ODAとは? ODA改革

ODA大綱に関する公聴会(大阪)議事録

ODA大綱に関する公聴会(大阪)
日時:7月20日(日) 14:00~17:00
場所:pia NPO・大会議室


(司会) 「ODA大綱に関する公聴会・大阪」を始めさせていただきます。司会の関西国際交流団体協議会・有田さん、お願いします。
(有田) 写真ただいまから「ODA大綱に関する公聴会」を始めさせていただきます。皆様、本日はご参加くださいましてどうもありがとうございます。私は本日の進行を務めさせていただきます関西国際交流団体協議会の有田と申します。この公聴会が実りあるものになるよう努めさせていただきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。
 最初に、この公聴会の目的ですが、現行のODA(政府開発援助)大綱は、平成4年(1992年)に閣議決定されたものです。それから10年が経過し、ODAを取り巻く国際情勢、社会状況は大きく変化していることから、ODA大綱の見直しを行うことになったものです。
 見直しにあたっては、関係省庁と調整し、またODA総合戦略会議において議論され、このほど政府原案がまとめられました。そして、実施機関、NGO、経済界などからのヒアリングや、幅広い国民の意見を聴くなど、議論を尽くし、検討を行ってから閣僚会議においてまとめられることになっています。本日は、その幅広い意見交換を行う場であるということをご確認いただきたいと思います。
 では、本日のパネリストをご紹介させていただきます。
 まず、ODA総合戦略会議委員を務めておられる草野厚さんです(拍手)。草野さんは大学卒業後、松下電器貿易で2年間の勤務を経て、東京大学大学院で国際関係論の博士課程を修了され、東京工業大学の助教授を経て、現在は慶應義塾大学総合政策学部の教授を務めておられます。
 続いて、このODA大綱の見直しの担当をされている外務省経済協力局調査計画課課長の須永和男さんです(拍手)。須永さんは外務省入省後、経済協力局技術協力課に4年半おられ、その後フィリピン日本大使館で経済協力を担当、ジュネーブ日本代表部で世界貿易機関を担当され、国際エネルギー課長などを経て、昨年1月に調査計画課長に就任され、ODA白書などを担当されています。
 まず、本日の議事進行についてご説明させていただきます。このあと、ODA大綱の政府原案について須永さんからご説明をいただきます。続いて、草野さんにはODA総合戦略会議の委員のお立場からご意見をいただきます。その後、学界、経済界、NGOの代表の3人の方からコメントをいただき、それについてお2人のパネリストとの質疑応答を行います。そして、本日ご参加の皆様方との意見交換を行うことになります。5時までの3時間、長時間ですが休憩を取らずに進めさせていただきたいと思いますので、最後までご協力いただきますようお願いいたします。また、記録の関係から、写真を撮らせていただきたいと思いますので、その点もご了承いただきたいと思います。


ODA大綱政府原案に関する説明

(有田) それでは、早速ですが、須永さん、ODA大綱の政府原案についてご説明をお願いいたします。皆様には今日は3点の資料が配付されていますが、1枚目の「政府開発援助大綱の改定について(案)」をご参照になってください。
(須永) 外務省の須永と申します。このたびは公聴会開催に際し、休日にもかかわらずたくさんの方にご来場いただきまして本当にありがとうございます。外務省からも感謝を申し上げます。
 今日はODA大綱の政府案についてご意見をお伺いすることが趣旨ですので、まず私の方から政府案の概要をご説明します。これは先々週公表し、8月8日締切ということで、今、パブリックコメントをお願いしているところです。その一環として、大阪を皮切りに、明日は東京でも同じような公聴会を開き、パブリックコメント全体を通じて出していただいた意見については、政府の考え方、あるいはその対応ぶりも全部検討し、それも併せて公表していきたいと思っています。
 それでは、内容について簡単に説明します。お手元に「政府開発援助大綱の改定について(案)」という資料があると思います。最初のページは飛ばして、次のページからの案文について説明します。
 このODA大綱の案は、大きく分けて3つの部分からなっています。最初の部分は「I.理念」、次に4ページ「II.援助実施の原則」と「III.援助政策の立案及び実施」で、これが主な3つの構成部分になっています。
 「I.理念」の部分はさらに「目的」「基本方針」「重点課題」「重点地域」の4つに分かれています。
 「1.目的」は、最初の2行にありますように「我が国ODAの目的は、国際社会の平和と発展に貢献し、これを通じて我が国の安全と繁栄の確保に資することである」です。その次からは、この中身をもう少し詳しく説明してあります。その中で述べていることは、我が国は人道的な問題や地球規模の問題、あるいは平和の構築、民主化、人権の保障といった問題について、ODAを積極的に活用し、率先して取り組む決意であるということです。「こうした取組は、ひいては各国との友好関係や人の交流の増進、国際場裡における我が国の立場の強化など我が国自身にも様々な形で利益をもたらすものである」と書いてあります。また、「資源・エネルギー、食料等を海外に大きく依存する我が国としては、ODAを通じて開発途上国の安定と発展に積極的に貢献する」と述べており、「このことは、我が国の安全と繁栄を確保し、国民の利益を増進することに深く結びついている」という表現を使っています。
 「2.基本方針」では、5つほど述べています。この「基本方針」は今の大綱にはなく、今度新たに作った項目ですが、ODAの政策の立案や個々のプロジェクトの形成、実施において、我が国政府として常に念頭に置くべき重要な事柄や考え方を5つ書いてあります。
 (1)開発途上国の自助努力支援。これは従来から我が国の援助の非常に基本的な考え方です。(2)「人間の安全保障」の視点。これは今の大綱にはないのですが、もはや政府対政府で援助をやっていただけでは個々の人間の安全や尊厳ある人生が十分確保されないため、直接、個々の人間、あるいはその人間が住んでいる地域に着目して援助をやっていくということです。(3)公共性の確保。これはジェンダーや社会的弱者の状況、あるいはODAが途上国の環境面や社会面に与える影響に十分注意を払うということです。(4)我が国の経験と知見の活用。これはある意味では我が国の顔の見える援助ということになるのかもしれませんが、我が国の有する技術、知見、人材を活用する。ODA実施にあたっては我が国の重要な政策との連携を図り、政策全般の整合性を確保する。つまり、農業政策、青少年の育成、教育政策、産業政策、貿易政策など、我が国のいろいろな政策との整合性を確保するということです。(5)国際社会における協調と連携。ここはお読みいただきたいと思います。
 「3.重点課題」では、4つ掲げています。「貧困削減」「持続的成長」「地球的規模の問題への取組」「平和の構築」です。
 特に私どもが強調したのは、「貧困削減」のところです。日本が今まで東アジアで経験してきたことを踏まえて、「貧困削減を達成するためには、開発途上国の経済が持続的に成長し、雇用が増加するとともに生活の質も改善されることが不可欠である」と書いてあります。これは今、欧米を中心に非常に活発になっている貧困削減中心のアプローチとは若干異なるものではないかと思っています。また、「平和の構築」は、ODAだけでなく、ODA以外の政策も含めて外務省でも今非常に力を入れている分野です。
 「4.重点地域」では、今の大綱と同じく「アジアは重点地域である」と書いてありますが、今の大綱と若干アジア重視の内容を変えていて、「ただし、アジア諸国の経済社会状況の多様性、援助需要の変化に十分留意しつつ、戦略的に重点化を図る」ということで、例えばアジアでもかなり経済が発展して援助需要のないところや、むしろ日本との貿易や経済関係の方が重要になっているところがありますので、そういうところにはそれなりの援助をするということだろうと思います。また、これも今の大綱にはないのですが、南西アジアや中央アジア、アジア以外の地域でアフリカ、中東、中南米、大洋州についても少しずつ記述しています。
 4ページ「II.援助実施の原則」は、過去10年間の運用の歴史もありますし、しかもこの4原則はアジア諸国を中心にかなり浸透しているため、ほとんど表現は変えていないのですが、変えたのは主に2か所です。
 1つは、2行目「開発途上国の援助需要」という言葉で、今の大綱では「開発途上国の要請」となっているところを「援助需要」に変えています。これはいわゆる「要請主義」といわれているものを見直すという趣旨です。
 それから、今の国際社会で非常に大きな話題になっている、「テロや大量破壊兵器の拡散を防止する」ということを(3)として特記しています。
 ここにいらしている方はおそらくもう読んでいる方が多いと思いますので、おさらいの意味でさっといきます。
 「III.援助政策の立案及び実施」のキーワードは、「政府全体として一体性と一貫性をもってODAを実施する」ということです。そのために、(1)では国別援助計画を充実させるということが書いてあります。しっかりした国別援助政策を作り、いろいろな省庁がそれにのっとって援助をすれば、必然的に一体性と一貫性が確保されるのではないかと考えています。次に、(2)関係府省間の連携を強化する、とありまして、その一番重要な部分は対外経済協力関係閣僚会議です。これは総理と官房長官も出て官邸主導で実施する会議ですが、これを使って一体性・一貫性を確保するということです。
 (3)は政府と実施機関の連携、(4)政策協議の強化は、開発途上国との政策協議の強化です。これは要請主義の見直しと対になっています。「途上国から要請を受ける前から政策協議を活発に行うことにより、その開発政策や援助需要を十分把握する」と書いてあります。(5)政策の決定過程・実施における現地機能の強化。今後、我が国のODAの立案、実施過程をできるだけ現地主導で実施すると書いています。現地主導であれば、現地の住民や地方自治体の方、あるいは企業の方など、現地の関係者を通じて現地の経済社会の状況を十分把握することが必要だと思っています。(6)内外の援助関係者との連携では、いろいろな方々との連携が書いてあります。
 「2.国民参加の拡大」では、人材育成、教育、情報公開と広報、というものを強化していくと書いてあります。
 「3.効果的実施のために必要な事項」では、むしろ援助が効果的、効率的、あるいは不正がないようにするための措置が4つ書いてあります。
 (1)評価の充実。評価にあたっては、外務省が自前で評価するのではなく、必ず第三者を入れて評価をする。(2)適正な手続きの確保。今、JBICでも環境ガイドラインを作っていますし、JICAでも作りつつあります。あるいは適正かつ効率的な調達を行うということです。(3)不正、腐敗の防止。これは非常に重要で、ODAについていつもいわれていることです。(4)援助関係者の安全確保。
 最後に、ODA大綱の実施状況についての透明性を高めるため、実施状況を毎年閣議に報告するODA白書で明らかにすることを明記しています。
 冒頭で言いましたとおり、今後、本日も含めていろいろなご意見をお伺いしたうえで最終案を固め、8月末には閣議決定を行いたいと考えていますので、ぜひよろしくお願い申し上げます。
(有田) どうもありがとうございました。できるだけ皆さん方からたくさんのご意見を聞く時間を持ちたいということで、説明を長くするよりはご質問があればお答えするということで今のご説明になりました。さらにお聞きになりたいときは後程ご質問を受けたいと思います。


