11月27日、無償資金協力実施適正会議が開催されたところ、概要以下のとおり(出席者別添1、議題別添2)。
1.報告事項
(1) |
無償資金協力に関する最近の新聞報道等について
(外務省) |
(イ)ODAの8割が落札率99%を超えているという報道が見られるが、海外での事業におけるリスク等により応札業者が限定的になってしまうということが主な理由である。この点については入札者の拡大のため、入札における公示期間の延長、ロット分け、企業説明会の実施、入札の事前の資格審査基準緩和等の、より競争性を高めていく努力をしている。
(ロ)ラオスでのODAに関しては、1)国際会議場の使用率が低く、宴会場に使われているという指摘、2)造林センターが当初の想定ほど使われておらず、経済的に成り立っていないというもの、3)井戸の建設費用について、の3点が指摘される報道があった。最初の2点については外務省ホームページにて説明をしている。国際会議場については然るべく利用されており、造林センターについても指摘されているほど非経済的なわけではない。3点目の井戸の建設については、我が国一般無償の案件と、そうでない案件とを一概に比較しても、事業の内容・質の違いからも単純比較は困難である。他方で、我々も現地仕様の資機材を利用したコミュニティ開発支援無償スキームの導入といった取組によってコスト縮減に向けた努力も行っている。 |
(委員) |
ODAについてキャンペーンするのは良いが、誤解を生むような報道は残念である。 |
(委員) |
一般プロジェクト無償等の実施は2008年にJICAに移管されることになる予定で、それに向けた新しい作業を検討していると聞いているが、1つのプロジェクトでE/N(交換公文)を何回にも分けて結ぶのではなく、全体で1回にするとか、円借款のE/NとL/A(借款契約)の方法を参考にするところはする、等色々な工夫が出来るのではないか。 |
(外務省) |
それらについてはJICAへの移管にむけた新しい制度設計で考えていきたい。落札率に関しては、例えば国土交通省によっても近年落札率低下の取り組みが進んでいると承知しているが、一方で低価格入札による品質低下の防止等の対策にも取り組んでいると承知している。国土交通省とも意見交換しながらより良い方法を探っていくつもりである。
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(委員) |
落札率に関しては国内の議論と、海外の議論が一緒にされていることにも問題がある。ODAには国、状況により様々な制約があり、その特殊性を分かってもらう必要もある。
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(2) |
草の根・人間の安全保障外部委嘱制度説明会
(外務省) |
10月29日に草の根外部委嘱員制度についての説明をJICAの地球広場で行い、外部委嘱員として活躍していただける方を広く募集した。大学生、大学院生、NGO、コンサルタント等様々な参加者があり、総勢122名に及んだ。この制度によりNGOの方にも外務省との接点を増やして頂き、ODAをより活用出来ることとなれば良いと思う。
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(3) |
最近の主要外交案件
(外務省) |
(イ)中国との間では、10月、11月の2回にわたり日中首脳会談がもたれた。1999年以来の首相公式訪問が行われ、1998年以来の共同プレス発表が行われた。またAPECにおいて首脳、閣僚レベルでの会議が行われた。APECの閣僚会議では宣言が出された。ODAは以前と比較すると主要テーマではなくなってきている感はあり、今回の会合は自由貿易協定に関して焦点があたった。WTOドーハ・ラウンド再開に向けた取組、ボゴール目標達成のための行動計画、アジア太平洋自由貿易地域について議論がなされた。
中国に対する支援は、環境問題等の両国の直面する問題の解決に資する分野や相互理解促進等に資する分野を重視していく方針。
(ロ)また、総理はベトナムを公式訪問した。これには130名にも及ぶ経済ミッションが同行した。途上国を脱しつつあるベトナムという国とのハイレベル交流に官民合同で臨んだことは、今後の日本とアジアとの関係を象徴しているかの様なものである。首脳会談に加えて、両国の経済ミッションと両首脳が会談を行い、両国が新しい一歩を踏み出したことを示すものとなった。
(ハ)APECでは鳥インフルエンザも大きな話題として取り上げられた。インドネシアでは死者もでており、対策につき真剣に取り組んでいく必要がある。
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(委員) |
対中無償を続けていくことに対する国内の意見に対してはどう対応するつもりか。 |
(外務省) |
