支援の政策の調整がますます重要になってくると考える。三つのスキームを一元的に担当する実施機関たる新JICAが誕生するところ、外務省の国際協力局におけるスキーム課と、総合計画課及び国別課、多国間協力課との関係を引き続き検討し、後三者のさらなる機能強化に取り組んでほしい。
(これに対し、外務省より、「国際協力局内の国別課だけでなく、地域局にも専門家が多くいるので、その協力を得ながら進めていくのが当然と考える。外務省全体として見て頂きたい」と述べた。)
- 無償資金協力の移管について、NGOに関するものはほとんど外務省に残されているが、必然性はあるのか。むしろ、NGOとの具体的な事業連携は、新JICAに統合するのが将来像として望ましいのではないか。
- 3つの援助手法が一体的に運用されるためには、予算配分や案件形成等について同じレベルで新JICAに権限が委譲されることが前提となろう。無償について移管される権限は、JICAとJBICが現在、技術協力や円借款に関して持っている権限とは若干異なるとの印象を持ったが、どのような形になっていくのか。
(これに対し、外務省より、「緊急事態や災害、テロなど、その時々の状況に応じて対応していくのは、一義的には外務省の仕事であると考えて、このように仕分けている」と述べた。)
(b)新JICAの組織
- 「公共政策部」とは何を行う部署か。
(これに対し、JBICより、「法制度整備支援やマクロ経済等の政策支援、ジェンダー等を担当する部門である」と応答した。)
- 「情報政策部」とは何を行う部署か。
(これに対し、JBICより、「情報システム、情報管理、金融のリスク管理を担当する部門である」と応答した。)
- 民間連携室(仮称)の設置を検討しているとのことだが、NGOとの連携も含めて民間連携室がすべて行うのか、それとも、NGOとの連携は、営利組織である民間企業との連携とは別の部署が行うのか。
(これに対し、JBICより、「NGOとの連携については、民間連携室で行うのも一案だが、他の部門で行うこともあわせて検討している」と応答した。)
- PDCAサイクルの"Check" にあたるフォローアップ・メカニズムを設けることは、是非やって頂きたく、可能ならばそれを公表してほしい。業務が本当に地域部中心となって行われているかという点に重点を置いて、フォローアップして頂きたい。
(c)研究所
- 6つの課題部と研究所の4つの主要テーマとは、もう少し連携させてもよいのではないか。他大学の研究機関やアジア経済研究所等との連携は検討されているのか。新JICAの研究所を他組織との多層的な連携によって充実させるという考え方もできるのではないか。
- 他のドナー国の研究所と同様に、新JICAの研究所には、地域研究を中心とする開発人類学の専門家を入れて頂きたい。
(d)現地の機能強化
- 様々な関係者と連携していく上で、現地事務所の機能が重要。現在のJICAとJBICで現地事務所の役割は若干異なる印象を受けている。どのような形にすると、最も現場で成果を出していけるかを考えることが重要。
- 現地ODAタスクフォースの役割は、今後どうなっていくのか。拡大現地ODAタスクフォースが今後展開していくと同時に、事業展開計画の策定にあたって個別案件について精緻に詰めていくことが必要となるが、新JICAや大使館がそれぞれ何について中心的な役割を果たすのかを決める必要があろう。
- タスクフォースの意味合いも、新JICAにおける地域部の司令塔としての役割如何によって活用の仕方が変わってくると考える。そうした観点から、もう少し議論を行って頂きたい。
- 新JICAの在外事務所の所長やスタッフ、大使館員等について、リーダーシップのトレーニングが必要ではないか。
- 水、環境、インフラ整備等は国レベルでは解決が見いだせず、地域レベルで対応が考えられるようになってきており、そのような中で国際機関との連携が求められてくる。既存のルールが柔軟な援助協調を行う上で適当なものかどうかについて考えて頂きたい。
(e)組織文化の調整
- 個別案件を重視するJICAと、マクロ経済的な視点から全体像を見るのに長けているJBICとの組織文化の違いをいかに調整するかは、大きな課題であろう。両組織の間の垣根をどのように取り払うかについての計画がなくてはならず、解決策を見出して頂きたい。
(f)評価の重要性
- 先程のプレゼンテーションで業務の流れを示した図(資料2中のスライド11)では、評価の結果を援助戦略にフィードバックするというサイクルが欠落している。透明性を高めるという意味で、評価を入れて頂きたい。
(これに対し、JBICより、「ご指摘の図は、政府との役割分担を説明することを主眼としたため、事業の実施以降のプロセスを省略したが、援助戦略へのフィードバックは重要。新JICAにおいても、これまで以上に評価を重視していきたい」と応答した。これに関して、渡辺議長より、「この資料においても、評価についてできるだけ書き込んだ方が誤解を招かないのではないか」と述べた。また、外務省より、「プロジェクト・レベルの評価は実施機関が行うが、国別評価、課題別評価は引き続き外務省が担う必要があると考えている」と述べた。)
(5) 次回会合
9月の開催を予定。詳細な日程と議題は、事務局を通じて調整する。