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無償資金協力実施適正会議(平成15年度第6回会合)議事録

 12月11日、無償資金協力実施適正会議が開催されたところ、概要以下の通り(出席者別添1議題別添2)。

1.無償資金協力課からの説明と質疑応答

(1) イラク等

 無償資金協力課より、対イラク支援の最新状況について説明すると共に、イラクにおける日本人外交官殺害事件やアフガニスタンにおけるUNHCR職員殺害事件などに触れつつ、ポスト・コンフリクトの地域における治安の問題と支援の難しさについて述べた。これに対して委員より、20数年前に自身も途上国の現場で仲間を失う経験をしており、使命感に燃える現場と、勇気を持って止める本部の間の葛藤については、共感するものがあるとの発言があった。

(2) コスト問題

 無償資金協力課より、無償資金協力における学校案件及び地下水案件のコスト問題の現状について資料(別添3)を用いて説明した。主なやりとりは以下の通り。

(委員) 良い方向性を打ち出されていると考えるが、これは実際にいつ頃から実施される指針なのか。
(無償資金協力課) 既に日々の業務において、このような指針を出来る限り反映させるよう努力している。
(委員) 今後基本設計調査を出すときにはこの指針を活用するということになるのか。
(無償資金協力課) それはあり得る。最近は多くの案件で予備調査団を出しており、その際にこのコストの問題に触れ、先方と協議するようにしている。
(委員) これらコストの話は、予備調査団を送って説明することも勿論重要だが、大使館などが日々先方政府とやりとりをする中で共通理解を醸成していくべきものではないのか。
(無償資金協力課) 然り。但し大使館によっては人員が少なく、先方政府との共通理解の醸成に必ずしも十分な時間を割くことが出来ない場合も多いので、予備調査団などの機会を通じて大使館の活動を補足することが重要であると考える。
(委員) このコストの問題は重要であり、これまでも何度か個別の案件をきっかけに議論されてきた。今回初めてトピックとして扱ったが、これで終わりではなく、今後も折を見て議論を重ねていければと考える。

2.国際協力機構(JICA)からの説明

 JICAより、コンサルタント締結状況等について説明があった。主なやりとりは以下の通り。

(委員) コンサルタントの締結状況を見ていると、経験豊富な大手コンサルタントが数多く締結しているように見受けられる。確かに経験のあるコンサルタントの方がクレディビリティは高いと思うが、一方でオリジナリティのある比較的小さなコンサルタントに対しても、門戸を開いておくべきではないか。
(JICA) 現状では、上位20社が全体の8割を占めており、20社で殆どの契約を取っている。一方で門戸を広くするべきだという意見は大いにあり、JICAとしても、共同企業体のような形式を認めるなどして、中小コンサルタントが参入し、成長する余地を十分残すよう配慮している。また、例えば施設を建設する基本設計調査の場合、設計には相当の技術力が必要であり、そこには中小コンサルタントにとって高い壁があるが、開発調査等、上流部分、プランニングの部分については係る中小コンサルタントにも活躍の場が大いにある。

3.12月閣議請議予定案件に係る説明と質疑応答

 無償資金協力課より、国庫債務負担行為、詳細設計及び留学生無償について制度の概略説明があると共に、無償資金協力課より12月閣議請議案件の説明がなされた。主なやりとりは以下の通り。

(委員) JICAの長期研修生制度と留学生支援無償との違いは何か。また、国費留学生との違いは何か。
(JICA) JICAの長期研修生制度では、技協プロジェクトに関わりのある者を招へいする傾向があるほか、主に理科系の人材を招へいしている。留学生支援無償において招へいされるのは、主に開発計画、開発経済等に携わるいわば文科系の人材である。また、JICAの長期研修生制度と留学生支援無償が組織推薦の制度である一方、国費留学生は個人推薦の制度であると言うことが出来る。
(委員) 感染症対策案件について、無償資金協力課とJICAやUNICEFとの連携が良いという印象があるが、具体的にどのような連携が行われているのか。また、感染症対策には世界的に多くの資金が投入されていると思うが、どのようにドナー間の調整が行われているのか。次回会合にて説明してほしい。
(委員) 非常に小さな国に支援を行っているようだが、この支援を行う理由は何か。この国は、一人あたりGNPも決して低くないのではないか。
(無償資金協力課) 予算が削減される中で、選択と集中という原則はあるが、ある国に対する支援を突然完全に止めるということは難しく、また外交上適当ではない。投入量の加減を行うことで選択と集中を実現するという方向性にある。また、プロジェクトの優良性が判断の第一歩であり、その国に対する投入量は、必ずしも初めに額ありきではなく、このようなプロジェクトの積み上げの結果として出てくる。この国は伝統的に親日的であり、国際社会においても日本に支持的なスタンスを採ることが多いほか、日本向けの海産物が良く採れるなど、漁業においても密接な関係にあり、このような意味で日本にとっては重要な国であると言える。また、開発調査も入っており、このプロジェクト自体が十分な時間をかけて調査を行った優良案件であるということもある。一人あたりGNPについては、海外からの送金も多いことから高めの数値が出ているが、国内で生活している人々の生活水準は決して高くはなく、GNPの数値が現状を表しているとは言い難いと思う。
(JICA) この案件は、他ドナーが諦めていた難事業であり、わが国の技術を活かすという意味でも価値のある案件だと考えている。

