2022年度外務省ODA評価結果
過去のODA評価案件(2015~2021年度)のレビュー
評価主任 | 大野 泉 政策研究大学院大学政策研究科教授 |
コンサルタント | 株式会社国際開発センター |
評価実施期間 | 2022年8月~2022年11月 |
評価の背景・対象・目的
開発協力大綱(2015年)の実施状況を確認し、今後のODA政策及びその実施に際して考慮すべき事項や新たに盛り込む視点等について提言を示すことを目的として、本調査を実施した。2015年度から2021年度に実施された政策レベルのODA 評価報告書に2014年度評価報告書とJICA事後評価報告書(2015年度以降実施案件)も対象に加え、開発協力大綱の主要項目に即したレビューを行った。さらに開発協力白書、外交青書等からの補足情報の確認、有識者からの意見聴取も実施した。
評価結果のまとめ
(1) 日本の開発協力の動向及び特徴の把握
2015年を基準に、その前後の日本の開発協力の実績を比較分析した。日本の開発協力は、予算の大幅な増加はなされない中、限られた財源の中で国際情勢や世界的課題に応じ、適宜支援分野及び地域の配分を変えて対応してきた。開発協力大綱で重視された「連携」については、日本NGO連携無償資金協力及び国際機関との連携実績から、強化されつつある。ODA以外による開発途上国への資金の流れも増加しており、引き続きODAと民間部門との連携が重要である。
(2) 開発協力大綱を切り口とした過去のODA評価報告書のレビュー
対象59件の評価報告書について、開発協力大綱の項目に沿ってODA評価の視点からメタ評価を行った。全体として、「政策の妥当性」については高い整合性が認められ、「結果の有効性」についてはプラスの効果が認められ、「プロセスの適切性」については適切に実施されたとおおむね判断できる。また、「外交的な重要性」、「外交的な波及効果」についてもかなり言及されている。しかしながら、開発協力大綱に記載されている各項目に関してこれらの視点の個別評価結果を見ると、必ずしも全ての項目に関してこのように高く評価されたわけではなかった。
(3) ODA評価報告書で出された提言・教訓の整理
対象59件の評価報告書から計285件の提言・教訓を抽出し、開発協力大綱の各項目を切り口としたレビューと、既存調査(注)で用いられた提言・教訓のサブ・カテゴリーへの分類を行い、「過去のODA評価案件(2003~2013年度)のレビュー」結果と比較した。開発協力大綱を切り口としたレビューでは、項目別の提言・教訓数の上位3位は、実施・実施上の原則の「戦略性の強化」、同「効果的・効率的な開発協力推進のための原則」、重点政策・重点課題「『質の高い成長』とそれを通じた貧困削減」であった。また、「多様な資金・主体との連携」に関する複数項目を合計すると、全体の2位であった。
(注)「令和2年度「過去のODA評価案件(国別評価)のレビューと国別評価の手法に関する調査研究」報告書」
(4) 今後の開発協力政策の立案・実施に際して考慮すべき事項、新たに盛り込む視点の考察
考慮すべき主な留意点は、「戦略性」と「国益」である。開発効果を高めるための「戦略性」と、国家安全保障戦略や「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」等の国家戦略や外交戦略の視点からの「戦略性」との二つの次元で「戦略性」を考える必要がある。また、開発協力において「国益」は、広義で捉えるものであり、開発協力の範囲の拡大や実施上の原則等については、国民的合意の形成が必要である。日本がODA予算を使い特定の分野に積極的に取り組むとすれば、国民の理解は不可欠であるため、広報や評価モニタリングを常に分かりやすい形で発信することが重要である。
評価結果に基づく提言
(1) 開発協力大綱に関する提言
ア 開発協力大綱における戦略性の明確化
開発協力大綱と国家戦略との関係を明確に示しつつ、途上国の持続的開発という、長期・グローバルな視点に留意する必要がある。加えて、非軍事的協力の方針の堅持とその下で許容できる支援範囲・実施原則や、国際機関・他ドナー・新興ドナー・NGO等との連携方針を明確化すべき。軍関係者が関わる支援が必要な範囲が広がる場合は、非ODA枠組みの国際協力仕組みの創設を検討すべき。
イ 大綱の構造・内容の一貫性とメリハリの強化
現行の開発協力大綱では、目的、理念と実施上の留意点について必ずしも相互の関係が明確ではない、3つの重点課題の下に記載された支援分野が細分化され過ぎている、などの課題が見られる。記載内容をより明確で理解しやすい内容として、全ての協力で考慮すべき事項と、案件によって強弱をつけるべき項目を分けて記載するなど、より具体的協力に反映しやすい構成とすべき。また、国民の参加及びコンセンサスを得られるものとするため、文章をより平易に分かりやすくすべき。
ウ 「実施上の原則」及び「実施体制」
「実施・実施上の原則」、「実施・実施体制」で述べられている項目のうち、「国際的議論への積極的貢献」、「開発協力の適切性確保のための原則」、「連携の強化」、「実施基盤の強化」などは引き続き重要。軍関係者の関わる協力等は、透明性ある形での順守状況の確認を継続すべき。
(2) 開発協力政策及びその実施に関する提言
ア 開発協力の実施における戦略性の強化
開発効果を高めるための「戦略性」が引き続き重要であり、優先順位付けに加え、日本の強みの再確認、自助努力支援、出口戦略、政策・制度面やインフラの運用面の支援、知日人材の活用等、日本が選ばれるパートナーになる努力をすべき。
イ 実施体制の強化に向けた継続的取組
個別の開発協力政策の策定・実施に当たり、各ODA評価報告書で出された「他アクターとの連携強化」「モニタリング・評価」「広報」に関する提言・教訓は、全ての政策でふまえるべき。また、複数国・地域協力、紛争影響国支援、災害支援、個別セクターに関する提言・教訓に関しては、該当する政策において参照するべき。
ウ 成果指標の設定
目標を数値で示すことは、戦略・プライオリティの明確化につながるとともに、開発協力の成果を国民に分かりやすく伝える手段の一つであり、国民的合意形成の一助となり得る。よって、日本が取り組む目標について、実施レベルでの成果指標を設定し、達成状況を可視化すべき。
(3) ODA評価手法に関する提言
ア 政策レベルODA評価と開発協力大綱の結びつき強化
1)大綱との関係性をより意識して評価テーマの選定を行うこと、2)大綱見直しの是非や検討項目を洗い出せるよう、ODA評価レビューの実施のタイミングを考慮すること、3)大綱の特に重点政策については、ODA評価でも成果の達成状況を確認すること、4)大綱の「実施上の原則」や「実施体制」に関する内容に照らして評価の視点を改定することが重要。
イ 評価結果を導くプロセスの明示
評価業務のプロセスと結果の記述の仕方は様々で、明確な記述のない報告書も多い。考慮すべき要素ごとにレーティングをし、重みを付け、総合判断をする、などの手順と結果を評価報告書に記述できれば、評価結果の透明性が高まる。