「第2次ODA改革懇談会」事務局
1.日時
平成13年7月17日(火)10:00~12:00
2.場所
外務省892号会議室
3.議題
(1)国際的な連携の強化
(2)中間報告についての意見交換
4.出席者
懇談会メンバー(ただし、五百旗頭真神戸大学法学部教授、小島朋之慶應義塾大学総合政策学部教授、田中明彦東京大学大学院情報学環教授、千野境子産経新聞社編集委員・論説委員は欠席)。外務省から、山口大臣政務官他が出席した。また、関係府省庁、JICA(国際協力事業団)及びJBIC(国際協力銀行)がオブザーバー参加した。
5.議論の経過
(1)国際的な連携の強化
委員の主な意見は以下の通り
- ODA活動は、自己完結的な投資プロジェクト重視から、開発戦略、計画・政策、組織・制度作り等の重視に視点が広がっている。このような中、各ドナーの活動は、大きな外部効果や連鎖効果を持つようになっているので、以前にも増して国際的な連携が必要になっている。
- 途上国の政策協議と案件形成の場は、明らかに現地に移っている。しかも、それが恒常的なものになっており、現場が、国際連携の一番重要な場となっている。このため、現地において政策協議に対応できる体制を作る必要がある。現地政府との政策対話だけでなく、現地の援助コミュニティにおいてプレゼンスを確保すべきである。
- 現地の体制を強化する際、大使館の陣容に制約があること、JBICの守備範囲が限られていることを考慮すると、JICAの現地事務所をこのフォーカル・ポイントにせざるを得ない。具体的には、JICAの長期派遣専門家をJICA事務所の指揮系統の下に置いて、政策協議の支援を行わせるとともに、JICAプロパーの政策スタッフを現地事務所に配置する。このため、金融的資源よりも人的資源を強化する必要がある。
- 主たる被援助国については、国毎に援助政策を協議する常設の委員会を作り、政府関係者の他に外部専門家・有識者を構成員として、途上国の政策担当者との政策対話を進めるとともに、援助関係者のネットワークを形成し、日本の援助戦略・プログラミングに側面から参画すべし。
- 日本のODAの基本理念・政策・戦略に基づいた国際的な連携を進めるべし。
- 連携のための連携ではなく、途上国のニーズへ対応した連携を進めるべし。
- 国際的な連携強化のための政策・戦略を策定して、どのような連携を重視し、誰と連携するのかを明確にすべし。
- 各国際機関・ドナーの得意分野を活かして、比較優位性の最大化を目指した連携を進めるべし。国際機関は、他のドナーとの連携の可能性を探るため、他のドナーを誘って現地視察を行うことが多いが、これまで日本はあまり積極的に対応していないので、今後は日本も参加の機会を増やして欲しい。
- 各国際機関・ドナーの比較優位を見極めた上で、連携の仕方を考え、日本にとって有益なところで積極的に連携すべし。
- 国際的な連携の必要性について、国民一般の理解を深めるべし。例えば、ODA民間モニターのスケジュールには、日本のバイの援助だけではなく、国際機関を通じた援助プロジェクトの視察も入れて欲しい。
- 国連、DAC等の国際会議で議論されている将来にわたるアジェンダ・セッティングに積極的に参加すべし。日本は世界的な重点分野において、得意な分野に積極的に関わっていくべし。他方、経験の少ない分野では、国際機関等と連携して経験を積むべし。
- マルチ・バイ協力には、様々なメリットがある。例えば、日本の大使館のない国で情報を得て、案件を実施して、継続的にモニタリングを行うことができる。また、合同評価を通じて、国際機関の手法を学ぶことができる。さらに、日本のスキームには馴染みにくい複数国にまたがる地域協力プロジェクトにおいても有効である。危険地域への協力の場合、国際機関が撤退等のアレンジをしてくれる。
- 南南協力は途上国同士が経験を分かち合う有意義な援助形態である。日本を含めた第三国、国際機関、NGOを触媒として、積極的に支援すべきである。
- 現地での援助協調が重要になっている中、現地のドナー会合で日本の影が薄い。各ドナーが政策策定で競い合う中、日本の立場を示さないと、重要な部分を担当できず、残った部分のみ担当させられてしまう可能性がある。このためには、現地事務所への権限委譲を進めるとともに、専門性と経験を持つ人材を配置することが重要である。また、国際機関や国内の機関との人の循環を促進して、人材のコアを作ることが重要である。
- 人事交流を進めることによって、国際機関や他のドナーに日本のODAに詳しい人が増えれば、スムーズに連携が進むのではないか。
- 援助コミュニティにおいて、日本は援助額に見合ったリーダーシップを発揮できていない。特に、アジア地域において積極的に発言し、リーダーシップを発揮すべきであり、この点は、ODAの政策として明確に位置づけるべし。
- 国際的な連携には協調と競争の側面がある。国際的な連携を進める上で、日本独自の政策をきちんと策定して、日本が得意な分野に重点的に人と金を付ける必要がある。その上で、戦略的に国際機関と付き合っていく必要がある。
- 国際機関はそれぞれ政策的に違いがある。それぞれの国際機関の考え方には深いものがあるので、付き合い方をかなり勉強する必要がある。ただ協調すれば良いという問題ではない。
- 途上国が何をやりたいかは途上国自身が考えることである。ドナーが作った援助政策を途上国に押し付けるのではなく、途上国自身が自らのニーズに基づき政策を策定できるように支援をすることが重要。
- アフリカでは、一部のドナーが、セクター・プログラムやコモン・バスケット・ファンドに熱心に取り組んでいるが、どの分野を重視するかは途上国が考えるべきものであり、ドナーが考えても意味がない。
- 国際機関やバイのドナーの連携に加えて、NGO間の国際的な連携(日米、日英、日加等)もアジア太平洋地域などで具体的に進んでおり、成果を上げている。