ODA総合戦略会議のコメント

(有田) 草野さん、この原案に対して、ODA総合戦略会議でどのような議論がなされたのか、委員の立場としてどう思われているか、また、ODA総合戦略会議とはどのような役割を持つものなのかという説明も踏まえて、ご報告をお願いしたいと思います。
(草野) 慶應大学の草野です。限られた時間の中で、今ご質問の点も踏まえながらご報告をしたいと思います。
 ODA総合戦略会議は、スタートして1年2か月近くたつと思いますが、外務大臣の諮問機関で、本来は国別の援助計画を策定する役割を担っています。しかしながら、政府開発援助大綱を見直す作業が去年の秋から一つ大きな仕事としてこの戦略会議に任されることになりました。
 今、須永課長からご報告がありました政府開発援助大綱の政府原案の策定過程でODA総合戦略会議が果たした役割は、最初に、私がワーキングチームの座長を務め、今回の原案のたたき台となる論点はどういうものかを議論しました。
 それはほとんど柱書きといいますか、例えば理念のところではこういうことを入れた方がいいのではないか、それもほとんど姿形が見えないくらいに変わっているのですが、そのようなことを議論し、それを今年1月末に総合戦略会議の大きな会議の場に提出して報告をしました。
 それを踏まえて、平場で各委員の方々とこの援助大綱のたたき台となる議論をさらに行い、今度はそれを踏まえて外務省の須永さんを中心として外務省の方々がこの原案をお作りになった。さらに、それをODA総合戦略会議でたしか3回、計6時間ぐらい議論をして、今ご報告にあったような原案ができました。ですから、ODA総合戦略会議以外に、例えば政府与党やNGOの会議のプロセスでいろいろなご意見をちょうだいしてこのようなものが出来上がったということです。
 私の率直な印象としては、今のようなかなり長いプロセスでここまで来たわけですが、その間にいろいろな人の、あるいはいろいろな組織の意見を取り入れているために、先程の打ち合わせのときに須永課長から話があったように「五目やきそば」という感は否めません。しかし、関係者の一人として言わせていただければ、五目やきそばの味は結構おいしいのではないかと思っています。
 それはフォーマットを見ていただくとわかるのですが、木村尚三郎という歴史学者が、よく「いろいろなことを説明する際に、一番いいのは3つとか5つ。最大限そのぐらいで説明するのがいい」と言っています。これは時計の数字(ローマ数字)で大きく4つに分かれ、それぞれが3~5つの間で整理されています。
 旧大綱では、最後のところは15もほとんど整合性なくいろいろなことが書かれています。そういうことからすると、いろいろな意見を取り入れたわりには整理をされているような感じがします。もちろん不十分なところはあります。
 もう1つ申し上げたいのは、私の専門は政策過程論、ODA、外交、PKO、といろいろあるのですが、理論的な枠組みは政策過程論というか、日本の公共政策の実施と過程に関心があります。そういう観点からいくと、今回の大綱の一つの目玉は、現在、国民の間で非常に関心の高い公共政策の透明性と説明責任、あるいは効率性が相当前に出た書きぶりになっているのではないかということです。
 若干、須永さんからご説明がありましたが、特に後半の方で、決定と実施について、(国民参加が大前提になりますが)NGOを含めたODAの関係諸機関の連携、情報公開、評価、人材育成が包括的に書かれています。前の大綱ではその辺が飛び飛びに書かれていたために一つのメッセージとして伝わってこなかったのですが、ここが非常によかったという気がしています。
 「I.理念」のところでは、政府レベルの援助ということで今までどうしても個人の姿が見えてこなかったのですが、国際社会の大きな流れを受けて「人間の安全保障」、そして個人ということになると公平性の確保が関心事になりますが、ジェンダーの問題も含めて、「I.理念」の基本方針の部分できちんと「公平性の確保」という点が入ったのがよかったと思います。
 もう1つ、これは私の個人的な見解で、ODA総合戦略会議委員全員の意見を踏まえているわけでは全くありませんが、日本は世界銀行を含めて支援をちょうだいしてここまで経済的に発展をしてきたわけです。その間においては日本人の自助努力が非常に重要だったのですが、そのことがこのODA大綱の中に今回あらためて入ったことは非常によかったと思っています。また、それと関係があるのですが、日本がODAをスタートさせてもう50年になります。いろいろ問題はありましたが、アジアを中心にして一定の効果を上げてきたことにこの中であえて触れていることもよかったと思います。
 最後に次のようなこと申し上げたい。ODA大綱見直しの一つの理由は、日本の企業がビジネスをうまく転がすために活用したいからだという批判は時々聞こえてくるのですが、このプロセスを通じて、意外に思うほどに日本の企業やビジネスの方々から、ひともうけさせるためにODA大綱を見直せというような意見はほとんど聞こえてきませんでした。そのことが非常に印象的です。その点はあえて申し上げたいと思います。
 ODA総合戦略会議の議事録を振り返っていただいてもわかりますように、ビジネスの方々の代表もお入りになっています。にもかかわらず、そうした主張はなされなかった。そしてまた、自民党の与党からもそういう声は思ったほどは聞こえてこなかったのはどういうことなのか。私もはっきりした理由はわかりませんが、そういうことを感じています。以上です。
(有田) どうもありがとうございました。どのような議論がなされたか、あるいはこの大綱の目玉は何であるかを大変わかりやすく説明していただいたと思います。
 私自身の確認でもあるのですが、このODA大綱の10年前との違いを少しだけ整理させていただきますと、貧困削減に重点を置いていること、アジアを重点地域とすること、要請主義からニーズ主義に変わったこと。そして、形態(スキーム)が有償・無償でなく国別になったこと。その国別も要請主義に基づいたものとして総合的に取り組むということ。さらに従来の人道的見地に加えて、日本の安全と繁栄、平和の構築という方向性を明記されたというようにとらえたのですが、須永さん、それでよろしいでしょうか。
(須永) 大体いいと思います。今の大綱にない「我が国の安全と繁栄」というような表現が入っています。もう1つは「平和の構築」です。あるいは、「1.目的」にあるように、平和、民主化、人権というものをかなり重視する姿勢も入っています。
(有田) ありがとうございました。


ディスカッサントによるコメント

(有田) この公聴会では幅広い方のご意見を伺うということで、先に、学界、NGO、経済界から3人の代表の方にご意見を伺うことをお願いしています。ただいま説明のあった「政府原案」に関して、それぞれのお立場からのコメントをお願いしたいと思います。
 まずは、学界を代表して片山裕さんにお願いしたいと思います。片山さんは神戸大学大学院国際協力研究科の教授でいらっしゃいます。
(片山) コメントも含めて3点ほどご質問させていただきたいと思います。
 1番目は重点地域にかかわることです。2番目は、それとも関連するのですが、今回はソフト重視をかなり明確に打ち出してきたわけですが、これについてです。3番目が実施機関・実施体制にかかわることです。
 重点地域が、今回もアジア重視というのはたぶん妥当であろうという気はするのですが、その論拠が今回の大綱で必ずしも明確に出ていない。
 従来、一般の理解では、なぜアジアかというときには1つは資源です。日本はアジアから天然資源も含めていろいろなリソースを買っているということもあり、アジアが重視されるというのが大方の理解だったと思います。それがだんだん、近年ではアジアが日本にとって重要なマーケットであるというマーケット重視になっています。これが経済的な利益から考えたときのアジア重視の理由であることは、批判も含めてだれもが納得するところですが、それがさらっと書いてあります。
 たぶんこれを書いてしまうといろいろな批判が出てくるからだろうと思いますので、それはかまわないと思うのですが、しかしながら、先程、須永さんが言われたように、アジア地域では援助を卒業する国が出てきているわけです。それに対して日本は何ができるのか。マーケット重視というのは今でも大きいのですが、今、アジアの国々からは、従来日本が行ってきたインフラではなく、ソフト面での日本の知恵がほしいという声がかなり出てきているわけです。
 これは2番目の論点にかかわってくるのですが、それではソフト面で日本は何ができるかについて、まだ日本のODA、あるいはそれを支え、参加する我々学会もそうですが、十分な議論やノウハウができていません。ここでは「ガバナンス」や「平和構築」が出ています。また、ここには出ていませんが、例えば「地方分権」等が出ているのですが、こういうソフト面を重視するにしては、これは実施機関ともかかわってきますし、あるいは学会の責任でもあるのですが、今のODAの制度面と内容についてまだ十分議論がなされていないと思うのです。
 特にソフト面では、制度面での制約が非常に強く、学者やNGOがやろうとしてもいろいろな制約があり、結果的にはコンサルが入ってきてぱっぱっとやってしまう。そういう仕組みに今のところなっていると思うのです。ですから、NGOや学者たちが本格的にこれをやっていい案が出てくるような仕組みを、いろいろな人の知恵を集めて考えていただければというのがこの1番目と2番目にかかわることです。
 それとも関連して、実施機関で言いと、今回も一番苦しいのは、なぜ外務省がこの取りまとめをやるかということだと思います。これもよくいわれる議論ですが、JICAは今度、独立行政法人になりますが、無償についてはJICAに全部任せてしまえばいいではないか、独立の援助機関をつくった方がいいだろうという声があると思います。これは私も少し援助にかかわっていていつも感じることで、JICAにはいろいろな人材がおり、他方、外務省の援助は一つの柱でしかありませんから、皆さんお忙しくていろいろな案件を扱っていらっしゃる。それならもう少しJICAやJBICが独自にやれるようなメカニズムを作らなければ、関連省庁の連携を強めるということだけでは弱いような気がします。
 ただ、これは難しいところで、日本の外交の非常に重要なリソースがODAであるという非常に有力な議論があり、私も実はそう思っています。日本外交をこれまで支えてきたODAというものがやはりあって、外務省もこれでかなり重要な仕事をなしてきたと思います。そうであるならば、むしろそこははっきり言った方がいいのではないかという気がします。
 ただ、そうするとまた1番の地域限定というところに戻っていくのですが、今度はなぜアジア重視なのか、アフリカなどが入ってもいいのではないかという議論も出てくる。そういうことで議論が堂々巡りをしてしまうのですが、今回の大綱について言えば、まだ過渡期的な案だと思っています。
 10年前の最初の大綱は、日本にはガイドラインもフィロソフィもなしにやっているという批判があまり強かったものですから、それに対して急きょ出してきたという性格があったと思います。しかし、10年後ですので、先程草野さんがおっしゃったように、五目飯のわりには味はある。けれども、これを英語で訳して世界に出したとき、やはりわかりにくいというか、もうちょっとだなという批判が出てくると思うのです。そういう意味で、今後そういう点についてもなるべく短い期間で詰めていただければというのが、とりあえずのコメントです。
(有田) どうもありがとうございます。3人の方のコメントが終わったあとに、須永さん、草野さんからご意見をいただきたいと思います。
 続いて、NGOを代表して神田浩史さんにお願いします。神田さんは、開発、環境、社会発展のNGOが集まってアドボカシー(政策提言)活動を行うAMネットと、今年3月に関西で「世界水フォーラム」が開催されましたが、市民の立場からの参画を推進しようと結成された世界水フォーラム市民ネットワークなどで活動されています。では、神田さん、お願いします。
(神田) NGOを代表してということで紹介をいただきましたが、ご存じのとおりNGOは多様な意見がありますので、私の意見もその一つとして聞いていただきたいと思います。
 2種類の資料を用意しています。12ページにわたる大部のものがODA大綱改定(案)に対して逐次で、こういうふうに書いた方がよりいいものができるのではないかという提案の表です。それと2枚もので「ODA大綱改定に向けての意見書」ということで、私の名前を記して書いています。今日は2枚の紙を中心に話をしていきたいと思っています。
 その前にもう少し確認しておきたいことは、8月末の閣議決定は拙速すぎるということを何度も須永さんとは意見交換をさせていただきましたが、相変わらずそのように思っています。公聴会開催2か所という国内的な問題だけでなく、海外からの意見聴取はどうなっているのかということに関して意見をしたいというポイントもあります。
 後程、強調しますが、ODAの場合、あくまで主体は受け取り国の住民であるという発想に立てば、そちら側の意見はどのようにこの大綱に反映されるのか。コメントを受ける余地があるのかというのは大事な鍵であろうと思っています。そういうプロセスを踏むことはとてもできませんから、今のスケジュールでいけば、成文化し、閣議決定のあとに英訳されて海外に配付されるというかたちにしかならないのではないかと危惧しています。
 もう1つは、ODA大綱は現行では日本のODAの最高の文書ですから、これを海外に示すうえでは日本のODAの方向性をはっきり打ち出すものです。したがって、海外に対する印象で、日本のODA、あるいは日本に対する信頼醸成という意味も含めて非常に重要な文書ではないかと思います。
 そういう観点から、私は7点書いて持ってきましたが、この中でいくつか強調したいところを説明させていただきたいと思います。
 もう1点、手続き的なことで申しますと、いろいろな意見が出されてくると思いますが、8月8日までのパブリックコメントで出された意見に対して、ぜひ外務省の方で取りまとめていただいて、対応と可否の根拠も併せてホームページで掲載していただき、その後の政策立案の原本として作られていくことも大切ではないかと思います。
 それでは、7点の中で特に1、4、5、6、7が強意したい点ですので、そのあたりを説明していきたいと思います。
 まず1点目は、「国益重視」ということが先程確認されたと思いますが、私自身、国益重視のODAではなくて、ODAの基本理念としては3つ掲げるべきだと従来から意見を申し上げているところです。
 「我が国の安全と繁栄」ではなく「世界の安全と安定」が第1。第2が、「貧富の格差、自由、人権、民主主義、環境問題、ジェンダーなど普遍的な課題解決」。第3が「資源消費大国としての責務」。これは「経済大国としての責務」という表現ができるのかもしれませんが、このあたりを掲げることによって、海外、特に途上国の信頼を勝ち取るという視点が重要ではないかと思います。

