ODAとは? ODA改革

「第2次ODA改革懇談会」中間報告

平成13年8月1日

なぜいま改革か-参画の時代

 われわれは、貧困、飢餓、紛争、難民、環境破壊、感染症蔓延など多くの開発途上国住民を苦しめる諸問題をつねに正面から見据え、それらの解決に向けて日本にふさわしい努力を注ぎたいという意思を世界に広く訴えることによって、国際社会からの厚い信頼を確保していく必要がある。
 経済的低迷のゆえにODAに対する国民的支持が希薄化していると考えるのは短絡である。貧しい人々、弱い立場の人々に助力の手を差し伸べたいという意欲は日本人の心の中に深く根づいている。さまざまな価値観をもつ国民各層が開発途上国の人々とさまざまな形で関わり、問題の解決に少しでも貢献したいという意欲をもつ一方で、その意欲を引き出すインセンティブや仕組みを創造的に工夫する政策努力はこれまで不十分であった。政策努力を直ちに開始しなければならない。
 国民各層もまたODAに高い関心をよせ、日本のODAはいかにあるべきかについての議論を恒常的に行い、広範な国民的合意を形成し、ODAの諸活動により深く参画していくことが望まれる。そのための環境条件の整備が必要である。従来の官主導型のODAを超え、国民の活力と知力を大いに発揚させるODAの新しい展開が今求められている。
 本中間報告書は、第一義的には外務大臣の諮問に答えるためのものであるが、同時に、国民各層に広く深いODA議論を喚起したいという目的をも秘めている。日本のODAを開発途上国の発展、住民の厚生水準向上に一層資するものとするためには、これをどのように改革すべきか、われわれが考える基本点を以下に提示する。この中間報告をもとに真摯なODA議論が巻き起こることを期待する。

ODAは日本にとっていかなる意味をもつのか

 開発途上国の重要課題が、経済成長を通じての住民の生活・福祉水準の向上にあることはいうまでもない。しかし、これに加えて現在では、紛争や難民、環境破壊や感染症蔓延などの諸問題が開発途上国を舞台に頻発しており、解決を要する課題はかつてに比べて著しく多様化し複雑化している。
 これらは先進国をも含む国際社会の全体を危機に陥しめかねない重大問題である。解決を先延ばしすれば、国際社会は将来に支払わねばならない大きな負債を背負うことになろう。この危機意識が国際社会で共有されようとしている。ジェノヴァ・サミットでの世界エイズ保健基金の設立や地球温暖化交渉における開発途上国支援などは、そうした危機意識に発する国際社会の取り組みの一環である。
 日本が自らの生存と繁栄を維持していくためには、国際社会との相互依存、アジアなど開発途上諸国との共生が不可欠である。日本は、国際秩序の形成と強化に積極的に貢献しなければならず、国際貢献なくして世界の信頼を手にすることはできない。国際社会の調和的かつ互恵的な発展を確保するとともに、国際社会からの厚い信頼を蓄積していくことこそが、日本の国益である。それゆえ日本にとってのODAは、余裕があるからこれを供与し、余裕のない時には供与を差し控えるといった類のものではない。
 ODAは、日本という国の在り方、国際社会における日本人の生き方に係わる問題である。そうであれば、政府のみならず国民各層によるODA活動への幅広い参画、参画主体相互の連携が不可欠である。個人、NGO(非政府組織)、企業、大学、研究組織、地方自治体などがそれぞれの比較優位を活かし、国民各層が主体性をもってODAに取り組むべきである。現在の日本社会に活力を取り戻し、若者に希望を与えるためにも国際社会への国民各層による貢献はこれを欠かすことはできない。
 ODAへの国民の参画を促すには、ODAの実態や成果についての情報をできるだけ豊富に公開し、評価、モニタリングを含めODAの透明性を一段と向上させる必要がある。

国別援助計画の重要性を訴える

 ODAの実施にあたっては、受け入れ国のニーズを的確に把握し、そのうえで日本として協力すべき戦略的分野、日本が比較優位をもつ分野に絞って事業を展開する必要がある。重点分野を絞っての対応、すなわち選択と集中が不可欠である。そのためには国別援助計画の策定が必要である。国別援助計画策定の重要性については、平成10年1月に発表された「21世紀に向けてのODA改革懇談会」(河合三良座長)の報告書においても強調された。また、いくつかの開発途上国を対象に国別援助計画がすでに策定されているが、重点分野が十分に選定されているとは言い難い。
 われわれは、一方で、各開発途上国の開発課題と開発政策を正しく掌握し、他方で、日本のODA資源すなわち資金、人材、技術、経験、ノウハウなどの供給可能性を十分に斟酌した実効的な国別援助計画策定の重要性を訴える。
 国別援助計画は、日本が主体的に戦略性をもってこれを策定すべきである。日本のODAは要請主義をその供与の原則としている。それぞれの開発途上国からの要請がその国の真のニーズを反映したものであるか否か、要請されたODAを供与すべきか、いかなる形態と機能と条件のODAを供与したらいいのかを判断するには、そのための指針や基準が必要である。この指針・基準を提供するものが国別援助計画である。優れた国別援助計画がなければ、各開発途上国との政策対話や政策協議も有効なものとはならない。

