12月16日、無償資金協力実施適正会議が開催されたところ、概要以下とおり(
出席者別添1、
議題別添2)。
1.委員の現地視察報告(委員)
(委員)
(イ) |
去る10月25日から29日の5日間、ベトナムを現地視察した。5案件、これには既往案件と現在実施中の案件が含まれる。現地ODAタスクフォース、ベトナム政府の関係者、視察先の人民委員会の方々との意見交換も行った。
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(ロ) |
まず、日越人材協力センターを視察した。ドイモイ政策下、ベトナムでは人材育成が重要課題となっていた。人材開発のためのセンターはベトナム以外にもいくつかの国で建設されているが、本センターは2000~2002年にかけて、無償資金協力でハノイ貿易大学の敷地内に建設された。大学生5000人および大学スタッフを裨益者とし、貿易大学の学生のみならず一般の人にも開かれているため、間接的にはベトナム人全体に裨益する。教育内容は短期間に高度な実務知識を習得できるビジネスコース、ビジネス日本語講座を中心としている。2005年8月まで、プロジェクト方式技術協力が実施されている。日越双方の関係者の間には、センターの今後のあり方について必ずしも見解が一致していないと感じた。センターの所有権はすでにベトナム政府に移管されており、ベトナム側は事業内容に関しては、より自由にアカデミックなものも含めることにより、貿易大学に資するものにしたいと考えているようである。他方日本側の意向は日本語やビジネスコースで知識を習得した人が、日越の経済関係、投資環境の改善や日本企業進出の土壌育成のための即戦力になることを望んでいる。ハノイ市内には独・仏の文化センターも存在するが、こちらはそれぞれの政府の直営で運営されている。ベトナム側関係者との意見交換では、文化交流には授業内容に日本の発展の歴史、政治、外交に関するコースなども含めることを希望するとの意見もあった。これと共に、ベトナム人にとって、日本人のグループ内の情報の共有、団結のあり方に対して羨望を抱いているとの意見もあった。ベトナム社会でも人々の団結は強いが、日本人の団結のあり方とは異なる。日本人のコミュニケーション技法についても、本センターで学ぶことができれば、との期待も聞かれた。
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(ハ) |
次に、中部地方橋梁改修計画によって改修された橋を視察した。本案件は開発が遅れ、貧しい中部地域の6省8橋梁の新設、取り付け道路建設、護岸工事を行うもの。実際に視察したのはタインフォア省ブオイ川に架かる橋梁で、以前は雨で川が増水すると橋を渡れず、対岸の学校への通学も困難な状況だったが、現在ではそうした問題もなく、実際に橋を渡って下校途中の生徒たちにも遭遇した。橋梁の改修は通学や通院などの不便を解消するだけでなく、安定した生活物資の輸送や市場へのアクセスの改善にもつながり、裨益効果は大きい。日本が得意とする技術分野でもあり、技術移転の効果も望めると同時に人民委員会は自分たちで橋梁を改修できるようになりたいという意欲が旺盛だった。
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(ニ) |
北部地下水開発計画は、1999年にベトナム政府によって策定された地下水開発計画マスタープランに基づき、地下水を水源とする給水施設の建設および井戸掘削機材の調達を支援するもの。農村部では衛生的な水の供給はわずか9%にしか達しておらず、安全な水の供給が急務とされていた。人々は伝統的に天水を貯めておく習慣があるため、井戸の完成後もその習慣から抜け切れず、井戸から水が出たことによって時宜を逸せずとばかりに皆が井戸水をそれぞれの家のタンクに貯めてしまい、井戸が予想外の水量不足に陥ったこともあったそうだ。また、煮沸のいらない、衛生面で安全な水であるのに、未だに煮沸して飲むなど、長年の習慣を変えるまでには時間がかかりそうだ。本案件ではベトナム側による井戸建設能力の強化が図られ、自助努力による村落給水施設が普及することを裨益効果の一つとして掲げているが、この効果が実現するには残念ながら道はなお遠いのではないかと感じた。
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(ホ) |
第一次初等教育建設計画によって建設された小学校の一つで、ハーナム省において2001年に改造された全日制の小学校1校を視察した。一年生の元気な歌と踊りに迎えられた。青年海外協力隊員が現地語を習得して学校全体のみならず、住民委員会にも溶け込んでいる様子が印象的であった。トイレも給水も完備されたコンクリート建ての明るい校舎であった。若干気がかりな点は、ベトナム側の日本への依存体質である。他の村にも同じような小学校を建設してほしいとの期待を述べられたが、橋梁補修現場に見られた、自発性や意欲は感じられなかった。また、本案件のようなプログラムの対象から外れる山地・僻地の少数民族の子供たちとの格差でも気がかりである。国のプログラムとして少数民族の地域へ取り組むことが難しいことは理解できるが、そのような地域で活動中のNGOを通して、少数者の切捨てを避けてほしいと痛感した。
