ODAとは? ODA改革

対スリランカ国別援助計画
(第2次ドラフト)

(資料2)


東京タスクフォース


1.対スリランカ援助の意義

(1) スリランカは、数多くの開発途上国の中でも、1948年の英国からの独立以来、民主主義国家としての政治制度を堅持してきた有数の国であり、同じ民主主義国家であるわが国にとって、共通の政治的価値(民主主義制度)の下で経済社会開発に取り組むスリランカの努力は高く評価されるべきであり、また所要の支援を行うことは当然である。対スリランカ支援を通じ、同国の経済・社会発展を促すことは、南アジア地域全体の民主主義の定着と政治的安定に大きく寄与しうる。

(2) また、スリランカは、伝統的な親日国の一つとして知られている。サンフランシスコ講和条約において我が国へ課された戦後賠償を最初に放棄し、戦後における我が国発展の政治的・経済的な国際環境の形成に大きく貢献した国でもある。

(3) 更に、スリランカは、南アジア地域の中では最も早くから経済自由化・構造調整改革を進展させてきた国であって、1977年の総選挙を経て78年憲法により国名をスリランカ民主社会主義共和国に変更して以来、紆余曲折はあるものの、基本的には経済自由化・開放化に向けての努力を積み重ねてきている。こうした自助努力を積極的に支援することは我が国のODA大綱に合致するものであり、このような側面でも我が国の対スリランカ支援には大きな意義がある。

(4) 他方において、南アジア世界の中で、スリランカは地理的にも国際関係の上でも幾つもの特徴的な性格を有している。まず、南アジア世界と東南アジア世界との接点としての性格である。スリランカは、大陸的な南アジア世界にあって四方が海に囲まれた島国であり、東南アジア的な文化的特質(仏教徒が人口の多数を占めること、米食を基本としていること等)が混在している国であることから、南アジア世界と東南アジア世界とを地域的に結びつける上で重要な役割を果たしうる国である。次に、スリランカは非同盟主義を標榜しながらも、地理的理由から外交の基軸を隣国インドにおいており、インドと「インド・スリランカ自由貿易協定」を締結している。同国が、南アジアの大国インドとの間で良好な二国間関係を確立・維持していくことはインド洋情勢の安定につながり、そのことは直ちに我が国が中東から輸入する原油の安全なシーレーンを確保することを意味するものであって、わが国の安全保障上歓迎すべきことである。

(5) スリランカは、一般的に社会指標(平均余命の長さ、識字率の高さ、乳幼児死亡率の低さ、等々)は南アジア地域の中だけでなく、世界全体の開発途上国の中においても群を抜いて良好である。これら指標に準拠する限りにおいては、同国は先進工業国に準ずるレベルに達していると見られる。即ち、適正な支援が行われるならば、スリランカは潜在的にきわめて大きな発展の可能性を秘めている国であるとみられることから、平和が定着し、経済運営の質が改善されるならば、高い援助効果が期待される国である。

2.我が国の対スリランカ経済協力の目指すべき方向

(1) 「平和の定着」・復興プロセスへの支援

(イ) 民主主義制度の定着、経済自由化の進展、柔軟で開かれた社会と文化、抜群の社会指標の達成といった経済発展にとって有利な諸要因が看取されるにもかかわらず、スリランカの経済発展は、その潜在的な可能性に比較して、満足のいく水準にまで到達した訳ではなかった。1960年代には、経済社会の発展段階が同程度であった韓国やシンガポール、マレーシア、タイといった東南アジア各国と比較して見ると、既に大きな経済格差、所得格差を生じている。その主要な原因は、約20年間に亘った紛争と肥大化した公的部門に対する改革の遅れ、そして開発戦略の失敗に求められる。スリランカの開発戦略は、社会指標の向上という側面においては成功したが、成長の達成という面においては必ずしも成功したとは言えず、更には成果の分配面においては成功し得なかった。

