「第2次ODA改革懇談会」事務局
1.日時
平成13年11月5日(月)10:00~12:00
2.場所
外務省892号会議室
3.議題
国民参加・人材育成
4.出席者
懇談会メンバー(五百籏頭委員、上島委員、小島明委員、小島朋之委員、田中委員は欠席)。外部有識者として、中村安秀大阪大学大学院人間科学研究科教授及び長尾眞文広島大学教育開発国際協力研究センター教授を招待。外務省から、田中外務大臣(途中出席)、西田経済協力局長他が出席。関係府省庁、JICA(国際協力事業団)及びJBIC(国際協力銀行)がオブザーバー参加。
5.議論の概要
国民参加・人材育成について、外部有識者(中村安秀大阪大学大学院人間科学研究科教授及び長尾眞文広島大学教育開発国際協力研究センター教授)より報告を受けた後、意見交換が行われた。主な意見は以下の通り。
(1)ODA全般
- 日本のODAは途上国のフィールドでは予想以上に評価が高い。国内で思われている以上であり、結構よくやっている。しかし、国レベル、国際会議レベルでは大変弱い。
- ある途上国ではUSAIDは公衆衛生分野で大変力を入れた調査をしているが、それ以外の医療分野では何もやっていないというケースもある。日本は戦略をしぼりきっていなかったため、途上国の幅広いニーズに対応して、自由にいろいろな分野で調査、援助できるという利点もある。
- 日本は途上国の人々ともにフィールドで活動できる。例えば、JICAの専門家は各地を訪問して、色々な分野で活動できてうらやましいと言われることがある。
- 「教育分野」、「保健医療分野」、「環境分野」といった分野では、かつて途上国であった日本の経験を活かすことができる。
- 技術協力については日本における研修を有効活用することにより、相互理解が非常に高まる。
- この懇談会で大きな戦略ができれば、今度は、具体的なセクター別戦略と効果的な実施のための発想の転換が必要。
- 「顔の見える援助」というのは、日本人の顔を表に出すことではなく、日本らしいプログラムを出していくこと。アイデアで勝負すべき。
- 「南南協力」は非常に面白いプログラムであり、今後前面に出していくといい。より大規模に行い、途上国や日本のNGOをまきこむなど、よりチャレンジングな取り組みが考えられる。日本も学ぶことができる部分も多い。日本自身もかつて外国から学んだことを支援してきた経験を持っている。
- 沖縄感染症イニシャティブは日本よりも海外で大きな反響を呼んだ。その要因は、英語版のホームページで大きく取り挙げられていたこと、またHIV/AIDS、マラリア、結核の3つに絞ったことにあるのではないか。懇談会の最終報告でも、対象を絞ってインパクトのあるものにしてほしい。
- ODAは外交手段として活用すべし。また、発展途上国の開発支援の手段、国際的人材育成の手段として活用すべし。現在の問題点としては、日本のODAに対する諸外国のプラスの評価を生かしていないこと、ODAは多額になるにもかかわらず国民の理解が不十分なこと、外交青書でのODAの取り上げ方でも分かるように外務省の説明努力が不足していることである。
- 貧困途上国への支出が増えているように、開発援助のフロンティアは貧困途上国の自助自立にシフトしてきている。なかでも、経済インフラから社会インフラへの援助にシフトする傾向がある。今後は、これまでの「技術移転型」の経済協力から国民の参画による「経験提供型」技術協力を進めるべし。
- 社会インフラの特性として、設備ではなく人・組織への依存が大きいこと、相手国の文化や伝統の影響を無視できないことがある。
- 日本自身の自立的な社会インフラ構築の経験を途上国にも活かすべし。日本の特徴は、全社会構成員による参加、物的要件への依存の極小化、継続的な見直しによる改善、すなわち「参加」、「節約」、「改善」にある。
- 経験提供型技協と技術移転型技協とを対比すると、経験提供型の方が効果が大きい(それぞれの特徴は以下の表参照)。
|
経験提供型 |
技術移転型 |
援助目的 |
経験の伝達 |
技術の伝達 |
主要援助手段 |
国内研修受け入れ/現地補修 |
専門家派遣による現地指導 |
日本側関与 |
経験保有人材・組織・社会 |
技術専門家 |
現地側関与 |
現地側組織・社会 |
現地側カウンターパート |
目標成果 |
自立的な組織・慣行の形成 |
自立的な技術の活用 |
成功の鍵 |
現地側学習の質・相互学習 |
技術提供者の質 |
国民参画の余地 |
大きい |
限られる |
- 日本の技術協力はコストが高いが、国際的に見て質が優れているわけではない。経験提供型の技術協力には国民参加の余地が大きい。経験提供型技術協力のプラス面を考慮することによって、技術協力を目に見える成果のあるものとして実施することができる。
