(1998年1月発表)
(1)ODAの基本精神は憲法前文にある。世界の平和と安定、そして発展なくしては、日本の安全と繁栄も確保しえないのであって、ODAへの真摯な取り組みは、国際社会で信頼される国としての存在を確保し、自らの将来の安寧を保障する道につながる。
(2)ODAをめぐる内外の状況には、大きな変化が生じている。国際社会においては、冷戦終結、地球規模問題の発生、旧社会主義諸国の民主化・市場経済化、新たな援助国の誕生、「開発」に関する基本的考え方の変化、そして最近ではアジアにおける通貨危機といった様々な問題や変化が生じている。一方、国内においては財政が危機的状況にある中、ODA予算の削減といった新たな局面を迎えている。
(3)このような状況の中、ODAを抜本的に改革する必要性が高まっており、ODAの一層の効率的・効果的実施に全力を挙げて取り組み、自国の国際的責務を遂行すべきである。それが日本国民全体の利益として結実することを強調したい。日本にとってODAは国際貢献のシンボルであり、2000年まで各年度のODA予算削滅方針が決定されているが、削減は最小限にとどめられるべきである。
基本認識:
ODAの諸目的を実現することは、広い意味での国益の実現である。国際社会全体の利益のために行動することが、日本の長期的な開かれた国益につながる。
日本のODAは、従来も人道支緩に積極的に取り組んできたが、その姿勢をさらに強めたい。
地球環境の悪化、人口爆発、食糧・エネルギー危機、エイズなどの感染症、麻薬、テロ、国際犯罪、更には金融秩序不安といった諸問題に対しては、「地球全体の安全保障」あるいは「人類の安全保障」といった観点から、日本のODAは大きな役割を果たすべきである。
国際社会の調和ある発展、及び日本を取り巻くアジア諸国の発展は、日本にとっての高度の安全保障につながる。諸外国との友好関係増進と好ましい国際環境の構築に不断の努力が必要であり、ODAはそのための重要な外交手段である。
日本のODAは、開発における自助努力の重要性を強調し、成果を上げてきた。かつてアジア重視、経済インフラ中心であった日本のODAは地域的にも分野にも広がりを見せている。
ODA大綱は日本のODAの基本理念と指針を示すうえで、大きな役割を果たしてきた。大綱は内外の情勢の変化に応じて検討を加えていくことも必要である。
また、日本は中期目標を通じてODA拡充の意思を表明し、着実に実施してきた。これは高い評価を受けてきたが、今後は、日本のODA政策は何かを内外に明らかにするために、ODA中期政策を政府として示す必要がある。
基本認識:
日本のODAは、様々な分野をバランスよく実施してきたが、援助予算の制約の中で、今後は重点分野をより明確にするべきである。
今後は、貧困撲滅に役立つタイプの援助を重視するべきである。開発の究極の目的を人間が豊かになることに置いた「人間中心の開発」を実現する。社会開発分野への比重を高め、基礎教育分野、及び保健・医療分野の援助を重視する。その際、ハードのみならずソフト面を含めた総合的アプローチ、資金の効率的使用、参加型開発の促進、内外NGO、青年海外協力隊等との連携・協力強化を行う。
インフラ整備は引き続き重要であり、今後はODA以外の資金が対応しにくい部分をODAは重点的に手当てする。また、その際、資金協力に技術協力を組み込む形で実施し、国際機関との連携を図る。
環境問題は、日本がODAを通じて積極的に取り組む分野であり、案件形成に際しては、日本からも積極的に働きかけ「共同形成」に努める一方、開発途上国が環境案件を形成するようインセンティブを与える。さらに、開発途上国における地球温暖化防止、温暖化への適応の分野での協力を重視する。ODAの計画及び実施の際の環境配慮を強化する。
女性の自立を支援する分野の援助の拡充に努め、援助の各段階におけるジェンダー平等(性の間の社会的・文化的格差の是正)の視点を取り入れる。
「人造り」は「国造り」の基礎であり、今後なお一層強化すべき協力分野である。国別人材育成情報の集積・分析・研究、開発途上国から日本への留学生政策の充実、各援助形態の効率的活用、国際機関との連携を図るべきである。また、長期的観点から日本の良き理解者の育成のため、将来の各国の各層のリーダー群を日本に長期間招待する。
知的支援を拡充していくためには日本側の人材確保の観点から、「人材バンク」の整備が重要である。また、昨今のアジア諸国の通貨不安に対しては、各国の金融・通貨制度の改革への協力が重要である。
先進国、中進国、及び開発途上国の三者全体が世界的なパートナーシップを形成する必要がある。そのために、アジア地域を中心に日本が支援して「パートナーシップ推進フォーラム」を設置する。また、「ODA」の範囲、その他の国際的基準を見直すとともに「援助卒業国制度」については弾力的かつ柔軟な運用を行う。
国境を越えた地域の地域全体の開発への協力、開発プログラムの作成に積極的に取り組む。
