2022年度外務省ODA評価結果
タジキスタン国別評価
評価主任 | 佐藤 寛 日本貿易振興機構(ジェトロ) アジア経済研究所 研究推進部 上席主任調査研究員 |
アドバイザー | 塚田 俊三 立命館アジア太平洋大学 アジア太平洋学部 客員教授 |
コンサルタント | 株式会社アジア共同設計コンサルタント |
評価対象期間 | 2017年度~2021年度 |
評価実施期間 | 2022年5月~2023年2月 |
現地調査国 | タジキスタン |
評価の背景・対象・目的
タジキスタンは、中国、アフガニスタン、ウズベキスタン、キルギスと国境を接し、ヨーロッパと中国とを結ぶ東西の中間、ロシアとパキスタンを結ぶ南北の中間に位置しており、地政学的に重要な国である。同国の安定的な成長・発展は、地域の安定と繁栄に資するのみならず、世界の平和と発展にとっても重要である。本評価は、過去5年間(2017年度~2021年度)の日本の対タジキスタン政府開発援助(ODA)政策を評価し、今後の対タジキスタンODA政策の立案や実施のための提言や教訓を得ること、評価結果を公表することで、国民への説明責任を果たすことを主な目的とする。
評価結果のまとめ
日本の対タジキスタンODAは、ODA予算及び利用可能な援助スキームが限られている中で、無償案件と技術協力とを組合せて開発課題に取り組むなど、様々な工夫によって最大限の成果を上げるべく努力しており、効率的なODAの活用がなされていると評価する。
● 開発の視点からの評価
(1) 政策の妥当性
ほぼ全ての検証項目で高い妥当性が確認されており、政策の妥当性については高い。
(評価結果:高い)
(2) 結果の有効性
終了が確認された案件ではアウトプットがほぼ確認されたが、運輸や保健分野ではアウトカムが想定通り出現していない案件があった。また、国際機関連携無償案件では、アウトプットが確認できない案件やアウトカムの記載が報告書にない案件があったことから、結果の有効性には一部課題がある。
(評価結果:一部課題がある)
(3) プロセスの適切性
援助政策策定プロセスにおいては、適切な政策の策定が行われていた。援助実施プロセスについては、国際機関連携無償案件の報告書を通じたモニタリングなどに改善の余地はある。タジキスタンではドナー間調整が定期的に行われており、日本も積極的に活動している。タジキスタン政府の意思決定や承認に時間がかかることが案件形成や実施に影響していることは課題ではあるが、日本国大使館やJICAタジキスタン事務所では予備的な対処がとられている。上述の理由から、援助実施プロセスの適切性は高い。
(評価結果:高い)
(注)レーティング: 極めて高い/高い/一部課題がある/低い
● 外交の視点からの評価
(1)外交的な重要性
ア タジキスタンを支援する意義と重要性
日本との直接的な交流が少ないタジキスタンであるが、国際社会の安全保障の不安定要因であるアフガニスタンと国境を接する同国の安定は、中央アジア地域、ひいては日本を含む世界平和と安全に寄与する。近日、ロシアのウクライナ侵攻を受けて動揺する中央アジアにおいて、独自の外交政策を模索しているタジキスタンが政治・経済的に安定することは、アジア・ユーラシア大陸の安全保障の面からも重要である。このため、日本のODAを通してタジキスタンの政治・経済・社会的な安定を促すことは、「自由で開かれた中央アジア」を志向する日本にとって、外交的に重要である。
イ 対タジキスタンODAの二国間関係の強化における重要性
草の根・人間の安全保障無償などの実施を通して、タジキスタンにおける日本のODAに関する認知度は高く、日本の援助に対する印象はよい。また、2018年にラフモン大統領が訪日した際に署名された共同声明において、ラフモン大統領は、ODAの枠組みで行われてきた日本の支援に謝意を示すなど、ODAが日本とタジキスタンとの二国間関係の強化において重要なツールとなっている。
(2)外交的な波及効果
ア 日本を含む世界の平和と安全への貢献
国連開発計画(UNDP)や国連薬物犯罪事務所(UNODC)への国際機関連携無償案件の実施を通して、アフガニスタン-タジキスタン国境で麻薬取引が摘発されるなどの効果が表れており、タジキスタン及び周辺国の平和・安定に寄与し、ひいては日本の平和・安定に資している。
イ 日本とタジキスタンとの良好な関係維持への貢献
無償資金協力「人材育成奨学計画」に参加した卒業生が、国政の中枢である大統領府のアドバイザーや労働・移民・雇用大臣に昇格するなど、国づくりの中心的な役割を担っていく若手行政官が日本との関係の橋渡しになることで、両国の良好な関係が維持されていくことが期待される。
ウ 国際社会への日本のプレゼンス強化への貢献
日本は、タジキスタンの水分野への支援や、タジキスタンが主導する水分野の国際会議の場で、タジキスタンと共に取り組む姿勢を表明しており、国際社会での日本のプレゼンスの強化が期待される。
評価結果に基づく提言・教訓
<提言>
(1) 国際機関連携無償案件におけるモニタリングの強化
国際機関連携無償案件の国際機関によるモニタリング状況を確認する在タジキスタン日本国大使館、JICAタジキスタン事務所、及び本邦の担当部署は、報告書のタイムリーな受領と管理体制を向上させることを提言する。タジキスタンでは国際機関連携の無償案件が多く、実施組織が多岐にわたっている。ドナーとして日本が実施機関との協議などを通して、報告書に記載されるべき最低限必要な内容について統一することを提言する。報告内容が明確になることは、結果的に、案件のモニタリングが容易になるだけでなく、類似案件を客観的に比較することが可能になるなどの利点も期待される。このことから、国際機関連携無償案件で提出される報告書において記載内容の改善を提言する。
(2) 保健分野における日本の案件と保健システム改革との相互補完性
在タジキスタン日本国大使館、JICA タジキスタン事務所は、タジキスタン政府保健社会保護省や他ドナーと調整しながら、日本のリファラルシステムの導入を視野にいれた支援やアプローチについて、相互補完性の視点からタジキスタンの保健システム改革における位置付けを常に明確にしておくことを提言する。
<教訓>
他国における支援にも適用しうる事項として、以下の「教訓」が得られた。
(1) 異なる援助スキームの組み合わせ
(2) 国際機関連携無償案件の活用戦略
(3) パイロットプロジェクトの再現可能性
(4) 被支援国のキャパシティに合致したインフラの導入

ハトロン州クショニオン病院にて