コラム
新たな開発協力大綱に基づくODA評価の改善に向けて
我が国の開発協力政策の基本方針を示す開発協力大綱は、2015年の策定時からの大きな情勢の変化を踏まえ、開発協力を一層効果的・戦略的に実施するために改定されることとなり、有識者懇談会、NGOや経済団体等との意見交換、パブリックコメントを含む過程を経て、2023年6月、新たな開発協力大綱が閣議決定・公表されました。
また、開発協力大綱の改定に先立ち、本書でも紹介のとおり、2022年度に「過去のODA評価案件(2015~2021年度)のレビュー」を実施しました。このレビューではODA評価(第三者評価)案件を主たる対象に、開発協力大綱(2015年)の主要項目に照らして分析を行い、大綱との整合性や達成状況等を確認し、大綱見直しに関する提言、開発協力政策及びその実施に関する提言とともに、ODA評価手法に関する提言を得ました。
その提言も踏まえて、外務省大臣官房ODA評価室が実施するODA評価実施の流れや手法を記載した「ODA評価ハンドブック」の改訂を行うこととしました。改訂の主なポイントは以下のとおりです。
1.政策レベルの評価(国別/地域別評価、課題・スキーム別評価)
(1)政策の妥当性
評価基準のひとつである「政策の妥当性」について、国別開発協力方針やSDGs等のみならず、開発協力大綱の重点政策に沿った形で実施され、戦略的な一貫性が担保されているかを検証する旨明示します。また、我が国の上位政策との整合性に加えて、上位政策に照らした必要な重点化が図られているかどうかも検証項目として新たに例示します。
(2)結果の有効性
従来の外務省ODA評価では、開発協力大綱の切り口での成果達成状況が十分に検証されていないというレビューにおける指摘も踏まえ、「結果の有効性」の検証において、開発協力大綱の重点政策への貢献・影響を可能な限り検証することとします。また、OECD/DAC評価基準である「有効性(Effectiveness)」と「持続性(Sustainability)」についてより適切に検証するため、大綱の重点政策である「質の高い成長」の重要性に鑑み、「様々な裨益グループへの影響(包摂性)」と「環境面での持続可能性」を検証項目の例に追加します。
(3)プロセスの適切性
新たな開発協力大綱では、効果的・戦略的な開発協力のために、様々な主体との共創を実現するための連帯の強化、政策と実施の一貫性の強化を含む戦略性の一層の強化、不断の制度改善を含むきめ細やかな制度設計という3つのアプローチが示されています。それを受けて、「プロセスの適切性」での検証において、日本の経験や知見等を活かした開発の課題設定、開発のプラットフォームの形成・活用、様々な主体との効果的な連携・連帯、二国間協力と国際機関やNGOを通じた協力の組合せといった開発効果を高めるためのプロセスを新たに検証項目 の例に加えます。併せて、ODA評価のインタビュー調査対象にNGOを含む様々な開発協力のパートナーを含めることを明示します。
さらに、「プロセスの適切性」については、開発協力大綱の「開発協力の適正性確保のための実施原則」のうち、可能な限り評価対象に関連性の高い実施原則に照らしながら検証することとします。
2.事業レベル(プロジェクトレベル)の評価
事業レベルの評価でも、「計画の妥当性」の検証において、開発協力大綱との整合性を評価設問に追加します。また、事業レベルの評価では、「プロセスの適切性」は、「計画の妥当性」及び「結果の有効性」の2つの評価基準における評価設問の一部とされていることから、これらの評価基準に基づいた検証が開発協力大綱の実施原則に照らして行われるよう、具体的な検証項目を追加します。
この他、開発協力大綱の重点政策については、政策レベルの評価の評価案件選定の際に優先的に取り上げることも検討していきます。
こうした見直しを通じて、新たな開発協力大綱に基づきODA評価手法を更新するとともに、開発協力の政策立案、実施、評価、改善(PDCA)サイクルの一環として、ODAの管理改善と国民への説明責任を果たすため、ODA評価においても不断の改善に努めていきます。