(ロ) 2002年2月、ノルウェーの仲介を得て、紛争の当事者であるスリランカ政府とタミル・イーラム解放の虎 (LTTE) は無期限停戦に合意し、同年9月には和平交渉が開始された。スリランカの潜在的な可能性を勘案するとき、約20年間に亘った紛争のコストは計り知れないものがある。政治的・社会的な安定が脅かされてきただけでなく、人的資源の浪費や健全な経済発展が損なわれてきたことは、国際社会におけるスリランカの評価を大きく損なってきたと言える。2001年9月11日に米国で起きた同時多発テロ以降、世界情勢が激変する中で、今ほどスリランカ国内外で和平達成・復興への期待が高まったことはなく、かかる時機を適切に捉えて、国際社会は一致協力してスリランカの平和の構築と復興に積極的に貢献することが要請される。

(ハ) わが国は、スリランカ紛争が解決に向うポジティブな動きを受け、スリランカにおける「平和の定着」を積極的に支援することに取り組む方針を決定した。「平和の定着」に貢献することは、長期的な観点から見て、平和な環境が効果的・効率的な開発援助実施のための前提条件であることは言うまでもないが、それだけでなくそれ自身が効果的な開発援助であるとの重要な側面を有している。対スリランカ支援の上で圧倒的なトップドナーであるわが国は、外交的なツールとしての開発援助を通じることで「平和の定着」に貢献しうるし、また貢献しなければならない。「平和の定着」は、スリランカ政府の軍事支出の削減を可能にし、慢性的財政赤字の解決に資するのみならず、スリランカ政府の自助努力の下で、限られた人的・財政的資源をより多くの解決困難な開発問題へ投入することが可能になる直接的・間接的な効果を持っている。「平和の定着」・復興プロセスにおいては、慎重且つ大胆に行動することが求められる場合があることから、和平プロセスの進展を注意深く見守りつつ、諸問題に機敏かつ柔軟に対応しなければならない。

(ニ) 一方、現在の和平プロセスを後押しするためには、スリランカ政府の和平交渉路線に懸念・反対する声のある開発の遅れた南部地域にも支援の面で然るべき配慮を加える必要がある。開発援助の地域間アンバランスは屡々地域間格差の拡大や対立を助長する要因ともなりうるものであることから、スリランカ全体の開発を視野に入れたバランスのとれた開発援助が、スリランカにおける「平和の定着」を可能にする不可欠な必要条件の一つである。
 なお、北・東部を含む国内の幅広い集団・階層が支持している現在の和平プロセスの大きな潮流は、基本的にはゆるぎないものとする努力が必要であるが、実際の政治的交渉は常に不確実性を伴うことから、「平和の定着」には今後とも紆余曲折が予想される。その為、紛争・交渉関係者間の信頼醸成にはなお多くの時間と労力が必要とされるであろう。和平交渉を支援する観点から、「和平合意以前」の状態においては、わが国のコミットメントは明確に行なうことが要請される反面、実施にあたっては和平プロセスの進捗振りを慎重に勘案して対処しなければならない。北・東部の復興支援に当たっては、わが国の援助はスリランカ政府との約束に基いて行なわれるという基本的な原則は堅持する。


(2) スリランカ政府の中・長期開発フレームワーク―「リゲイニング・スリランカ」―

(イ) 2002年12月5日、スリランカ政府は、今後5年間をカバーする基本的な開発の枠組みである「リゲイニング・スリランカ (Regaining Sri Lanka: Vision and Strategy for Accelerated Development)」と題する中・長期開発ビジョンを閣議決定した。同ビジョンは、222ページにおよぶ開発戦略の基本的文書であり、第1部「成長のビジョン」、第2部「成長との連携:スリランカの貧困削減戦略」、第3部「行動計画マトリックス」から構成されている。ウィクラマシンハ首相による「序文」では、「継続的平和の達成と経済状況の大幅な改善との間には直接的かつ分かち難い関係がある」と述べており、「スリランカ国民の期待を実現するためには双方の分野で成功しなければならない」ことを強調している。