 そうした観点からいいますと、重点課題としては、「貧困削減」「地球的規模の問題への取組」が重要であり、こういうことが実現していけば、平和の構築、紛争を未然に防ぐことに相当大きなインパクトをもたらすのではないか。そういう意味で、「平和の構築」というところに、ともすれば紛争地に介入することが懸念されるような文言が入り込んでいますが、そのあたりはむしろODA大綱では削除していくべきではないかと思っています。
 そして、重点地域に関して、アジアであるということがまるで了解事項のように進んでいますが、しかし現実を見ていくと、東アジアや東南アジアの一部の国々は経済成長が激しく、援助を卒業していくという中にありますから、もっと地球上で見て困窮度の高い地域を重点地域にすべきである。そのためには「最貧国の最貧地域」という立て方をしていけば、おのずとサハラ以南のアフリカや、貧困人口を多く抱える南アジアに重点が移っていくのではないかと思います。こうしたことは日本の海外からの信頼醸成という意味で非常に大事なポイントではないかと思います。
 それから、「原則」に関して、改定はあまりされていないということでしたが、あえて一番先頭に、ODAによる開発の主体は受け取り国の地域住民であることを明記すべきだと考えます。これはODAの現場をいくつも見てきて、そして受け取り国の住民の人たちと一緒に日本のODAを評価することを10年ぐらい続けてきている立場から、非常に大事なことではないかと思います。
 こうした議論は、日本が突出して行えということではありません。世界銀行をはじめとする多国間開発金融機関や国連機関等においては当然の議論として行われていることでもあります。実態としてそういう国際機関が住民主体の開発を推進できているかどうかは別ですが、少なくともお題目としてそういうことを重視することが入っています。それが抜け落ちることは、日本はあまりそういうことは重視しないととらえられる危険性があるのではないかという意味から、これをあえて原則のトップに位置するべしと提案したいところです。
 次に、政策立案に関して、草野さんからも今回、相当進展があるというご説明もありましたが、政策の立案プロセスの透明化ならびに参加の問題をもう少しきちんと明確に記述することが重要ではないかと思います。とりわけ、受け取り国の地域住民がそこにどう参画するのか、あるいはそこへの情報公開に対する明確な記述がありませんし、NGOに関しても、実施におけるパートナーということを意味する文言は入っていますが、政策立案におけるパートナーというかたちでの文言が欠落していることは非常に大きく懸念するところです。
 ちなみに、JICAやJBICの環境ガイドラインの話が須永さんからもありましたが、現在進行しているJICAの環境ガイドラインの改定、あるいはJBICの環境ガイドラインはすでに改定が終わりましたが、改定作業は非常に透明化されたプロセスで行われてきたということで、NGOの間でも、あるいは私たちの中でも評価しているところです。少なくともそういうよかれということは踏襲し、どんどん盛り込むことを制度化していくことが重要ではないかと思います。
 6番目は、大綱改定案のIIIの2にある「国民参加の拡大」という文言を改めて、旧大綱にあった「内外の理解と支持を得るための方策」に差し戻してはどうかという提案です。「国民参加の拡大」という文言自体が非常に内向きで排他的であると思います。「国民」という文言は、ODAの原資を出している納税者、あるいは郵貯や年金の資金提供者の中から1%強の人たちを排除してしまうような文言でもあります。日本社会に多く暮らしている在日外国人、滞日外国人を排除する表現であることに留意したうえで、あくまでもODAは「内外の理解と支持を得る」というこの旧大綱の文言は大事であると思います。
 そのための方策として、2つ。「情報公開は広報と必ず切り離すべし」というのが重要なポイントだと思います。受け手の側に対する情報公開も含めての「徹底した情報公開」、そして本来の意味での「開発教育」が重要です。
 大綱改定案や外務省のいろいろな文書をお見受けしていると、開発教育をODA理解促進のための教育と勘違いされている部分が相当あると思います。このあたりが日本の政府の公式文書に多く載っているということには、NGOの立場として相当違和感を持つところでもあります。
 ODA大綱にも再度そうした文言が明記されていることに関して、これはむしろ英訳されて海外から見たときに「日本政府はこんなことを開発教育ととらえているのか」と思われかねない部分でもあります。南北問題の原因の相当が私たち北の側にあるということをきちんと理解し、認識したうえで、それを解決するためにどう行動していくのかが開発教育の中では非常に重要なポイントだと思います。
 そうしたことが日本中に浸透していくことが、ひいてはODAのサポーターを国内に増やしていくことにつながっていくという意味から、この情報公開と開発教育の重要性は、あらためて訴えたい点です。
 最後の、あらゆるレベルにおける評価の充実は、改定原案の中でIIIの3とIVに充当するところでもあります。評価ということに関して、プロジェクト評価は住民参加型の評価を行うことは、NGOのみならずいろいろな国際機関でも模索されてきているところです。プロジェクトに関しては住民参加型の評価を徹底する。
 プログラム政策に関しては、現行の日本の体制でいうと、国会にODA小委員会を常設し、そこに調査機関を設けることが、行政の行っていることをチェックしていくという意味では実効的ではないかと考えます。
 その調査委員会で、NGOとも協働する、学会の方とも協働する、現地の方とも協働するというかたちで、日本のODAのプログラム、政策がどのように実現しているのかを調査したうえで国会に報告することによって、政策の透明性を担保してくれるのではないかという提案です。
 以上、7点ざっと話をしてきましたが、もちろん私どものもともとの考えであるODA大綱では不十分で基本法が必要であるということは、常々、方々で主張しているところです。これは外務省、行政府と議論をすることではないかもしれませんし、今日はODA大綱の公聴会ですので、ODA大綱改定案に即して意見をさせていただいたしだいです。
(有田) どうもありがとうございました。大変前向きに、資料まで作っていただきました。後程また時間があればご発言いただきたいと思います。
 最後に、経済界を代表して萩尾千里さんにお願いしたいと思います。萩尾さんは、社団法人関西経済同友会の常任幹事と事務局長を務めておられます。
(萩尾) ご紹介いただきました萩尾です。私は15年ほど前に、JICAの第三者評価ということでパラグアイ、ブラジルに行ってプロジェクトを評価したわけですが、そこで大変りっぱなことをやっておられることに非常に感心しました。しかし改善すべきことも多々ありました。
 その後、私はODAに特に関心を持って継続して見ているのですが、日本は多いときは150億ドル、だんとつの世界一、しかもそれが10年間も続いており、金額的にも大変貢献しているわけです。しかし、そのわりに国の内外にわたった評価がなされていないのは、やはりいろいろな面で欠陥があるからではないかと思っています。
 今回のODA大綱の理念、基本方針、原則はこういうことでいいと思いますが、問題は政策立案、実施というところで、もっとODAに日本全体がかかわっていくべきである。これは政策的、政治的、いろいろな面でのかかわりが薄いのではないか。やはり人のかかわり方が他国に比べて少ない。欧米諸国は現場でかなりの人がかかわっているにもかかわらず、日本の場合は東京で政策決定され、コンサルがかなり活躍するというかたちで、実際にはハード中心に行われているところに一つは改善すべき問題があるのではないか。しかも、従来は要請主義ということで、被援助国の要求をうのみにし、そこにコンサルが入ってしていくところに、日本の理念が伝わりにくいところがかなりあったのではないか。そういう点では、今回、要請主義からニーズということで、しかも政策協議にかなりかかわっていくことは非常に大切なことではないかと感じています。
 理念や原則など、いろいろなことが確かにここではきちんとうたわれていますが、現実には中国というこれだけの軍事大国に、二国間では最大の金額を出し続けている。しかも中国と日本との関係が必ずしもしっくりいっていない。
 援助をするなということではなくて、援助をする場合に徹底的に話し合い、日本の理念と内容がきちんと伝わるようなかたちで決定していく方向にしなければいけない。これはなにも施しをするということではありませんが、これだけの国民の金を使っていくわけですから、その趣旨がきちんと伝わらなければいけない。普遍的なものはどこの国でもやらなければいけない。しかし、国益ばかりではないのですが、国益も十分考えてやらなければならない。そういう点では、政策の立案、実施というところでもう少し人がかかわっていくことにしなければならないのではないかと思います。
 また、どちらかというとハードの方が優先されている。ソフトのウェイトが、これまでは非常に低かった。我々は太平洋人材交流センターを13年前につくりました。実際には、我々は15年前から、これを民間で、大阪でつくろうということで動き出したのですが、そのときは、民間がそんなことをできますかということで、JICAはもとより外務省のご理解はまだありませんでした。しかし、我々は非常にささやかでしたが、民間から始めました。我々のねらいは、JICAなどと連携して、できるだけ国のお金も民間の協力によって本当に途上国の血となり肉となるような協力をするということで始めたのですが、最初はそういうものに対するJICAの関心が薄く、なかなかそのプロジェクトを引き出せなかったわけです。しかし、13年もやっていくと今は大変ご理解をいただいて、本当に相手国の側に立った人材育成ができるようになっています。顔の見えない協力ということがいわれていますが、実際にもっと日本はそういうかかわり方をしていくべきだと思います。
 私たちのことで恐縮ですが、この10年間、上海政府と我々関西経済同友会が中心になり、関西上海経済会議というものを上海と大阪で交互に開いています。その中で上海政府からぜひ人材養成をしてほしいということで、同友会が丸抱えで7年前から大阪に上海政府の幹部、あるいは国有企業の幹部を呼んで3週間の研修をしています。
 最初の1週間は、彼らは大変不服そうな顔をして、我々に対して硬い表情をしています。日本人は相当がめついということで、過去のこともあり、非常に警戒感を持って1週間ぐらいは過ごします。ところが2~3週間して帰るころになると、日本人は誠意がある、街もきれいだと大変感激して、関西国際空港から帰るときには涙を流さんばかりにして帰っていく。そういうのを見ていると、我々は人材研修をしてよかったと思うわけです。
 また、向こうに行って上海政府の幹部と会って、「あなたたちの希望はもっとありませんか」ということを必ずフォローアップして聞きます。あるいは、「次は何をやりましょうか」と、直接、幹部にニーズを聞く。そういうことをしている中で、上海自体が大変理解をしてくれ、我々と非常に友好関係が深まってきています。
 ささやかなことですが、政府ベースでも同じことではないかと思います。そこに人がかかわり、心が通うところで、初めてODAが生きてくると思うわけです。したがって、私はできるだけ人がかかわるようなODAをやるべきだ。そのための大綱にも、そういうことを大きく打ち出していくべきではないかと思っています。
(有田) どうもありがとうございました。今、学界、NGO、経済界から3人の方にコメントをいただきました。
 重点地域やODA政策の立案プロセスなど共通した部分もありましたし、それぞれのお立場、経験からのご意見、ご提案があったと思います。


