ODAとは? ODA改革

対タイ協力計画
(要旨)

(資料2-1)

(1)タイへの現状認識と問題意識

(1)現状認識

1)中進国へ
 タイは現在、タクシン政権の下、デュアル・トラック政策(「車の両輪」政策)を始めとする多くの野心的取り組みを実施し、様々な面で大きな変化を遂げている。経済も相対的に高い成長を維持し、近い将来、中進国入りする可能性が高い状況にある。
2)援助国化とパートナーシップ
 このような中にあって、タイは、ODAについても、自らを「エマージング・ドナー」と称し被援助国から援助国への移行を進めており、我が国の円借款に対しても、支援対象国でありながら新規案件要請がなされない状況にある。またこれと並行して、タイは、先進ドナーに対し、協力関係のあり方について「援助国対被援助国」から「パートナーシップ」に基づく関係に移行することを求めている。
3)地政学的重要性の高まり
 タイは、ASEAN加盟国内はもとより、近隣諸国や南アジア諸国さらにはアジア全体に対して様々な外交的イニシアティブを打ち出すなど、近年地域における存在感を強めている。我が国との関係も様々なレベルにおいて一層緊密化する傾向にあり、我が国にとっての重要性はさらに増大している。

(2)問題意識と計画見直しの必要性

 このように、現在のタイは、「途上国から中進国へ」あるいは「被援助国から援助国へ」というように、多くの面で変化ないし発展してゆく過渡期的状況にある。こうした中で、我が国においても、一方では今後タイへの経済援助は中止していくべきとの主張がある半面、他方では都市と地方の格差、交通渋滞や洪水問題に代表されるインフラの未整備等、実態としてはタイの経済社会は依然として途上国の水準にあり今後も協力が必要との見方があるなど、様々な考え方が存在している。また、このような中で、経済危機からの回復過程で策定された2000年3月の現「対タイ国別援助計画」は、対タイODAの実行計画としては、既にタイの現状から大きく乖離してしまっているのが実情である。
 我が国として、多くの面で変化・成長を続けるタイをどのように評価するのか、ODAをめぐりタイとどのように向き合い、今後の対タイ協力はどのような分野において実施すべきなのか、整理しなければならない。


(2)対タイ協力の方向性

(1)協力の基本姿勢 ―新しい協力関係の構築と多様な協力主体との連携強化―

 タイの発展や様々な変化に鑑み、またタイの強いオーナーシップ意識を我が国としても評価する立場から、今後の対タイ協力にあたっては、「パートナーシップ」に基づく新しい協力関係を構築してゆくこととする。ODAという非対称な財の移転を伴う協力関係における「パートナーシップ」とは、具体的には、タイだけでなく我が国にとっての利益をも意識した「相互利益」や、「合意形成」「第三国への共同支援」等を重視した協力関係を指すものとする。
 また、タイにおいては、民間企業、NGO、大学と言った非政府部門の活動に厚みと成果が見られることに着目し、また新しいODA大綱に謳われた理念を具体化するためにも、これらとの連携を積極的に推進する。

(2)協力分野

1)二国間協力
 中進国入りを射程に捉えた状況にあって、タイは、従来の途上国型の課題から中進国的な課題へと自ら取り組みを拡げつつある。また、これらの取り組みの中で経済成長を続けている事実に鑑みれば、タイは既に多くの問題を自ら解決できる主体的能力を備えつつあると評価すべきである。
 このような見方に基づけば、今後の対タイ二国間協力は、タイの主体的能力を踏まえた上で、その内容を質的に変化させる必要があると考えられる。その際、期待できる成果と効率性に照らし合わせて、スキーム(協力形態)毎に、協力分野を明確にすることが重要である。
 以上の考え方により、今後の二国間協力は、以下のような分野において実施することとする。

A.技術協力については、近い将来中進国として発展が見込まれるタイが、その発展段階故に取り組むべき、または今後取り組むこととなる分野に対して行われるべきであり、具体的には「持続可能な競争力の強化」「社会の成熟化に伴う問題」について協力を行うこととする。また、人間の安全保障の確保に資する協力分野として、「政府部門での対応が必要な分野」及び「他国との共通課題として対応が必要な分野」を対象に技術協力を実施する。

B.円借款については、タクシン政権における対外借入抑制策により、現在は継続案件(第2バンコク国際空港建設事業)の要請のみがなされている状況にあるが、再度タイから新規案件の要請がなされた場合には、「タイには存在しない高度な技術、日本の経験・知見を要するもの」「わが国からの資機材の調達が有効と考えられるもの」については積極的に協力を実施することとする。

C.草の根・人間の安全保障無償資金協力、JICAボランティア協力等については、貧困削減のための地域社会の能力強化、障害者支援、少数民族支援といった人間の安全保障の確保に資する分野について、より積極的に協力を実施する。この方針は、この分野においては、既にタイ政府が国として積極的に取り組んでいることや、タイにおける国内外のNGO等の幅広い活動に鑑み、上記Aに記したものを除き、基本的に非政府部門への支援を通じた協力に重点化すべきとの考え方に基づいている。
 なお、対タイ二国間協力の規模は、近年すでに低い水準にあるが(別表参照)、今後の方向性として、タイのさらなる発展に伴い漸減していく傾向にあると推測される。その一方で、経済危機の再発や広域の自然災害(2004年末のスマトラ沖地震・津波災害など)のような重大な状況が発生した場合、あるいは我が国の技術と経験を特に必要とする案件が多く要請された場合等においては、我が国として積極的かつ迅速な協力を行うべきであろう。したがって、中進国化しつつあるタイに対する協力規模は、漸減傾向の中でも、日タイ二国間関係の重要性を鑑みつつ、状況に応じた増減があるものと考えるべきである。

2)タイとの共同協力
 地域に占めるタイの重要性とタイ自身の「援助国化」の動きに鑑み、二国間重視の協力から脱却し、タイと共に実施する広域協力を積極的に展開する。具体的には、タイ側のイニシアティブも尊重しつつ、「メコン地域開発」「アジア・アフリカ協力」「紛争復興国支援」を中心に共同協力を推進することとする。
 これらの共同協力には、従来の第三国研修のような「タイへの支援を通じた第三国への支援」だけでなく、第三国への直接支援において、タイとパートナーを組み、適切な役割分担を行った上で共に支援するような、日タイ共同の取り組みも含まれる。また、援助国化を志向するタイとの共同協力をよりダイナミックに展開するためには、従来型の協力形態にとらわれず、今後新たな枠組みを検討していくことも重要である。
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