ODAとは? ODA改革

無償資金協力実施適正会議(平成15年度第5回会合)議事要旨

 10月16日、無償資金協力実施適正会議が開催されたところ、概要以下の通り(出席者別添1議題別添2)。

1.無償資金協力課からの説明

(1) 対イラク復興支援策(10月15日発表)について
 10月15日に発表された我が国の対イラク復興支援策及びこれまで我が国が実施してきた対イラク支援の具体的案件について説明。今後の対イラク支援の財源については、2003年-04年の無償資金協力予算から相当額を振り向けることは確実であり、これによって他の国に対する援助額が減少することは残念ながら避けられない。被援助国からのニーズが多い中で、イラクやアフガニスタンのような新規のニーズにどう対応していくかは無償資金協力にとって大きな問題である。

(2) JICA環境社会配慮ガイドライン改定委員会の提言/無償資金協力審査ガイドライン(仮称)の制定
 10月10日公表されたJICAの環境社会配慮ガイドライン改訂委員会の提言(環境社会配慮ガイドラインの案文を含む)及び今後のJICAのガイドライン策定に向けての動きを説明。これに関連し、外務省としても無償資金協力案件審査ガイドラインを策定する必要があると判断し、無償資金協力課で作業を開始したところである旨説明。

2.上記1.を受けての質疑応答・意見。

(委員) イラク支援により他の途上国への援助がどうなってしまうのかという懸念があり、イラク支援を具体的に推し進めるにあたってはこうした懸念についても同時に配慮されるべきである。
(外務省) 我が国の対イラク支援と他の国への支援との関係については、予算が限られている中で難しい対応を迫られる。最近のODAのあり方として、「選択と集中」という表現がよく使われるが、援助が「集中」される国はいいとしても「集中」からはずれる国をどうするのかについても考える必要がある。ちなみに、先般のTICADIIIにおいて、アフリカ諸国より、日本がこれまで対アフリカ援助を誠実に行ってきたことを評価する声が多く聞かれた。
(委員) 環境ガイドラインの策定が無償の案件選定過程にどういった影響を及ぼすことになるのか。
(外務省) 現在の無償資金協力案件選定過程においても環境社会配慮ガイドライン提言委員会の考え方は既に踏まえられている。なお、無償の案件として環境に重大な影響を及ぼす可能性のある案件はそれほど多くはないが、被援助国の能力の問題もあり、案件の適正執行と柔軟・迅速な執行との間でバランスを取ることは必ずしも容易ではない。

3.次に、JICAより以下の点につき説明があった。

(1)本年2月以降のとりまとめ閣議の一般無償案件の進捗状況(落札状況含む)

(2)10月閣議請議案件の調査に関するコンサルタント選定結果

4.今後実施予定の一般無償案件について外務省より説明し、その後質疑応答があった。

(外務省) 今次閣議請議案件は、教育、医療、インフラ、水等多岐に亘っている。その中に、過去の円借款案件のリハビリを無償により支援するという案件があるが、こうした案件については、過去に円借款でやったのであれば引き続き円借款でやれば良いのではという考えもあるが、額が小さいのであれば無償で実施する方が機動的であるという意見もある。
 また、医療機材案件については、一般に、持続的なメンテナンスが可能かどうか、また、技術を持っている先方政府のカウンターパートが異動してしまった場合にノウハウが引き継がれるかどうかといった点についてきちんと精査している。
(委員) 例えば小学校案件については、一般無償にこだわるのではなく他のスキームの活用等も積極的に考えていくべきではないか。
(外務省) 小学校や水案件についてはいわゆるコスト問題が提起されてきている。しかし、例えばベトナムにおいては、日本の小学校案件というのは高く評価されており、日本のODAによる小学校案件の仕様がベトナムのスタンダードとなっている。いずれにせよ、今後は、平屋の小学校等特に高い技術を必要としないようなものは草の根・人間の安全保障無償で実施し、技術的に特段の理由がある場合には日本の一般無償で行うといった仕切りをしていくことを検討している。
(委員) 水産無償について、当該被援助国における開発のプライオリティを反映したものとなっているのか。
(外務省) 水産無償については、日本の水産資源を確保するという目的があるという特殊性はあるが、相手国のニーズはきちんと踏まえた上で実施されている。ただ、水産無償についても、積極的に拡充すべしという意見と削減すべしという意見の双方がある。
(委員) 水産無償で魚市場等の施設を建設しても、水産物の流通ルートをどうするかという問題に取り組まなければ、商売として成り立たず、建物は立派でも十分に使われていないということにならないか。
(外務省) 案件の成否は商業的観点のみではなく、相手国の開発という観点からも判断されるが、流通ルート等の問題もB/Dの過程を通じて調査されることとなる。
(外務省) 水産無償の戦略性ということで補足すれば、水産無償の実施により、IWC(国際捕鯨委員会)の場などで積極的に日本の立場を支持している国もある。
(外務省) 今後とも、委員に自由に意見を述べていただき、無償資金協力のあり方を考えていきたい。