(ロ) 本文では、まず巨額に上る公的債務問題を解決するために、年率8-10%の成長を達成することが必要であるとしている。また成長を加速するためには、生産性の向上を阻んでいるすべての障害を取除き、経済のあらゆる分野で生産性を向上させることが不可欠であると論じている。次いで、スリランカが直面する4つの課題として、(a) 今後数年間において200万人の新規雇用を創出する、(b) 公的債務問題解決に積極的に取り組む、(c) すべての地域における再建のための投資によって経済成長の基礎を築く、(d) 公的部門を含むあらゆるセクターで生産性を向上させ、投資を増加することによって、人々の所得水準を高める、ことを挙げている。そして、開発の担い手として民間部門の役割が強調されている。

(ハ) 「行動計画マトリックス」は、(a) マクロ政策フレームワーク、(b) 雇用と人的資源開発、 (c) 金融サービス、(d) インフラ開発、(e) 生産性の改善、(f) 公的部門改革、の6セクションから構成されている。
 わが国のスリランカ国別援助計画も、期間的には概ね5年間をカバーするものであることから、スリランカ政府の基本的な開発枠組みである「リゲイニング・スリランカ」のアプローチを踏まえて、わが国の対スリランカ開発援助方針を以下の通り策定する。


(3) 開発援助におけるビジョンの明確化:輸出・観光・環境立国への開発プロセス

(イ) 我が国の開発援助の枠組みを通じた和平・復興プロセスへの積極的なコミットメントは、目に見える効果や即効性の観点から、まず北・東部の紛争地域に対する緊急人道支援が要請されるが、同時並行的に、将来のスリランカのあるべき姿を想定した、中・長期的な観点に立つ開発援助ビジョンを基本に据えた援助計画を策定・実施する。

(ロ) スリランカ経済の将来は、外貨獲得能力の継続的向上に大きく依存する。小国スリランカにとって外貨獲得能力を高める最善の策は、「輸出・観光・環境立国(export-oriented, and tourism cum environment-oriented state: ETES)」としての地位を確立することであり、プロジェクトレベルにおける援助計画案の策定に際しては、輸出志向工業化戦略の実施によって高度成長を達成した、アジアNIESおよびASEAN諸国の経験を有効に活用する。

(a) まず、二国間政策協議等を通じて、実施されるべき政策として盛り込まれることが必要な事項は、大胆かつ体系的な輸出主導開発戦略を企画し、積極的に海外市場を開拓することである。世界市場をにらんだ技術の高度化、付加価値の向上を伴う輸出主導開発戦略を順次策定する必要があり、政策助言アドバイサーの派遣等を通じた所要の支援が有用である。雇用創出という観点から見ても、一般的には輸出主導開発戦略が最も有効な開発戦略である。もし「バランスのとれた成長」あるいは「雇用創出のための成長」をスローガンに掲げて開放的な経済運営が選択されないならば、その結果は「非効率な経済制度の定着、成長の鈍化、雇用の伸び悩み」となって、政府の意図とは逆に社会の不満が高まるであろう。輸出主導開発戦略の下で、注意深い政府の政策介入が実施されるならば、成長と分配とは必ずしも相反する目標ではないと理解される。

(b) スリランカにおいて、輸出主導開発戦略と並んで高い外貨獲得能力が見込まれるのは「観光・環境」分野の開発戦略である。同国は、小国でありながら極めて多くの観光資源に富んだ国である。スリランカ政府は、国際観光市場におけるその優位性を活用するべく、従来から観光開発に相応の力を入れてきたが、長期に及んだ紛争のため、観光産業は所期の目的を達することが出来ずに、地域によってはホテル、リゾート、土産産業等の観光インフラも決定的なダメージを受けている。スリランカが有する世界でも有数の豊かな自然相を基本に、今後は環境の保全を優先した「環境保全型観光開発」を推進することが望ましい。