ディスカッサントのコメントに対するパネリストの応答

(有田) 今日はパブリックコメントを求める場ですので、すべてを回答していただくわけにはいかないとは思いますが、3人のご意見、ご提案に対して、須永さん、草野さんから、コメントがあれば簡単にお願いしたいと思います。
(須永) 片山先生の言われた、重点地域でアジア重点の根拠が不明確というのは、「1.目的」の下から2番目の段落のところがアジア重視を述べたところで、片山先生が言っていたような国際貿易の恩恵や資源・エネルギーが特にアジアなのだというつもりで書いたのですが、これが不十分ということであればさらにまた検討したいと思います。
 ソフトの面で学会が入るべきというのは、かなり個別の事項なのでまたあとで相談したいと思いますが、実施機関でJICAと外務省のデマケーションをきちんとやるべきだと思います。正直申し上げて、JICAの方が特に人的な面では確かに実力があると思います。JICA、JBICは独立行政法人化をしますので、デマケーションをきちんとしなくてはいけないと思います。
 神田さんからはいろいろなご意見を伺っていますが、「2.基本理念」の「国益重視」というのが新聞に踊っていて、私も今そう申し上げましたが、「1.目的」のところの書き方をよく読んでいただくと、私が書いた案文では、第一義的な目的は途上国の安定と発展であり、国際社会の平和と発展に貢献するということです。いわゆる日本の安定や繁栄、国民の利益については、そういうことにつながるとか、ひいては利益をもたらすとかという間接的な表現になっています。私が苦労したのは、むしろいろいろなところの意見交換を通じて、特に与党の先生方の意見が強かったのですが、もっと前面に出せという強い意見があったわけです。そこで私が申し上げていたのは、「開発途上国の発展と福祉の向上のためにやるのがODAである」という国際的に決められた定義があります。そのほかにもいくつかありますが、一番重要な定義はそこで、日本のために援助をやっていますと言うと、これはODAではなくなってしまいます。ですから、直接的に第一義的な目的が日本のためだというのは国際的な意味でも出せませんし、例えば途上国に援助をするのに、その国の人に「実は日本のためにこれをやっています」と言うと感謝もされないし評価もされない、ひいては日本の国のためにもならないということです。
 私どもは、国内から今、盛り上がっている、もう少し日本のためになるようにODAを使ってほしいという声と、国際的なODAの定義や、これが英語になって国際社会に出ていった場合の書き方や見え方にバランスを取ったつもりですが、このバランスについてはいろいろなご意見があろうかと思います。
 それから、開発の主体が地域住民というのは、この案では「人間の安全保障」という中に「個々の人間に着目する」とか「尊厳ある人生を可能にする」とし、あくまで最終目的は個々に住んでいる人間が保護されて能力強化されて尊厳ある人生を送ることですので、そう書いたつもりです。ここも異論があるかもしれません。
 それから、地域住民の参加については先程少し触れましたが、「現地機能の強化」の中で、「現地関係者を通じて、現地の経済社会状況等を十分把握する」としている「現地関係者」は、当然そこに住んでいる人などを念頭に置いた規定です。
 それから、NGOの参加は実施だけに限られているということですが、これはそういうふうに書いたつもりではないのですが、私は意図的に「援助政策の立案及び実施体制」の中にNGO、大学、地方公共団体等との連携を入れています。そういう意味では、まさに神田さんがおっしゃったような、JBICでやっている環境ガイドラインはいい例だと思いますので、そういうものを念頭に置いて書いたつもりです。
 萩尾さんからは、いろいろないいご意見をいただいてありがとうございました。ハードではなく人間のかかわりを大切にしろという点については、私どももソフト面が重要だと思っています。片山さんからもそういう意見があったわけですが、4ページの「一貫性のある援助政策の立案」の中で、「ソフト・ハード両面のバランスに留意しつつ」ということを入れています。ハードの援助も必要だという意見は正直申し上げて経済界から強いです。私は経済界も日本のODAにおいては非常に重要な主体であり、そういうところの意見も反映させる必要があると思っています。とりあえず以上です。
(有田) ありがとうございました。では、草野さん、お願いします。
(草野) 重ならない範囲で若干の感想を述べたいと思います。
 片山先生のご指摘には、私もかなり同感する部分があるのですが、ただ、それは大綱にそのまま書く問題なのかどうか。ということは、ご指摘の点は、性格をやや異にしているのではないかと思います。日本のODAが現在直面している課題という意味では全くそのとおりだろうと思います。
 ただ、例えばアジアが、卒業国が出て、ソフト中心に展開せざるをえないのではないかというご指摘がありましたが、それと同時に「2.基本方針」の(6)国際社会における強調と連携のところで、南南協力の重要性を指摘しています。これはまさにアジアの卒業国を念頭に、日本との連携をここで指摘しているという点で意味があると思っています。
 それから、外務省が取りまとめをこのODAの世界において行うのは難しいのではないかというようなおっしゃり方でした。現実の問題としてはそうなのかもしれませんが、地方省庁の再編で、特に技術協力の分野においては、各省を含めて外務省が取りまとめを法的に担保されました。したがって、実態としてそういう能力があるかどうかは別にして、外交の観点からのODAは少なくとも私個人の見解では必要ですので、外務省に頑張ってほしいと思っています。
 神田さんのご指摘は、ごもっともなところばかりですが、実はかなりの部分がよく読むとこの中に含まれているのではないかという気がしました。
 須永さんからお話がありましたが、「国益」という文言を使わなかったことについては結構バトルがありました。「国民の利益」という書きぶりが神田さんのおっしゃるイメージと完全にぴったり一致しているかわかりませんが、バランスという須永さんの説明がありましたように、「国益」という言葉をぜひ使うべきだという議論に抗して「国民の利益」という書きぶりにしたのは、変な話ですが、相当頑張ったという感じが個人的にはしています。
 それから、サブ・サハラと西アジアの話が出ましたが、「4.重点地域」で、「具体的には、アフリカは多くの後発開発途上国が存在し、紛争や深刻な開発課題を抱える中で・・・」というところは、まさにサブ・サハラを念頭に置いていると私は理解しています。
 平和構築は、実際に紛争が起きたあとのことだけ考えているのではないかというご指摘でしたが、これもよく読んでいただくと、平和構築について書かれた冒頭部分で「紛争を予防するために、上記のような貧困削減や格差の是正のためのODAを実施する」とあります。ですから、たぶん神田さんと私の意見はそれほど違いがないのではないかと勝手に考えました。
 ただ、最後の「内外の理解と支持を得るための方策として」に戻した方がいいというご指摘は一理あると思ってお聞きした次第です。まだいろいろご指摘があったと思いますが、とりあえず。
 それから、萩尾さんがおっしゃった、やはり人が大事だというのは、これも大綱全体をご覧いただくと、前の大綱に比べると人のことが相当強調して書かれているのではないかと思います。
 また、神田さんのご発言でもう1つ、現地のNGOが実施のプロセスだけでかかわりがあり、立案の段階でというのも、須永さんからご説明がありましたが、わざわざきちんと委員の方からもご指摘がありまして、5ページ目の(6)内外の援助関係者との連携で、「開発途上国をはじめとして、海外における同様の関係者とも連携を図る」というところで、NGOが立案にも参加することを担保していると理解しています。以上です。
(有田) どうもありがとうございました。また、時間があれば後程、再度質問していただければと思います。