5.次に、前田官総企画官(前在バングラデシュ大参事官(経協班長))より、バングラデシュにおける現地ODAタスクフォース(以下TF)について、個人的見解をも含め以下の通り説明があった。

(1) バングラデシュでは、TFとしてとして、「バングラデシュ・モデル」と通称される組織を立ち上げている。これは、大使館、JICA、JBICの3者から構成され、5つの最重点セクター(保健、教育、農村開発、砒素汚染対策、電力)及び6つの重点セクター(運輸、通信・ICT、環境、民間セクター、NGO、災害対策)を選択し、各セクター毎に大使館員、JICA職員・専門家、JBIC職員、現地職員を組織横断的に配置し、ワーキング・グループをつくっている。例えば、教育セクターに関してはJICAの教育専門家がヘッドとなり、大使館の教育担当やJBIC職員、JOCVなどとともに一つのチームを構成している。外部との関係では、まず、現地の日本人援助関係者との間で「バングラデシュ開発援助勉強会」を月1回程度開催している。また、ドナーとの関係では、定期的に開かれるドナー会合に、TFとして一体となって参加している。更に、バングラデシュ政府との間では年二回政策協議を行っている。

(2) TFによって何が変わったのか、あるいは変わるのか、ということについては、日本の援助関係者が「一つの顔」を持って、被援助国やドナー・コミュニティに対して対応できるということが挙げられる。これは、言うは易く行うは難しであるが、大使館、JICA、JBICがそれぞれの「顔」を見せないということではなく、それぞれの「顔」を見せた上で、それが日本という「顔」の一部であることを忘れないということが重要であると考える。また、TFにより政策の一貫性がより保たれるという利点がある。それぞれのセクターの担当がチームとなって活動することにより、異動によって人が変わっても、過去の経緯や知見の蓄積が急に失われるということがなく、そのため、中長期的な政策の立案がやりやすくなる。

(3) TFと援助実施の適正化との関係については、援助実施が「適正」であるということには、様々なレベル(案件ごとのレベル、国ごとのレベル、グローバルなレベル)があり、各レベルにおいて様々な側面(計画の適正さ、実施の適正さ、政策の適正さ等)から判断する必要があると考える。従って、個々の案件としては適正であっても、当該セクターにおける適正さや、政策面での適正さは必ずしも確保されないということがあり得る。このような「合成の誤謬」をチェックするためにも、TFは重要な役割を果たし得る。

(4) TFはそれ自体が目的ではない。また、他の主要ドナーの多くは、このような現地体制の整備を完了しており、日本は漸くスタートラインに立ったに過ぎないと考えるべきである。TFはいわゆる援助の「現地化」の一環であると考えるが、今後さらに「現地化」を推し進めるにあたっては、個人的には、他の主要ドナーが行っているように、国別の年次援助額を本部が設定して、現地はその枠内で年間援助計画を策定し、本部はその計画に承認を与え、現地は承認された計画の範囲内で案件の採択・実施に権限と責任を持つ、といった権限の委譲とチェックのための枠組みが不可欠と考える。現地と本部の役割分担は、援助実施プロセスの中で、どの部分をどこで判断するのが効率的かつ適切かという観点から決定されるべきであり、個別の国に対する個々の案件の選定は、現地で判断することが効率的かつ適切と考える。これに対して本部は、ODAの全体額をどうするか、あるいはどの国にどれくらいの援助を行うかとか、グローバルないしは分野横断的な政策やイニシアティブをどのように立案するかといった判断を中心的に行うべきと考える。また、このような判断については、政府援助関係者だけでなく、幅広く議論を行って、国民の理解を得るプロセスも重要であろう。

