1.日時
平成20年4月14日(月曜日)9時30分―11時45分
2.場所
外務省 共用国際会議室(南庁舎272)
3.出席者
「国際協力に関する有識者会議」委員
外務省より、別所国際協力局長、廣木国際協力局参事官他が出席。
関係府省庁、国際協力銀行(JBIC)及び国際協力機構(JICA)がオブザーバーとして参加。
4.議題
(1)G8開発大臣会合の報告
(2)NGOから見た国際協力政策の基本的な考え方
5.議事次第
- 開会
- G8開発大臣会合の報告
- NGOから見た国際協力政策の基本的な考え方
- その他(緊急アピール等)
- 閉会
6.議事概要
(1) 開会
冒頭、渡辺議長より、以下の通り述べた。
(イ) 中間報告の提出
- 1月21日、高村外相に中間報告を提出した。自分(渡辺議長)から、報告作成の経緯やポイントを説明したところ、外相は、ODAの戦略性や官民連携といった事項が扱われていることに関心を示した。官民連携については、将来につながるものであれば一社支援のODAでもよい、との発言もあった。また、本中間報告は委員自身が執筆し、市民社会との意見交換や意見募集も行ったことを説明し、外相からはそれは良いことであるとの評価を頂いた。
(ロ) 今後の進め方
- 今後、夏頃まではこれまでプレゼンテーションをして頂いていない委員の方々を中心に、いくつかの具体的な問題をご報告頂きたいと考えている。10月の新JICA発足に向けた議論も行いたい。
- 秋口には、5月のTICAD IV、7月の北海道洞爺湖サミットの議論を踏まえたフォローアップの議論もしていく必要がある。事態の推移を見ながら進めていきたい。皆様からご意見があれば伺いたい。
(ハ) 本日の議論
- 本日は、3つのテーマについてご議論頂きたい。第一に、4月5~6日に開催されたG8開発大臣会合について、別所国際協力局長に簡単にご説明頂きたい。
- 第二に、熊岡委員と神田委員から「NGOから見た国際協力政策の基本的な考え方」について発表をお願いし、それに基づき議論を行いたい。
- 第三に、正式な議題に入れていないが、次のことを提案したい。4月4日にOECD・DACから、2007年の各国のODA実績の暫定値の発表があった。それによると、日本はDAC諸国中、2006年の第3位から、2007年は米、独、仏、英に続く第5位になった。第5位になるのは35年ぶりとのことである。
- ODAは、量さえ多ければいいという話ではないが、この有識者会議の中間報告で、ODAは外交力の重要な源泉であると位置づけ、ODAの量の問題についても「長期的な国益を見据えて高い志で望まなければなるまい」と書いた私たちとしては、無関心ではいられない。何とかこれを反転して、国力に相応したODA供与国になってほしいという思いを緊急アピールとして出し、然るべきところに提出したいと考えている。
(2) G8開発大臣会合の報告
別所国際協力局長より、資料1~4に基づき、以下の通り説明があった。
- G8開発大臣会合が4月5~6日に東京で行われた。高村外相が議長を務めた。
- 参加国については、これまで援助を受けていたが、経済的に離陸しかけており、自らが援助を行いつつある国々に、国際的な援助のあり方について議論して頂くという観点から、アウトリーチ国として、ブラジル、中国、インド、インドネシア、マレーシア、メキシコ、南アフリカ、韓国を招いた。アジアで開催する会合なので、自らの開発経験について語って頂こうと、アジアの国々をやや多く招いた。国際機関にも参加頂いた。
- 議題に関しては、初日の午前から昼までは、G8諸国でサミットをどう作っていくかについて議論した。その後、アウトリーチの国々を交え、「開発のためのパートナーシップの拡大」、「気候変動と開発」、「人間の安全保障とミレニアム開発目標の達成」について議論した。「開発のためのパートナーシップの拡大」では、民間の活力の利用や世界基金のような垂直的基金、ゲイツ財団等の民間財団との連携をどう進めるかについて議論した。また、「気候変動と開発」では、環境分野の議論はとかく南北対立の形になりがちであるが、開発の分野では南北協力が進んでおり、また、開発を進める上で気候変動は忘れてはならない課題だという観点から議論した。最後に、「人間の安全保障とミレニアム開発目標の達成」については、保健、水、教育といった問題について議論した。