(c) 輸出・観光・環境立国への開発プロセスを実現するためには、何よりもまず、平和が定着し、復興プロセスが開始されなければならない。また、政府による規制緩和措置・経済自由化措置が推進されるだけでは十分ではなく、成長の果実を適正に分配する観点から、規制緩和・経済自由化の成果が国民の目に見え、また国民によって広く享受されなければならない。そのためには、少なくとも次の4点が必要である。
 第1に、輸出・観光・環境立国(ETES)の実現を可能にする、制度改革を伴う経済基盤の整備である。
 第2に、外国投資の積極的活用と各分野における外国からの技術移転の推進である。
 第3に、IT化の促進と活用である。
 第4に、教育改革を中心とした人的資源開発である。

(d) スリランカの過去の経験では、成長の成果が適切に分配されなかったことが紛争を助長した大きな原因であり、「成長の成果が一部の国民(特定の階層、特定の地域)だけしか潤していない」という不満・排除感が各地域における国民各層の意識の底流に看取される。輸出・観光・環境立国への開発プロセスは、長年に亘って国民の間に醸し出されてきた不満、すなわち様々な格差・差別によって生じた不満の原因を考慮に入れなければ、将来再び紛争の火種になる可能性があることは然るべく留意されねばならず、スリランカ全体の開発という観点から、民族間・地域間のバランスのとれた開発支援が何よりも重要である。特に、紛争で大きな打撃を受けた北・東部へ重点的に支援を行うだけでなく、開発の遅れた南部の後進地域に対するバランスのとれた配慮・適正な支援が必要である。

(e) また北・東部のタミル人のみならず、これまで開発の恩恵を十分に受けられなかったといわれているムスリム人、プランテーション地帯のインド系タミル人、政府に反感を抱く南部のシンハラ人、非エリート層、女性、その他社会的弱者をターゲットに据えた注意深い貧困対策プログラムが必要である。


3.援助重点分野(今後5年間の援助の方向性)

 以上の記述から明らかなように、スリランカに対する援助には、(1) 「平和の定着」・復興支援のための援助と、(2) 長期開発ビジョンに沿った援助、という2本の柱が必要であるが、これら2つの課題は機械的に分けることは出来ないものであると理解される。「平和の定着」なくして、長期の開発は展望できないし、また逆に長期開発のビジョンが実現しなければ「平和の定着」はおぼつかない。かかる理解を前提としつつ、今後5年間をカバーするわが国の対スリランカ援助は、(1) 「平和の定着」と復興に対する支援、(2) 長期開発ビジョンに沿った援助、を今後の基軸として援助プロジェクトを策定・実施する。

(1) 「平和の定着」と復興に対する支援

 「平和の定着」・復興に対する支援としてわが国のODAに求められているのは、(a)迅速かつ即効性のある「人道・復旧」支援、(b)「国造り」に資する支援である。

(a) 「人道・復旧」支援

 「人道・復旧」支援としては、戦闘地帯となった北部および東部での地雷・不発弾の撤去の他、インドからの帰還難民・国内避難民の再定住の促進、武力衝突によって障害者となった人々や、女性を世帯主とする世帯、及び紛争孤児等社会的弱者のケア、食糧支援、生活基盤の整備(安全な飲料水の確保、公衆衛生・医療設備の復旧、基礎教育設備の復旧、感染症対策)、平和教育・人権教育の徹底、等である。安心して暮らせる生活環境を確保することが、まず達成されるべき目標である。
 「平和の定着」にとって最も重要な要因は北・東部に居住する人々の間での信頼醸成である。信頼醸成のためには、たとえどんなに小さなものであっても、いちはやく人々の目に見える成果をあげることが必要である。国際諸機関およびNGO(現地NGO、国際NGOを含む)との連携を進めることが不可欠である。また、貧困層の生活向上(生活手段の回復)支援でもあり、同時に産業の基盤となる農業・水産業等の振興にもつながる農漁村開発支援も重要である。

