(a) |
まず、二国間政策協議等を通じて、実施されるべき政策として盛り込まれることが必要な事項は、大胆かつ体系的な輸出主導開発戦略を企画し、積極的に海外市場を開拓することである。世界市場をにらんだ技術の高度化、付加価値の向上を伴う輸出主導開発戦略を順次策定する必要があり、政策助言アドバイサーの派遣等を通じた所要の支援が有用である。雇用創出という観点から見ても、一般的には輸出主導開発戦略が最も有効な開発戦略である。もし「バランスのとれた成長」あるいは「雇用創出のための成長」をスローガンに掲げて開放的な経済運営が選択されないならば、その結果は「非効率な経済制度の定着、成長の鈍化、雇用の伸び悩み」となって、政府の意図とは逆に社会の不満が高まるであろう。輸出主導開発戦略の下で、注意深い政府の政策介入が実施されるならば、成長と分配とは必ずしも相反する目標ではないと理解される。
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(b) |
スリランカにおいて、輸出主導開発戦略と並んで高い外貨獲得能力が見込まれるのは「観光・環境」分野の開発戦略である。同国は、小国でありながら極めて多くの観光資源に富んだ国である。スリランカ政府は、国際観光市場におけるその優位性を活用するべく、従来から観光開発に相応の力を入れてきたが、長期に及んだ紛争のため、観光産業は所期の目的を達することが出来ずに、地域によってはホテル、リゾート、土産産業等の観光インフラも決定的なダメージを受けている。スリランカが有する世界でも有数の豊かな自然相を基本に、今後は環境の保全を優先した「環境保全型観光開発」を推進することが望ましい。
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(c) |
輸出・観光・環境立国への開発プロセスを実現するためには、何よりもまず、平和が定着し、復興プロセスが開始されなければならない。また、政府による規制緩和措置・経済自由化措置が推進されるだけでは十分ではなく、成長の果実を適正に分配する観点から、規制緩和・経済自由化の成果が国民の目に見え、また国民によって広く享受されなければならない。そのためには、少なくとも次の4点が必要である。
第1に、輸出・観光・環境立国(ETES)の実現を可能にする、制度改革を伴う経済基盤の整備である。
第2に、外国投資の積極的活用と各分野における外国からの技術移転の推進である。
第3に、IT化の促進と活用である。
第4に、教育改革を中心とした人的資源開発である。
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(d) |
スリランカの過去の経験では、成長の成果が適切に分配されなかったことが紛争を助長した大きな原因であり、「成長の成果が一部の国民(特定の階層、特定の地域)だけしか潤していない」という不満・排除感が各地域における国民各層の意識の底流に看取される。輸出・観光・環境立国への開発プロセスは、長年に亘って国民の間に醸し出されてきた不満、すなわち様々な格差・差別によって生じた不満の原因を考慮に入れなければ、将来再び紛争の火種になる可能性があることは然るべく留意されねばならず、スリランカ全体の開発という観点から、民族間・地域間のバランスのとれた開発支援が何よりも重要である。特に、紛争で大きな打撃を受けた北・東部へ重点的に支援を行うだけでなく、開発の遅れた南部の後進地域に対するバランスのとれた配慮・適正な支援が必要である。
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(e) |
また北・東部のタミル人のみならず、これまで開発の恩恵を十分に受けられなかったといわれているムスリム人、プランテーション地帯のインド系タミル人、政府に反感を抱く南部のシンハラ人、非エリート層、女性、その他社会的弱者をターゲットに据えた注意深い貧困対策プログラムが必要である。 |