ODA実施体制の整備を求める

 日本のODAの供与形態は、円借款、無償資金協力、技術協力、国際機関への出資・拠出、その他へと著しく多様化しており、外務省を中心に多数の省庁、実施機関がこれに関与している。外務省がODAの調整機能を果たすことになっており、また関係省庁連絡協議会の設置等の努力はなされているものの、関係省庁間、実施機関間の連携は十分ではない。
 技術協力、国際機関への出資・拠出については、関連する省庁と実施機関が多岐にわたる。特に技術協力については、外務省ならびにJICA(国際協力事業団)がこれを実施する以外に1府9省庁が独自の技術協力を展開している。関係省庁会議が設置されてはいるものの、技術協力を一元的に検討し運営する制度とはなっていない。
 そうした状況を改善し、開発途上国のニーズに応えて日本のODAをより効率的に展開するには、ODA調整官庁のいわば「指令塔」機能の強化が不可欠である。その下に、常設機関として「ODA総合戦略会議(仮称)」をつくることが望まれる。このような会議のもとで、NGO、企業、大学、研究組織、地方自治体をも含む日本のODAの全体をより体系的で整合的な形に組み立てる必要がある。
 ODA参画主体の多元化は時代の潮流である。地震等の自然災害、紛争終結後の難民への支援を通じて、近年、日本においてもNGO活動への関心が大きく高まっている。開発途上国の草の根に届くODAの実施のために、NGOの位置づけを明確にし、積極的にNGOとの協調を図るべきである。同時にNGOの側にも、その組織と能力の強化のための一層の努力が期待される。
 複雑化し多様化する開発途上国のニーズに応えて協力を効果的に展開するには、世界各地での多様な経験を有する企業の技術、ノウハウ、人材を活用することも必要である。
 ODAの実施過程についていえば、ODAの事業現場に近い部署に権限をできるだけ委譲し、またその機能を強化すべきである。ODAの主体が多元化すればするほど、多元化した主体の比較優位を存分に発揮させるべく、権限の委譲と現場の機能強化が果敢になされねばならない。
 そして何よりも、ODAに関わる人材のより積極的な育成が必要である。日本のODA諸資源において深刻な不足状態にあるのが人材である。開発途上国の開発に高い志と熱い情熱を持つ若い人材の参加を促すとともに、人材を豊富に供給するための基盤をいかに拡充するかが真剣に検討されねばらない。また、現在のODA要員についても、変化する開発課題に迅速かつ的確に対応できるよう、その増員とともに、人事・研修制度の整備・拡充が急がれる。

国際連携を強化しよう

 地球環境の劣化、人口爆発、食糧・エネルギー危機、エイズなどの感染症蔓延、麻薬、テロ、国際犯罪、金融危機など二国間ODAでは十分に対処し得ない問題が多発している。高い対処能力をもつ専門的国際機関との、戦略・政策・プログラム面での連携を一層強化する必要がある。
 国際機関との連携に際しては、日本の主体性・戦略性・体系性を維持しなければならない。そのためには、国別援助計画に加えて、分野別・課題別の援助方針を明らかにし、それにもとづいて国際機関の比較優位を活用すべきである。
 国際機関との連携を強化するために、日本は国際機関によるODA案件の形成過程により積極的に関与すべきであり、優れた人材の育成・派遣に意を注がねばならない。

ODA予算検討のために

 日本は過去10年近くにわたり世界最大のODAを供与してきた。低い経済成長率と厳しい財政状況にありながら、日本がODAコミュニティーにおいてこのような地位を保ち得た事実は誇るに値する。この事実は、国際社会における日本の国柄、日本人の生き方を示すにふさわしいものであった。日本人が国際社会において矜持をもって生きていくためにも、ODAを通じて築き上げてきた世界からの信頼をより大きいものとしなければならない。
 ODAは、軍事力をもって国際秩序形成に関与しない日本にとって、最も重要な国際貢献の手段である。国際貢献を通じて掌中にした信頼こそが、相互依存と共生の世界に生きる日本の繁栄と安寧を保障する力となる。
 多くの開発途上国が直面している種々の課題を放置して世界の平和と繁栄はかなわない。実際、主要先進国の中でも、アメリカやイギリスのODA予算は増額に転じている。北欧諸国の開発途上国支援への意欲は依然として強い。国際社会との協調努力を営々と続けてきた日本は、そのリーダーシップを今後とも発揮していく必要がある。

 経済低迷が長期化し、巨額の財政赤字を構造化させている現在、国家予算はこれを大切に用いねばならない。ODA予算とて例外ではない。これまでの実績に照らし、個別の開発途上国のニーズに見合わないと判断されたODA、さらには日本の比較優位が発揮されにくいことが判明したODAについては、これらを思い切って削減し廃止する勇気が必要である。何よりもODA資源利用の効率性を向上させねばならない。
 日本のODAは改革されるべき課題をいくつか抱えている。ODA改革の具体策については、本懇談会において今後更に議論されるが、改革への方位について中間報告書としてここに問題提起した次第である。幅広い国民の参画を得てODAを実施すべきこと、重点分野を絞った体系的な国別援助計画を策定すべきこと、実施体制を整備して日本のODAの主体性・戦略性・体系性を確保すべきこと、国際的な連携を強化すべきこと、などが日本のODAの向かうべき方位として示された。こうした方向への改革にわれわれは果敢に挑み、日本のODAをより優れたものとする不断の努力を続けねばなるまい。

 同時に、このような改革を進めながらも、支援が具体的な成果を収めるまでには、長い時間がかかることを忘れてはならない。短期的な効果のみならず、より長期の視点から所期の成果を求めて一貫した努力を継続することが必要である。また、これまでODAを通じて日本が積み上げてきた国際社会からの信頼と評価は、一度失えば再びそれを築き直すことはきわめて難しい。幅広い国民参加によるODAの実践は、人々の夢と潜在的な能力を開花させ、日本社会の活性化に寄与するであろう。ODA予算の検討に当たっては、このような諸点に十分配慮されるよう強く訴える。

(以上)

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