- 結果については、サミットに向けてよい話し合いができ、方向性について概ね合意が得られた。
- この会合の直前にOECD/DACから発表されたODA実績の統計をふまえ、高村外相自身から、日本の閣僚である一政治家としてODAの反転を目指さねばならないという強い決意が表明されたが、他の国々も減少しているODAの量を戻さなくてはいけないとの気持ちが強かった。
- 保健、水、教育などについては、全員で一生懸命力を合わせて取り組んでいく必要がある。例えば、保健・衛生については、感染症対策は重要だがそれだけではなく、保健システムそのものをしっかりと強化する必要があるという議論があった。
- 気候変動については、「クールアース・パートナーシップ」等の種々の取組に対し、いかに協力していくかにつき、議論した。
- 新興援助国との関係については、新興援助国側からの考え方が提示され、G8諸国も既存のDACのルールに新興援助国が入るべきだという観点だけではなく、途上国の発展のためにいかにして協力していくかという観点を重視する発言が相次いだ。
- 貧困削減のための経済成長の必要性が確認された。また、この有識者会議の中間報告でもご提言頂いたように、民間セクターの役割の重要性が確認された。
これに関連して、渡辺議長より、「4月6日には、自分(渡辺議長)は草野委員とともに、(G8開発大臣会合のために来日中の)OECD事務総長やDAC議長にお会いし、日本に対する提案等を沢山頂いた」との説明があった。
(3) NGOから見た国際協力政策の基本的な考え方
(イ)神田委員のプレゼンテーション
神田委員より資料5,6 に基づき、以下のプレゼンテーションがなされた。
- NGOには代表制はなく、自分(神田委員)自身、NGOを代表する立場ではない。市民社会セクターの一部分の一つの存在という観点から、お話しさせて頂く。
- ODA重視の前提条件
- 今日、ODAの重要性は増大しているにもかかわらず、日本のODAの量の縮減が続いていることを憂慮している。1980年代からの市場至上主義や経済成長路線によって、新たな貧困層・格差が拡大している。IMF等が主導する緊縮財政、構造調整計画(SAP)により、社会セクターの予算が削減されたことも多い。ODAには、貧困層・格差問題へのそのような対処策の資金源として重要な役割がある。債務帳消しが行われた国でその効果が徐々に現れ、社会セクターの予算が増大してきていることなどは明るい兆し。
- また、温暖化等の地球環境問題は、限界ぎりぎりに達している。地球環境を深刻化させるのは「北」の諸国や都市部の人たちであるのに対し、深刻な影響を受けるのは「南」の諸国や農村部・辺縁部の人たちであり、貧困層が最大の被害者になっている。排出権取引などの市場原理だけでは解決できず、ODAに大きな役割がある。
- したがって、教育、福祉、保健・医療や、水、衛生、感染症対策に力点を置くべき。また、人権、民主化、ジェンダーが最近あまり議論されなくなっていることを懸念。環境、平和構築とともに、食料主権の確立(商品作物から自給農への転換)についても真剣に考えるべき。
- グローバル・ガバナンスの問題
- グローバル・ガバナンスは、南北問題を考えるときに重要な問題。多国間開発金融機関(MDBs)やWTO等の国際機関の意思決定は、実質上「北」の諸国の政府が握っており、途上国の人々の参加の機会が限られている。ただし、BRICs等の中進国の台頭や、「南の銀行」やALBA(米州ボリバル代替統合構想)銀行等を設立する動きなどがあり、変化は見られる。
- ローカル・ガバナンスの問題