参加者との意見交換

(司会) それでは、参加者の皆さんとの意見交換に入りたいと思います。より多くの方のご意見を伺いたいので、お一人のお話が長くならないよう、ご自分の意見を簡潔にまとめてご発言いただくようお願いします。なお、ご発言の最初にお名前と所属をご紹介いただけますでしょうか。また、ご自身の活動の紹介や持論などは控えていただきたいと思います。ご協力お願いいたします。
(内富一) ジュビリー関西ネットワークというNGOで活動している内富と申します。
 皆さんにこの写真を見ていただきたいのですが、インドネシアのコトパンジャン・ダム被害者住民を支援する会、ODAが戦後初めて海外の被害者住民から訴えられる、8400名の史上最大の原告団ということです。今、外務省、JICA、JBIC、東電設計というコンサル会社が、ダム建設によって甚大な被害を受けた、甚大な環境破壊が生じたとして訴えられています。
 なぜ冒頭にこの話をしたかと言いますと、実は旧ODA大綱は92年にできていますが、コトパンジャン・ダムのプロジェクトが推進されたのはまさに92年で、現地の住民が反対したにもかかわらず日本がこれを強行し、10年後に訴えられているという前代未聞の状況になっているわけです。
 前回のODA大綱では、人権と民主主義について配慮する、現地の不正や腐敗を助長しないようにということを明記しているにもかかわらず、こういう問題が現実に起きている。つまり、今のODA大綱の持つ実効性に対して、非常に疑問を持たざるをえないようなものではないのか。
 そうすると、10年たってODA大綱見直しを言っているわけですが、なぜ見直すのかというとき、やはりこれまでODAが援助先において引き起こした人権侵害や環境破壊に対する真摯な反省、二度とこうした問題を引き起こさないことをODA大綱に明記し、もし改定するならば、今後二度とそういう問題を引き起こさないために改定するのだということを明記すべきではないかと思います。そういうことがコトパンジャンの悲劇のような事件を二度と引き起こさないために重要ではないのか。
 外務省は、95年ごろ、コトパンジャンを人権配慮、環境配慮のモデルケースとして大宣伝していたわけですが、それが今、人権侵害、環境破壊のモデルケースとして訴えられていることについて、本当に真剣に受け止めてほしい。そして、その内容を新しいODA大綱に明記していただきたいと思います。
 もう1点、平和構築についてです。神田さんからも言われましたが、イラクで戦争が行われるとき、日本の外務省は国連での戦争協力の決議のため、安保理の非常任理事国に対して、ODAを供与していることを外交の道具として支持を迫ったとマスコミで報道されています。
 今、戦略援助であるなどといっていますし、あるいは神田さんは平和構築や平和協力は紛争地への介入ではないかと言われましたが、これでは平和協力どころか戦争協力です。アメリカが戦争するのに対して、その道具として日本のODAを使うというかたちで戦争協力のために使えるのではないかという疑念を多くのNGOが持っている。実際、PARC(パルク)を中心として意見書等々も出され、緊急記者会見も行われましたが、そういうかたちで使われるなら全く逆効果であり、もしODA大綱を改定するならば平和憲法の精神にのっとって絶対的な平和主義、あるいは戦争への協力を一切しないことを明記すべきではないかと考えます。ぜひこの点についてご確認いただきたいと思います。
(後藤裕己) 後藤と申します。目的と効果についてという縦糸と、環境と不経済と戦争、武器という横糸で説明したいと思います。
 まず目的についてですが、根本的に考え違いをなさっているのではないでしょうかというのが私の意見です。憲法には「われらは、全世界の国民が等しく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」「われらはいずれの国家も自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであって」、その他、国の責務や、「日本国民は国家の名誉にかけて全力をあげてこの崇高な目的を達成することを誓う」ときちんと書いてあります。当然、大綱もその精神にのっとり、その目的の一番中心は、全世界の国民が等しく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を保障することであるはずです。なぜこの点を無視するのでしょうか。
 第2点、これだけでは表せない新しい問題がある、1つは環境という概念です。人権、抑圧が問題にされていますが、はっきり言って大した問題ではありません。なぜなら、人類の滅亡を含む地球生態系の破壊ということがもし行われたならば、それ以上の問題がはたしてあるのでしょうか。少なくとも、滅亡するなら人間だけにしてください。
 それから、責任という問題です。改定の案文を見ますと、日本のように豊かで経済成長すれば何でも解決するようなことを書いていますが、もし日本やアメリカのように膨大な非永続的なエネルギーや膨大な資源を使った場合、地球がどうなるかは子どもでもわかる話です。これをあえて無視する、まともな神経が欠乏している日本政府が一番問題なのです。本当に援助されなければならないのは、自立して永続的範囲内で生きられるように援助されるべき日本国民であり、そのようなシステムを構築すべき日本政府です。
 もしODAが非常に重要な要素に使われる可能性があるとするならば、そのための方法を地球の市民の合意を得ながら模索していく以外に何事があるでしょうか。発展途上国、未発展国の人たちは、環境永続性や心の豊かさという面で見れば必ずしも欠乏しているとは言えず、学ぶべきはこちらにあるはずなのです。その点が抜けています。
 それから、効果と不経済について1点確認しますが、もし憲法の精神、先程の定義に従うならば、日本政府が与えている影響力は、ODAで行うことよりも、普通の政策や経済活動の中で環境に与える害などの不経済効果の方が、はるかに大きいわけです。仮にODAでどれだけそういうことを補正したとしても、トータルとしてより貧困になり、より環境破壊、生態系の破壊が起こるならば、日本政府として努力しているとはいえない。トータルとして判断し、ODA以外の政策の整合性はそういう評価のうえで行うべきものです。膨大な環境責任の裏腹が、貧困であり、戦争であり、欠乏であることをもう一度認識し、少なくとも目的の部分でも書き直すべきです。ペーパーを用意しましたが、あとで再提出させていただくかもしれません。
(大倉純子) 債務と貧困を考えるジュビリー九州の大倉と申します。今回のODA大綱見直しに関する公聴会は、東京と大阪の2か所でしか開かれないのですが、福岡は早い段階から公聴会開催を希望しているのに聞き入れられないということで、質問したいと思います。
 NGOと外務省との意見交換会が4月20日に福岡でも開かれましたが、準備の時間が2週間足らずしかなく、私たちとしては広く参加を求める広報の時間がほしかったのですが、一般の人向けには7月に福岡を含む全国4か所ほどで開かれるタウンミーティングあるいは公聴会の機会があるので、ということでした。
 私たちは意見が記録される公聴会というかたちを希望しており、そこは違いがあったのですが、外務省主催の一般市民向けの集まりが7月にあるということで準備をし、非公式には1回タウンミーティングを開くという話もきていました。しかし、時間と予算がないため福岡では開かないが、夏休みでもあるので大阪か東京にいらっしゃればどうでしょうかというご意見をいただきました。
 そのとき外務省側からは、論点は出尽くしていると思うと言われたのですが、NGOだけが税金を払っている市民の代表ではなく、いろいろな方が意見を述べる機会があるべきだと思うのです。べつに地球の裏側に来てくれと言っているわけではありません。2か月前に予約すれば1万円の航空券もありますし、無料の会場もありますし、草野さんとどなたか外務省の方が来ていただければ4万円ほどで開けます。一昨年から昨年にかけての外務省の不祥事やODAに関する不祥事などで、説明責任を果たすということを外務省はずっと言っていると思うのです。それなのに、希望しているところで公聴会を開かないのは国民参加の道を閉ざしているのではないかと思います。福岡以外にも希望しているところがあるのに、そこでも開かないと聞きました。
 92年の段階に比べ、このように意見が出るということはODAへの関心は高まっており、それは喜ぶべきだと思うのです。それなのに8月末までに決めなければいけないので時間がないというのは本末転倒だと思います。先程、片山さんからも神田さんからも、英語に訳した場合、これはどうでしょうかという意見も出ましたし、まだまだ練り直さなければいけない内容であるということだと思います。きちんと予算を取って、じっくりと、もっと多くの国民の意見を聞くようにしていただきたいと思います。
 もう1点、福岡で、今まであまりNGO活動にかかわったことがなく最近入ってきた人が、この新しい案を見て「これって援助?」と聞いたのです。援助というのは困っている人を助けるものであるのが普通の感覚だと思いますが、重点地域のところで「上記の目的に照らせば、・・・日本の安全と繁栄に大きな影響を及ぼしうるアジアは重点地域である」とあります。もしくは、福岡でも非常に議論されていますが、平和の構築ということで紛争地域にどんどん入り、自衛隊の装備や設備のためにODAのお金がよりフレキシブルに使われるのではないか。確かに平和の構築は今、テーマになっていますが、そういう議論になっていること、心配のあることにお金を回すよりも、まず今、死にかけている人、エイズや飢餓で本当に困っている人に手を差し伸べるのが援助ではないかというのが国民の素直な気持ちではないかと思います。
(川村暁雄) 神戸女学院大学で教えております川村と申します。AMネット、ODA改革ネット等に参加しています。また現在、JICAの環境ガイドライン改定委員会のメンバーにもNGOとして入っています。
 まず、これからの流れについて確認させていただきたいのですが、ODA戦略会議で議論してきた案件はすでに外務省の手に移っており、これから外務省が中心となって大綱について議論していくという理解でよろしいですね。もし外務省が中心になっていただくのなら、主として須永課長からご回答いただければと思いましたので確認させていただいたわけです。
 本題ですが、今回の援助大綱案で、個人の尊厳が一つ大きな課題として位置づけられたのは非常にいいことだと思います。個人の尊厳が世界平和の基本である、それが日本の安定にもつながっていくというロジックが示されたのは、非常にいいことだと思います。なぜなら、これまでの日本の援助はしばしばこれに反していたからです。コトパンジャンのケースのように、住民が自分たちの尊厳が守られていないと思っていた。そういう個別のプロジェクトの段階だけではなく、国全体が個人の尊厳を必ずしも守るようなかたちになっていなかったスハルト政権あるいはマルコス政権、最近の例ではフジモリ大統領の政権に多額の支援がされていた。それがひいては日本の援助に対する不信につながっていると思います。
 そういう意味でも、この点が位置づけられることは重要だと思います。ただし、具体的にそれがどのように活かされているか。確かに、公正という点が基本的な方針の中に入ったのはいいことだと思います。これは個人の尊厳の非常に重要な部分です。ただし、もう1つ重要な自己決定の原則、すなわち参加の部分が、この基本方針の中に入るべきではないかと思います。この意味では神田さんの意見に賛成するところです。
 もう1つ、個人の尊厳という視点から考えたとき、少し弱い、あるいは抜けていると思ったのは、実際に個人の尊厳を守る社会制度をどうやってつくっていくのか、それに対してもっと積極的に支援するという視点を入れるべきではないのかということです。民主主義、人権といったことについては、援助を行うかどうかという前提として、配慮すべきこととしては挙げられていますが、それを強化する項目としては十分触れられていないところが多々見られると思います。これは、またあとで書面で具体的に提案させていただきますが、これも基本方針を含めてしっかり位置づけるべきではないかと思います。
 その関連で言うならば、「法の支配」という言葉が、全体を通じてほとんど出てきません。国際社会の中では、個人の尊厳をいかに守るのか、社会発展をどのように実現するのかということでは、「民主主義」「人権」「法の支配」の3つはほぼ3点セットで出てきます。これは理由がないことではなく、民主主義は場合によっては多数の圧政になりかねないところもあり、まさに民族問題が起きているところでは民主的に選ばれた政府が少数民族を弾圧しているわけで、それを防ぐためにも人権や権力を客観的にする法の支配が重要だということがあるわけです。全体を通じてそれをもう少ししっかり書き込まれた方がいいのではないかと思います。
 もう1つ、個人の尊厳の侵害を避けるということをもう少ししっかり書いていただく方がいいと思います。II.援助実施の原則のところに、「(4)開発途上国における民主化の促進、・・・基本的人権及び自由の保障状況に十分注意を払う」と書かれていますが、単に「十分注意を払う」ではなく、「援助がそれを悪化させないように確保する」というような、何らかの書き込みがいると思うのです。それをしておかなければ、最終的にODA大綱が実施されたかどうかの報告書の中で、何を書けばいいのかがはっきりしなくなると思うのです。単に「十分注意を払う」だけでは、「私たちは注意を払いました」と書くだけで終わります。しかし、きちんと「確保する」と書いておけば、悪化したかどうか、どういう影響を与えたかを報告書にもう少し具体的に書かなければならなくなり、実効性が高まると思うのです。内富さんの指摘とも重なりますが、ODA大綱はやはり実効性を持たなければいけない。そのためにも、それを図れるような文言にしておかなければいけないと考えております。
 以上、原則の中での参加の位置づけ、個人の尊厳を守る社会制度への支援に具体的に触れること、とりわけ法の支配に触れること、個人の尊厳の侵害を避けるための具体的な文言を入れること、この3点をぜひお願いしたいと思います。
(小野了代) 「7月20日ODA大綱改定公聴会政策提言」と書いてある紙をご覧ください。これは現地で活動する京都のNGO13団体の会合、京都NGO協議会でまとめたものです。私は外務省とのODA政策協議会で、京都NGO協議会を代表してコーディネーターを務めさせていただいており、単独団体としては社団法人日本国際民間協力会(NICCO)に参加しています。
 私が申し上げたいことは、今日皆さんがおっしゃっていることと比べると非常に各論に近いことです。大綱というのは本質に関することであり、先程からお聞きしておりましたことの結論は、現地の途上国の人たちの人権や生活、地域の平和、そして、今、後藤さんがフロアから指摘されたように、地球の生態系の持続性という問題が現場であるから、この大綱を見直し、それに合うように文言を変えて、抽象的であれ一つのまとまったチャーターを作ろうとしておられることから考えると各論ですが、現場で働くNGOが困っていることを取っ払い、それを大綱にも見直しとして入れることを考えていただきたく、問題点を3つNGOなりに書き上げました。
 1番は、緊急援助や復興支援といった活動の中で、緊急の方はジャパンプラットフォームからある程度速やかに動けるような体制にはなっているのですが、復興の方は、日本NGO支援無償資金協力においても1000万円を超えると財務省協議が入り、本当に長い時間がかかるのです。外務省の方も大変ご苦労しておられることを、私自身もプロジェクトを提案しながらともに感じているのですが、現地の政府ですら持っていないだろうと思うようなデータを、それも地域で出せとなると、最低6か月はかかります。その間、私たちは1年間ぐらい待っていなければならない。しかし、現場はどんどん動いているため、自己資金をどんどんつぎ込みながら解決していくわけですから、NGOの体力消耗が甚だしいのです。
 今回、ジャパンプラットフォームでイラクに対する準備が始まりましたが、手を挙げたNGOはほとんどありません。アフガニスタンで体力を消耗してしまったからです。次に手を挙げることは自分たちのNGOの壊滅を意味しているのです。繰り返し討議しましたが、対応できませんでした。
 問題の提言の方で、財務省協議の上限を3000万円ぐらいにしていただいて、外務省とNGOが話し合う中で復興の大きなお金が出てくるように速やかな動きをしていただかないと、日本のNGOは本当に誠心誠意頑張ってやる人たちの集まりなのですが、欧米のNGOに比べると人的にも財政的にもゾウとアリのような関係です。日本のNGOの体力をどう補強していくのかという視点をブレイクダウンし、政策面で具体的にしていただきたいと思います。
 2番は、平和構築という考え方で、NGOは特に貧困の削減と環境保全というところで頑張っていると思うのですが、危険度が高いとなかなか公的資金が出てこないのです。JICAももちろんそうですし、郵政省もそうです。ほかの財団がそれに見習いますので、ほとんどNGOを支援するお金は出ず、結局自己資金に逆戻りしてくるということです。
 それから、費目間移動が非常に厳しい。現場はどんどん動いており、プロポーザルを3か月、半年、長い場合は1年前に出しているにもかかわらず、動いている現場に対して費目間移動しようと思っても可能ではない。外務省の場合は20%認めてくれていますが、JICAは0であり、非常に使いにくく、結局残って返す。しかし足らない分は自己負担するということが往々にしてあります。
 それから、やはりソフト面への資金の流れが順調になるよう考えていただきたい。特に憲法との兼ね合いがあってなかなかできないとおっしゃいますが、日本国内においてNGOで働いている人たちの人件費と管理費の一部をプロジェクトの中で認めていただかなければ、公的資金をいただいても結局50:50でNGOが負担しているという現実があれば、国際的に競争するなどということは念頭に置くことすらできません。よい仕事につなげようと思ってもなかなかできない。
 そういう問題点、そして問題点を解決する方向も1から3まで述べてあります。
 その中でもう1つ付け加えたいことは、手続きの簡素化です。申請書、報告書、中間報告など、多大なペーパーを課せられますが、大型のプロジェクトを実行するにあたってNGOが事務局で専従職員を雇うことはとてもできませんので、手続きの簡略化をお願いしたいと思います。
