(資料1)
平成17年1月24日
経済協力局
1.対インド支援の理念と目的(日印グローバル・パートナーシップの構築に向けて)
(1)戦後の冷戦構造の中で非同盟主義を掲げていたインド外交は、1990年代始めの冷戦の終焉とともに西側諸国及びアジアを重視した積極的な外交へと変化するとともに、経済面では自由化政策に移行した結果、順調な経済成長を維持。インドは、近年の政治・経済的安定により、国際社会における存在感を急速に高めている。
(2)広くアジアを眺めてみると、インドは、近い将来、外交・政治・経済面で日本及び中国と並ぶアジアのスーパー・パワーとなる可能性が高く、日本、中国、インドの相互の関係を一層強化しつつ、「新しいアジア」を展望する協力関係を構築する必要がある。また、我が国を含む国際社会は、世界最大の民主主義国家インドを市場経済を指向するアジア地域の建設的なパートナーとして発展するよう支援していく必要がある。
(3)インドは、今後の有望な投資先・市場としての潜在性を有しており、日印二国間関係緊密化の必要性は高い。また、インド沿岸域は我が国シーレーンを確保する上で重要な地域であり、我が国の安全保障環境を改善する観点から見ても、親日的な国であるインドが南アジアで安定的な発展を継続することが重要。加えて、人口の約3割を貧困層が占めていることから、インドにおける貧困削減はミレニアム開発目標(MDGs)を達成する上でも重要。
経済協力を通じてインドとの間に安定した二国間関係を築き、中国に次ぐアジア経済発展のもう一つの成長軸となる可能性をもったインドを支援することは、南アジアのみならずアジア全体の平和と安定に寄与するものであり、ひいては我が国にとっても望ましい選択。
(4)我が国はインドの重要性を認識し、2000年8月に両国間で合意された「日印グローバル・パートナーシップ」を構築・具現化するために、対インド経済協力を我が国外交戦略の不可欠の一環として明確に位置付けることとする。
2.インドの開発に係わる状況
(1)政治、社会、経済全般の概要
(イ)2004年4月から5月にかけて行われた下院総選挙で、マンモハン・シン首相を首班とする統一進歩連盟(United Progressive Alliance:UPA)政権が成立。
外交面では、印パ両国は、カシミール問題を含む問題に関し複合的対話(Composite Dialogue)を開始することに合意しており、UPA政権においても、パキスタンとの対話の継続が確認されている。
(ロ)社会情勢については、1990年代から順調な経済成長が続いているものの、所得分配面での不平等が是正されず人口増加も著しいことから、農業就業者や都市部の低所得層、低カースト層にとって貧困問題は依然として深刻。
(ハ)1991年以来、インドは経済改革への取組を本格化させた結果、1990年代を通じて年平均6%の経済成長を実現し、特に1990年代中盤には3年連続で7%を超える高い経済成長を達成。2003年度のGDPは、好調な農業生産、及び製造業、サービス業の高い伸びに支えられ、8.2%(5,990億ドル)の成長を達成。
(2)経済及び社会開発の状況と課題
経済改革の影響:
1991年から、国内投資規制の撤廃、変動相場制への移行、外国直接投資の規制緩和、貿易自由化等を骨子とする経済改革を実施。1991年度から2003年度までの年平均GDP成長率は、製造業:6.5%、商業・観光・運輸・通信:7.5%、個人・社会サービス:7.2%。他方で、国民の約6割が従事する農業は、国民の購買力、貧困削減の観点からみて重要であるが、同期に年平均2.7%しか成長していない状況。
貧困と地域格差:
インドにおける貧困削減に対する根本的な問題は、人口の増加とともに増大した労働力を吸収するだけの雇用が創出されていないことにある。また、経済改革の開始以降、州間格差がより顕著になっている。
財政とインフラ整備:
財政赤字の対GDP比率は1990年度の6.6%から1995年度の4.2%に低下したが、2002年度には再び5.3%に上昇。これら財政赤字の拡大は経常赤字の増大によって引き起こされており、このため公共・民間投資の制約の一因ともなっている。
環境:
人口の増大、工業化の進展、エネルギー消費量の増大によって大気汚染を始めとする環境問題が深刻化。主要河川では生活・工業・農業廃水の流入が増大し、水質汚染が深刻化。都会から排出されるゴミ処理の問題も深刻。
3.開発戦略の動向
インドの開発計画:
統一進歩連盟の共通政策綱領:(a)社会的融和の維持・促進、(b)経済成長と雇用創出、(c)農民・非組織部門就業者の福祉の増進、(d)女性のエンパワーメント、(e)指定カースト・指定部族等への教育と雇用の優先的機会提供、(f)企業家・技術者等に対する支援