- ODAの効率性を考える上で、ローカル・ガバナンスの問題は大切。援助対象国に制度としての民主主義の未整備、権威的権力構造の温存、汚職等の問題がある一方で、住民の側でも権利・義務意識が未醸成であり、政府と住民の共依存関係が存在している等の問題もある。「参加と公開」の徹底による民主制度の確立が急務であり、政府と住民の協働関係を実現するために、住民の権利・義務意識の醸成や、ODAを地域共同体に振り向けることが必要。
- 日本のODAの現状
- ODAの量の問題は、世界の需要、趨勢と逆行している。ODA増額のための前提として、行政に対する信頼を積み上げていくことが大切。有権者の無関心のため、国会でもODAへの関心が低い。メディアでの優先度も低く、市民の無関心、不信感につながっているという悪循環が生じている。その根底には、先ほど途上国について指摘したローカル・ガバナンスの問題が日本社会にも当てはまるという問題がある。
- 実施段階におけるより一層の市民主体の確立
- ODAの実施段階で現地の市民主体を確立する上で、まず、現地NGOとの一層の協働を促進することが必要。日本のNGOとの協働は外務省も前向きに取り組んでいるが、現地ではなかなか進んでいない。また、開発の初期段階からの情報公開と参加の徹底等が求められる。現地事情を熟知しているのは地元の市民であるので、外部の「専門家」だけで進めるべきではない。
- 政策立案におけるより一層の透明性の確保
- ODAは他の公共政策に比べて透明性確保の点では進んでいるものの、まだ足りない点も多い。まず、ODA受取国における市民との政策対話の制度構築に、可能なところから取り組んでいくべき。また、情報公開をさらに徹底すべき。ODAで作られたベトナムのカントー橋崩落についても、善後策や原因究明等についての情報が十分に出されていない。パシフィック・コンサルタンツ・インターナショナル社(PCI)の不祥事についても、この事案の特殊性やどこに問題があったか等について見解を明らかにするのが重要。さらに、政策立案の最初期段階からの市民参加制度を確立すべき。「参加と公開」は、市民・NGOだけのためではなく、ODAの信頼を醸成するために重要。
- ODA政策に見る「参加と公開」の先進事例
- 1990年代以降、外務省、財務省、JICA、JBIC等との定期協議会が行われている。今後、さらにこの「参加と公開」を徹底すべき。また、JBIC、JICAの環境社会配慮ガイドライン作成に、原案の作成からNGOが参加したことは、非常に大きな一歩だった。ODA大綱の改定でも、公聴会やパブリック・コメントが行われている。このような取り組みを一層充実させ、制度化することが重要。
(ロ)熊岡委員のプレゼンテーション
熊岡委員より、資料7~10に基づき、以下のプレゼンテーションがなされた。
- 紛争地域等でのNGO活動・国際協力から見えてきたもの(例:インドシナ)
(a)自分(熊岡委員)は、ポル・ポト時代の直後、ヘン・サムリン政権時代のカンボジアで活動を行った。ゼロからの国、社会の再建に同行できたことは貴重な経験。紛争の原因は容易に一般化できないが、内戦すらも外(=国際社会)から持ち込まれたものが多い。戦争と人権侵害、環境破壊、貧困は相互に密接に絡んでいる。和平協定ができた後も、真の復興、和解、あるいは平和の定着が問われる。一国の不安定化は、地域の不安定化につながる。政府の役割も大きいが、政治的独立性・中立性・公正性に依拠するNGOの役割は大きい。日本でもさらに評価されるべきと考える。
(b)NGOの比較優位としては、究極的には擬似的にしか成り立たないと思うが、非政治性や中立性があり、国境や政治を越えて働くことができることがある。政府間の関係が弱いところ・無いところでも、紛争中の緊急人道援助から復興協力、開発協力を継ぎ目無く一貫して行える優位があると考える。また、人道性、中立性、公正性、独立性、非営利性等があることから、紛争地域をふくめ現地に受け入れられやすい。こうしたNGOの活動は、個人ベースの安全保障を基礎とする「人間の安全保障」に沿っており、政府が動きにくいところで補い合う関係を作り得る。「オール・ジャパン」の定義にもよるが、全面的に政府ー経済界ーNGO等を包み込もうとすると却って、NGOの活動の中立性と融通性が妨げられる可能性がある。