- 南アフリカで行われているJICAの中等理数科教員再訓練事業で、最も効果があるのは州の教育省幹部を研修で受け入れることであると感じた。そうすることで、日本の経験がほかのケースにも生きる。
- 戦略がなく万遍なく援助したことが良かったといっても、貧困途上国への支援よりも中高所得途上国への支援も伸びているので、実際はやはり戦略的な援助をしていたのではないか。援助は国益を求めてするべきではない。結果として国益につながればいい。豊かな人は恵まれない人たちへ負債を負っていることを意味し、ODAはそのためしなければいけないのであり、国益のために援助を使うのはおかしい。
- フィールドレベルの日本の援助は評価されていると同時に大使レベルの方の考え方にも問題ないが、その中間が弱い。中間に位置するプログラム全体を見ている人がいないことにある。
- 日本の経験を洗いなおす必要がある。日本が疲れている今、日本の経験を用いて何が貢献できるか再認識すべし。
(2)国民参加
- 市民へ流れる情報があまりにも少ない。もっと現実を伝えることが必要。そのためには、国民が関心を持つような情報公開、例えばODAプラザの充実、ODAの成果の出版、「開発教育」から「国際理解教育」への転換などが必要。ODAの成果と同時に限界も公開していく必要がある。現状では、「政府広報発表」か「ODA批判」しか入手できない。今までこのようなことを行ってきたといっても、国民には伝わらない。それよりも途上国の生活を知ってもらうところから入っていくべき。人類学、文学関係者とも協力して国際理解教育をしていくべし。その上、援助で出来たこと、出来ないことの全てをさらけ出して広報した方が国民に逆によい理解をしてもらえるのではないか。
- NGOとODAの連携においては、従来のODAの枠で出来なかったことが連携によって実現できたのかという見方が必要。また、市民モニター制度を援用した市民参加によるプロジェクト評価も必要。さらに、NGOに下請けするのではなく、全ての企画立案をNGOに委託する姿勢が必要。
- プロフェッショナルな協力体制にすべし。NGOを対等なパートナーとして捉える意識が必要。トップレベルの方々は対等に扱ってくれるが、末端ではODAで行くか、NGOで行くかで全く対応が異なる。また、途上国のスペシャリストを積極的に登用すべし。
- 日本での「研修」を相互交流の場にすべし。ODAで来日する途上国関係者は、国民との交流を行う最高の人材である。
- 日本の民間企業は途上国の風土に合った技術を開発する能力がある。開発コストを誰かが負担しなければ採算ベースにはのらず、開発できない。例えば、保健医療分野では「停電に強い医療検査機器」、「冷蔵しなくてもいいワクチン」、「高温多湿でも変質しないレントゲン写真」などは需要は高い。
- 気軽に国際協力に参加できる環境を醸成すべし。日本に住む外国人と海外にいる日本人はODAのファンである。彼らに積極的に広報し、味方につけるべし。日本人学校にODA現場視察の機会を設けるべし。ODAスタディツアー、短期型シニアボランティア、短期型もしくは研究員型青年海外協力隊なども一案。また、姉妹都市の活用など地方自治体との連携強化も一案。
- 沖縄感染症イニシャティブの前身に当たるGII(人口・エイズに関する地球規模問題イニシァティブ)が7年経って今年3月に終わったが、これはNGOとの連携が進んだ良い例であった。プロジェクト形成段階から最終評価に到るまでNGOが参画できるシステムができた。また、一般市民への広報活動もうまくいった。
- 現地のNGOや専門家が、小中学校に国際理解教育の一環として話をしてもらうことも一案。
(3)人材育成
- 各省庁が持つ予算の戦略的活用が必要である。細かな制約が物事を困難にしていることが多い。例えば、マラリア研究の文部科学省予算が3億円増加しただけですぐに研究者が増えた。10年先を見通し、適切な人材育成をすべし。
- 優秀な日本人が海外からもどってこないことが多いが、現存の人材の有効活用が必要。技術協力人材は公募を基本とすべし。関与したいのにコネなどがないのでODAで働けない日本人がいる。小さいなことで状況は随分変わるはず。
- ODA、NPO、大学との人事交流を図るべし。特に大学は人材のキャリアアップ、人材プールの場となりえるので大学を活用すべし。