 それから、大綱の中で環境保全の面があまり強くうたわれていないと思いますので、生物多様性を持続させるための環境問題を、一言強くうたっていただきたいと思います。
(有田) どうもありがとうございました。いったんここで区切り、須永さんからコメントをいただきたいと思います。まず、大綱の決定までの今後のプロセスについてと地方開催の件についてお答えいただけますでしょうか。
(須永) 今後、パブリックコメントが8月8日まで、それから外務省が中心となって政府で全閣僚が出て閣議決定をします。これは一人でも反対すると決定できない制度ですが、そのプロセスをやります。その過程で、総合戦略会議、あるいは与党の国会議員の方にも相談すると思います。また、その前に対外経済関係閣僚会議も開かなければいけません。基本的には、総合戦略会議の役割は引き続き重要ですが、役所中心、中でも外務省中心になると思います。
 それから、福岡の方は、いろいろご迷惑をおかけしましたが、私が行きます。
(大倉純子) それはNGO主催というかたちになるわけでしょう。やはりそれは外務省主催で、外務省がいろいろな人たちに広報してやっていただきたいのですが。
(須永) あれからいろいろやったのですが、内部の事情ですが平田が長期入院していまして・・・。行くという決断はしましたので、ぜひこれで受けていただきたい。そういう議論が始まると、また1週間、2週間過ぎてしまいますので。
(大倉純子) それで福岡に来て済むという問題ではないと思うのですが。
(須永) それでは行かない方がよろしいですか。それならそれでもかまいませんが。
(大倉純子) そういう問題ではないと思いませんか。公聴会を2か所でしかしない、しかもそのための予算を取っていない。
(須永) 現地でどういう方を集めていただいても結構ですし、そこでの記録は全部公開していただいてもいいのですが。
(大倉純子) 須永さん個人の好意、熱意は感じているのですが、須永さん一人が何かをかぶればいいという問題ではないと思うのです。外務省の方に持ち帰っていただき、これは公聴会の開催場所を増やすべきで、そのためには8月閣議決定はどう考えても無理ですから延ばしてでも・・・。最初から2か所しかやるつもりがなかったのだとしか思えません。予算も取っていなかった、時間も考えていなかった。ODA大綱見直しについて、3月14日の対外経済協力関係閣僚会議でも、12月の外務省の発表でも、「広く国民的議論を十分に尽くしつつ検討を行っており」と書いてあるのです。しかし、地方の人間はやはり納得できない。
(須永) 公聴会を増やせという一般的な質問であれば、この間、東京でNGOの方との定期協議があった際にも説明しましたが、直接こういうかたちでの意見交換はできないかもしれませんが、パブリックコメントで、手紙、ファックス、メールでいつでも意見をいただき、対応も全部付けて公開します。また、九州の方には電話でもいつでもお話ししますからと申し上げているつもりで、さらに加えて、私は個人的に行きます、どなたにでもお会いします、記録は全部公開していただいて結構ですとまで言っているのですが。
(大倉純子) ホームページでは、「いただいたご意見に対して個別の回答はいたしませんが」となっていますが。
(須永) 個人の手紙やメールに一つ一つ回答するのではなく、ご意見をまとめて論点を整理して回答するということです。
(大倉純子) それが神田さんの言っていることと同じなのですね。私は須永さんを怒らせるつもりでこんなことを言っているのではないのですが。
(須永) 怒ってはいませんが、驚いて。私は個人的な日程も全部調整したうえで九州に行くとお伝えしたのに・・・。
(大倉純子) 須永さんが個人的にかぶる問題ではないということです。
(須永) 個人的にできることはいくらでもしますが、個人的にといっても私は課長ですから、課長としての権限と能力の範囲でできることは主管課長としてやりますが。
(後藤裕己) 国の最高責任者が責任を取るべきだ。
(須永) 私も真摯にやっていますから、どなるのはやめてください。この公聴会全体の質が下がると思います。それは参加者全体にとっても悪影響があると思います。
 とにかく、公聴会は予算や人員の関係でできないのです。ですから課長の能力と権限でできることはやりますが、日本政府全体として公聴会は東京、大阪と決めたので、そこは動かすことはできないということでご理解いただきたい。
(大倉純子) 私たちとしては、それは非常に遺憾であるということを強く言いたかったということです。
(須永) それでは九州には行かない方がいいですか。
(大倉純子) そんなこと言ってないですよ。来てください。
(須永) 来なくていいということであれば行きませんが、私は九州に行きます。そこできわめて公聴会に近い、実質的にはほとんど公聴会と同じことをやります。ただ、会場と人集めはやっていただきたいとお願いしているわけです。
(大倉純子) 費用というより、外務省主催という名前がほしかったのです。
(須永) それは主催にしていただいていいですよ。その代わり準備はお願いします。あと、会場もつくってもらって。
(大倉純子) では、外務省主催と言ってしまっていいのですか。よければ草野さんも来てください。
(須永) こんなところで2人で議論をしてもしかたがないので、またあとで寺島さんと話をして、外務省主催でも結構ですし、共催でもいいです。共催が一番いいのではないですか。公聴会という名前を使っていただいても結構です。
(大倉純子) それはあとでゆっくりお話ししたいと思います。貴重な時間をすみませんでした。
(司会) 須永さんと草野さんには、その他のいろいろな大綱に対するご意見がありましたので、それについてコメントをお願いしたいと思います。
(須永) まず、環境破壊と人権侵害については、コタパンジャンの件もよく知っていますし、裁判の当事者ですから非常に遺憾に思っています。これも不十分だと言われればそれまでですが、公平性の確保のところに、「ODAの実施が開発途上国の環境や社会面に与える影響等に十分注意を払い、公平性の確保を図る」を加え、さらに政策の決定過程・実施における現地機能の強化のところで、「現地関係者を通じて、現地の経済社会状況等を十分把握する」とし、それを踏まえて、適正な手続きの確保ところで「環境や社会面への影響に十分配慮する手続きをとる」と、いろいろ書いております。
 地球環境が重要だというのはそのとおりだと思います。これも強調のしかたが不十分か、人によって取り方が違いますが、目的のところから「地球的規模の問題は、・・・重要な課題である」と書いてありますし、私どもは十分認識しているつもりです。また、後藤さんから指摘のあった、経済活動の影響の方が大きいということは私も本当にそうだと思います。ODAが途上国の開発や地球環境保護に果たす役割は年々小さくなり、貿易や投資の制度の影響が非常に大きいです。
 WTOの環境委員会では、国際的競争力を高めようと思えば、環境保護をしたり、環境破壊をなくしてコストを下げた方がいいという議論はずいぶんあります。WTOや外務省、環境省のホームページを見ていただければ詳細がわかると思います。ODAの世界より、貿易や投資の世界はさらに国家のエゴが出ます。お金が直接絡んでいるので交渉が非常に大変です。ODAという限られた公的資金の流れよりも、民間資金の流れの方が何十倍も大きいわけですから、はるかにいろいろな影響力があります。これはODA大綱の守備範囲ではないのですが、関心のある方はぜひお寄せいただくといいのではないかと思います。
 私はWTOをやっているときにシアトルで閣僚会議があり、NGOを担当していましてNGOの人から殴られそうになったのですが、あちらの貿易関係のNGOの人の方がはるかに敏感になっており、非常にいい議論をやっていますので、外務省では経済局がやっていますが、そちらにもぜひ話しに行っていただければと思います。
 それから、貧困、飢餓、難民、災害等の人道的問題は私どもの取り組むべき問題のトップに入れています。先程、「五目やきそば」という話がありましたように、いろいろな要素を入れましたのでどうしても一つ一つがかすんできていますが、強弱をつける際に順番が非常に重要だろうと思っています。「特に」ということでまず人道的問題を挙げ、次に地球的規模の問題、1つ置いて平和の構築などを入れているわけです。
 内富さんからは平和の構築の話がありましたが、戦争への協力をしないのは当然のことです。ODAの援助実施の原則でも、軍事的用途や国際紛争助長への使用を回避すると書いてあり、かなり厳格に運営しています。ODAの実施そのものが紛争を助長したり、軍事的用途に使われることを回避するのは今後も変わらないと思います。また、国連の決議で日本が圧力をかけたのではないかという報道は確かにあり、私は直接の担当ではないので責任のあることは言えませんが、国の基本的な政策としてアメリカを支持し、協力していろいろ国連で活動したのは、ODAだけではなく、日本の持ついろいろな影響力を使ったのだろうと思います。そこは私は否定はしません。ODAの政策の立案や実施、つまり、大綱がカバーする事項においては戦争の協力はしないことは明言できます。
 次に、民主、人権を強化するような項目を入れてほしいとありましたが、原則はむしろこういうことに違反すると援助を止めるとか、そういうことが非常に大きなメッセージなのです。中国やインドのようにあまり意識のないところもありますが、ミャンマーなどはかなり意識してやっています。それに加えて、基本方針の(1)で、「その際、平和、民主化、人権保障のための努力や経済社会の構造改革に向けた取り組みを積極的に行っている開発途上国に対しては重点的に支援を行う」と新たに入れました。民主化等に反するとODAをやめるというメッセージのほかに、こういうものを加えたということです。また、意見を伺いたいと思います。
 「法の支配」というのは抜けていますね。ご指摘をよく検討してみたいと思います。「侵害を避ける」という点についても同様に検討してみたいと思います。
 小野さんの話は、個別事項は大綱にどれぐらい反映できるかわかりませんが、以前も指摘していただいた事項ばかりですので、担当部局にもう一度伝えて、きちんとやるように少し検討してみたいと思います。
(草野) 先程、課長からご指摘がありましたように、引き続きODA総合戦略会議の重要性は変わらないのですが、この件に関してはすでに外務省が主導権を握っていますので、その限りにおいて若干感想を述べたいと思います。
 ジュビリー九州の方からお話のあった公聴会の件ですが、これは委員として、東京と大阪に限るということを議論するまでもなくそのまま了承してしまったので、公平に見てご指摘のとおり問題だろうと思います。ただ、これはもう確定していますので、須永さんの提案どおりやらざるをえないとは思いますが、反省しております。
 コトパンジャンの件に関しては、人権侵害と環境破壊に対して真摯な反省があるべきだというのは当然ですが、それを大綱そのものに真正面から書くことになると、皆さんのようなお考えだけが国民の考えのすべてではないということがあり、議論がまとまらないと思うのです。それで、非常に間接的な表現ではありますが、課長から指摘のあったようなかたちで書いていると私は理解しております。
 また、ODAの役割が限られているという話はそのとおりで、ODA総合戦略会議でもいろいろ議論があり、そのことが基本方針の我が国の経験と知見の活用のところにはっきり書いてあります。「ODAの実施にあたっては、我が国の経済・社会との関連に配慮しつつ、我が国の重要な政策との連携を図り、政策全般の整合性を確保する」。これは日本の国内政策の連携もさることながら、日本の民間貿易を含めて日本の経済活動全体を指していると私は理解しています。
 小野さんの話をお聞きして、NGOにもいろいろな考え方があるのだなと思いました。前のNGOの方からは、平和構築でODAがかかわりを持つことに対して批判的なご指摘があったように思いましたが、小野さんは、実は出たいのだけれどもいろいろ難しい問題があるというご指摘だったろうと思います。
(有田) ありがとうございます。では、引き続きご意見を伺いたいと思います。
(向井一朗) 関西NGOの運営委員の向井と申します。
 どちらかというとODA大綱の中身については非常に賛成できるのですが、実現可能性がどれぐらいあるのか。3点コメントと1点質問があります。
 まず、人間の安全保障の視点についてで、より個人に着目した人間の安全保障をこれからやっていくというのは非常に重要な取り組みだと思うのですが、今までいろいろな面で、国と国との援助がODAであるという観点から、内政不干渉ということがいくつもあり、その結果として先程のダムのような問題も起こってきていると思います。
 現地ですべての関係者を含めて調整するというお話もあったのですが、一方では、日本が世界で最大に近いODA供与国であり、その供与レベルを維持するためにかなり無理な予算消化も行われているのではないかと想像します。これからは、こういうことをきちんとできるように、勇気を持って、案件の中身ができるまでじっくり話し合いを続けていただくODAにしていただければと思います。
 あとの2点は非常に関連するのですが、立案及び実施体制の部分で、1つは関係府省間の連携ということがありますが、(1)一貫性のある援助政策の立案は非常に重要だと思いますし、政府として一体性、一貫性は非常に重要なことだと思います。しかし、(2)中段以下に「関係府省間の人事交流を含む幅広い連携を強化する」とありますが、現在、現地の大使館や経済協力局にたくさん各省庁から出向されており、その人たちが、全部とは言いませんが、ある程度自省庁の権益を重視しながら援助案件を作っているという現実もあると思うのです。一体性・一貫性のあるいい方向に向かうような連携はいいのですが、「連携を強化する」という部分だけを取って今後もそのようなことが行われることのないようにしていただければと思います。
 それから、(3)実施機関の連携では、実施機関として国際協力機構、国際協力銀行がかっこ書きで入っています。今後、技術協力が国際協力機構、円借款が国際協力銀行で実施されていくのは非常にいいことだと思うのですが、技術協力については国際協力機構はODAの技術協力の50%程度しか使っていないという現実があり、結局は各省庁の持っている実施機関がかなりの部分をやっているというあたりをどうするのか。ここで実施機関イコールJICAとJBICと言い切っていますが、理想的にはそうですが現実はどうなのか。また、「人事交流を含む両者の連携」ともありますが、例えばJICAでは、役員の7割以上がいわゆる天下りの方、本部の部長級以上は3割以上が天下りや出向だと思います。そうではない人事交流をきちんと実現していただければと思います。
 以上3点が、ODA大綱に書いてあることをきちんと実現していただければいいなという意味でのコメントです。
 最後に1点、国民参加について神田さんがおっしゃったことをもう一度強調したいと思います。
 去年のタウンミーティングで質問させていただいたのですが、うまくそちら側からコメントが返ってこなかった事項については議事録に載っていなかったのでもう一度言います。「国民」とおっしゃった中で非常に気になっていることがあります。税金を払っているけれども国民として扱われていない方がたくさんいらっしゃる。先程神田さんは1%の方とおっしゃったのですが、現実に、例えば青年海外協力隊に参加したかったが国籍条項のためにどうしても行けず、ボランティアで来たという方も何人か知っています。そういう方もODAに参加できるような仕組みづくりが重要ではないかと思います。ですから、「国民」という言葉をむしろ「市民」と使っていただきたいのですが、そのあたりをしっかり考えていただきたいと思います。
 さらに言うと、開発教育の部分ですが、ODAに対する説明を聞かれた学生のかなりの方が共通しておっしゃるのは、今のODA広報イコール開発教育という考え方の授業を聞かれて「あまりにもいいことばかり言うのでうさんくさい」と。そのような開発教育は逆にODA広報につながっていないのではないか。途上国側ではなく、現在の我々の側の国際協力のあり方の「問題点」についても教育をしていくことで、きちんとした開発教育ができていくのではないかと思います。
(馬谷憲親) AMネットの馬谷です。大綱案を読みはじめた方は、すぐに「特に、極度の貧困、飢餓、難民、災害などの・・・」という文面にあいます。これは日本政府が書いた文章ですから、隣国である朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)に対してODAとしてどういうことができるのか、どういうことをしてきたのかと考えると思います。
 私は自治体関係の労働組合にもおりますので、北朝鮮の子どもたちに対する食料援助などの取り組みをいろいろ試みたことがありますが、そのとき、ODA白書を見まして、全然出ないなと、まことに不思議に思いました。もしかすると国交がないからというような話になるのかもしれません。あるいは人権抑圧体制だからというような話があるかもしれません。しかし、人権抑圧体制に関しては、皆さん共有の意識だと思いますが、インドネシア、ミャンマーにも支援してきたことを考えると、それは関係ないだろうと思います。
 以前はどうか知りませんが、国交がないからというのは、少なくとも今出そうとされている人間の安全保障ということからいえばおかしい、関係ないのではないかと思います。大綱の中の人間の安全保障の部分は文章も非常に短いですし、あの文章を読んだだけでわかるとは思えません。できれば、目的のところなどに、国交の有無に関係なく、あるいは日本との外交関係の状況に関係なく援助を行うということをうたってほしいと思います。
 それから質問ですが、5ページの効果的実施のために必要な事項として、評価の充実ということが出されており、それは大事なことだと思いますが、ここでは「政府自身による政策評価」ということもあります。今は政策評価、施策評価といろいろよび方はありますが、市民がその結果を見るときに一番ポイントになるのはどのような政策評価表を作るかだと思います。成果指標がどのようなかたちで出ているかによって、それが判断できるということがあります。
 私はいくつかの自治体の政策評価の構築過程を少し調べて思うのですが、市民にわかるかたちの評価表を作るのは非常に困難な話ですから、パブリックコメントを「こういうシステムになりましたがどうですか」という時点だけでやるのではなく、評価表や成果指標をどのようにするかについても、折々にやってほしいと思います。それも通常のように「1か月以内に意見をお出しください」ではなく、「こういう評価表ならご理解いただけるでしょうか」という姿勢で出していただければと思います。