(c)和平協定以降、復興開発の段階で重要なものとして、通常、1)自由公正な選挙の実施と2)市場経済の導入が挙げられる。ただし、自分(熊岡委員)の体験から見ると、紛争後の脆弱な国に拙速に市場経済を導入すれば、結果的に「弱肉強食」型の社会ができてしまう。つまり、ビジネスや援助にまつわる利権が特定の階層に集中し、極端な貧富の差が生じてしまうことが多い。日本のODAが真に貧困削減を目的として実施されるのであれば、経済成長型あるいはインフラ重視だけではうまくいかない現実を批判的に検証しないと、単純に「アジアの成功をアフリカに」とは言えないのではないか。
(d)コミュニティーベースの自然資源管理(森林などの資源)および、小グループでの相互扶助への支援が、草の根レベルでの貧困削減には最も効果的。1)自然と共存する、持続的有機農業普及と、2)相互扶助の仕組みと考え方の普及を二本柱とする、小農支援の農村開発協力が国際開発協力の軸の一つとなる。村の人々自身による自律、安心の村づくりを支援していくことが、最も大きな効果があると考える。相互扶助の例でいえば、コメ銀行(牛銀行、豚銀行、鶏銀行など)や、共同の森林資源・水資源(ため池・魚養殖)管理とも関連して、女性相互扶助グループによる小規模ビジネスを支援する中から、家庭・村のマネージメント、大きく見れば国のマネージメント、民主的統治に、底辺からつなげる支援を行うことができる。人権・民主化支援も、中央からと、底辺からの双方向で進める必要と有効性がある。
(e)カンボジアの人権活動・平和交渉および平和の定着においては、地元の僧侶、寺院、仏教が重要な役割を担った。それぞれの国、地域において、地元の文化や価値観、宗教に根ざした活動が、真に効果をもち、持続的・永続的なものとなる。
- 現在のパレスチナ、イラク戦争の事例
- パレスチナ紛争・占領問題の未解決は、地域的な紛争に留まらず、世界的な不公正感の源の一つとなっている。少なくとも60年続いてきた解決の困難な問題であるが、日本政府として、NGOとして取組むべき課題であるという認識をもつ。パレスチナ現地においては、世界のNGOが調整機関(AIDA)を作って共同で活動している。イスラエルNGOの協力もある。人道支援実施と和平への提言をバランスよく行って、対イスラエル、及び自国、世界に発信している。
- イラクにおいては、湾岸戦争後から人道支援、和平提言を通じて戦争自体を止めようとしてきた。具体的には、マタニティ・ホスピタルの支援や白血病や小児ガンの子供達への医療支援を続けている。04年以降、イラクの治安状況に鑑み、イラク国内から、日本人を引き上げ、国境越しの活動に切替えている。
- イラク戦争の開戦前に、日本政府や政府系援助機関が「平和構築」と難民人道支援あるいは復興支援という用語を使って、戦争そのものへの批判がほとんど聞かれなかったのは残念。外交や交渉その他の非軍事的方法で、戦争を起こさせないことが、最大の「平和構築」である。戦争自体を起こさないことに大きな影響力を発揮してほしかったと思う。今では2002~03年の段階でのイラク問題(大量破壊兵器問題その他)に関して、検証可能な時期・環境になっているので、イラク戦争や中東・西アジアの紛争構造について客観的な分析、率直な意見交換を行えるはずである。パレスチナ紛争解決にも、日本政府と政府系機関が大きな力を発揮してほしい。
- 世界のNGO概観、日本のNGO概観
- 規模およびODAとの関係において、米国におけるNGOは大きく3つのグループに分けられる。第一には、大型NGO。米国政府/USAIDとの連携により、予算もマネージメントも大企業並みのNGO。こうした大型団体も市民性に依拠しているはずであるが、政府政策からの独立性や、市民社会の観点からはどうなのか、という問題意識は残る。第二には、全面的に市民会員や民間財団の支援に依拠し、政府の政策とも明確に距離を置き独立性を強調している団体。第三には、全予算の10~20%等、ODAとの連携に一定の枠を作り、独立性を守っている団体。
