ODAとは? ODA改革

対モンゴル国別援助計画(中間報告)

(資料2)

平成16年2月5日
東京タスクフォース・主査
花田麿公


I.策定作業プロセス

(平成15年)
3月 主査よりODA総合戦略会議に対する作業方針報告
東京サイドのタスクフォース(以下、TT)立ち上げ
現地におけるタスクフォース(以下、MT)立ち上げ
5月末 現地における協議(モンゴル政府関係者、国際機関や諸外国ドナー、NGO、有識者、経済界よりの意見聴取)
12月末 第1次案ドラフト策定
(注:東京TF会合は、これまでに平成16年4月7日、4月18日、5月9日、5月23日、10月16日、12月25日の6回開催。)
(平成16年)
2月上旬 第1次案策定
2月中~下旬 東京における各省、経済界、有識者よりの意見聴取
現地における協議(モンゴル政府関係者、国際機関や諸外国ドナー、NGO、有識者、経済界よりの意見聴取)
3月上旬 東京におけるNGOの意見聴取
3月上旬 第2次案の策定
3月上旬 東京における各省、NGO、経済界、有識者との意見調整。パブリック・コメント受付。
3月中旬 最終案策定
3月下旬 ODA総合戦略会議への最終案報告

II.体制

TT     花田麿公 前駐モンゴル大使(主査)
砂川 眞 日商岩井総合研究所特別顧問
栗林純夫 東京国際大学経済学部教授
白須 孝 東京国際大学経済学部教授
(事務局)外務省、JICA、JBIC
MT     現地大使館、JICA


III. 策定中の国別計画案(主なポイント)

1.モンゴルの開発上の現状

(1) 開発上の特徴(開発上の制限要因:成長要因)
(イ) 地理的特徴
 内陸国:ただし、アクセス条件の改善を前提に、中国東北部及びロシア極東市場の有望性。
(ロ) 人口に関する特徴
 247万人と過小な人口、人口密度が粗:ただし、青年層の比率が大、識字率も高い。
(ハ) 自然条件に関する特徴
 厳しい自然環境:ただし、雄大な自然は観光開発の可能性、恵まれた地下資源は、鉱業発展の潜在性。

(2) 政治状況

 1989年から1990年初頭にかけて民主化運動が高揚。その後、現在に至る約10年間、政権交代がめまぐるしく行われたが、社会主義体制から民主化・市場経済化の流れは一貫。現政権はガバナンスの強化、自主的経済政策を徐々に発揮。先進諸国からの評価は高い。
(備考:なお、本2004年は議会(任期4年)、来2005年は大統領選挙があるが、現政権継続との見方が強い。)

(3) 経済状況
(イ) 経済政策
 1990年以降、市場経済システムの導入政策を積極的に推進。1991年にIMF、世界銀行、ADBに加盟。1992年以降、IMFの構造調整融資政策を受入れ。1990年バウチャー方式による国有資産の民営化が開始。1社について数千から数万人のペーパー株主を発生させ、経営、技術、資金などへはほとんど影響を与えず。金融部門自由化の結果、商業銀行が出現。その多くは銀行経営の充分なノウハウを持たず、さらに高金利政策が企業の経営・債務負担を圧迫。世銀主導による不良融資の禁止、リストラなどの金融改革の結果、現在、銀行は再生傾向。
(ロ) GDP需要面の構造と課題
 社会主義国市場の喪失と、代替市場開拓の不調から、1990年から1993年にかけてはマイナス成長。その後回復に転じたが、近年の成長率は1%~4%台。2000年と2001年の低い成長率は、雪害被害が主たる要因。為替レートは1990年末から2002年の間、急速に減価し、適切なレート調整が行われた。2002年におけるGDPは10.9億ドル、1人当たりGDPは約442ドルの水準。2002年の消費者物価指数の対前年増加率は1.7%と相対的に安定。2002年のGDPの需要構成では、消費比率(対GDP比率)が88.2%、投資比率が26.7%、純輸出比率が-14.9%で、高い消費比率は輸入超過による。財政赤字については、一連の財政改革により対GDP比率6.0%に低下。
(ハ) GDP供給面の構造と課題
(a) 産業構造
 2002年、農牧業のGDPに占めるシェアは、雪害の影響もあって20.7%へと減少。鉱工業部門のGDPシェアは21.4%。依然、経済は鉱物資源とカシミヤ製品に依存。第3次産業のGDPシェアは55.8%。背景は、流通が発達したこと、及び第1次、第2次産業の不振。
(b) 就業構造
 2002年の就業人口総数約87万人のほぼ45%が農牧業に従事。過去、製造業の低迷から失業した労働者が緊急避難として牧畜業部門に参入し、計約15万人の増加。牧畜業における過剰労働力の吸収が最重要課題。
(ニ) 市場経済化の進展
 民営化の進捗により、2002年、民間部門がGDPの75%。1997年にはWTO加盟、外国直接投資も次第に活発化、2002年の契約総額は対GDP比7%前後。
(ホ) 経済インフラ
 ウランバートルを経由する南北の鉄道関連整備、ウランバートル市内、近郊及び首都と、主要都市間などの道路整備が進展。エネルギーと電力に関しては、一定の電力、暖房用スチームを確保したことで、経済だけでなく社会生活基盤が整った。地方電力に関しては、太陽光発電設備、ディーゼル発電機が整備されている。通信部門は、国際通信の整備など近年、急速に改善。光ケーブルも100万回線の容量を有し、現在南北方向で接続が進み、ウランバ?トルから東部方向の回線も敷設中。インターネットも首都では普及。地方の通信に関しては、短波通信網が郡、村を網羅。インフラは過去12年、一定の進展が見られたが、維持管理、制度・組織面の整備と効率向上が問題。