中国への援助をいつまで行うかという問題は国民間にも広く議論されている。中国という重要な隣国との関係を上手くマネージし、ソフトランディンさせるよう方向性を決めなければならない。12月閣議において中国に対し1案件(「酸性雨及び黄砂モニタリング・ネットワーク整備計画」)請議することになっている。 |
(委員) |
エネルギーや環境、地球規模の問題というのは二国間(バイ)ではなく多国間(マルチ)で行う方が良いのでないか。 |
(外務省) |
日中双方が資金を出し合って協力するということも考えられる。中国政府が大規模な海外援助を行っていることも考慮する必要がある。 |
(委員) |
中国のODAは、DACのガイドラインに配慮するよう働きかけなければならない。中国との共同事業等において日本がODAにどのように取り組んでいるのかを示していく必要がある。 |
(外務省) |
今のところ中国はOECD/DACのメンバーではないので、これには拘束されないが、我々は現地ベースでの援助協調の場でも中国が国際的な議論に入ってくることを期待している。現に、現地でのドナー会合にも中国は顔を出すようになってきている。
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2.コンサルタント契約状況、入札実施状況(JICA)
(JICA) |
予定価格より最低応札価格が上回る場合は業者と契約交渉を行い、予定価格の中で収まるようにしている。こういうものについては結果として落札率は100%に限りなく近いものになってしまう。また、入札者数も限定的であるところ拡大するよう努力している。 |
(外務省) |
アフリカ、中南米の一部では現地に事務所を持っていない企業が入札に参加することがより難しくなってきている状況である。 |
(委員) |
その地にしっかり根付いて活動している企業が事業を受注することが多いと思うが、良く考えれば企業の努力と言え、悪く考えると談合の温床ととらえられかねない。企業努力をいかに前向きな要因とするか工夫しなければならない。 |
(委員) |
海外での入札では国内と違う要素がたくさんあり、そのような点につきデータ分析を行えば参考にもなる。。
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3.12月閣議請議案件について説明及び質疑応答
(1) |
中国における酸性雨及び黄砂モニタリング・ネットワーク整備計画
(外務省) |
中国に対する無償資金協力は環境、感染症といったグローバルな課題に対する支援や対日理解促進につながるものに限定しており、本件もその一つである。日・中及び東アジアの共通の問題である酸性雨、黄砂のモニタリング機材を整備するものであり、これまでの日中友好環境保全センターで行ってきた支援との継続性のあるものである。 |
(委員) |
中国の案件は多国間の強力に二国間で支援を行うものであるが、日本政府としてはどのようにマルチに係わっているのか。 |
(外務省) |
東アジアにおける酸性雨及び黄砂モニタリング・ネットワークは日本のイニシアティブで始まったものである。東アジア地域の酸性雨対策として98年から実施しているものである。また、多国間(マルチ)で行う黄砂対策マスタープランを策定し、技術協力により専門家や研究者の派遣を通じてモニタリング・ネットワーク形成を助けている。 |
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(2) |
ニジェールにおけるマラディ州及びザンデール州小学校教室建設計画
(外務省) |
コミュニティ開発支援無償の2件目の案件になる。1件目はセネガルに対して10月閣議にて実施を決定した案件である。今回はニジェールにおいて学校を建設するものである。コミュニティ開発支援無償はその考え方、またコストダウンの観点からも期待は大きい。現地仕様による設計、現地業者の活用を行うことにより試算では建設費用は過去に同国において実施した一般プロジェクト無償による類似案件と比較して平米平価で半額近くになっている。
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(3) |
スリランカにおける新マナー橋建設及び連絡道路整備計画
(外務省) |
スリランカはLTTEとの停戦により、過去数年間和平に向けて前向きの動きがあり、国別援助計画でも平和の定着と復興に対する支援を重点事項に掲げている。ジャフナ教育病院中央機能改善計画については18年度4月閣議で決定し、3年間の国家債務負担行為案件として実施予定の案件であったが、和平が進捗せず、今回の閣議で案件の取りやめをするに至った。これに対しマナー橋は同様に北部の案件であるが、安全面について確認をした上で案件を実施するものである。
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(委員) |