- 欧州では、自国やEUのODAと連携しつつも、上限を設ける等、市民社会団体のベースを確保することで、高い市民性を保っている団体が多いように見える。また、一つの例としては、NOVIB(オックスファム・オランダ)というオランダのNGOは、6~7割の資金をオランダのODAから受けているが、基本的に自らのNGOとしての方針を貫いている。
- 日本では、国際協力のNGOというカテゴリーでは、現在400近くの団体がある。その多くが小規模団体である。また、正会員数の総合計は、10年前に約30万人くらいで、現在も飛躍的に増えてはいないと言われている。総体的な支持基盤はまだ弱い。
- NGOは、財政面をふくめ市民・市民社会から支えられることが基本であり、それが自立性・独立性の基盤となる。その意味で、特定非営利活動促進法(NPO法)や、認定NPO法(NGOへの税制優遇措置)は、高く評価できる。しかし適用NGO数が少ない。ODAとの連携に関しては、NGOが吸収・消化できる規模を越えて集中させると弊害をもたらすので、この点注意が必要である。
- また、ロシア、中国、インドなど新しい援助国が台頭したり、ゲイツ財団やジョージ・ソロス氏の「オープン・ソサエティ」など一国並みの予算規模を持つ財団が出てきており、国際的な援助協調は、重要な課題である。
(ハ)質疑応答
以上のプレゼンテーションをもとに、意見交換が行われた。概要は以下の通り。
- 「OECD/DACの報告によると、日本のNGOから発展途上国へ流れる資金は少ないが、それはどのような点に問題があるのか」との質問が出された。これに対し、以下の応答がなされた。
- NGOも『参加と公開』に十全な体制が取れていないことや、NGOのマネージメント能力が低く信頼性が低いこと、認定NPO法人制度が十分知られていなかったり、認定要件を満たすNGOが少なかったりすることなどの問題がある。日本を寄付を行いやすい社会にしていくとともに、NGOのアカウンタビリティ(実施責任/説明責任)を確保することが必要。
- 欧米社会と比べ数字の上で弱いが、日本では、日本赤十字社と日本ユニセフ協会などを対象に多くの寄付が行われており、寄付文化の成長がないわけではない。小さな団体は、地道な活動を通じて支持を広げていく必要がある。また、組織決定に関わる「正会員」にまではならなくとも資金面での支援を定期的に行う人(例:「マンスリー・サポーター」など)はそれなりに増えているので、支持基盤の広がりはある。認定NPO法人制度により、「企業も支援しやすくなった」との声を聞き、また遺産をNGOに託すケースも増えており、確実に良い方向に変わっていきつつある。
- 「民間財団の援助活動が活発化している中で、NGOとこれら財団との建設的連携のあり方についてどう考えるか」との質問が出された。
これに対し、「ゲイツ財団や『オープン・ソサエティ』は、民主化など社会分野にも資金を出しているので、日本での資金獲得が難しいNGOでもアプローチし得る。ただ、当然、これらの財団は自らの考え方を強く持っており、彼らの援助方針に沿って厳しい審査がある。一方で、彼らは特定の地域・国に集中して援助を行い、その国での援助の流れに大きい影響力を持つ場合もある」との応答がなされた。
- 「グローバル化は途上国にとって、チャンスでもあり、ODAは民間投資の触媒としての役割も果たしうる。NGOと企業の社会貢献活動(CSR)との連携の可能性についてどのくらい議論・取組が進んでいるか」との質問が出された。これに対し、
- NGOは、マーケティングや企業利益と結びついたCSR活動との連携を苦手にしているのが現状である。今後、NGO側にCSRコーディネーターとしての能力が育ってくれば、企業側でも長期的な発想に基づくCSR活動をしやすくなっていくのではないか。