(b) 「国造り」のための支援

 和平交渉の順調な進展に伴い、武装解除が進み、上記の緊急を要する各種支援が成果をあげることができ、人々の間での信頼が回復する程度に応じて、すみやかに「国造り」のための開発支援を行う必要がある。まずは、人的資源開発(キャパシティ・ビルディング)および経済基盤整備が重要な支援対象となる。各種の職業訓練・経営支援、道路・通信・港湾・電力等インフラの復旧・改善、貧困層を対象にしたマイクロ・クレジット支援等が、優先的な課題である。


(2) 中・長期開発ビジョンに沿った援助計画

 一方、中・長期開発ビジョンを実現するためには、外貨獲得能力の向上と均衡の取れた開発、という2つのきわめて困難な課題を同時に解決することが求められている。双方の目的がバランスを取って実現することで、スリランカの潜在的開発能力を開花させることが出来る。こうした観点から見るならば、わが国の援助は、(a) 経済基盤の整備、(b) 外貨獲得能力の向上、(c) 貧困対策・人的資源開発、の3領域に対する開発援助を重点とすることが適当である。

(a) 経済基盤の整備に向けた制度改革と援助

 経済基盤の整備に当たっては、北・東部、南部地域のバランスのとれた開発を重視することが肝要である。経済基盤の整備は、注意深く実施されるならば、貧困解消だけでなく不平等の縮小にも有益である。とりわけ、北・東部と南部とを連結した基幹道路網・通信網・送電網の整備が必要である。またスリランカ全体の開発を視野に入れた最適立地の選択等、効率の良い電源開発が必要となろう。また、これらの課題を解決するためには、制度面での様々な制約を克服するための制度改革(民営化)を支援することが同時に必要である。

(b) 外貨獲得能力向上に対する支援

(i) 輸出促進を目的とした支援

 具体的には、(a) 輸出向け製造業品目の多角化、高付加価値化、高技術化を実現する支援プログラム、(b) (わが国農水産物への影響を配慮しつつ)農産物・鉱産物・水産物の輸出促進を目指す支援プログラム、(c) 紅茶、香辛料、宝石・貴石産業における世界標準に耐える「スリランカ・ブランド」確立のための支援プログラム、(d) 輸出市場開拓のための支援プログラム、等であり、いずれも生産性の向上を目指すプログラムである。
 上記の目標達成に向けては、官民一体となった支援体制が構築されなければならない。技術支援による規格標準化、生産性向上、マーケティング指導、工業団地建設に加え、業界団体・商社・スリランカ側商工会議所等による経営指導や情報提供機能の活用、ASEAN・中国の経験とノウハウを活用する南南強力の推進等が必要である。

(ii) 外資導入を促進するための支援

 スリランカに生産基盤を持つ外国企業の数は、これまでのところ微々たるものである。 しかしいずれの企業も良質の労働力に恵まれ、高品質の輸出向け工業製品の生産に成功している。但し、外資参入に際して、労働問題の円滑な解決は重要なキーポイントとなっており、センシティブな問題であることに留意しなければならない。
 製造業品、紅茶、香料、花・果実、水産物(エビ養殖等)、畜産物、宝石・貴石だけでなく、ホテル、レストラン・旅行産業等サービス産業の高付加価値化による世界市場でのスリランカ・ブランドの確立も有望である。こうした分野へも積極的に外資を導入し、ハード・テクノロジーだけでなく、経営ノウハウ(マーケティング能力、品質管理、商品企画等)といったソフト・テクノロジーの移転を実現する必要がある。こうした課題は基本的には民間企業ベースでの協力によって行われる性格のものであることから、民間企業ベースでの協力を支援するための経済基盤整備および制度構築プログラム等が策定されることが望ましい。

(iii) IT化促進のための支援

 世界的にIT化が進む中で、スリランカにおいてもデジタル・デバイドの問題を解決していくことは重要である。行政および教育等の公的分野に限らず、民間企業でさえも国際市場の中で時代の変化に対応するためにはIT化は欠かせない状況となりつつある。しかし、スリランカにおいてはIT化の進展は十分ではなく、当該分野を然るべく強化していく必要がある。スリランカ人の語学能力を生かしたソフトウエア分野での競争力の強化だけでなく、将来的にはハードウエア分野での輸出向け生産が可能となるような環境整備の可能性も検討されることが望ましい。