6.上記5.を受けて、以下の通り発言・質疑応答がなされた。

(委員) 只今のTFに関する前田企画官の説明や問題意識は自分も共有するものである。
(委員) 先程の説明は個人的説明であるとのことであったが、バングラデシュ・モデルのような成功例は、個別の例として留め置かれるのではなく、外務省の政策として打ち出して行く必要があると考える。また、国別援助額の設定についての議論は、現時点では個々の案件について議論をしている適正会議のあり方にも影響を与えるものとおもわれ、今後の会合では、むしろ日本のODA重点対象国をいくつか取り上げてその国に対する援助の全体像について議論するというやり方の方がむしろ望ましいのではないか。
(委員) 自分もバングラデシュにおけるTFの話は良く耳にするが、狭いセクショナリズムにとらわれずにオールジャパンとしての考え方に基づいて援助を行っていくことが非常に大事だと感じている。バングラデシュで出来たことが他の国で出来ない理由はなく、今後こうした例が外務省全体の政策となることを期待するものである。また、TFを積極的に推し進めるにあたっては、援助額については国別に設定する等して具体的な執行の権限は現地にデレゲートとしていく必要があろう。
(委員) バングラデシュ・モデルとして立ちあげられた当初は個別の例として考えておられたのであろうが、外務省の政策として確立していく必要がある。
(外務省) TFはまだ立ち上げられたばかりであることもあって、バングラデシュの例ほど進んでいるのは他にはなかなかないと思われる。「現地化」の促進については現時点で出来ることと出来ないことがあって、現地の人を雇う等いろいろな工夫をして現地の体制を強化していくことは重要である。一方、国別年次援助額の設定については、外務省ODAだけの問題ではなく、現在の制度の中ではなかなか容易ではないというのが率直なところである。

7.最後に、適正会議の報告について議論が行われ、今回の会合から記録について、外務省ホームページ等により外部に公表していくこととすることで概ね各委員の了承が得られた。

以上




別添1


出席者

I.無償資金協力実施適正会議委員
1.大野 泉 政策研究大学院大学教授
2.小川 英治 一橋大学大学院教授
3.敷田 稔 アジア刑政財団理事長・元名古屋高検検事長
4.西川 和行 財団法人公会計研究協会会長・元会計検査院事務総長
5.星野 昌子 日本NPOセンター代表理事
6.脊戸 明子 日本外国語専門学校副校長


II.外務省
7.山田 彰 経済協力局無償資金協力課長
8.前田 徹 大臣官房総務課企画官
(前在バングラデシュ大使館参事官(経済協力班長))
9.松井 正人 経済協力局無償資金協力課地域第一班長
10.田村 良作 経済協力局無償資金協力課業務班長


III.国際協力機構
11.松浦 正三 無償資金協力部長
12.武  徹 無償資金協力部計画課課長代理




別添2


無償資金協力実施適正会議(10月16日12:00~14:00)議題


場所:大門ビル516号室


            
  1. 報告事項(外務省)
    ・イラクに対する支援について
    ・JICA環境社会配慮ガイドライン改定委員会の提言について
    ・無償資金協力審査ガイドライン(仮称)の制定について

  2. コンサルタント契約状況、入札実施状況(JICA)

  3. 一般プロジェクト無償実施予定案件の説明及び質疑応答(外務省)

  4. バングラデシュにおける現地ODAタスクフォース
    (前田企画官(前職在バングラデシュ大使館参事官)より説明。質疑応答。)

  5. 無償資金協力実施適正会議の報告(提言を含む)の取りまとめについて

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