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(ヘ) |
最後にバックマイ病院を視察した。本病院は1911年にフランスによって設立された1000床を有するベトナム最大の総合病院、看護士養成、各種研究の中心的施設と位置づけられているが、老朽化のために使用禁止となっている施設もあるほど。1997年より28000平方メートルの施設の建設と医療機材等の供与を行っている。院内見学の前に、ベトナム側から病院の概況説明を受けたが、よく整理されていて資料も整い、職員の能力の高さを感じた。また、日本側との相互理解・協力関係も順調であるとの印象を得た。他方で、病院が完全に自立するためには何が必要かと考えた。聞くところによると、ハノイ在住の外国人は日本の協力隊員やNGO関係者も含め、本病院のそばにあるフレンチホスピタルを利用しているとのこと。理由は英語などの国際語が通じることと、保険による支払いが簡便に行われるとのことだった。ベトナム人はバックマイ病院へ、外国人はフレンチホスピタルへ、という一種の住み分けもよいのかもしれないが、経営上の問題を考えるとき、外国人の患者が好んで利用できる部分の開発を試みるのも一策であろう。
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2.コンサルタント契約状況、入札実施状況及び無償資金協力のフォローアップ(JICA)
(1) |
JICAより閣議請議案件のE/N署名後進捗状況、コンサルタント選定状況について説明があった。
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(2) |
続いて、JICAより昨今、入札状況が不調となる場合があることに関して、その背景事情等につき説明があった。
(イ) |
昨今入札が不調に終わる背景には、3つの要因がある。まず、1つ目は中国の経済成長に伴う鉄鋼等の資材の需要増である。これに加えて、海上輸送等輸送面の需給バランスも崩れている。2つ目には石油価格の高騰が挙げられる。食糧増産援助に用いられる肥料は石油を原材料としているなど、石油価格の高騰が直接影響を与える案件もある。3つ目に為替レートの変動が挙げられる。為替レートの変動の激しい国においては、入札時の為替レートが詳細設計時と比べて2倍にもなってしまう場合がある。
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(ロ) |
施設建設等の案件で公表されている供与限度額は施設建設費と施工監理費の合計だが、最近入札の際に供与限度額を超えた金額を出している企業がある。小学校建設などでは、世銀等の指摘を踏まえて、数年前からコストの合理化を図っているが、今後更なる議論が必要であると認識している。
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3.12月取りまとめ閣議請議案件の説明及び質疑応答(外務省)
(1) |
外務省より12月に取りまとめ閣議請議を行う案件について、以下のとおり説明があった。
(イ) |
12月の取りまとめ閣議請議案件は、一般プロジェクト無償が17件、食糧援助が9件、食糧増産援助が2件、ノン・プロジェクト無償が7件の計35件である。一般プロジェクト無償では大型インフラ国債案件の詳細設計が6件ある。大型インフラを建設する案件では、一会計年度内に建設を完了することが難しく、国庫債務負担行為として、国会の議決を経なければならない。詳細設計は6件中3件が橋梁、3件が水利・灌漑等に関するものである。
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(ロ) |
以下、特徴的な案件について。水産無償は東西4000kmメートルに渡るキリバスの東端の島と西に位置する首都の間で漁獲した水産物の冷凍輸送を可能にするための水揚げ機材、加工処理施設・機材の整備等を行うもの。
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(ハ) |
次にイランにおける文化遺産無償について。昨年度末に大きな地震の発生したバム地域に対しては、震災後緊急無償等も実施している。今回の支援は地震によって8割以上が崩壊したバム遺跡の修復・保存事業のために必要な機材を供与する。
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(ニ) |
次に食糧増産援助(2KR)について。農機材や肥料等を供与する通常の2KRと比較して、若干特徴的なのが、FAOを通じてオブソリート農薬の処理事業を行うもの。本事業においては、同国に散在する1,400トンの未使用農薬の内、廃棄の必要な450トンを中央に集め安全な形に再梱包し、処理する。加えて、同国における農薬の管理運用に係わる政策や国内法の見直し、NGOによるモニタリング等のソフト面の支援も実施する。