- 一例として、NGOが海外現場で職業訓練等を行う際に、資金面ではないが、企業に工具や部品を提供してもらう等、企業の特徴、特性を生かした連携は既に行われている。
との応答がなされた。また、
- 近年、企業はCSRを大変重視しているが、その中身は多種多様である。自分(委員)の会社では、基金を作り、毎年約60の社会福祉活動に従事する施設や団体に対し年間総額約1億円の支援を行ったり、アジアの途上国向けに奨学金制度を設けたりしている。また、各企業のODAのプロジェクトの担当者は、国づくりに協力する使命感をもって働いている。自分の会社でも、イラク戦争以前に日本が作った13カ所の中核病院のうち10カ所の設備改修を無償資金協力案件として受注し、一昨年から昨年にかけて苦労しながらも行った。企業は儲けしか頭に無いというのは誤解であり、経営の根幹としてコンプライアンスやCSRを重視していることをご理解頂きたい。また、今般、ODAと民間企業との連携強化が打ち出されたので、さらに企業がCSR的な観点からODAに取り組むことを検討することもできるだろうし、NGOと協力する機会も拡大していくのではないかと思う。
との発言があった。
渡辺議長より、「中間報告をフォローアップする中で、NGOと企業の連携について、NGOからこのような試みを行っている、あるいはこのような方向を考えたいという話があれば、さらに報告をブラッシュアップできるのではないか」と述べた。
- 「平和構築や復興支援の現場では、治安の確保に関わる問題があると思うが、NGOとしてはどのような仕組みを取り入れているのか」との質問が出された。これに対して、
- 日本自身の中立的な外交上の位置を追求していくことが安全保障となる。
- NGOには、(1)軍隊に守られてでも人道援助等の必要な援助をしなければならないと考えるグループと、(2)犠牲者を出しながらも、基本的に軍隊との協力関係は一切もたず、相当危険なところにも入っていくグループ、(3)軍隊や武器が必要となるところでは援助は断念し、状況の深刻さを世界や自国に向けて発信するグループの3つの対応に分かれている。
との応答がなされた。
- 「自分(委員)もカンボジアでの調査を行ったことがある。援助のブローカーも多く存在するが、無駄や腐敗につながらないようにNGOとしてどのような調整をしているか」との質問が出された。
これに対して、「カンボジアにおいては、カンボジア国際NGOフォーラムやCCC(Cooporation Committee for Cambodia)というカンボジアのNGO協議会があり、国連機関や政府機関、内外NGO等も含めて援助調整を行っている。援助の重複や空白を防ごうとしている。村落レベルでは、カンボジア自身のNGOが、農業技術を広げながら、自分たちに集まる資金を自己管理しながら村との関係をつくっているCEDACなどの例がある。草の根の農村開発や村の運営改善をしていく中でしか、最終的には解決できないのではないか」との応答がなされた。
(4) 緊急アピール
(イ) 渡辺議長、草野委員からの説明
渡辺議長より、「日本のODA実績の順位が下がり、ドナー・コミュニティーにおける位置づけが下がる中、これを反転していかねばならない。そこで何人かの有志が集まり、ODAの量の問題に絞った緊急アピールを出そうということになった。草野委員に起草をお願いした」との説明があり、続いて草野委員から、資料11に基づき、以下の説明がなされた。
- 全文を通じてのメッセージは、ODAの量を増やす「反転・攻勢」である。
- 短期的には、TICAD IVや主要国首脳会議で、福田首相は途上国支援の重要性を訴えかけなくてはならない。日本の発言が説得力を得るためにも、首相自らがTICADまたは主要国首脳会議の冒頭で、過去10年とは異なり国際社会の主要課題に積極的に取り組むことを明らかにすべきである。具体的には、歳出削減期間であっても、他の費目とは区別し、2010年までにODA実績を対GNI比0.25%にまで引き上げ、その予算措置を早急にとることを公約すべきである。