紛争解決後の平和構築及び紛争予防においてもODAの役割が大変大きく、日本はこの面でのより迅速かつ積極的な対応を確保する。また、地雷対策支援及び地雷の犠牲者に対する支援へ積極的に取り組む。
ODA資金を有効に使う上で、貿易を促進し投資を増大させる呼び水となるようなODAの役割に配慮し、民間の活力、知見、人材を活用する。
基本認識:
ODAは民間企業、地方自治体、NGO更には職場や家庭をも含むできるだけ幅広い層との協力、参加そして理解を得て、実施されるべきである。そのためには、情報公開と開発教育の促進が不可欠である。
NGOを通じる援助を、抜本的に拡充する。NGO、大学、シンクタンク等へのプロジェクトの一括委託、NGOとの協力・連携重視、NGOの組織・活動能力強化への協力、「NGO外務省定期協議会」の更なる推進・拡充といった方策をとる。
ODAの実施に当たって、日本の民間企業は有力なパートナーであり、ODAの効果的・効率的実施のために、民間企業の経験、知見、人材を活用する制度を整備する。
地方自治体による国際協力を支援するため、政府や実施機関は情報の一層の提供、地方自治体が実施する協力案件に対するODA資金の提供を行う。さらに、青年海外協力隊及びシニア海外ボランティアの制度の一層の拡充を図る。
ODAに対する国民の理解・支持を得ていくために情報公開は不可欠であり、援助案件内容や開発途上国の関連情報のデータ・べース化推進とその公開、外務省、実施機関における情報公開担当官の設置、各省庁が実施するODAの内容についての情報の公開促進といった方策を検討する。また、地方自治体、地域国際化協会との連携した「地方版国際協力プラザ」の展開を検討する。
学校教育、社会教育、及び生涯学習のあらゆる段階における開発教育の推進を拡充する。その際、例えば、「開発教育を考える会」のような会合の開催を検討する。
基本認識:
開発援助人材の育成・確保・活用を効果的に実現するためには、開発援助に携わろうとする者の働く場(特に現場)を確保し、教育機関、援助実施機関と援助の現場の間の相互のインターフェイス(接触と交流の機会)を拡充することが重要である。
開発援助専門家の育成のため、「インターンシップ」の活用、公募型専門家の増加、開発途上国の現場へのプログラムオフィサーの設置を検討する。また、さまざまな機関の相互交流の強化という観点から、大使館、実施機関現地事務所及びNGOにおけるインターン制度の活用、国際開発高等教育機構(FASID)を「ハブ」としたシンクタンク、教育・研究機関とのネットワーク化を図る。JICA(独立行政法人国際協力機構)の国際協力総合研修所を中心に「人材データバンク」を構築・拡充する。
基本認識:
国別援助計画策定に最適な体制を構築するため、政策機関及び実施機関は国別アプローチを強めるよう機構を見直し、政策機関から実施機関、及び本部から現地へ、機能と権限を委譲するべきである。また、政府部内の連携、国際機関、民間との連携といった幅広い連携が確保されるべきである。
関係各省庁・援助実施機関を横成員とし、外務省をとりまとめの責任者とする。
「ODA総合政策協議会」(仮称)を設置する。
現地のニ一ズを的確に反映した成果重視型の国別援助計画の策定を目指す。その原案は、現地大使館が中心となり実施機関とともに作成する。その際、ODA以外の資金との連携、民間との連携、マクロ経済的な視点の導入を図る。
ODAの政策立案能力強化のため、開発途上国の開発プログラムに対し多年度にわたる支援額の目途ないし支援プログラムの意図表明が行えるようにする。
関係省庁と外務省間の間の情報の相互の流通と情報の集約化を図る。
外務省経済協力局のあり方を見直し、地域局との連携を強化する。政策部門と実施部門の役割を明確化し、援助の実施に関する業務・権限を実施機関へ積極的に移譲する。
OECFとJICAの連携を強化する。実施機関の業務運営、事務手続きの合理化・簡素化を図る。
現地においては、大使館及び実施機関事務所の機能を強化し、現地で活動するNGOや民間企業との協議を緊密化する。
評価については、現行の評価の客観性を一層高めるため、第三者による評価を拡充し、評価手法の開発に努める。また、外務省とJICA、OECFの間の評価に関する業務の分担を明確化する。さらに評価視点の多様化・総合化、評価結果のフィードバック強化、評価に関する広報の一層の強化といった措置をとる。案件実施後のフォローアップが一層迅速・機動的に行えるような体制を整備する。
ODAが果たす一つの役割は開発途上国の開発に資するよう民間企業を活用することであり、民間企業が開発途上国において活動が行いやすくなるような環境整備を行うことである。民活インフラを一層支援するための種々の方策を推進する。
国際機関を通じる援助については、日本の政策意図が反映されるように、国際機関との連携を深め、現地における対話の強化、国際機関本部との政策対話や人事交流強化を図る。