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(ホ) |
ノン・プロジェクト無償について。イラク情勢の影響で厳しい経済状況に陥っているヨルダンに対し、イラク支援の一環として実施するもの。
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(ヘ) |
カンボジアにおける紛争予防・平和構築無償について若干詳しく説明したい。長く内戦の続いたカンボジアにおいて、多量の小型武器の存在が平和構築・社会情勢の安定化の妨げとなっていた。国連が同国にミッションを派遣したが、その後の動きは鈍い。わが国は小型武器回収プログラムを平成15年度、今年度と北部で実施している。南部ではEUが活動中。資金は一旦カンボジア政府に入るが、小型武器対策支援を行う日本のNGOにカンボジア政府が回収を委託してプロジェクトを実施する。プロジェクトの中身は以下の4点。一点目は「Weapon for Development」というスローガンのもと、武器を自発的に供出することで、その対価として開発を提供する。二点目には回収した小型武器の消却、破壊を行い、かつ小型武器問題に対する国民の意識向上を促進するための式典を開催する。三点目は小型武器の管理・登録事業、保管庫の建設を行う。四点目は、小型武器の危険性の説明や供出の対価としての開発の享受等につき説明し、啓蒙活動を行う。第1フェーズですでにかなりの回収実績を挙げており、第2フェーズの実施により、一層の平和構築に資するものと考えられる。
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(2) |
これを受けて、以下のとおり質疑応答がなされた。
(委員) |
2KRの案件では、処理対象の450トンの農薬の内、日本から供与した農薬はどの程度の割合なのか。
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(外務省) |
今回処理対象の450トン及び未使用農薬全体には他ドナーから供与された農薬も含まれている。 |
(委員) |
2KRから貧困農民支援へスキーム名を変更するとのことだが、これを機に内容がどのように変わるのか。是非良い方向に変えて頂きたい。 |
(外務省) |
現在、課内でも本スキーム内でどのようなことができるか、これまでの例にと
らわれることなく検討している。 |
(委員) |
モザンビークには未使用の農薬が1400トン存在するということだが、今後この農薬は使用されるのか。使用されないのであれば徐々に廃棄の対象となっていくことになり、日本政府がどこまで処理に責任を持つのか、ということも問題となってくる。 |
(外務省) |
現在未使用の農薬全てを処理するということではなく、国際的なガイドライン
に基づき、FAO専門家の適正な指導の下でモザンビーク政府が使用するものもある。また今回の支援の中には、現行法規制の見直しや実態調査、意識改革、NGOによるモニタリングなどのソフト面の支援も含まれている。農薬の活用と保全・回収をともに行っていく。 |
(委員) |
率直に申し上げて、必要と思われたから農薬を供与したにもかかわらず、未使用となっているのはなぜなのか疑問。 |
(外務省) |
理由はいくつかある。一つはドナー間の調整が不十分であったことが挙げられる。必要以上の量の供与、他ドナーからの支援の事実等がドナー間で共有されていなかった。二つ目には農薬提供後、被援助国が行う配布・管理能力の評価にずれがあったということであろう。 |
(委員) |
本会議の設立当初では、案件の説明の中にノン・プロジェクト無償は含まれていなかった。ノン・プロジェクト無償についても会議での議論の対象となることはありがたい。本スキームでは、資金は相手国政府のどういった口座に入るのか。中央政府の口座か、各省庁の口座か。 |
(外務省) |
被援助国政府が本邦に開設する口座(経済省なり財務省などが開設する座)に
入金され、第三者である調達代理機関がその管理にあたる。 |
(委員) |
どのようにして積み立て義務額が決まるのか。 |
(外務省) |
購入物資のFOB価格の半分を積み立てることとなっている。 |
(委員) |
円借款と比べて、供与限度額を決める条件が厳しくない。供与金額はどのように
決まるのか。 |
(委員) |
大前提として、世銀・IMFとの協調により貧困削減戦略ペーパー(PRSP)を策
定しているなど、政府の計画があって、かつ無償資金協力の対象国であること。経済状況が深刻でありかつ見返り資金の積み立て状況が良いこと。また、対外公的債務や国際収支、我が国との二国間関係等を総合的に考慮して決めている。予算削減という外的制約が厳しくなってきていることから、見返り資金の積み立て状況が、供与するかしないかの判断に占めるウエイトは大きくなっている。 |
(委員) |
他ドナーの援助なども調査・分析して実施しているのか。 |
(外務省) |
そうしている。 |
