「第2次ODA改革懇談会」事務局
1.日時
平成13年6月19日(火)10:00~12:00
2.場所
外務省892号会議室
3.議題
「国民の参加と理解の増進」
4.出席者
山口外務大臣政務官、懇談会メンバー(ただし、浅沼信爾一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授、五百旗頭真神戸大学教授、池上清子(財)ジョイセフ企画開発事業部長、田中明彦東京大学大学院情報学環教授は欠席)、事務局(経済協力局)。関係府省庁、JICA(国際協力事業団)及びJBIC(国際協力銀行)がオブザーバー参加した。
5.議論の経過
市川委員及び船戸委員の報告の後、議論が行われた。主な意見は以下の通り。
(1)ODAの理念等
- ODA大綱は良く出来ており、対外的には有効に機能してきたと言えるがが、ODA大綱を国民の目線で見た場合、どのくらい理解されているのか。もう一度国民に問いかける形で、ODA大綱改正のための国民的議論を始める必要があるのではないか。
- 人間を中心とする開発、エンパワメント(empowerment)等の考え方が国際的な援助の潮流となっているが、このような考え方をODA大綱にどう書き込んでいくかが一つの課題ではないか。
- 日本独自の革新的な国際貢献の出来る重点分野、方法、理念が、一般の国民には分かりにくいため、ODAに対する国民の支持が盛り上がらない。様々な援助課題に対して、日本はどの程度、何故対応するのかについて議論して、国民の理解を得ることが重要ではないか。
- 21世紀の援助哲学を考えるに当たって、大きな枠組みを作る必要があり、援助のhowを考える前に、what, whyを考える必要があるのではないか。その際、20世紀的価値観を問い直し、アジア的・日本的価値観の復権による援助理念の構築が必要ではないか。
- 自由主義社会の中では、勝者と敗者が出てくるが、その差は能力だけではなく別の要素にも起因している。勝者は、近代化の陰の部分に置かれた犠牲者に対して債務を負っているとも言える。したがって、援助はチャリティではなく、またやった方が良いものではない。援助はやるべきものである。
- ODAを実施していく上で、基軸となるのはやはり国益であり、国益を十分整理しておく必要がある。国益がODAとどのように結び付いていて、何故ODAは必要なのかを整理することが重要である。ODAのhowを考える前にwhy,whatを考えることは極めて重要なポイントである。
- ドナーとしての立場から国際協力を行っていくことは重要であるが、同様に、諸外国との共生なくして、日本の経済的・産業的基盤は存在しないという事実を意識すべきである。諸外国との共生は、日本にとっての宿命である。この点は、政府、民間、学界いずれにおいても共有すべきポイントである。途上国のニーズが変化していく中、日本としてそれにどう応えていくかという観点から、NGOが活躍していく場が出てくるのではないか。援助国としての立場だけが突出するのは好ましくなく、海外との共生とのバランスを取っていく必要がある。
- ODAは外交にとって重要な手段であることは明らかであるが、実は、これだけでは何も語っていない。何のために援助をするのかという理念を鮮明にする必要がある。援助理念が鮮明にならないと、ODAに対する国民の支持を得ることは難しい。
- ODA予算削減の動きがあるが、数字だけでは抽象的であり、国民には分かりにくい。例えば、ODA予算が1%削減された場合、途上国で何人の子どもが生存できないか、何人の子どもが教育を受けられないかなど、分かり易い形で示さないと感覚的に分かりにくい。
- ODA予算削減の議論は、専ら財政構造改革の文脈で論じられており、外交、国益におけるODAの役割についての議論が欠落している。ODAの役割をきちんと意味付けして、国民にODAの理念を理解してもらうことが必要である。その際、グッド・ガバナンス等の専門用語は専門家には理解できても、国民に対してODAを語りかけるための言葉にはならない。
- 日本はバイの援助を重視していくべきであり、この姿勢を恥じる必要はない。国際機関や他の先進国との協力が全面的になってしまうと、日本の国益、援助理念が埋没してしまう可能性がある。
(2)国民の参加等
- ODAのスキーム・実施体制は改善されてきてはいるが、一般の国民にも、また他の援助国・機関の関係者にも分かりにくいので、スリム化、効率化をして分かり易くするとともに、ODAによって何をしようとしているのかを示す必要がある。
- ODAの担い手はかつては企業が中心であったが、企業の援助離れが進んでいるという印象を持っている。ODAは企業の優れた点を取り入れながら実施すべきであり、企業がODAに参加し易いインセンティヴを導入するなどの工夫が必要ではないか。
