ODAとは? ODA改革

タイ国別援助計画(協力計画)に対する作業方針

(資料3)

末廣 昭 
2004年9月27日


1 アジアの現状に対する認識

*グローバル化、経済の自由化、情報通信革命の進展のもとで、アジア地域内の貿易・投資・人的交流の相互依存が急速に進むと同時に、通貨危機、SARS、鳥インフルエンザに象徴されるように「不確実性」「不安定性」も地域大で発生している。

*地域内での制度・組織的な協力体制(ASEAN, ASEAN+3, GMSなど)が整備されつつあり、上記の「不確実性」に対する広域の取り組みをさらに前進させることが、地域の政治的安定と経済社会的発展にとって望ましいという認識が重要である。

2 タイに対する現状認識

(1) 「中進国化しつつある」タイに対する基本認識

1A タイは低位中所得国(一人当たり国民所得は2200米ドル)であり、産業構造をみても準工業国の段階にすでに入っている。国内に地方格差などの問題を抱えているというものの、同時に急速に中進国化しつつあるために直面している社会問題(少子高齢化、国民皆健康保険、都市部の交通インフラ整備など)への取り組みも焦眉の課題となっている。

1B 30年間の経済社会発展の結果、今後の経済社会開発の設定や「人間の安全保障」に自主的に取り組み、それを解決していく能力(capacity)が、タイ国内において着実に向上している事実を尊重する必要がある。

1C タイは過去、アジア諸国のなかでは最も良好かつ安定的な関係を日本が維持してきた国であり、タイとの緊密な関係を今後も維持強化していくことは、大陸部東南アジアだけではなく、アジア地域の安定と発展にとってもきわめて重要な要素となる。

(2) タクシン政権(2001年以降)の政策と方針

2A 経済危機からの回復のあと、国家競争力計画(輸出競争力強化)と国内貧困軽減計画(内向きの地方における内需・雇用創出)の2つを柱とする「デュアル・トラック政策」(国家戦略)を、強い政治的リーダーシップのもとで推進する姿勢を示している。 2B 対外からの経済協力を全面的に否定しないまでも、基本的にはタイを「援助受入国」から「援助供与国」(ドナー国化)へ転換させることを明言しており、従来の援助国や国際援助機関に対しては、「援助・被援助関係」ではなく「パートナーシップ関係」を等しく要求している。

2C ASEAN、ASEAN+3、GMSなどの既存の枠組みを一方で利用しつつも、同時にACMECS (Ayeyawady-Chao Phraya-Mekong Economic Cooperation Strategy)、南アジアとの連携(ルック・ウェスト政策)、アフリカ諸国への協力など、「東アジア中心」を超えた独自の地域協力の枠組みを追求している。

3 タイ向け「援助」に対する作業方針について

(1) 1B、1C、2Bの認識にかんがみ、タイとの関係を従来のように「援助・被援助関係」ではなく、相互利益と合意形成にもとづく「新しい協力関係」と捉える必要がある。

(2) アジアに対する現状認識や2Cの観点から、日本とタイという二国間協力だけではなく、より広域の視点から「地域協力」の分野へ協力の対象を拡充する必要がある。

(3) 二国間協力、地域協力の双方において、社会開発課題と経済開発課題(競争力の基盤整備や自由貿易協定など)を区分し、その対象と方法を明確化する必要がある。

(4) 上記の開発課題に両国が取り組む場合、相互利益の観点から日本が協力するにあたって得られる利益、日本が発揮できる国際的な比較優位と利用可能なリソースについて明確にする必要がある。同時に協力の方法についても、非ODAとの連携(民間、大学、NGO・NPOなど)や、二国間以外の多国間協力などのチャネルを追求する必要がある。

(5) タイ政府は第9次経済社会開発5ヵ年計画(2002年から2006年)をもって「5ヵ年計画」の廃止を決めており、「5ヵ年計画」を指針とする開発課題の把握という従来型の政策協議に代わる、新たな「合意形成」の枠組みを早急に構築する必要がある。この点には、アジアやタイ、日本に対する両国の「認識」を交換する場の設定や、現地機関の役割の再検討を含むものとする。

このページのトップへ戻る
目次へ戻る