(委員) |
ノン・プロジェクト無償は学校や橋の建設などと比べると効果が目に見えにくい。
成果をどのように評価するのか。 |
(外務省) |
マクロ的なアプローチで評価する。被援助国政府のマクロ経済状況や経済政策
の達成状況をみつつ、評価している。 |
(委員) |
ノン・プロジェクト無償で、セクター全般的に支援するということであれば、ある特定セクターの技術協力に見返り資金を活用することはできないか。 |
(JICA) |
日本の実施したプロジェクトのフォローアップに使いたいという議論は以前からある。 |
(委員) |
案件の要請があがってくる段階で、どこまで見返り資金の活用といった可能性を織り込めるか難しい。 |
(外務省) |
現状では、見返り資金の積み立てがあって、その上でどのセクターに当該資金
を活用するかを考えている。今後、見返り資金を他のスキームによる我が国からの支援に活用出来ないかは検討したい。大使館でも案件の要請をする際に、上記のような問題意識はもっている。
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4.国際協力50周年記念関連事業について
(1) |
外務省より国際協力50周年記念事業につき、以下のとおり説明があった。
(外務省) |
今年度はODAを開始して50周年ということで、ODAを広報し、国民の理解を深めてもらうために、記念事業を実施することを対外経済協力関係閣僚会議において決定した。主な事業内容としては、映像媒体、紙媒体、シンポジウム等の開催という3つの形態を用い、まずはODAの実態を国民に知ってもらうことを目標とした。経済、財政状況が厳しい中で、国民にODAを支持、応援してもらうことは難しいのが現実。しかし、批判をする場合も最低限のODAに関する知識を持った上で批判をしてもらうことが重要と考えた。特に映像媒体は接触頻度が高いので、国民の認知度を高めるという点で効果があった。 |
(委員) |
今年度は例年よりも特別に予算を設けて広報を実施したのか。 |
(外務省) |
しかり。 |
(委員) |
インターネット等のアンケートを見られる国民のODAへの見方と、外務省で作成しているODA大綱に書かれている理念等の間にギャップを感じる。国民に対しても理念をもっと打ち出していくべきではないか。 |
(外務省) |
政治的相場観としては、今ODAの理念を説いてもなかなか国民を納得させるのは難しいという感触を持っている。例えば、現在、外務省に寄せられるODA批判のうち、約9割が対中ODAに対する批判。今後、対中ODAをどのように考えていくかは、対中外交全体の中で考えていく必要があるが、やはり国民に訴えるポイントはODAがどう国民の安全や繁栄に役立っているかという国益論。一方、国民の間ではODAを実施するか、実施しないかについては、「実施する」と言うことでコンセンサスは得られていると考える。今、議論になっているのは「どのくらい」ODAを実施するのかという規模の問題であろう。規模について国民を納得させるのは難しい課題。 |
(委員) |
国内社会向けと国際社会向けのメッセージが違っていけないと言うことではないが、国民の感情とODA大綱等に書いてある理念の間のギャップを埋めるために工夫をして欲しい。 |
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別添1
出席者
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I.無償資金協力実施適正会議委員(50音順)
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1.大野 泉 政策研究大学院大学教授
2.小川 英治 一橋大学大学院商学研究科教授
3.敷田 稔 財団法人アジア刑政財団理事長・元名古屋高検検事長
4.脊戸 明子 学校法人日本外国語専門学校副校長
5.西川 和行 財団法人公会計研究協会会長・元会計検査院事務総長
6.星野 昌子 日本国際ボランティアセンター特別顧問
-
II.外務省
-
7.鈴木 秀生 経済協力局無償資金協力課長
8.塚田 玉樹 経済協力局政策課企画官
9.武田 朗 経済協力局無償資金協力課地域第一班長
10.倉冨 健治 経済協力局無償資金協力課業務班長
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II.国際協力機構
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11.中川 和夫 無償資金協力部長
12.星野 明彦 無償資金協力部 管理・調整グループ 管理チーム主査
別添2
無償資金協力実施適正会議(12月16日12:30~14:30)議題(案)
場所:外務省(霞ヶ関、南庁舎)3階396号室
- 現地視察報告(ベトナム)
- コンサルタント契約状況、入札実施状況(JICA)
- 12月閣議請議案件について説明及び質疑応答(外務省)
- 国際協力50周年記念関連事業について(外務省)
以上