2022年度外務省ODA評価結果
トルコ国別評価
評価主任 | 林 薫 文教大学国際学部教授 |
アドバイザー | 間 寧 アジア経済研究所地域研究センター主任研究員 |
コンサルタント | 一般財団法人国際開発機構 |
評価対象期間 | 2017年度~2021年度 |
評価実施期間 | 2022年4月~2023年2月 |
現地調査国 | トルコ |
評価の背景・対象・目的
トルコは、アジア、中東及びヨーロッパの結節点に位置し、地政学的重要性が極めて高く、地域の平和と安定、繁栄の鍵を握る大国である。他方で、経済発展に伴い、都市環境の改善や地域間の経済格差の緩和、高いインフレなどに対処し、持続的な経済成長を遂げることが課題となっている。
本評価は、過去5年間(2017~2021年度)の日本のトルコに対する政府開発援助(ODA)政策及び同政策に基づく支援を評価し、今後の我が国の対トルコ援助政策の立案や実施のための提言や教訓を得ることを目的として実施した。また、評価結果を公表し、国民への説明責任を果たすことも目的とした。
評価結果のまとめ
● 開発の視点からの評価
(1) 政策の妥当性
日本の対トルコ支援政策はトルコの開発政策やニーズと整合性が高く、開発協力大綱(2015)および国際的な優先課題と整合している。さらに、日本の対トルコ支援政策は、トルコの主要ドナーである欧州連合(EU)及び世界銀行が掲げる支援方針と共通性がある。また、日本は、防災分野において比較優位性を活かして支援を実施し、成果を上げている。
以上より、政策の妥当性は、極めて高い。
(評価結果:極めて高い)
(2) 結果の有効性
プロセスの適切性で後述するとおり、技術協力協定締結交渉の影響で、計画されていた事業の一部が評価期間中には実施されなかった。政策目標実現のためのインプットが一部叶わなかったことになるが、その点についてはプロセスの適切性で評価することとし、結果の有効性の評価では、実施された案件の結果の有効性のみについて評価を行うこととした。
経済を支える強靭な社会基盤づくり、シリア難民対策への支援に関しては、アウトプット・アウトカムが確認され、とくに上下水道などのインフラ分野では大きなインパクトが発現している。また防災分野においても、日本とトルコの長年の協力に基づき、協力終了後もトルコ側での独自の展開が見られ、波及効果が顕著であった。さらにTIKAや過去の技術協力事業の実施機関との協力のもと、第三国研修が実施され、開発パートナーとしての連携を深めることができた。民間セクターとの連携強化については、ニーズとの不適合やCOVID-19などの影響により具体的な効果は一部にとどまるが、両国間の人材のつながりやビジネスネットワークの開拓が進んだ案件もあり、今後の展開が期待される。
以上より、結果の有効性は、高い。
(評価結果:高い)
(3) プロセスの適切性
対トルコ国別開発協力方針の策定プロセスでは、日本政府関係機関とトルコ政府、実施機関などとのコミュニケーションを経て草案が作成され、承認された。遅延が生じた有償事業は期間延長などの対応が講じられた。政策実施には、防災分野での多様な日本関係者との連携が確認され、中小企業支援では多国間ドナーとの連携による効果も産み出されていた。
他方、技術協力協定締結には、日本側関係者が尽力するなか、日・トルコ間の交渉、手続きの遅延に加え、トルコ側での承認プロセスにも時間を要する結果となった。その間、実施保留となった技術協力事業が複数確認され、目標達成に必要とされる成果の発現がなかったことは「政策の妥当性」、「結果の有効性」の確保に影響を及ぼした。また、広報活動のさらなる促進に対する意見が日本側・トルコ側双方の複数の関係者から聞かれた。
以上より、プロセスの適切性は、一部課題がある。
(評価結果:一部課題がある)
(注)レーティング: 極めて高い/高い/一部課題がある/低い
● 外交の視点からの評価
(1)外交的な重要性
トルコは、地政学上重要な地域大国であり、NATO加盟国として地域の安全保障において重要な役割を果たすとともに、欧米、ロシア、中東、アジア、アフリカへの多角的な外交を積極的に展開している。このようなトルコとの友好関係を維持することは、日本の外交戦略上重要である。
(2)外交的な波及効果
トルコへの開発協力は、親日家を醸成し、二国間関係を強化している。また、上下水道整備、シリア難民と受入れコミュニティの支援などにより、日本のプレゼンスを示すことに貢献している。JICA帰国研修員による、とくに防災教育分野などでの帰国後の活発な活動は、日本への理解・関心を深めることにもつながっている。
評価結果に基づく提言
(1) 防災関連協力の継続
比較優位性のある当分野の協力を継続して進めるべきである。
(2) 気候変動対策関連の協力の強化
日本の比較優位のある分野を選んで気候変動対策関連の協力を進めていくことが望まれる。
(3) 人的交流(本邦研修)の促進
人的交流の機会を増やすことは、長期的な友好関係の維持にも寄与すると考えられ、引き続き推進していくべきである。
(4) トルコとの三角協力プログラムの連携拡大・促進
TIKA及びその他トルコ政府機関との連携も含め、トルコとの協調によるさらなる三角協力プログラムの拡大・促進が望まれる。
(5) 現地での広報活動の強化
SNSの利用、プレス関係者を対象にした視察ツアーなどが行われているが、これらをさらに効率的、効果的に活用し、広報活動を強化することが望まれる。
(6) 開発協力方針の改定時期の再考
対トルコ共和国国別開発協力方針の改定は、トルコの第12次開発計画の発表を待って行うことが望ましい。
(7) JICA現地事務所の専門性強化に向けた方法の検討
現地事務所の専門性を更に高めるための方法を検討し、円滑なコミュニケーションが継続できるようにすることが望まれる。

ブルサ防災館の津波防災ビデオ(マルマラ地域における地震・津波防災及び防災教育プロジェクトで作成)