4.議事録の公表と次回会合について

 過去の議事録の公表について議論し、まず第7回会合分をホームページに掲載することで合意した。第1回から第6回までの会合と今次会合の議事録は、順次準備して掲載することとした。最後に、第9回会合は平成16年2月12日(木)に霞ヶ関庁舎にて行うこととした。




別添1


出席者

I.無償資金協力実施適正会議委員
1.大野 泉 政策研究大学院大学教授
2.小川 英治 一橋大学大学院教授
3.敷田 稔 アジア刑政財団理事長・元名古屋高検検事長
4.西川 和行 財団法人 公会計研究協会会長・元会計検査院事務総長
5.星野 昌子 日本NPOセンター代表理事


II.無償資金協力課
6.山田 彰 経済協力局無償資金協力課長
7.松井 正人 経済協力局無償資金協力課地域第一班長
8.田村 良作 経済協力局無償資金協力課業務班長


III.国際協力機構(JICA)
9.松浦 正三 無償資金協力部長




別添2


無償資金協力実施適正会議
(12月11日12:00~14:00)議題


場所:大門ビル611号室


  1. 報告事項(無償資金協力課)
    ・イラクに対する支援について
    ・コスト問題について

  2. コンサルタント契約状況、入札実施状況(JICA)

  3. 一般プロジェクト無償実施予定案件の説明及び質疑応答(無償資金協力課)
    ・国庫債務負担行為と詳細設計について(説明)

  4. 無償資金協力実施適正会議の報告(提言を含む)の取りまとめについて




コスト削減問題
-地下水開発案件-


1.地下水開発の考え方

(1) 「水不足の解消」、「婦女子の水汲み労働からの解放」そして「ギニアウオーム等の感染症の防止」を目的。単に水を供給するのではなく、深く掘ることによりWHOの基準をクリアした「クリーン(安全)な水」を「安定的」に供給。
(2) 「クリーンな水」の供与+掘削方法及び井戸建設の施工方法についての技術移転
→将来は自国にて井戸を掘ることが出来る人材育成。
(3) 一括請負方式(井戸の成功本数を確保)→被援助国からの信頼は高い。
*他ドナーは出来高方式(不成功の井戸もカウント)を採用しているところが多い。両方式による井戸の建設費を同じベースで比較すること自体が、そもそも誤りである。

2.これまでのコスト削減実施状況

(1) 無償による地下水開発案件のコストが高い最大の要因→「クリーンな水}の安定的供給及び一括請負方式にある。よって、スワジランド及びウガンダの両国における基本設計調査(13年度)には、試行的に出来高方式での実施を念頭に調査を行い、コストの低減を検討した。

(2) 被援助国の実状に合わせた協力
(イ)ボリビア、ホンジュラス、エクアドル、ドミニカ
 これまでの技術移転の成果により、自国の能力にて井戸建設が出来るようになった国→掘削機等の機材供与+日本の技術者より機材の取扱方を指導(ソフトコンポーネント)し、コストの低減を図る。

3.今後の対応方針(検討の方向性)

(1) 現行の一括請負方式→出来高方式(国、地域、水利地質状況を考慮し一部試行)→コスト削減

(2) 要請→予備調査団派遣(日本のコストが高い理由(一括請け負う方式、「クリーンな水」の安定的供給)、今後は「従来の一括請負方式に加えて出来高方式(国、地域、水利地質状況を考慮)+クリーンな水」で行うことを説明)→先方政府の意向を確認。
(在外公館又はJICA事務所を通じ、先方政府の意向確認を行う予定)

「クリーンな水」でなくとも単に「水」(安価)の供給を強く望んだ場合は、一般無償では実施しない→草の根無償、セクターノンプロで対応するが、NGOが居ない乃至は技術がない場合は、他のドナーに要請するよう指導。