(iv) 「環境保全型観光開発」分野に対する支援

 スリランカが保有する豊富な観光資源と自然環境は、過去及び将来に亘って、主要な外貨獲得源である。自然環境・歴史的遺産を保全する形での観光開発(伝統文化・芸術の振興を含む)こそ、国際的な観光競争の中でスリランカの優位性を活かす道である。将来性が期待されているエコツーリズムの開発にも大きな可能性があることから、この分野では豊富な経験を有する国際環境NGOの知見を積極的に活用することが必要である。
 また環境保全型観光を推進するにあたっては、都市部でのインフラ整備、生活環境・社会環境の保全(上下水道・大気汚染・一般廃棄物処理等)も不可欠である。「美しいスリランカ」を実現・維持する援助プログラム・プロジェクトを形成する必要がある。

(c) バランスの取れた貧困対策および人的資源開発に対する援助

(i) 貧困対策支援 

 従来、スリランカは社会福祉支出が大きく、その結果、一方では低所得国としては例外的に高い社会指標の達成が可能になったが、他方では労働意欲の低下、政府頼みの生活態度の蔓延といったマイナス面をも伴った。のみならず、巨額の社会福祉プログラム支出は財政を圧迫し、慢性的な財政赤字の原因の一つにもなっている。今後は、社会福祉の恩恵格差を縮小しうるような、またすでに達成された高い社会指標を長期的に維持しうるような、より合理的かつ効率的・効果的な貧困対策プログラムの制度設計が必要である。
 貧困対策援助プログラムで何よりも必要とされるのは、民族間・地域間で生活基盤(飲料水、公衆衛生、保健・医療、基礎教育等)整備に対するバランスの取れた支援である。紛争で大きな打撃を受けた北・東部への積極的な支援だけでなく、南部の後進地域への適正な支援も配慮されなければならない。また北・東部のタミル人のみならず、これまで開発の恩恵を十分に受けられなかったといわれているムスリム人、プランテーション地帯のインド系タミル人、政府に反感を抱く南部のシンハラ人、非エリート層、女性、その他社会的弱者をターゲットに据えた注意深い貧困対策プログラムの策定と実施も必要である。またプログラムの策定に当たっては、地方のニーズと現場の実態を踏まえることが必要であり、然るべき方法で地方政府あるいは地域コミュニティの参加を確保しつつ、同プログロムを策定する。なお、実施に際しては、地域コミュニティ・NGO等と協力して、きめ細やかな対応ができるよう努めていくことが重要である。 
 わが国は、特に保健・医療分野において、スリランカ側のパフォーマンスが高かったこともあり、これまで多くの協力実績を残している。スリランカ政府は、わが国をはじめとするドナーの支援を得つつ、助産婦の戸別訪問による妊産婦指導、高い施設分娩率、必須医薬品の配給システム、効果的な感染症対策の実施、血液供給システムの確立、等の保健システムの拡充に努めてきた。こうした成功例は周辺国のみならず、将来的にはアフリカ諸国の模範ともなりうるものであるが、当面は、保健・医療分野においては、スリランカを南西アジア地域における南南協力の拠点として位置付け得るよう、今後も然るべき協力を実施していく。

(ii) 人的資源開発支援

 人的資源開発、特にキャパシティ・ビルディングに対する援助は重点分野の一つとして位置付ける。地方行政官、とりわけ復興を目指す北・東部地域の地方行政官のキャパシティ・ビルディングは開発援助を実施していく上で緊喫の課題の一つと認識される。 
 また民間企業での雇用創出・促進を目的とする人的資源開発分野への支援が不可欠である。現在のところ、スリランカにおける教育・訓練機関は必要とされる人材を十分に供給しえておらず、民間企業での雇用機会も限られている。依然として公務員志向の労働文化が支配的である。若年労働者の労働市場への新規参入や、政府による構造改革の推進に伴う失業者が今後顕在化してくる問題に対処するためには、十分な報酬が見込まれる、働き甲斐のある民間雇用の場を大量に創出することが必要である。その為には、スリランカ経済・社会の将来展望を見据えた体系的なカリキュラム改革(理工系およびコンピュータ教育分野の重点化等)およびコンピュータ教育を組み込んだ職業訓練プログラムの現代化・質的向上・拡充が有用である。