- 欧米が行ってきた長期的な人材養成の哲学に学ぶところは大きい。途上国の留学生を育成し、帰国後フォローすることで、先進国とプロジェクトの共同実施していく方法もある。例えば途上国と欧米とでタフな交渉をしていても、実は交渉担当官同士が大学時代同じ釜の飯を食べていた仲だったりすることがある。なお、留学生とともにマラリアの研究をしていた指導教官が、留学生が本国に帰った後、今度は教官が現地に行って指導研究をしようとしても、今度は指導教官用の費用が出ない。これでは、大学側に留学生とともに研究するメリットが生じない。こうしたことは、細かい手当てで随分変わるものである。
- ODAの各部署に専門家を配置するなど、ジェネラリストではなく、スペシャリストの登用が必要。例えば、大きな国のJICAやJBIC事務所、外務省などに「保健医療」や「教育」の専門家を配置すべし。なお、10年前は人材が育っていなかったので、こうした議論は出来なかったが、今はそのような人材が育っている。今求められている難民支援であっても、キャンプの運営能力が求められるなど、専門家でなければ貢献できない。
- 日本の経験を活かせる人材育成が必要。母子手帳プロジェクトに関与しているが、途上国では社会経済背景が異なり、日本の経験はそのままでは応用できない。日本の母子手帳を現地語に翻訳しても根付かない。日本の戦後の発展の軌跡を国際協力の視点で科学的に分析する必要がある。母子手帳、学校保健、学校給食、環境汚染などテーマは豊富にあるものの、現状ではこのような日本の経験を科学的に洗い直す研究には全く研究費がでない。
- 元来、国際協力はそれだけでは独立したものではなく、国内とのリンケージの中で考慮すべき活動分野である。地方自治体、大学、病院や学校などの活動現場などから専門家が派遣され、帰国後は元の職場に復帰し臨床や研究や教育に従事するシステムの確立が早急に望まれる。このような人的なリンケージが機能したときに、日本の経験を途上国の国際協力に活かすことができ、また、途上国での貴重な国際体験を日本の活動分野における改善や向上に還元することが可能になる。途上国で活動した専門家を、日本のどこかの官庁や自治体が彼らを少しでもいいから採用するだけで、道が開け随分違う。
- 日本の開発人材育成の問題は、国内の大学における教育や援助機関における実践が「国内向け」内容に終始しており、国際的切磋琢磨に耐えうる人材の育成に役立っていないことである。
- 若手開発人材の育成、登用を軸に国際機関との連携を進めるべし。具体的には、援助機関、文部科学省が、国内大学、研究機関による若手人材の活用につながる国際機関との共同研究活動を資金的に支援すべし。また、外務省及び援助機関が、国際機関で働く日本人職員が日本の援助機関や他の団体との連携の推進に活用できる資金枠を設けるべし。つまり日本の援助のために国際機関を使うべし。教官の個人的努力ではなく、組織的に国際機関による人材育成を活用すべし。
- JPOのシステムは早く廃止してほしい。そしてその資金を、国際機関で働く優秀な日本人が行うプロジェクトに回してほしい。
- JPOを経験した後国際機関の職員になるケースは多い。従って、JPOは効果的な制度。むしろ、JPOも含めいろいろなサポートを増やしていってほしい。
- 日本の大学生は、本来的な能力があっても、すぐ使える援助人材としてはお寒い状況である。国際機関と連携するなどして、彼らを訓練する場がほしい。
- 人材を育てる際に、国際機関との連携に加え、国際NGOとの連携も有用。国際NGOに日本人が出向する方法もある。
- ODAの資金でもって人を育てるという、ODAを国内人材育成に振り向けるシステムが出来ていない。戦略的、意図的に人を育てないと、国際的に活躍する人材は育たない。
- 日本にきている外国人は大切にすべし。例えば国際協力フェスティバルに留学生が参加して交流するなどして、途上国とのリンケージを強めるべし。
- 国際的に通用する人材を育成することは重要だが、アジアの代表で英語を話す人たちはその思考も欧米化されており、これは大きな問題。アジアでは西洋的合理主義に基づくよりも、アジア的な方法もあるはずである。例えばある会議で、UNDPの方が20世紀的な議論に行き詰まりを感じていたのか、アジア人でないと出来ない哲学を持った開発が必要という挨拶に対し共感してくれたが、出席したアジア人にはあまり共感してもらえなかった。人材育成の際には、アジア的な哲学を持った人材を育成するようすべし。
- 人材の需要と供給がマッチングしていないことが問題。国際機関で日本人職員を増やそうと思っても的確な人材がみつからない。同時にODAに関連して必要な人材は国際機関を含めて海外にもいるのだから、うまくマッチングできるようにすべし。
6.次回会合の日程等
次回会合(弟10会合)は、11月20日(火)(10時~12時)に開催され、評価・モニタリング、情報公開・広報について、牟田博光東京工業大学教授及び杉下恒夫茨城大学人文学部教授から報告を受ける予定。