(3) 被援助国が自国の人材にて掘削を行えるように人材育成→技術移転の強化。

<参考>

一括請負方式(ランプサム方式)

概要 「特定本数の成功井戸を確実に供与する」という内容の契約。施工を行う業者は確実に決められた本数を成功させるまで掘削する。但し、業者はある程度の失敗本数(成功率は通常7-80%(地域によって異なる))を考慮する必要がある。
120本の井戸を供与する場合(成功率を60%)とすると、
業者契約 120本の成功井戸と80本の失敗井戸の計200本の積算を基に契約。
・業者が200本掘削し110本成功→不足分の10本は自己負担
・業者が180本掘削し120本成功→20本分業者の利益
<長所>被援助国に確実な供与本数を提示可。
<短所>業者がリスクを負う。よってリスク回避のためリスク分を入札時に上乗せ。


出来高方式(B/Q方式)

概要 所定の工事数量に対し、支払いを行う内容の契約。成功不成功に関わらず、決められた本数(失敗井戸も含む)または掘削距離とする。成功率は積算に際しては考慮するが、実施に際しては確定成功数の概念はない。
50本の井戸または8,000 mと契約。
・50本の井戸(成功30本失敗20本)、7,000m→終了
・35本の井戸(成功25本失敗10本)、8,000m→終了
<長所>業者のリスク無し。リスクの上乗せを行わない。
<短所>被援助国に確実な供与本数の提示不可。





コスト削減問題
-学校建設案件-


1.学校建設の考え方

(1) 自然災害に対する安全性と施設自体の耐久性、持続性が必須の条件→児童・生徒の安全確保。

(2) 自然災害での耐久性に優れている及び長期耐用年数(30-50年)を評価→「日本の顔」をアピール

(3) 施工が困難な軟弱地盤等での学校建設→現地下請け業者への技術移転→自国で施工可能な人材養成

(4) 多数の学校建設の要請に対して、所定の期限内で確実に実施。

2.これまでのコスト削減実施状況

(1) JICAによるコスト削減のための審査が強化され、大幅にコストダウンとなってきている。
 コスト削減の例として、

フィリピン H10年 73,004円/m2→H15年 48,530円
ベトナム H9年 52,500円/m2→H15年 45,900円
ギニア H10年 59,400円/m2→H14年 46,800円
マリ H9年 77,900円/m2→H13年 67,900円
南アフリカ H10年 65,900円/m2→H15年 42,700円


(2) 被援助国の実状に合わせた協力

(イ) ネパール
 日本側が建設資材を調達し、施工管理は日本の設計会社が行いつつ、建設工事はネパール側の父兄等地元関係者に委ねられる。この方式によりコストの低減を図る。
(ロ) アフガニスタン、ザンビア、ラオス
 基本設計調査時に日本の設計会社が計画・設計の下、現地建設業者による試験施工を実施。コストの低減を図るためのデータ収集。
(ハ) ベトナム(コストは高くとも質を望む)
 豪雨による洪水で日本が建設した学校以外は大半が崩壊し、日本の学校はベトナム国民から高い評価を受ける。ベトナム政府は、日本の仕様を同国の学校建設基準に採択。

3.今後の対応方針(検討の方向性)

(イ) 被援助国より要請→予備調査団派遣→日本のコストが高い理由を明確に説明
→先方政府の意向確認(質か量か)
(在外公館又はJICA事務所を通じ、先方政府の意向確認を行う予定。)
  • 短期間で「量」を希望する国→「草の根」での対応は困難であるので、一般無償で対応する。
  • 期間を限定せず量を希望する国→草の根無償乃至セクターノンプロ無償で要請するように指導。 原則一般無償での学校建設は行わない。
  • 質を希望する国→一般無償で対応し、原則として草の根無償での実施は控えるが、自 然災害の影響が無い乃至は少ない地域において草の根無償を実施することも可能。
  • 但し、アフリカ仏語圏等NGOが少なく、草の根による学校建設が出来ない国 にお いては、自然災害等の特殊工法を必要としない場合、日本の設計会社の下、現地下請 け業者が建設する方式(CM方式)により現地仕様に近い工法で建設を行い、コスト 削減を図ることも検討する。
(ロ) JICAによるコスト削減努力は継続するが、無償資金協力の副次的効果である 技術移転に基本的な部分で支障が生じないように配慮(耐震、耐風仕様等及び日本人技 術者による技術移転に支障のない適切な範囲)。
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