- 現地での連携・協調の重要性が高まる中、日本のODAは動きが遅いので、権限委譲を進める必要がある。草の根無償が喜ばれているのは、現地のニーズに直接対応しているからである。
- 我が国は国際機関への出資・拠出・分担金など米国と比肩するほどの貢献度でありながら、人と口は出さないという現実を改善する必要がある。資金貢献に見合った量の人材を積極的に派遣し案件の形成やFUND使途のモニタリングをするべきで、候補者には民間人材も検討すべき。
- 現地へ人を派遣し、権限を委譲して体制を強化することは重要であるが、指令塔たるHeadquartersの出す援助方針を具現できる人材を配置することが大事である。
- バイのドナーとの協調を行う際には、日本としての戦略性を持つことが重要である。日本の比較優位を活かして、途上国のニーズに対応する必要がある。
- ODA実施においては「一気通貫」で行うことが重要である。例えば電力事業の場合、発電所建設だけではなく、補修、運転指導といった技術協力、また送配電網整備、料金徴収体制なども含めるべきで、その中で、国際機関や他のドナーとの連携で効率化をはかるケースもあるだろう。
(2)中間報告
「ODA改革に関する主な論点(第2版)」(これまでの議論において提起された主な意見を、とりあえずキーワード的に列挙したもの。)に基づき意見交換が行われた。委員の主な意見は以下の通り。
- ODAは、日本の生存と繁栄にとって必要なコストである。適正な使い方によって、日本の良心を世界にアピールすることができる。
- 開かれた国益とは、国民に対して開かれた国益を指すものと理解している。日本人の心の問題として、徳目、教育にも資するODAを考えなければならない。
- 開かれた国益については、第1次ODA改革懇談会でも議論されたが、これは、大来元外相が言われた「enlightened selfishness」という意味であり、国民に開かれた国益という意味ではない。
- 不況の中、何か訴えるものがないとODAについてのコンセンサスは得られない。相手国に対してしっかりとした政策を持つことは勿論であるが、日本自身がしっかりするための基盤整備が基調となる。
- 国民の参加と理解の増進に関しては、より良き市民社会の発展を促進するための触媒としてのODAがキーワードになるのではないか。
- 主体的かつ戦略的にODA政策を策定する上で、国別援助計画は重要である。日本が比較優位のある協力分野を相手国に示して、相手国のニーズに合致した援助を実施すべし。
- グローバルな開発問題の深刻化を踏まえ、国際社会の中での日本の外交政策、そして、その中でのODA政策・戦略・重点分野を明確に示す必要がある。
- 不況の中でODAを削減しなくてはならないとしても、理念を持って国民に訴えていく必要があるのではないか。例えば、5つのパンがあって、4つ食べて1つ残ったものを与えるのと、1つしかパンがないが、半分を与えるのでは、どちらが喜ばれるか考えてみてはどうか。
- タウン・ミーティングを行う場合には、各委員が分野ごとに手分けをするのも一案ではないか。また、被援助国の大使に集まってもらって、ODAの現場でやっていることを訴えてもらい、国民に理解してもらうことも一案ではないか。
- 国際協調をテーマとしてドキュメンタリー・フィルムを作って、テレビで放映するなどの方法により、国民の中に精神的気質、エートスを作り上げていくことが重要ではないか。NGOも、国民の中にエートスを作り上げる中で育っていくのではないか。
- 国益の取り上げ方については、国益を前面に出すのではなく、貧困、感染症等のグローバルな問題への対応が、結果として国益につながるという流れにすべきである。
- ODAは国益のためではなく、地球市民としての義務として行うものである。これは、個人だけではなく、国家、企業等地球の構成員としての義務である。貧しい人を援助することによって、長い目で見て国益につながるのは当然だが、ODAを目先の国益に結び付けるべきではない。
- ODA予算が削減されたとしても、削減の一部分は援助要員の増員に回して、足腰強化に当てて欲しい。
- ODAはやった方が良いものではなく、やるべきものであるという座標軸については、コンセンサスが形成されているのではないか。
- ODAをめぐる国内状況、グローバルな状況を踏まえて、日本が誇れるODA政策は何かを考える必要がある。世界一のODA大国ということだけで誇れる時代は終わった。湾岸戦争の教訓からしても、ODA世界一ということだけでは、世界から尊敬されない。特定の優先分野で突出してODAを供与することも一案であり、そのための理念を持ち、理念に結び付いたODA事業を実施すべし。
- 北欧・米国のような国・分野を絞った援助政策は、途上国側からは、ニーズに対応した援助としてではなく、単なるアドヴォカシー・グループと受け止められる可能性がある。日本のODAの良い点は、途上国のニーズをトータルに見てきたところにある。
- ODA予算も聖域なき改革の対象としてはっきり言った方が良いが、世界における日本の地位等を考えた場合、いきなり量を下げて良いとはいかない。
- 国民の合意が得られるような中間報告とすることが重要であり、タウン・ミーティングは精力的に実施すべきである。恒常的に国民の意見を吸収しながらODAのあり方を考える作業形式があっても良いのではないか。
6.中間報告に向けた作業等
(1)中間報告の起草のため、少人数の委員からなる非公式タスク・フォース会合を開催することとなった。
(2)中間報告の大臣への提出及び公表の日程については、調整の上、後日各委員に連絡されることとなった。
(3)中間報告公表後然るべき時期に、タウン・ミーティングを開催することとなった。