ODAとは? ODA改革

「第2次ODA改革懇談会」最終報告

平成14年3月29日

 いま、日本のODAに求められているのは、国民の潜在的な意欲や能力を積極的に引き出し、これを開花させるための具体的な取り組みである。開発途上国の人々に向けられる日本人の心、知力、活力をいかにしてODAに反映させるかが改革の焦点である。さらに、ODAの透明性を一段と高め、国民に対する説明責任を果たすことが必要である。
 本最終報告は、ODAへの国民参加を中心概念とし、参加する人材の発掘、育成、活用の具体的なあり方を提示する。また、国民各層の知見を積極的に吸収して、重点的・効果的にODAを実施するために「ODA総合戦略会議」の設置を提言する。さらに、国民参加の下でODAを実施するための体制の整備を求める。本最終報告が示すODA改革についての提言は、以下の3つの柱からなる。

(1)国民の心、知力と活力を総結集したODA
(2)戦略を持った重点的・効果的なODA
(3)ODA実施体制の抜本的整備

1.国民の心、知力と活力を総結集したODA

 日本経済の低迷がつづき、社会が内向きになっているようにみえながら、アフガニスタン復興支援にあらわれているように、困窮する国々、貧困に苦しむ人々を助けたいという日本人の心は薄らいでいない。
 国民参加のODAは、そうした日本人の心を大切にする。国民各層、各分野に潜在する知力と活力を掘り起こし、これをODA政策に反映させる仕組みづくりに努めねばならない。第一に、開発教育(注1)を義務教育の中に取り込み、第二に、国際協力に資する人材を発掘・育成し、第三に、これら人材を活用するダイナミックな仕組みを創造する必要がある。

(1)開発人材の発掘・育成

 開発教育は子供たちの人間性と国際性を高め、これがODAを含む国際協力への理解や参加を促す。開発教育は国際協力への志を育む「孵化器」である。国際協力事業への参加をめざす若者にインターンシップや研修、研究に携わる機会を提供し、内外に通用する開発人材を積極的に育成する必要がある。
 人材の発掘・育成については、第1次ODA改革懇談会最終報告(注2)においても、開発教育を学校教育課程に位置づけるなど、具体的な提言がなされた。本懇談会では実施に移されていない課題への早急な取り組みを求めるとともに、以下の諸点を提言する。

(具体的な改革方策)
義務教育における開発教育の充実を図る。
青年海外協力隊の現職教員特別参加制度を充実強化することを含め、開発教育に携わる教職員が開発途上国で実地を体験するためのプログラムを導入する。また、これら教職員に対する開発教育情報の提供のための仕組みを設ける。
青年海外協力隊・シニア海外ボランティアの経験者やNGO等を、国内各地の開発教育に積極的に活用するための方策を講じる。
開発分野に関心の深い人材、開発事業に将来携わりたいという意欲をもつ人材を、外務省および実施機関等で一定期間受け入れるインターンシップ・プログラムを拡充する。
大学(院)生を対象とした人材育成プログラムを創設する(例えば、開発途上国や実施機関における研修を大学の判断で単位認定する)。
青年海外協力隊の中に大学(院)生派遣枠を創設する。協力隊員としての経験を単位として認定する。


(2)既存の人材・技術の有効活用

 わが国には、特定の分野や国・地域についての専門的知見や多様な経験を有する人材が数多く育っている。国内や海外でさまざまな形で開発事業に関わり、さらには、これから関わりたいという意欲をもつシニアの人材もいる。
 人材の発掘・育成と並行して、既存の人材を有効活用するシステムを早急に構築すべきである。その際、人事交流を通じてNGO・企業とのパートナーシップを強め、ODA活動への参加機会を拡充する。ODAの実施に当たって、NGO・企業のノウハウ・技術を活用する。また、地方自治体の経験・ノウハウを吸い上げるための仕組みを導入する。

(具体的な改革方策)
「国際協力人材開発センター(仮称)」を創設する。
-同センターは、国際機関、援助実施機関(専門家、青年海外協力隊を含む)への就職・参加機会についての情報を提供し、また相談を受ける。
-同センターは、外務省国際機関人事センター(注3)やNGOが運営する同種の機関との連携を図り、人材情報のデータベース化、ネットワーク化を効率的に進める。
国際協力事業団(JICA)が派遣する専門家の公募・委託契約の幅を拡大し、開発途上国のニーズに対応できる人材を幅広く募る。
ODA、特に円借款の実施に当たり、わが国企業の優れた技術を一層生かすための制度を導入し、企業の参加機会を拡大する。
ODAの案件形成においても、わが国のNGO・企業のノウハウをさらに活用し、NGOや企業との人事交流を進める。また、NGO・企業の創意を促し、これを取り入れるための制度を拡充する。
特定の分野や国・地域について専門的知見を有する人材を、任期付き任用制度の活用により、外務省や援助実施機関の関係部署に配置する。
国際機関における日本人の積極的な登用を国際機関に働きかける。