4.対インドODA実施にあたっての基本認識
(1)インドの特殊性
対照的な数値が示すインドの特殊性
(1)購買力平価で計測したインドのGDPは世界4位であり、BRICsの一翼として経済的な注目を集めてきたアジアの大国。2)他方で、2003年時点での一人当たりGDPは500ドルに満たない典型的な低所得途上国。)
(2)援助受け入れに対するインドの考え方
援助受け入れに関しては、オーナーシップが確立している国であり、この点が他の発展途上国と最も異なる。インドの高いオーナーシップを尊重し、そのようなODA受け入れ姿勢の長所を活かした援助のあり方を模索する必要がある。
(3)日印関係の特殊性と経済関係強化の必要性
我が国のインドとの経済関係(貿易、直接投資、経済協力)はこれまでODAに集中する形で推移してきている。貿易、直接投資はこれまで微々たるシェアしか占めていないが、近年、我が国企業のインド経済への関心が急速に高まっており、民間部門においても経済協力強化の機運が高まりつつあることも事実。
今後は、インドにおいても、我が国と東アジアや東南アジア諸国の間で見られたような「1)円借款によるインフラ建設とそれを支える技術協力による人材育成が、2)民間直接投資の増加をもたらし、3)経済発展と生活水準の向上に繋がる」という因果連関を効率的に強化することが望まれる。
(4)対印ODAの方向性
(イ)対インドODAに関する基本認識
1)インドが世界最大の貧困層を有する国であることは事実であるが、この事実は、インドが劣った国であることを意味するものではなく、また我が国の援助が狭義での貧困プロジェクトに集中すべきであるということをも意味しない(インドは、貧困問題、所得分配問題を基本的には国内の問題として理解。)。
2)インドは自助努力の考えが確立している国である。
3)インドが最終的に望んでいるのは、直接投資・貿易・技術移転の拡大である。ODAが民間の経済関係を促進するという流れを作り出すことが、我が国ODAが果たすべき役割の一つ。
(ロ)対印ODAの方向性
1)第1は、日印グローバル・パートナーシップを構築するため、政治・安全保障、経済、文化、地球規模問題等とともに、対印援助を通じた協力関係を我が国の今後の外交戦略の重要な柱の一つとして位置付けること。
2)第2は、我が国の対印ODAは、外交関係強化のベースとなる人材交流の飛躍的発展に力点を置く必要があること(政府ベースでの人的交流を別にすると、インドに対する我が国の興味・関心はきわめて薄く、インドの正確な姿がほとんど知られていない。あらゆる分野での飛躍的な人的交流の高まりがないならば、インドに対する理解が進展することはなく、また国民からの十分な理解も得られない。)。
5.対印ODAの重点分野
対印ODAの重点分野は、以下の3分野。
(1)経済成長の促進に資するインフラ整備支援
電力セクターへの支援、運輸セクターへの支援、特別経済区の質向上のためのインフラ整備支援(ハードとソフトを有機的に組み合わせて支援することによる、付加価値の向上を念頭に置く)。
(2)貧困・環境問題への対処
(イ)貧困問題への対処
保健・衛生分野に対する支援、農業・農村開発に対する支援、防災の視点の取り組み、 雇用創出に資する観光開発支援。
(ロ)環境分野に対する支援
上下水道への支援、植林への支援、再生可能エネルギー支援、都市環境の改善、河川・湖沼の環境保全。
(3)人材育成・交流の(飛躍的)向上のための支援
人材の育成・交流、魅力ある投資環境整備のためのソフト面での支援、日印知的交流。
6.援助の効率化と実施体制
各種経済協力手法の間の連携の強化:
援助手法(有償資金協力、無償資金協力、技術協力)の特徴を活かし、最適な援助手法を組み合わせて対応することが必要。なかでも、資金協力と技術協力の連携は、ハード面とソフト面の支援を組み合わせることによる相乗的な効果の発揮が期待されると考えられることから積極的に実施。
援助体制の強化:
インドの各セクターの事情に精通した専門家を大使館やJBIC、JICAから成る現地タスクフォースに配置。
7.援助実施上の留意点
軍縮・不拡散上の対応
2001年の経済措置の停止の際、同措置の停止にあたっては、核不拡散分野における状況が悪化するような場合には、措置の復活を含めて然るべき対応を検討することを明確にし、インドに対して、核実験モラトリアムの継続及び輸出管理体制の強化、NPT加入、CTBT署名・批准を含め、核兵器をはじめとする大量破壊兵器及びその運搬手段に関する軍縮・不拡散上の進展を強く求めてきており、こうした働きかけに対するインド側の対応を引き続き注視。