ODA評価年次報告書2023 | 外務省

ODA評価年次報告書2023

2022年度外務省ODA評価結果

「平成28年度対キューバ無償資金協力(経済社会開発計画)」の評価

(評価報告書全文へのリンク)new window

評価主任 勝間 靖
早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授
コンサルタント (株)グローバル・グループ21ジャパン
評価実施期間 2022年6月~2023年1月
現地調査国 キューバ

評価の背景・対象・目的

本評価は、外務省が実施した「平成28 年度対キューバ無償資金協力(経済社会開発計画)」(供与額:10.5 億円)を対象にプロジェクトレベルの評価を行い、評価結果から今後のODA の立案や実施のための提言・教訓を導き出し、また、国民への説明責任を果たすことを主な目的として実施された。評価対象事業は日本製の廃棄物収集設備(廃棄物収集車100台、交換部品及び整備機材)を供与することにより、ハバナ市における廃棄物収集能力を維持・改善し、もって同国の衛生環境改善を通じた経済社会開発及び日本企業の海外展開の支援に寄与することを目的に実施された。

評価結果のまとめ

(1) 計画の妥当性

本案件は、ハバナ市の廃棄物管理のニーズと極めて高い整合性があり、環境・環境保全分野を重視する日本の対キューバ経済協力にも合致した。キューバの国際収支をめぐる状況の改善に資する支援を行うことによりキューバの国際社会への復帰を後押しする意義は高く、日本人キューバ移住120周年や日キューバ外交関係樹立90周年などの機会を捉えた、時宜を得た援助であった。本案件の実施体制は、外務省の無償資金協力(経済社会開発計画)の標準実施体制及び業務フローに整合していた。機材仕様の決定や交換部品の計画にはJICAによる技術協力の経験が活用された。研修、スペイン語マニュアルの提供、整備用機材の配備及び通常より多い交換部品の供給等により、廃棄物収集車を適切に運用、維持・管理する能力と体制が確保された。本案件の計画プロセスでは調達代理業務契約締結まで8か月の時間を要したが、それ以外は標準的なフローに沿って適切に遂行された。
(評価結果:高い)

(2) 結果の有効性

競争入札による価格圧縮により計画を上回る台数の廃棄物収集車が供与され、ハバナ市の廃棄物収集・運搬に活用されている。タイヤ等の不足により一時的に稼働できない車両があったほか、交換部品がなく稼働できないままの車両が一部に残されるが、収集車によるゴミ収集量は飛躍的に増加し、ハバナ市の廃棄物収集と衛生環境改善についての事業効果が見られる。ハバナ市政500周年に合わせて実施されたこと、日章旗が描かれた収集車が連日のように同市内を走り回ることで市民に広く認識されていることにより、外交的効果は非常に高い。キューバのビジネス環境が厳しいことから、日本企業の海外展開支援への寄与は確認できていない。米国の対キューバ政策への対応が調達スケジュールに影響したが、標準的な実施体制・業務フローに沿って適切に実施された。JICS、在キューバ日本国大使館に加えJICAも含めた日本側と実施機関(DPSC)との間で良好な連絡・調整が維持され、フォローアップは適切に行われている。
(評価結果:高い)

(注)レーティング:極めて高い/高い/一部課題がある/低い

評価結果に基づく提言・教訓

<提言>

(1) 交換部品の調達による機材の継続的な運用

交換部品の不足が本事業の効果の継続的な発現を妨げている。キューバ政府による交換部品の調達には大きな制約があるため、日本政府がキューバに対して新たな無償資金協力(経済社会開発計画)を実施する場合には、本案件で調達された機材に必要とされる交換部品をその内容に含めるなどして、継続的な効果発現を促すことを検討すべきである。

(2) 廃棄物減量と新最終処分場の確保についての周辺国の経験を踏まえた検討

ハバナ市では新規処分場の確保が喫緊の課題である。キューバがその現実的な解決策を検討するにあたり、周辺国の様々な取組から学び、類似機関や専門家とネットワークを形成することには大きな意義がある。周辺国での技術協力の知見があり、キューバにおいても都市廃棄物管理への協力を重視しているJICAが主導して都市廃棄物管理についての地域ワークショップ等を開催し、三角協力等を通じてキューバが周辺国の経験から学ぶことが考えられる。

(3) キューバの国際収支をめぐる状況の改善に資する支援の検討

日本の国益の観点からは、キューバの国際社会への復帰を後押しするため、キューバが債務を返済することが重要である。そのためにはキューバにおける国際収支をめぐる状況を改善する必要があり、短期的にはコメなどの食糧援助の実施が、中期的には、本案件のように、キューバ国民の生活改善には不可欠であるが、経済制裁や外貨不足のために海外から購入できない機材の供与等が考えられる。短期的及び中期的な視点から、バランスよく支援することが重要であろう。

<教訓>

(1) 継続的な技術協力との相乗効果を狙った無償資金協力

本案件は、同じ実施機関に対して先行する継続的な技術協力があったことで、有用な情報や経験の蓄積、実施機関との信頼関係、実施機関側の日本の援助への理解など、様々な利点があり、得られた情報を計画及び実施段階で活用することで、円滑に実施し、事業効果を高めることができた。無償資金協力では、実施機関を同じくする先行技術協力との連携を積極的に検討し、相乗効果を狙うべきである。

(2) 交換部品の必要性の確認

相手国政府の事情により交換部品を適時に調達するのが難しい場合、本案件で実施したように、機材本体の供与と同時に、交換部品を手厚く調達することが考えられる。他方、機材の運用程度や運用環境により、交換部品の消耗が通常より激しい状況があり得ることから、交換部品を適時に調達するのが難しい場合は、その状況を十分把握して交換部品の消耗速度について現実的な見通しを立てたうえで、可能な限りの交換部品を合わせて調達する必要がある。

(3) 日常生活に不可欠な援助による外交的な波及効果

本案件の廃棄物収集車は、そのオレンジ色の目立つ車体に日章旗が描かれ、毎日のようにハバナ市内を走り回っている。ハバナ市政500周年に合わせたこの援助には、テレビ、ラジオ、新聞等で報道された。市民の日常生活に欠かせない重要な機材を日本が援助したことは、ハバナ市民に広く知れ渡り、高く評価されている。よって、無償資金協力において大きな外交的波及効果を得るためには、日常生活に不可欠な機材や住民の目に触れる機会の多い機材を援助することが重要である。

 

廃棄物収集車の写真。

廃棄物収集車

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