(3)NGOとの連携

 ODAのパートナーとしてのNGOの重要性が高まっている。NGOとの役割分担をより明確なものにする必要がある。今後は、ODA政策の実施面のみならず策定過程および評価面においても、開発途上国の現場についてのきめ細かな情報や多様な経験をもつNGOとの連携を積極的に進める。官と民が協力すると同時に、相互に「切磋琢磨」すべきである。
 政府によるNGO支援を強化するとともに、NGOに対しては、体制・能力の強化、適格性・透明性の確保のための一層の主体的な努力を求める。

(具体的な改革方策)
ODA政策の策定に当たっては、現地事情に精通したNGOと連携するための仕組みを構築する。
外務省および援助実施機関が日本のNGOの能力形成を支援するため、資金協力・技術協力両面の制度を拡充する。また、NGO活動を支援するためのより柔軟な仕組みを導入する。
国際機関の諸活動への日本のNGOの参加を促すよう、国際機関に働きかける。


(4)透明性の確保

 ODAプロジェクトについての選定から実施に至るまでの過程、入札手続き、実施後の評価結果等は、十分な透明性を保たなければならない。
 国民参加を促進し、同時に国民に対する説明責任を果たすためにも、一層の透明性の確保が不可欠である。

(具体的な改革方策)
プロジェクトの選定過程から実施、実施後の評価・フォローアップなど各段階での情報公開を一層進める。
各段階での第三者による評価体制を強化する。プロジェクトの優先度については、「ODA総合戦略会議」(2.(1)参照)の判断を重視する。入札手続きについては、抜き打ち監査を含む第三者による徹底した監査システムを導入する。事後評価については、外部有識者を一層活用する。
ODA年次報告(注4)を政府開発援助(ODA)白書に格上げすると同時に、その内容を充実させ、ODAの成果と問題点を国民にわかりやすい形で伝える。
ODAタウンミーティングを全国各地で定期的に開催する。
国民各層がODAの実施現場に直接触れる機会を増やす。
インターネットを利用し、双方向のネットワーク型情報公開・広報を推進する。
ODA受入国においても情報公開を促進するよう働きかける。


2.戦略を持った重点的・効果的なODA

 第1次ODA改革懇談会の報告を受けて策定されたODA中期政策(注5)は、少々包括的に過ぎ、重点的な分野や課題への具体的な方策を示していない。また、現行の国別援助計画(注6)は、わが国として取り組むべき重点分野を十分に絞り込んだものとはいい難い。
 日本の戦略をより明確に示すためには、中期政策を定期的に点検し、さらに、国別援助計画の大胆な重点化を図る必要がある。その際、日本が技術力やノウハウの優位性を発揮できる分野に十分配慮し、日本の特徴や利点を生かしたODAを実施するよう努めねばならない。
 昨今のODAをめぐる議論の中には、「AからBへ」(量から質へ、借款から贈与へ、ハードからソフトへ、インフラから社会セクターへ)という考え方がある。しかし、これまでの日本のODAの特徴を最大限生かしながら、開発途上国の実情に応じて「AとBを総合活用」するという発想も重要である。

(具体的な改革方策)
 (1)「ODA総合戦略会議」の設置
国民参加を具体化し、ODAの透明性を高めるために、国民各層の代表から成る「ODA総合戦略会議」を常設する。
-同会議はODAの指令塔として、外務大臣の諮問を受け、国別援助計画等の基本政策および主要プロジェクトの意義や優先度について議論し、提言する。このことによって、ODA調整官庁としての外務省の機能強化に資する。
-また、同会議は、ODAについての国民的な議論を積極化させる触媒としての役割を果たす。
-外務大臣は、「ODA総合戦略会議」の提言にもとづいて、ODAの基本政策と総合戦略(国別援助計画等)を策定し、政府全体のODAを調整する。
 (2)国別援助計画の重点化
「ODA総合戦略会議」が地域・分野の専門家の知見を吸収し、国内関係諸機関とのネットワークを強化しながら、国別重点分野を絞り込む。
国別重点分野の絞り込みに当たって、「ODA総合戦略会議」は、開発途上国側のニーズを十分に考慮し、主要な国際機関・援助国の国別援助戦略を研究し、わが国の比較優位分野を選択する。
 (3)国際連携の推進
国際機関・援助国との政策対話、ODA受入国のニーズの把握を通じて、「分野別・課題別援助方針」を明確なものとして策定する。
有識者交流、シンポジウム等の形でアジアの開発経験を再評価し、開発途上国の新しい状況に合致する開発協力のあり方を探り、その成果を世界に発信する。