(iii) 中小企業支援

 中小企業は雇用創出の重要な担い手であり、その振興は地域間経済格差を縮小するための重要な手段となりうる。人的資源開発プログラムを組み込んだマイクロ・クレジット・スキームや政策金融制度の拡充等を通じて、中小企業を積極的に育成する政策措置を検討することが必要である。


4.経済協力実施上の留意点

(1) 実施体制の強化

 わが国は、毎年、スリランカが受け取る援助総額の50%近くを供与しており、国際社会による対スリランカ支援の上で圧倒的なトップドナーの地位を維持して来ている。スリランカでの援助調整にリーダーシップを取ることは、トップドナーとしてのわが国が果たすべき重要な役割であると理解される。援助調整に際しては2つの課題があり、一つは、スリランカ政府との間に強固なパートナーシップを構築することであり、もう一つは他ドナーとの対話を進めることである。
 上記の記述において、これまで屡々強調してきたように、「平和の定着」・復興支援と中・長期的な視点からの経済発展支援は、わが国の対スリランカ援助計画にとって、あたかも車の両輪の様な役割を果たしていると理解される。こうした支援が円滑に実施されて行くためには、民族間・地域間のバランスが十分に考慮されることが必要・不可欠である。こうした我が国の開発援助が実際に円滑に実施されていくためには、スリランカ側による明確なオーナーシップの発揮が真摯に要請される。
 和平・復興プロセスが進展するにつれ、援助調整はますます重要な課題になると考えられる。政策策定・制度構築支援をベースに据えた政策実施能力の向上を目指す支援を格段に強化する必要があり、特にセクター・レベルでの政策策定・制度構築・政策実施を実施できる人材を確保していく。
 現在の現地援助実施体制は、上記の課題をこなすためには不十分な状況に置かれていると認識される。援助調整に当たる人数が不足している上、十分な権限と専門性に欠ける弱点等を克服するべく、我が方の援助体制の整備を進める。その為、我が国の援助体制を構成する大使館、JICA、JBICの連携を強化し、その他我が国の知見を積極的に統合できるようJETRO現地事務所やNGO等の連携を飛躍的に高めるような組織を立ち上げ、恒常的に政策協議をリードしうるチームを編成する。同チームの専門性を高めていくために、JICAの専門家を含む援助要員を積極的に活用する。
 また北・東部での「平和の定着」・復興支援に関しては、NGO(すでに実績のある現地NGOや国際NGOを含む)との連携・協力を視野に入れること、さらに、草の根レベルでの援助に実施に際しては現地語の問題が障壁となることが多く、シンハラ語あるいはタミル語を良く理解できる青年海外協力隊および青年海外協力隊のOB/OGを活用した協力の可能性も援助体制強化の一つの方途として検討する。

(2) 援助プロジェクト・プログラムの制度設計能力の向上

 スリランカに対する援助を実施するに際しては、援助資金の額のみならず、援助プロジェクト・プログラムの質の向上欠かせない。スリランカ政府の公的支出管理能力の飛躍的な向上が不可欠であり、マクロ経済運営の質の向上が必要ある。またインフラ部門の制度改革、教育改革、雇用・職業能力開発制度の改革、社会福祉プログラム改革、貧困対策の分野で最も重要とされるファクターは、制度設計の質の向上であることから、これらの点に十分留意して、今後5年間におよぶ対スリランカ援助をプロジェクト及びプログラムの双方で具体化するべく努める。
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