(4) 生活・社会面の状況
(イ) 深刻化する貧困の現状
 貧困は、産業ならびに農牧業の停滞が主要因。また子沢山、母子家庭の増加、アルコール中毒等も要因。貧困層は、1998年、総人口の35.6%、都市部では人口の39.4%。地方の貧困層が都市部に流入。新たな貧困層が形成され、その規模は年々増加。
(ロ) 望まれる市場経済化に向けた教育
 モンゴルの識字率は高いが、市場経済を担う人材不足は深刻。初等中等教育の3部制の問題、ドロップアウトの問題、地方と都市の教育レベルの格差等多くの課題。大学は急増しているが、高度の専門知識や技術を教授できる教育機関は限定的。
(ハ) 保健・医療
 地方部の低い医療サービス水準、結核、ウイルス性肝炎などの感染症対策が問題。地方保健機関の組織効率化や、医療サービスの質的向上等により、社会的弱者の負担の軽減政策を進めようとしているが、財政・人材不足が問題。
(ニ) 自然環境保護問題
 最近の過放牧による草地の荒廃と砂漠化は、自然環境保護に対する問題。
(ホ) 地方開発
 1990年以降、地方での産業基盤崩壊、社会生活基盤劣化の結果、都市へ人口流出。
(ヘ) ウランバートルへの一極集中と都市問題の発生
 人口247万のうち実際には約100万人が首都居住。ごみ処理問題、上下水問題、大気汚染等がますます深刻化。
(ト) 男女共同参画に関する問題
 基本的には、男女ともに経済活動へ参加。女性の活動の場がインフォーマル・セクターに限定される現象。

2.開発戦略の動向

(1) 政府の開発計画
(イ) 「政府行動計画」(2000年から2004年まで)
「持続的経済成長による貧困の削減」を目標。経済改革と輸出主導の経済成長、教育と文化の保護・尊重、所得分配効率化による生活水準の改善と効果的制度による社会福祉の増出、地域開発構想の実施、都市と地方の格差是正が柱。
(ロ) 「人間の安全保障のためのグッドガバナンス」
 「政府行動計画」のうち、人材育成と社会セクターの強化、失業者削減と生活水準の改善、公害とごみ処理の改善など11の優先課題を提示。

(2) 開発上の目下の課題
(イ) 過剰労働力を抱えた牧畜業からの雇用転換。
(ロ) 貧困・地域格差・環境等の問題解決。
(ハ) 民間セクター・政府部門における経営管理能力や政策策定施行能力の向上。
(ニ) 北東アジア市場とリンクすることによる経済活動の促進。

(3) 経済成長と貧困削減戦略(EGSPRS)

 中期的社会経済開発計画として、経済成長を通じた貧困削減という政府の方針を中心とし、マクロ経済の安定と公的セクターの効率化、民間セクターを中心とする成長の制度構築、持続可能な地方開発の推進、持続的な人間開発と社会サービス供給の改善を通じた公平な分配、グッドガバナンスとジェンダーの平等の促進を目標。

(4) 我が国のこれまでの対モンゴル援助

  1991年以降、当初は緊急ニーズに対する支援、その後は、中長期的な開発ニーズに対応。トップドナーとして、累計援助額は1,176.02億円、対モンゴル支援額の約60%。 通信、鉄道、道路、発電など経済インフラ整備、校舎など社会インフラ整備、食糧援助、災害時の短波無線機供与など緊急的支援、インフラ分野の人材育成等をモンゴルは高く評価。急速な市場経済化によりシステムが崩壊し十分活用できなかった、あるいはモンゴル側の維持経費が負担できなかった案件があり。モンゴル側の政治、経済、社会等の大きな枠組みとその動向をも十分考慮していく必要。

(5) 他ドナー・NGOの対モンゴル援助の動向

 過去10年余の間、日本以外の主要ドナーは、アジア開発銀行、世界銀行。アジア開発銀行は、農業、財政、公共部門の再生、社会セクター、都市開発、道路を重点分野として支援。世界銀行は、インフラ、金融セクター、貧困、民間及び統治分野に対し支援。 国際NGO、現地NGO、我が国のNGOが積極的に活動。特に保健・教育分野の国際NGOの活動が顕著。我が国のNGOについては、マンホールで生活をする子供たちに対する支援や雪害被害を受けた遊牧民への支援を中心に、数多くの団体が活動。