ジャフナ教育病院を視察したことがあるが、当時の段階で支援を開始したのは日本の外交政策の戦略性だったと思う。平和の定着は重要であり、同案件はこれを一歩も二歩も進めるものであった。それにも係わらず、ここで実施を取りやめてしまうのはなぜか。
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(外務省) |
ジャフナ案件は、一般プロジェクト無償案件であり、一定の工期で完了しなければならなかった。しかし、ジャフナへのアクセス道路はブロックされており、資材が入って行けない状態にあった。ジャフナについては完全に諦めるのではなく、今後治安状況、和平の進展状況を見極めつつ検討することにしたものである。安全を配慮した上で何をすることが出来るか考えていかなければならない。 |
(委員) |
平和の構築、平和の定着は非常に大事なものであり、日本がどのように、どの程度支援するかを決めなければならない。国際機関経由の支援というオプションも勿論考えていたとは思うが、理念と実際の体制との差を考慮に入れて支援を進めていくべきであると考える。
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(4) |
ペルー・エクアドルにおける新マカラ国際橋建設計画
(外務省) |
ペルー・エクアドル間の国境橋を整備するものであり、国境にかかる橋を整備する広域無償案件である。 |
(委員) |
ペルー・エクアドルの広域無償案件について、フジモリ政権時代は政治的に厳しい状況だったが、トレド政権になってから状況は変わっている。今回エクアドルの広域無償案件は和平合意に伴う政治的な判断からなのか、それとも案件自体が良いものだから行うことを決定したのか。 |
(外務省) |
ペルーもエクアドルも一人当たりのGNIは1990年代より高くなってきている。国境和平があり、プロジェクト形成調査団を派遣し、広域案件について前向きに実施していくことになった。今回ペルーとエクアドルの間の権利義務関係や免税に関する整理が出来たことを受け、実施に至った。 |
(委員) |
10月閣議ではエルサルバドル・ホンジュラスに対して広域無償案件を実施しているが、何か違いはあるのか。 |
(外務省) |
技術的なことであるが、エルサルバドル・ホンジュラスの案件では2カ国がそれぞれ施工監理を行うものであったのに対し、今回の案件はエクアドルが2ヵ国を代表となって施工監理を行う点である。
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(5) |
アフガニスタンに対するノン・プロジェクト無償
(外務省) |
アフガニスタンにおいては、道路のメンテナンスのための技術者の訓練機関を整備したいとの要請があり、一般プロジェクト無償として基本設計調査を行ったが、治安の問題も考慮してノンプロ無償の案件として実施することになった。ノンプロ無償の案件については、一般プロジェクト無償の、最大でも2年以内で供与を完了させなければならないという工期の制限が外れることとなる。ODAは海外で行う事業であり、国内事業では想定し難いような問題を含んでいるため、実施決定には細心の注意が必要である。
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別添1
出席者
- I.無償資金協力実施適正会議委員(50音順)
- 1.大野 泉 政策研究大学院大学教授
2.小川 英治 一橋大学大学院商学研究科教授
3.杉下 恒夫 茨城大学人文学部教授
4.敷田 稔 財団法人アジア刑政財団理事長・元名古屋高検検事長
5.西川 和行 財団法人公会計研究協会会長・元会計検査院事務総長
- II.外務省
- 6.和田 充広 国際協力局無償資金・技術協力課長
7.松浦 純也 国際協力局無償資金・技術協力課企画官
8.新井 和久 国際協力局無償資金・技術協力課審査役
9.板垣 克巳 国際協力局無償資金・技術協力課アジア大洋州班長
10.近藤 茂 国際協力局無償資金・技術協力課ノンプロ・KR等班長
11.倉冨 健治 国際協力局無償資金・技術協力課業務班長
12.堀田 裕子 広報文化交流部文化交流課文化無償班
- II.国際協力機構
- 13. 岡本 茂 無償資金協力部次長
14. 正木 寿一 無償資金協力部管理・調整グループ 管理チーム長
別添2
無償資金協力実施適正会議(平成18年度第5回会合)
時間:11月27日12:30~14:30
場所:外務省(南庁舎289号室)
- 報告事項(外務省)
(1) 無償資金協力に関する最近の新聞報道等について
(2) 草の根・人間の安全保障無償外部委嘱制度説明会
(3) 最近の主要外交案件
- コンサルタント契約状況、入札実施状況 (JICA)
- 12月閣議請議案件について説明及び質疑応答 (外務省)
以上