 最後に1つ、「国民」という言葉が問題になっていますが、私も同感です。私たちは労働組合の文書で、「我が国」という言葉をできるだけ避けるようにしています。なぜならば、組合員には日本国籍を有しない人もいるからです。「日本」と書きます。日本政府の文書で「日本」と書くのは非常に抵抗感があるようですが、「日本」と書けばいいのです。できれば、大綱でも「我が国」を「日本」と直していただけるとありがたいです。
(有田) ありがとうございました。ほかには、よろしいですか。
(石中英司) AMネットの石中と申します。1点だけに絞って質問したいと思います。
 先程、コトパンジャンの例が出ていましたように疑問点や問題点はいろいろあると思いますが、お題目を並べ、実際にどう実施して、出てきた問題をどう是正していくのかが見えてこないのです。努力する、機会をつくる、という表現はたくさんあるのですが、では具体的にどうするのか。
 企業では、PDCAサイクル、計画を立て、実施し、チェックして、もう1回やり直す、というサイクルでやっているわけですが、この中ではそれが見えてきませんし、それがされてこなかったからこういう問題が起こったのではないでしょうか。公平性という話がありましたが、では、今まではなかったのか。今までも当然それでやってこられて、しかし、なおかつコトパンジャンのような例が起きているわけです。「公平性を確保する」とここに書いただけでは実施が担保されたとはどうしても思えないのです。
 最後に提案が出ていましたが、例えば、国会に小委員会をつくり、そこで議論するようなシステムにする、というようなことをセットにして提案していただかなければ信用できないと思います。
(有田) ありがとうございました。では、今の3人のご意見に関してコメントをお願いします。
(須永) 人間の安全保障の視点でちょっと驚いたのですが、先日、「京都水会議」があり、人間の安全保障というのが日本の売りだと思って途上国の人にいろいろ話していたのですが、途上国の政府の人は軒並み反対です。文章から一時落ちそうになり、私たちは頑張ったのですが結局落ちたのです。理由は、内政に干渉するな、自国の政府の責任なのだからということで、「日本政府が政府を素通りして直接住民に援助するなどということはやらないでほしい」と言われました。
 しかしながら、政府のないところ、また政府があっても機能しないところ、失敗した国家(failed state)といわれるところなどは、人間そのものが重要だと思いますし、政府があるところでも、政府にも援助しますが、NGOや国際機関と連携して住民に援助するのはありうる話で、そこはやっていかなければいけないと思います。
 人事交流の話は、昨年12月に自民党のODA改革の提言があり、その強い要望で入ったのです。援助庁をつくるのが適当でないならば、せめて各省庁が人事交流をやれば一体性、一貫性が出るのではないかということですが、ご指摘のような点は確かにあるかもしれません。私もフィリピン大使館でいろいろな省庁の人と一緒にODAをやっていましたが、各省庁の出身者も無意識のうちに自分の省庁のことに関心がいきがちになりますので、それは十分注意しなければいけません。これはむしろ運用面のことだと思いますが、いわゆる悪しき人事交流にならないような方策を取る必要があると思います。
 開発教育については、川村さんからも指摘いただいて、川村さんには昔から言われていたのでそれなりに工夫して書いたつもりですが不十分かもしれません。もう少しご指摘を踏まえて考えさせてください。
 国家と関係なくという点は、北朝鮮は、今、一切ODAをやっていません。現行のODA大綱のどこに根拠を求めるかというと原則のところになると思いますが、大量破壊兵器の脅威や人権の問題もあり、やっていないです。北朝鮮に対するODAの政治的抵抗は非常に強いです。食料援助はやっていますが、これもODAではない扱いにしています。そこについては政治レベルで議論していただければいいと思います。
 評価の充実はそのとおりで、国別援助計画なども評価しなければいけないと思います。きちんと評価できるような国別援助計画にするという動きが総合戦略会議でもありますので、ODAのプランニングとプログラミングそのものを政策評価に堪えるものにしなければいけないという認識を持っています。
 「我が国」ということでは、私が最初に書いた原案では「日本」としたのですが、いろいろ政府を出る間に議論があり、「我が国」になってしまいました。記録に残ると私は怒られるかもしれませんが結構です。
 それから、ODAの政策の構成が今の大綱に比べて2倍ぐらいになりましたが、それでもまだ短いですね。これを踏まえて今度は中期政策を見直します。今の中期政策は50~60ページの紙ですから、相当具体的に大綱の実効性を確保するようなことを書く必要があると思っています。さらに中期政策の下位に位置するものとして国別援助政策があり、さらに個々の援助のプロジェクトや来年の予算策定をやることになります。したがって、中期政策、国別援助計画が一体となって階層をなし、それに具体性を持たせて、いろいろな省庁や実施機関の人が必ずそれを守って実施する。今はそれしか言えないと思いますが、そこは我々がやらなければいけないと思っています。
(有田) ありがとうございます。草野さん、お願いします。
(草野) 須永課長から1つお答えがなかった国民参加という点に関して、税金を払っていない人が参加できるような仕組みづくりは重要な指摘だと思いますので、工夫していただきたいと私からもお願いします。
 「我が国」というのも、ODA総合戦略会議の委員の間では、もう「我が国」という時代ではないだろうという話だったのです。ところが英訳にすると「JAPAN」になるのでそれでいいのではないかという話になり、うやむやになってしまったという経緯があるのですが、私は個人的には「日本」でいいと思います。
 ODA広報イコール、日本のODAはいいことをやってきたというので、うさんくさいというご指摘がありましたが、確かに基本的に日本のODAはいいことをやってきた、しかし失敗もあった、まちがいもあったという立場からしても気恥ずかしいという広報ビデオもあります。たとえば、APICが作ったVTRを見ても、どう考えてもちょっとおかしい(いいところばかり紹介していて)といつも言っていますが、これはやはり考えなければいけないなと思っています。
 それから、コトパンジャンの話とも関係がありますが、国会で小委員会をつくって、ODAの議論をというお話がありました。それができないまでも、参議院が先行しましたが、国会が、決算行政監視委員会を去年から非常に充実させ、各閣僚を呼んで積極的にやっているので、そういう場を活用する方法もあるでしょう。また、政府には申し訳ない言い方になりますが、情報はできるだけ公開してもらうということが大前提になるのですが、ODAは相手国があるので情報が出せません、というケースが非常に多くあるわけです。
 日本の公共事業が談合を含めてこれだけ問題になっていますが、そういうことが海外でも行われていないとは限らないという仮説は成り立つのではないかと思うのです。私自身の反省も込めて、そういう意味でも情報公開を進めなければいけない。今回の新しいODA大綱の中で、最後のページの適正な手続きの確保と不正、腐敗の防止はかなり思い切って書かれているのではないかと思います。もちろん、いいことを書いてあるが実効性はどうやって担保するのかというご指摘はそのとおりで、こういうものができた以上は、これに反することは国会でもどんどん聞いていただくことができるのではないかと思います。
(有田) ありがとうございます。大綱の中の国民参加という表現や仕組みについてはご検討いただくことにしまして、今求められている意見募集については、在日の方や外国籍の方たちでも応募はできるのですか。
(須永) 募集に国籍条項は入っていないので大丈夫だと思います。
(有田) では、ご意見のある方どうぞ。
(片山裕) 今回はNGOの意見がかなりはっきり出ているので、バランスを取るために、本当はここが一番問題なのではないかという点を提起してみたいと思います。地域にかかわることですが、目的の3行目、「これまで我が国は、アジアにおいて最初の先進国となった経験を活かし、ODAにより経済社会基盤整備や・・・」とありますが、たぶんここが一番問題なのだと思います。
 NGOの人々はこういうところに反発して、「日本の発展がモデルになるのか」「なぜアジアなのか」。あるいは貧困の削減でも、須永さんがおっしゃった、持続的な経済発展が平和構築にも重要であるという考え方に、「そんなことはないだろう」「もっとアフリカなどにやるべきだ」という意見があり、そこで分かれるのだろうと思います。私は個人的にはアジア重視でいいと思うのですが、もしこう書くのならば何が問題かということが、先程、日本がソフトでどういう貢献ができるかということで舌足らずで申し上げた点なのです。
 たぶん、政府機関やJICAなど援助機関、ビジネスでも、貧困問題や平和問題はわかりやすく言うと「衣食足りて礼節を知る」という考え方だと思います。それから法の支配が重要である。次に、公的制度が重要で、政府や地方自治体をバイパスせず、いきなりNGOにいくのではなく、そういうところも育てていかなければならない。逆に言うと、NGOや市民社会を100%前面に出してしまう欧米的な考え方に違和感がある。これが政府機関やビジネスの人々の基本的な考えだと思います。
 これがもしHidden Agendaとしてあるならば、どれだけ普遍的な言葉で説明できるか努力しなければいけないと思います。日本が成功したのはこのせいかもしれないけど、これをなぜ発展途上国に適用できるのか、どの部分が適用できるのか、アジアだけなのか、アフリカでもいけるのか、ということを相当詰めなければいけない。実はみんな悩んでいるのです。私が先程申し上げたかったことは、ここを本気で考えるならば、NGO、学者、経済界の人々が本気で参加できるような制度を作らなければいけないということです。それが私が学者として一番悩んでいるところなのです。
(有田) どうもありがとうございました。行政や産業界の立場の方からのご意見も伺いたいと思います。
(木村勇) 大阪市の木村と申します。
 本日の会を金曜日に初めて知りました。今回、NGOの方がたくさん来られていますが、市民の方がなぜもっと入らないのかと思いました。会場いっぱいに市民の方が入り、一緒にODAを考えようと。去年、外務大臣が大阪に来られましたが、あのときはりっぱでした。学生さんもおられました。やはり意見が偏ってはだめだと思いますから、いろいろな意見を聞くのであれば、多くの人に宣伝し、もう少し人を集めてほしかった。外務省は東京中心でやっておられますが、地方自治体もやはり大きな力を持っているのです。ただ、市の方針として国際協力はやっていないところが多いです。ただ、国全体として国際協力が大事だというなら、もう少し地方の方、市民にも下りてきて、ここをいっぱいにするぐらいにしてほしいと思います。
(小野修) 日本国際民間協力会の小野と申します。大綱案5ページの(6)に関連した質問をさせていただきたいと思います。
 ここに「国内のNGO」という言葉があるのですが、公の財産の支出、利用を制約する日本国憲法第89条「公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない」、がかなりのブレーキになっており、NGOや大学に関しても適用され、あるいは適用される以前にそれがあるために、非常に消極的なかたちでNGOに対する支援が大きくなりえない。
 我が国の体質に比べますと途方もなく大きい欧米のNGO団体、慈善団体あるいは宗教団体などがいわば土足で日本に上がってきて、日本のNGOを押しのけるぐらいの集金力を持っています。私は憲法89条の問題をよく討議しておいていただき、例えば国会での審議等々であらためてこれを持ち出し、これに抵触するではないかという議論がそこで噴出するようなことがないようにしていただきたいと思います。
 すでに私立大学に関しては、あるスケール以上の大学には国は公金の支援を行わないということが決まりました。これまで宗教的創始者や慈善目的の団体が大学になっている形跡もあるところに対して、かなり長い間、公的援助の問題で論議されていましたが、今回はっきりそこに線が引かれ、もう援助しないことになりましたが、それが89条から出ているのであれば、同じようにNGOに関しても出るおそれがあるのではないかと思います。
(河内仲介) アフリカ日本協議会の河内です。アフリカにかかわることで、ODAについていくつかコメントを述べたいと思います。
 アジア重視ということですが、私としては少し疑問があります。アフリカの問題は決してアフリカ単独の問題ではなく、アジアはある程度うまくいった、南米もうまくいった、残る開発問題はアフリカの問題だということがG8のサミットなどでも基本的なトーンとして出てきています。もしそうであるならば、アフリカの問題はやはり世界の問題としてとらえるべきだと思います。そうとらえる以上、日本のODAがアジア重視に傾くことは必ずしもうまくないのではないかと思います。
 アフリカ開発会議はこの9月29日から3日間、東京で行われるのですが、1993年に1回目、1998年に2回目、今年が3回目です。ところが、これは決してレビュー(見直し)をしない国際会議なのです。したがって、例えばプロジェクト、プログラム、政策のレベルでの具体的な成果はなかなか出てきません。宣言文は出ますし、今回も10周年記念宣言が出ますが、それだけなのです。そんなことでいいのか。
 実際、社交辞令的に「日本の援助はありがたい」とは言うのですが、インフォーマルな場では、例えば在京アフリカ大使館の何人かは、「具体的な約束をしない会議を2回も3回も続けて何の意味があるのだ」と言います。これはイベントなのです。NGOはずっと言っていたことですが、政府関係者もそう思っているということを非常に感じています。
 同じようなことで、国連のアナン事務総長が提唱した世界エイズ結核マラリア基金の会合が7月16日にパリでありました。去年、バルセロナでエイズの会議が開かれたとき、日本から行った人はショックを受けたわけです。これまで日本は、エイズの分野では予防に重点を置いてやってきたが、世界ではそんなことはいっていない。やはり感染者が治療に応じることが予防の第一歩だということがごくごく普通に語られている。
 それから1年たっているのですが、多国間のもの(マルチ)にお金を出すことにいまだに日本は非常に非常に渋っている。その基金については治療にお金が出るため、NGOが申請してそこにお金が流れる。非常に有効なものであるにもかかわらず、なかなかお金を出そうとしないということで、16日に日本政府は非常に苦境に立たされたと聞いています。
 そういう点で、日本のODAの動きは国際的な動きから少しずれているのではないかと思っています。
(有田) ありがとうございました。萩尾さん、神田さん、これまでのご意見を聞かれての追加発言などがありましたら、コメントをお願いします。
(萩尾千里) 戦略性と国益ということですが、なにもそれを突出して言うのではなく、ODAの一般的な貧困撲滅、衛生、環境、経済成長ということをやりながら日本の特色を出していく中で、それが結果的に国益につながっていくわけです。アジア経済については、ODAも民間企業もアジアの発展のために人材育成にかなり力を尽くしてきたわけで、その結果がアジアの経済発展につながっていった。そして今、日本は非常に厳しい状況になっていますが、アジアの発展によって救われているわけです。
 ところが、ヨーロッパ諸国は植民地政策の延長線上で進んでいったため、どちらかというと貧困や衛生や環境などには力を入れたが、経済成長につながる人材育成についてはそれほど力を発揮したとは思えない。したがって、そちらの方が、アフリカにしてもなかなかテイクオフできない状況になっている。
 翻ってアジアはどんどん成果が上がり、経済成長し、結果として日本も助かってきているのです。そういう意味で、我々は人材育成という問題に日本の特色を発揮し、それが結果として国益にもつながるということなのです。
(神田浩史) お答えいただいた中でなるほどと思ったのは、須永さんから、私の提案の多くが盛り込まれているという説明があり、読み直してみると、なるほどこういう文言がそういうことを意味しているのかと理解できる部分はあるのですが、一般的に見てそうは取れないということも多いのです。
 私のようにODAマニア的にODA政策を見ている人間ですらそうであるということは、一般の方に対してやはりそういうメッセージが弱いという部分が相当ある。ODA被害はべつにコトパンジャンだけではないと思いますので、とりわけそういう方々の目から見たときに、日本のODAは何を重視するのかをもう少し直接的なわかりやすい言葉で表現する必要があると特に感じました。
 私自身、もう1回きちんと見直し、今日提出したペーパーをもっときちんと書き換えてあらためて提案しようと思いますが、せっかくアイデアとしてはいいことがたくさん盛り込まれているということがあるならば、もっともっとわかりやすく表現する必要があると感じました。
(有田) どうもありがとうございました。これで皆様方との意見交換は終わらせていただきます。ご指摘のように大変たくさんの方にお越しいただいたというわけにはいきませんが、連休のさなかにお越しいただいた皆さんはODAに対する関心があり、この大綱の見直しにご意見をお持ちの方々だったと思います。8日までパブリックコメントが求められておりますので、ぜひ積極的なご意見、ご提案を外務省にお送りいただけたらと思います。
 これで皆様方との意見交換は終わらせていただきます。後半の3人の方、ディスカッサントの3人の方のご意見、ご提案を踏まえ、まず、草野さんからご感想をお願いしたいと思います。
(草野) 神田さんのお話に、なるほどそうかなというところがないわけではありません。私は須永さんと一緒に10か月ばかりこのことに取り組んできましたので、その意味では、一般の人々がぱっと見てどこまですっと頭に入るかという視点が若干不足していたかなと思います。しかしながら、今までの役所の文章よりはよほどわかりやすいということは事実ではないかと思っています。
 いろいろな意見を聞かせていただいて、私自身こういう機会に参加することができて大変よかったと思っております。ありがとうございました。