(6) 経済自由化の進捗

 民営化、土地私有化などの経済自由化が急速に進展。これらの動向への留意が必要。

(5) 第10回CGの模様

 平成16年11月19~21日、わが国のホストにより、世銀・モンゴル共同議長にて第10回モンゴル支援国会合が東京で開催され、過去10年間の援助のレビュー、モンゴル経済の現状と課題分析、EGSPRSについて議論。民間セクター主導、雇用創出の必要性、公共セクターの生産性と効率性向上、ガバナンスの改善、農村部の開発とサービス提供の改善、急速な都市化と都市貧困問題への対応の必要性を確認。

3.対モンゴル援助の基本方針

(1) 対モンゴル援助の意義
(イ) 北東アジア地域における地政学的重要性。モンゴルの民主主義国家としての成長は同地域に安定と平和。同地域はわが国の安全と繁栄に深く関連。
(ロ) 良好な二国間関係の更なる強化。二国間のみならず国際場裏においても互恵的な関係を強化し、「総合的パートナーシップ」の確立を目標。
(ハ) 共通の政治的価値を持つ民主主義国モンゴルの努力を評価。同国の経済・社会発展を促すことは、発展途上諸国における民主主義の発展を促進。
(ニ) 市場経済化進展への自助努力を支援。ODA大綱からみても意義が大きい。
(ホ) モンゴルの自然環境の地球的、人類的価値。その保護の意義は大きい。


(2) 対モンゴル援助の方向

 モンゴルの開発戦略実現のため、経済活動の促進、マクロ経済の安定と公的部門の効率化、財政赤字の縮小、借款能力の強化、その結果得られた財源の貧困緩和と環境保全への充当という連関的政策の実施が肝要。この観点から、経済成長のためのマクロ経済の健全な運営や公的セクターの効率化のための制度強化と人材育成、外貨獲得産業の振興を含む産業育成、インフラ整備、直接、貧困削減と環境保全に働きかけるための地方開発と農牧業の再生、社会サービスの改善、自然環境の保全などの支援。

(3) 対モンゴル援助の重点分野
(イ) 市場経済を担う制度整備・人材育成に対する支援
 行財政管理能力向上、徴税制度確立、法整備支援など担当分野における専門性向上。金融制度の強化と中小企業における経営能力など企業育成支援制度の充実。基礎教育と実社会で活動する青年・成人の再教育。
(ロ) 貧困削減に向けた支援
(a) 地方開発支援
 経済・社会インフラ整備、流通業を含む民間セクター・産業支援等。自然資源の持続的利用。政府の地方開発拠点地域への重点的支援、特定地域のモデルケースとした総合的開発支援。
(b) 牧地と農牧業再生のための支援
 牧畜業や耕種農業を、経済効率のみならず貧困削減効果の観点から支援。効果的実施に資する制度作り、関連技術の普及など。
(c) 都市部の貧困対策
 保健・基礎教育等の社会セクターの強化、雇用創出など民間セクター活性化。
(ハ) 環境保全のための支援
(a) 自然環境保護と適正利用
 環境保護法制の整備、管理実施体制の強化など。自然資源の観光開発への利用。環境保全体制の持続性を高めるため、地域住民の副収入源としての動植物・自然資源の活用。貧困緩和や伝統文化にも配慮した地域住民の参加に留意。
(b) 防災対策
 総合的な気象モニタリングや自然環境情報整備による実態把握及び早期警戒や防災対策へのフィードバック。
(c) 公害対策
 石炭燃料の改善、都市環境行政への支援、廃棄物処理システムへの支援等。
(ニ) 経済活動促進のためインフラ整備支援
 観光振興や地下資源の開発等の経済発展に直結するインフラ整備。この分野における技術移転、人材育成・運輸交通政策策定支援などの制度支援。

(4) 対モンゴル援助の留意点
(イ) 政策協議
 援助の効率的且つ効果的実施のため、案件の形成・採択・実施に関してモンゴル政府と緊密な政策協議を実施。援助スキーム関連性についても、政策協議の場を通じて検討。
(ロ) 他ドナーおよびNGOとの協調・連携
 モンゴルの自主性(オーナーシップ)を尊重しつつ、対モンゴル援助の効果・効率向上のため、他ドナーと協調・連携。現地の開発ニーズに即した日本のNGO活動を政府として支援。
(ハ) 対外債務問題と援助吸収能力
 経済基盤整備のための対外借り入れの能力の増強が重要。また海外からの金融制度の拡充も課題。各省間の調整能力とガバナンスの強化が必要。
(ニ) 環境・社会面への配慮
 プロジェクトの案件形成・実施に際し、環境及びジェンダーを含む社会面への配慮が必要。
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