3.ODA実施体制の抜本的な整備

 戦略を持った重点的・効果的なODAとは何か。国別援助計画や分野別・課題別援助方針等の「上流」に位置する基本政策の下で、具体的なプロジェクトの企画・立案から実施等の「下流」にいたるまでの一貫性を確保したODAのことである。それを確保するために、われわれは「ODA総合戦略会議」の設置を提言した。また、そのような一貫性のあるODAを実施するためには、これまでの取り組みを拡充し、実施体制を整備しなければならない。

 他方、米国で発生したテロ事件やアフガニスタンおよび周辺国をめぐる事態などに対しても、ODAの機動的な対応が求められる。さらに、開発途上国の課題は社会・経済開発にとどまらず、紛争予防や平和構築への取り組みといった、ODAがこれまで十分には関わってこなかった問題へも拡がっている。こうした課題に柔軟に対応できるよう制度を充実することが必要である。
 日本のODAを、受入国の真のニーズに応え、かつ大きな開発効果をもつものとするために、資金援助、技術援助に加え、開発の戦略づくり、制度づくり、政策づくりを重要な要素とするプログラムやプロジェクトを多数発掘・実施する必要がある。これは、ODA活動全体において、援助執行の人的投入の割合を大きくしていくべきことを意味する。
 さらに、開発途上国のニーズに合わないと判断されるものや、硬直化した制度等については、これを抜本的に見直さなければならない。

(具体的な改革方策)
 (1)一貫性の確保
既存の援助形態(無償資金協力、技術協力、円借款)間の連携を強化することによってODAに一貫性をもたせる。また、ODAスキーム間の連携を強化するための諸制度(例えば、セクタープログラム開発調査(注7))を活用し、拡充する。
大使館は、実施機関との連携を密にして、一貫性を保った国別援助計画の実施を促すために定期的な協議会を設ける。さらに実施機関と協力して現地での援助コミュニティとの対話を進める。
国別援助計画の下で、ODAの政策から実施までを一貫して展開するために、政策官庁である外務省から個々の実施機関にいたるまで、国別・地域別の組織再編を検討する。
政策機関から実施機関への権限と業務の委譲を進める。
 (2)迅速かつ柔軟な対応
紛争予防や平和構築をはじめ緊急性の高いニーズに対応するため、これらを支援する制度の拡充・強化、供与条件の柔軟化や供与手続きの簡素化を図る。また、現地の多様なニーズに応じたきめ細かな援助を実施するため、NGOとのより緊密な連携を図る。
現地の機能を強化するために、プロジェクト内容の調整・変更手続きを柔軟化する。また、現地で開催されるドナー会合等において弾力的に対応ができるよう現地体制を強化する。何よりも東京から現地への権限と業務の委譲を積極的に進めねばならない。
国際緊急援助隊のより機動的な派遣やNGOとの連携等、国際緊急援助体制を改善する。
 (3)不断の見直し
ODA評価の一層の改善を求める。特に、国際協力事業団(JICA)の専門家等技術協力に関する評価の実施、各府省庁の評価手法の標準化、政策策定や援助手法の改善へのフィードバック機能の強化、援助関係者の意識改革を進める。
技術協力を一元的かつ効果的・効率的に実施するための体制を構築する。
債務救済制度の見直しなど、旧来のスキームを総点検し、その改善を図る。
援助受入国の制度づくりや政策づくりにより積極的に参画できるよう、実施機関における政策要員の増員を図る。さらに、高度な専門性が求められる業務(特に、草の根無償資金協力関連、セクター・ワイド・アプローチ(注8)やドナー会合等現地レベルでの国際連携、個別プロジェクトの環境社会配慮関連、評価関連)について、援助要員を量的・質的に拡充する。


4.最後に-日本のODAが目指すもの

 わが国のODAは半世紀の歴史をもつ。日本は、資源やエネルギー、市場等を海外に強く依存してきた。それゆえ、アジアを中心とする世界との共生は、日本の生存と繁栄の不可欠の条件であった。さらに、紛争や難民、感染症、環境破壊などのグローバルな課題解決への取り組みは、日本が国際社会において信頼を獲得するための重要な条件であった。この二つの目的を実現するために、ODAはわが国にとってきわめて重要な課題でありつづけた。
 また、アフガニスタン問題への取り組みは、日本国民のODAに対する関心を高めるとともに、ODAが日本外交の手段として重要な役割を演じることを再認識させた。ODAの諸目的を実現するとともに、ODAを外交手段として有効に活用することは、日本の国益にとって今後とも引きつづき重要である。