須永課長による議論のまとめ・閉会

(有田) では須永さん、これまでのご意見を踏まえ、本日の議論のまとめとしてのご発言をお願いします。
(須永) 政府が案を出してから初めての直接の対話ですが、私もいろいろ勉強になりました。個人的には直さなければいけないところがいくつかあります。全部直せと言っている方もあるかもしれませんが(笑)。それから、福岡には行くことは決めていますので、できるだけ両方が満足するかたちで早くやりたいと思います。ODAのホームページに掲載することも当然考えますので、ぜひ早急に詰めて。こじれた原因は主に政府にあると私は思っています。できるだけ柔軟に考えますのでよろしくお願いします。
 それから、宣伝が足りなかったというのはそのとおりで、「朝日新聞」と「読売新聞」には書いてもらい、うちのホームページにも出ているのですが、動員をかけたりは一切しておらず、私もここへ来るまでだれが来るか全くわからないという状況でやっています。
 NGOの連携については、公金の支出というのもあるかもしれませんが、まずは政策面での連携をする、対応の連携をするのが第一です。89条については私も不勉強で、何かお金を出せる理屈があるのですよね。NGO支援は、今のところ予算だけは政府のODAが減っていく中で唯一増えていますので、今後も増やしていくつもりでいます。
 アフリカについては、今の大綱にはないアフリカの部分を書いたのですが、東京でNGO以外の方、特に政治家あるいはほかの省庁の人たちと議論すると、アジアよりアフリカを重視すると大綱でうたうと、ODA予算は10分の1ぐらいに減らされる可能性があります。ここは明確に申し上げておきます。
 ただ、私もサミットの担当ですし、去年南アでやったWSSDも担当しており、直接行っていろいろな話をしていますので、世界全体がアフリカの貧困問題に焦点を当てているのはよくわかっています。日本としてもそういう問題にはきちんと対応しなければいけない。まさにTICADはその一つの手段だと思っていますのでやっていきたいと思っていますが、大綱でアジア重視というのはやはり外せないと思っています。TICAD3について、レビューがないというのは担当部局に伝えておきます。
 エイズ基金には2億円出しているのですが、今回、アメリカが10億ドル出すといっています。ヨーロッパ全体で同じぐらい出すそうですが、10億ドルというと1200億円ぐらいですね。ODA予算は去年10%減り、今年5%減り、またさらに減るのでしょうが、とても出せないです。しかも、専門的なことを言うと、国際機関への拠出金というかたちになりますので、これはもう本当に出せない、どこを振ってもお金は出ないという背景があり、パリの会合では「ない袖は振れない」ということで何も新しい約束はしていないという状況です。むしろ私どもはこういう場を利用して、あるいは官邸や省庁にも働きかけて問題意識を高め、エイズ関係の予算が増えるようにしていかなければいけないと思っています。これは外務省だけの力でできるかどうかわかりませんが。
 それから、萩尾さんのお話はまさにそのとおりで、片山さんの学術的な話は、まさにそういうものを解明していただきたいと思っていますが、私どもも力を尽くす必要があると思います。
 神田さんのおっしゃった、文章がわかりにくいということについては、そろそろ最後のODA戦略会議の議論が公開されると思うのですが、私が全部書いたわけではないのですが主管課長として責任があると思ったのは、悪文である、わかりにくい、という批判が続出しまして、ある新聞記者から「女性がメイクアップをして舞台に出てくるような努力をしなければだめだ」と言われたので、私はこういう話をしたのです。
 それはわかっていますが、各省庁でいろいろな人がいろいろなことを言いますから、「アイシャドウを塗る人が10人も20人もいるという状態を考えてください。口紅を上で10人、下で10人、別の人が塗ったりするんですよ」と。化け物みたいな顔になりますよね。そういう中で苦労して、なんとか日本語として読めそうな文章を作ったということで、その認識は持っています。
 これからどれぐらい改正できるか、各省庁とは一応合意した案ですのでなかなか大変ですが、いくつかご指摘いただいた点については再検討し、いろいろな省庁と協議をします。最低限でももっとわかりやすい解説の本を作りたいと思っていますし、文章についてももう少し推敲してみたいと思っております。
 今日は本当に貴重なご意見をありがとうございました(拍手)。
(有田) どうもありがとうございました。須永さんも草野さんも人間性がうかがえるというか、本当にご自分の言葉で皆さんのご真摯に丁寧にお答えいただいたのではないかと思います。
 ちょうど1年前の7月20日、大阪で川口外務大臣と語るタウンミーティングがありました。そのとき、川口大臣は、「援助というのは将来に夢が持てるようにお手伝いをすることである」とおっしゃいました。このたびのODA大綱の改革は、まさにその援助の理念や哲学を決めるものであると思います。21世紀という新しい時代にふさわしい大綱になるように、そして、ご指摘のあった、世界の人々との信頼関係を築けるようなものになるよう期待したいと思います。
 参加者の皆さん、ディスカッサントの皆さん、パネリストの皆さん、今日は本当にありがとうございました。貴重な意見をぜひ反映させていただきたいと思います(拍手)。
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