- NGOに対する支援を行うことによって、人類共通の課題のために貢献している企業も数多くある。ODAと企業とNGOの連携をもっと工夫することによって、新しい活力が生まれる社会となるのではないか。
- 欧米のNGOには、高度な専門知識を持った人や、大蔵大臣等とも直接協議をすることのできる程の能力を持った人も数多くいる。日本においても、プロフェッショナルなスキルを持った人材が、創造的に活躍できる社会の仕組みを作る必要があるのではないか。このためには、NPOマネジメントに関する大学院レベルの教育機関を設置するなどして、教育機関と援助実施機関の連携を図り、援助の担い手を育成する必要があるのではないか。
- タウン・ミーティング、パブリック・フォーラムのような場を設けて、いろいろな人の考え方を聞いて、それを論理的に整理すれば、ODAに関する国民的な議論が盛り上がるのではないか。
- 日本のNGOは組織や財政基盤が脆弱であるが、政府や企業に依存すべきではない。組織強化はNGO自身の責任であり、自分の足で立つことを原則とすべきである。日本のNGOには自助努力が一番重要である。NGOは、元来、草の根運動(movement)であり、組織(institution)ではない。一部のNGOは、政府からの補助金に依存しようとする傾向があるが、これは間違いである。
- 日本のNGOは、数の上でも、組織においても脆弱であるが、NGO支援は、個々のプロジェクト支援よりも社会的環境づくりのためのものであるべし。特に、ネットワーク型NGOの支援が重要であり、政府、経済界、労働界、NGOが一体となって基金を作るなどして、抜本的なNGO支援策が必要ではないか。
- 従来の開発方式はトップ・ダウン方式であったが、途上国の経済が全体的に発展しない中、途上国の国民の質を向上させる観点からボトム・アップの支援も重要になっている。NGOは草の根レベルで国民と直接接することができるので、ボトム・アップの支援を行う際、NGOの役割は重要である。
- 欧米諸国には、ODAとNGOの関係を法律等で明確に規定している国もある。日本でも、ODAの中でのNGOの位置づけを明確にしておく必要があるのではないか。なお、欧米のNGO概念には、民間研究機関、大学、大学の研究機関、自治体等も入っており、日本に比べると援助の担い手の幅が広い。
- 日本がどのような援助を実施したかを示すだけではなく、プロジェクト実施のプロセスやODA計画の中長期的なあり方についても、現地政府、NGO、シンクタンク、ジャーナリスト、他のドナー、国際機関等幅広い層から意見を聞く必要があるのではないか。
- 民間企業にとって収益が大事なことは確かだが、corporate social responsibility等の言葉があるように、世界共通の利益のために参加することも重要である。企業には技術、人材、研究開発能力、資金力等の比較優位があり、これらを最大限活かしていくことが重要である。
- 開発教育においては、開発の実務も経験することができるシステムを構築する必要がある。一部は実現しているが、青年海外協力隊経験、ボランティア経験、NGOでの実務経験などを単位化することによって、開発教育と実務を組み合わせていくシステム作りが重要である。
- 政府とNGO、企業の三者が入れ子状態になっているのが、日本型ODAの特色である。三者がそれぞれが補完し合う形で一体化しないと、情報、資金、技術の面でODAの実施は困難である。
- 日本のNGOの全体像がどうなっているか把握できていないのではないか。それぞれのNGOの力、特色、自治体との関わり等についてどの程度把握できているのか。また、政府、NGO、企業、地方自治体それぞれの比較優位について、十分な分析がなされているとは言えないのではないか。
- 多くの市民はユニセフ等に対して寄付をしているが、他方、日本のNGOに寄付しようとしても、NGOが何をしているのか分からないことが往々にしてあるのではないか。行政のみならず、NGOも開かれる必要があるのではないか。
- 日本のNGOを何とかして育てていく必要があり、ODAはそのための一つの手段として重要である。他方、NGOの人々にも自らの位置づけをしっかりして核を決めてもらいたい。
- 多くの人が国際協力活動に参加したいと思っているが、機会を見いだせないと感じている。国際貢献のためのメニューは多いが、それぞれのメニューについて適切な情報がないため参加しにくいのが実態である。国際協力活動のニーズと参加したい人のサプライとの間にギャップがあって、それが埋められていない。
- 参加のもう一つの対象として、途上国にも枠を広げた考え方が重要である。第1次ODA改革懇談会の提言にも盛り込まれているが、途上国自身が援助の主体となる南南協力、第三国協力などは、第2次ODA改革懇談会でも考えていきたい。
6.次回会合
次回会合は7月4日(水)10時から開催し、「ODAの具体的とり進め振りの見直し」「ODA実施体制の抜本的強化」について議論を行うこととなった。