委員 磯田厚子
2003年3月31日
1.紛争予防のためのODAの役割
(1)ODAが原因となっての紛争助長は絶対に避けるべきである。その観点から、ODA大綱の原則の厳格な適用がなされるべきである。直接的因果関係を説明することが困難だとしても、援助が、実質的にその国の権力層に集中し、貧困の差が拡大することが多い現実を鑑み、当該国内での貧困の格差を拡大したり特定勢力への支援につながるような援助はすべきでない。さらに、南北格差の拡大や、北の国々への資金環流を助長するようなODAが反感や紛争を招くことを深く認識し、避けるべきである。
(2)同時に、予防の視点に立って、平和醸成に向けた支援を積極的に、しかし慎重に取り組む必要がある。公権力集中化のための警察力・軍事力強化は、対立や相互不信感を先鋭化させ、紛争を武力衝突に導く危機性をはらんでいる。ODAは、平和教育や民族融和、民族自治等の支援、市民社会の活性化など対話や共同作業によるソフトパワーの強化に力点を置くべきである。
2.平和構築分野におけるODA
(1)「平和の定着と国つくり」を核とした平和構築の構想は、国家主権の侵害など国連憲章に抵触する懸念がある。国つくりは相手国政府や人々の主体性を第一義的に尊重すべきものであり、この原則は遵守されなければならない。
(2)真の平和の定着は、武力や公権力・警察力ではなく、人々の間での、あるいは人々と政府との間での信頼回復、融和によってのみ達成されるものである。平和構築のためのODAは、恒久的な平和を構築するという視点に立って、こういった非暴力分野の強化を優先すべきである。
(3)平和醸成(定着)に関しては、人々の声を代弁する意味でのNGO/CSOの役割、価値を認識し、その国のNGO/CSO支援を大きな柱の一つとする。また、NGO/CSOが、公権力に対して、一定のチェック機能・対話機能を果たせるような方向での、支援/協力が必要である。
(4)ODAによる人道支援において、警察力や軍事部門との連携は、特段慎重になるべきである。緊張関係の助長や特定勢力との関係強化ないしは悪化させ、恒久的な平和達成を困難にする。人道援助は、政治的中立性、公平性、独立性などの原則を尊重しつつ、その効果性を議論すべきものである。
(5)東ティモール、ユーゴ・コソボ、スリランカ、カンボジア、アフガン他、それぞれのケースにより紛争や戦乱の背景、直接原因、状況が全く異なる。復興支援に当たっては、個別具体的な事情を踏まえた運用が不可欠であり、そのためにはまず紛争を政治的、軍事的観点だけでなく、歴史的、経済的、社会的、文化的観点から分析し、政策決定する能力、制度、実施体制を整えるべきである。
3.イラク攻撃後の復興支援に関連した問題(国際機関や国際法との関連配慮)
(1)国際社会に恒久的平和を導くためには、国際的枠組みや国際法の整備が不可欠である(例:紛争ダイヤモンドに対するキンバリー・プロセス)。この視点に立てば、今回の米英軍によるイラク攻撃は、ブッシュ大統領がその演説で他国の政権転覆を目的としていることを表明するなど、国連憲章違反行為であり国際的枠組みを著しく壊すものである。日本政府は、十分な説明責任も果たさないまま、この攻撃への支持を表明し、また、現在、イラク破壊後の復興への支援について議論が始められているが、このように不明瞭な点が多々あることに対し、まずもって国民に日本としての長期的な国際平和づくりへのビジョンと方向性を示さない限り、ODAを使う根拠は乏しい。
(2)一方、現実に直面する問題として、戦後復興にアメリカの特定企業の契約が報道される等、復興の目的や方向性に疑念を持たざるを得ない動きがある。ODAの運用、特にインフラ復興支援などを進めるにあたり、真に主権を尊重した復興のために、特定の利権に左右されることなく取り組む上で、このような動きに対してどのような対策を講ずるのか、どのような方針で臨むのか明らかにしない限り、その運用は不適当と考える。
4.外交(特に戦争外交)ツールとしてODAを使用すること
(1)外交上の支持獲得のためのODA使用、あるいはODAを交渉の駆け引きに使用することは、ODA本来の理念や既に定めた重点項目等を蔑ろにするだけでなく、日本ODAに対する国際社会の評判を落とすことになり、信頼関係を全てのベースとする国際協力への影響は計り知れず、限られた資源の適正かつ効果的な配分をこれまで以上に崩すものであり、絶対に避けるべきである。