 わが国のODAは、現在、転換点を迎えている。国民参加の時代の幕開けである。ODAは、貧困に苦しむ開発途上国の住民が人間らしく生きていけるよう願い、同じ目線で助力の手を差し伸べるものでなければならない。問題は、その願いと行動をわが国国民の相互の間でいかに共有し、ODA活動への国民各層の広範な参加を促す仕組みをどうつくるか、である。
 また、90年代の後半に入り、予算の「右肩上がり」の時代は終わり、ODAは量的にも大きな転換期を迎えた。中間報告公表後、残念ながらODA予算は大幅削減となった。しかし、日本に寄せられる国際社会の期待に応えるためにも、また、日本自身のためにも、厳しい経済・財政状況の中にありながらなお、日本の経済力・国際的責任に見合った規模のODAを確保することが必要である。同時に、国民の税金であるODAを、これまで以上に効率的に、また透明性を確保しつつ実施する必要がある。ODAに向けられる国民の目が厳しさを増している。透明性の確保と効率性の向上はいよいよ重要である。

 日本人は新しい生き方を模索している。青年海外協力隊への若者たちの積極的な参加がその一例である。派遣の2年間に人生の価値を見い出したいと考えている若者が多い。貧しい国々の開発事業への参加に新しい生き甲斐を求めるシニアな人材も少なくない。わが国のNGOもそうした新しい状況の中で育ってきた。地方自治体や企業や大学にもODA活動への参加の意欲が生まれている。国民参加は単なるキャッチフレーズではない。新しい時代状況から生まれた国民の声である。ODA活動への国民参加は、逼塞感漂う日本社会に新たなエネルギーを与え、日本人としての誇りを大きく発芽させるにちがいない。
 国民参加のODAをいかに実現するか、これが本懇談会の最大の関心であった。それゆえ、国民各層、各分野の貴重な知見を吸収するための具体的枠組みを構想した。次いで、限られた資金を有効活用するために、ODAの重点的供与分野を定めて、そこに資金、人材を集中投入するための「国別援助計画」の策定の重要性を提言した。また、ODAのみならず、広く国際協力に参加したいと考える人々を発掘し、育成し、活用する方策を提言した。これらはいずれも、一人でも多くの国民がODAに参加するよう願っての提案である。

(以上)


第2次ODA改革懇談会最終報告の(注)


注1 開発教育

 貧困・飢餓など開発途上国の現状を知り、開発・環境をはじめとするさまざまな課題を理解することにより、国際協力や開発援助の重要性についての認識を深め、また国際協力に何らかの形で参加する態度を養う教育。

注2 第1次ODA改革懇談会最終報告

 1997年4月に外務大臣の私的懇談会として設置された「21世紀に向けてのODA改革懇談会」(座長:河合三良・国際開発センター会長)が翌1998年1月に外務大臣に提出した報告書。国別援助計画の策定及びそのための必要な体制整備や、政府部内、国際機関、民間の間といった幅広い連携強化、人材育成等の具体的な提言がなされている。

注3 外務省国際機関人事センター

 国連、専門機関等の国際機関の日本人職員の増強を目的とし、ロスター登録制度(国際機関への採用を希望する方の経歴をあらかじめ登録しておき、空席ポストの資格要件に合致する方に空席情報を提供する制度)の運用、国際機関による日本人採用活動に対する協力、若手職員の国際機関への派遣、国際機関在職職員の支援、広報活動などを行っている。

注4 ODA年次報告

 正式名称は、「我が国の政府開発援助の実施状況に関する年次報告」。政府開発援助(ODA)大綱の趣旨を踏まえ、政府全体のODA事業に関する報告として、1993年から毎年公表されている。

注5 ODA中期政策

 正式名称は「政府開発援助に関する中期政策」。対外経済関係閣僚会議幹事会申し合わせに基づき、1999年8月に策定・公表。1997年をもって終了した5次にわたるODA中期目標とは異なり、量的目標を掲げず、今後5年程度を目処とした我が国ODAの目指す方向、分野別・地域別課題、留意点などを明らかにした。

注6 国別援助計画

 ODAの効率性・透明性向上に向けての取組の一環として、援助受入国の政治・経済・社会情勢の認識を踏まえ、開発計画や開発上の課題を勘案し、今後5年間程度を目途とした我が方の援助計画。2002年3月現在、バングラデシュ、ガーナ、タンザニアや中国等の12カ国について発表済。

注7 セクタープログラム開発調査

 被援助国の特定セクターを対象として、先方政府や他ドナーとの調整を行い、当該分野の総合的開発政策を策定し、また、当該分野に対する我が国技術協力と資金協力の実施調整を行う調査。

注8 セクター・ワイド・アプローチ

 各ドナーによるバラバラの援助により初期の開発効果があげられないとの認識にたち、近年、英国や北欧諸国を中心に生まれた援助手法。セクター毎の全体的な政策と戦略を策定し、それに沿って各ドナーがそれぞれの援助を実施するアプローチ。
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