- 中長期的には、2015年までに対GNI比0.7%達成などの数値目標を掲げることが必要である。ODAが、日本外交の基盤であるとの理解からすれば、国内の費目と同一の基準で減らしていくのではなく、政治的決断が必要になろう。
- 財政再建は重要であるので、一部の援助国で実施されている航空券連帯税のような新たな財源確保の方途も探る必要がある。
また、渡辺議長より、
- 具体的な数字をもって日本の意思を国際的に明らかにすることが重要。
- 本報告書の提出先は、「司令塔」である海外経済協力会議としたい。海外経済協力会議に提出することが、ひいては国民に提出することになろう。
と述べた。
(ロ)意見交換
緊急アピールに関して、以下のような意見が出された。
- 国連機関にいて途上国から聞こえる意見は、日本のODAは質が高いということである。メディアで取り上げられるような問題のある案件は何百、何千という案件の中の1、2件であり、あたかもすべてのODAの案件が失敗であるかのように言うのは誤解である。
- 日本は国際公約を守る国であるという信用が今まで培われてきた。こうした中で、2010年までにODA実績をGNI比0.25%に引き上げるというときに、これが必ず守られるのかは、TICAD、サミットの外交の中で非常に重要。
- ODAの量を「上げる」と表現すると、今まで何もしてこなかったようなイメージを与える。2000年まで日本は最大のODA供与国だったのであり、日本の実績をまず「元に戻す」と考えるべき。
- この有識者会議の中間報告の内容にもかかわらず、ODAが大きく減少したことについては、国民の間でODAの必要性が納得されていないこと、地方自治体も予算が執行できないような事態の中で、無い袖は振れないという論理に自分達の報告がどれほど説得力を持つのかということを考えざるを得ない。TICAD IV、北海道洞爺湖サミットを控えている中で、日本の積極的な姿勢を諸外国に見せないと恥になるということは言うべきであるので、緊急アピールの宛先は福田総理にするべき。
- 航空券連帯税への言及があったが、新たに税を取るのではなく、逆に、民間企業・団体が対外援助の寄付をする際に税を控除することでインセンティブを与えることを考えた方がよいのではないか。
- 緊急アピールは出した方がよいが、単に金額が減ったから大変だというのはおかしい。本来、ODAはゼロになるのが理想であるが、現実として需要があるからODAを出す必要があるのであって、需要を具体的に示す必要がある。また、ODA実績の統計をグロス値(支出総額)でも示すべき。
- 外交基盤強化のためにODAを増額するという話は国民にストレートに伝わりにくいところがあるので、GDP世界第2位の国としての義務ととらえた方が、よりわかりやすいと思う。
- 日本のODAは、人権・民主化等をあまり主張せずに行われてきた側面があるが、ODAを増額するためには、世界をこういう国にしたいという目標を持つ必要がある。ODAの目標自体が曲がり角に来ている。
- 本年がミレニアム開発目標(MDGs)達成の中間年でありながら、MDGs達成が困難になっており、日本の貢献が小さくなっていることを、ODA増額の論拠の一つにすべき。
- 航空券連帯税に言及するだけでなく、革新的資金メカニズムや国際連帯税等のより包括的な表現として、今後この有識者会議でも議論していく方向性を出したらどうか。
- 日本のNGO、CSOを含めて社会全体の調査研究・提言能力を高めることが重要。NGO・CSOの声が、戦略レベル、政策レベル、実施レベルに届くような経路を確保しなければ行けない。
これらの議論を受けて、渡辺議長から、「緊急アピールの提出のタイミングが遅くならないようにするため、本日出された意見をできる限り取り入れるべく自分(渡辺議長)や草野委員で努力するが、最終的に案文の修正を議長にご一任頂きたい。また、有識者会議の『代表』や『有志』ではなく、有識者会議(全体)が大筋で一致した紙として提出したい」と述べ、了承された。
(5) 次回会合
6月の開催を予定。詳細な日程と議題は、事務局を通じて調整する。