ODAとは? 援助政策

対パキスタン国別援助計画(案)(要約)

1.対パキスタン経済協力の意義

 パキスタンの政治的に不安定な地政学上の諸問題の根底にある社会的・経済的構造問題は、数多くの優秀な人的資源を有していながら、持続的発展を導く基礎的条件が整備されてこなかった点に求められる。すなわち、社会的機会に対するアクセスの実質的平等性、開発戦略の整合性・継続性、そして健全な社会モニタリング機能(対抗勢力)である。
 1999年にムシャラフ行政長官(当時)は「穏健で近代的なムスリム国家」の構築に向けて数々の改革に着手し、内政面外交面双方で実績を上げつつある。
 現政権の各種の構造改革及び諸外国との関係改善努力と方向性は、パキスタンを持続的社会に導くために不可欠であり、このプロセスを支援することがパキスタンの安定性、更には地域、国際社会の安定に繋がる。
 また、日本の友好国としてパキスタンが「穏健で近代的なムスリム国家」として安定することは近隣国の安定、強いては日本の安定にも繋がる。また、シーレーン上の位置付け及び持続的社会に向けて走り出した場合の1億4000万の人口が生み出す経済機会は我が国にとっても無視出来ない。また、パキスタン国民に広く共有されている親日感情は大切に育んでいく必要があろう。

2.パキスタンの開発課題と開発の方向性

(1)開発経験のレビュー

 パキスタンの開発パフォーマンスは、他の途上国と比べても、それほど見劣りするものではない。しかしながら、独立時に引き継いだ世界有数の灌漑網に代表される優れた農業基盤、高い潜在力を持つ人的資源の有利な条件を十分に生かすことが出来なかった。

 その理由として
(イ)人的資源の育成の軽視
(ロ)産業多様化への努力不足
(ハ)政治的不安定が継続した結果による民主主義と市場経済の発展の阻害
が挙げられる。

(2)パキスタン政府の開発戦略

 2001年9月の10カ年長期開発計画及び3カ年開発プログラム、同年11月のI-PRSP及び2003年12月のF-PRSPに基づき、パキスタン政府は

(イ)経済成長の加速(財政赤字削減、政府支出の合理化、規制緩和・民営化、インフラ整備、中小企業支援、農村活性化等)
(ロ)貧困削減(教育・保健医療サービスへのアクセス改善、小規模金融、地域密着型公共事業等)
(ハ)ガバナンスの改善(地方分権、司法改革、警察改革、公務員改革、汚職防止策等)に取り組んでいる。

(3)中長期援助戦略のフレームワーク

(イ)援助上位目標:持続的社会の構築とその発展
(ロ)援助戦略における3つの方向性
(a)人間の安全保障の確保と人間開発
  • 基礎教育の充実と諸格差の縮小
  • 中間層の拡大を促進する高等教育・技術教育の支援
  • 基本的保健医療・水と衛生の確保と諸格差の縮小
(b)健全な市場経済の発達
  • 雇用吸収力の拡大と貧困削減を志向した農業・農村セクターの発展
  • 健全な競争環境の確保と、産業構造の多様化の促進
  • 市場経済の活性化と貧困削減を支援する経済インフラの拡充と整備
(c)バランスの取れた地域社会・経済の発達

3.我が国の対パキスタン経済協力の方向性

(1)我が国の対パキスタン経済協力の実績と現況

 90年代はトップ・ドナーの地位を堅持するも、1998年5月にパキスタン政府が核実験を実施したことを受け、緊急・人道的援助及び草の根無償資金協力を除く新規無償資金協力、及び新規円借款を停止する措置をとった。
 9.11以降のパキスタン政府のテロへの取組、核実験モラトリアムの継続等の措置に鑑み、2001年10月に措置を停止し、パキスタンの教育及び保健医療分野を含む貧困削減の努力を支援するため、同年11月には約2年間にわたる3億ドルの無償資金協力等からなる追加的支援を発表した。

(2)我が国経済協力の方向性と重点分野

(イ)分野横断的イシュー
  • ジェンダー
  • 環境
  • ガバナンス
(ロ)人間の安全保障の確保と人間開発
(a)基礎教育の拡充と諸格差の縮小
  • 補完小学校/通信教育/成人識字教育の拡充
  • 教育の質的向上(教員養成・再教育、学校給食を含む教育環境の改善等)
  • 教育行政の機能強化
  • 中等教育の促進
(b)中間層の拡大を促進する高等教育・技術教育の支援
  • 高等教育の質的向上
  • 中等レベルにおける技術教育の拡充
(c)基本的保健医療・水と衛生の確保と諸格差の縮小
(i)基本的医療サービスの確保
  • 地域住民の保健医療サービスの確保
  • 保健医療人材育成
  • プライマリー・ヘルスケアの地域格差縮小と二次医療との連携向上
(ii)飲料水の確保と衛生改善
  • 上水道の整備改善
  • 下水・廃棄物処理の改善
(ハ)健全な市場経済の発達
(a)雇用吸収能力の拡大と貧困削減を志向した農業・農村セクターの発展
  • 灌漑の水資源確保・施設のリハビリと持続的水利用管理
  • 農業技術の普及制度の改善
  • 農業成長に伴う農産加工、及び農業関連産業(林業・漁業を含む)の振興
(b)健全な競争環境の確保と産業構造の多様化の促進
  • 輸出志向企業と中小企業の生産管理・品質管理改善
  • 情報通信産業の育成と流通インフラの拡充
  • 産業構造の多様化を促進する物的・制度的基盤の整備(法秩序の維持、FDIの誘致策、闇経済の制御を含む)
(c)市場経済活性化と貧困削減を支援する経済インフラの拡充と整備
  • 貧困層の生活環境の向上、公共サービスへのアクセス、市場アクセス増加に資するインフラ整備
  • 政策/制度改善と組織強化を伴った効率的なインフラ整備とその持続的利用・管理
  • 中央アジアへのゲート・ウェイとしてのパキスタンの位置付けを考慮した周辺国の発展にも資するインフラ整備
(ニ)バランスの取れた地域社会・経済の発達

(a)後発地域の発展を先導する民間投資に外部性を与える公的投資の拡充
  • インダス河西岸からアフガニスタン国境に挟まれた地域に代表される後発地域の総合的開発に資する民間投資に外部性を与える公的投資の拡充
(b)個性ある地域経済センターの構築
  • カラチの活性化(生活環境の改善、産業基盤整備・維持管理等)
  • FATAを視野に入れたペシャワール経済圏の育成(製造業の育成・発展等)

(3)経済協力実施上の留意点

(イ)軍縮・不拡散上の働きかけ
(ロ)各国・国際機関との連携
(ハ)国際・現地NGOとの連携
(ニ)わが方の援助実施体制の強化
(ホ)パキスタン側の援助受入れ態勢の強化
(ヘ)広報の強化
(ト)国別援助計画モニタリングの導入

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