ODAとは? ODA改革

無償資金協力実施適正会議(平成16年度第2回会合)議事録

 5月25日、無償資金協力実施適正会議が開催されたところ、概要以下の通り(出席者別添1議題別添2)。

1.無償資金協力課からの説明と質疑応答

(1) イラクに対する支援について(最新状況)
 無償資金協力課より、対イラク支援の最新状況について以下のとおり説明を行った。

(イ) 前回の会議(第11回会合)以降、ファルージャでの武力衝突やバグダッドでの爆弾テロに見られるとおり、イラクの治安状況は悪化しており、おそらく「主要な戦闘」終結以降で最も厳しい状態にあると思われる。こうした治安の悪化により対イラク支援の定義にも影響が出ているが、その中で出来るだけ支援を速く進めていけるよう最大限の努力を払っている。

(ロ) これまでにもお話したとおり、我が国の対イラク支援には4つの主なチャンネルがあるが、そのうち信託基金経由の支援について、現在ドーハでドナー会合が開催されている。また、イラクに対する直接支援については、警察車両案件は輸送が現在行われている。

(ハ) サマーワ(ムサンナ県)では、現地に駐在している陸上自衛隊の業務支援隊長が交替することとなり、先日、新隊長にブリーフを行ったところである。サマーワにおいては自衛隊の活動とODAの連携に配慮してきており、例えば、サマーワ・東京間では、外務省・防衛庁・自衛隊の関係者を交えたテレビ会議を開催するなど、緊密な意思疎通・意見交換を行っている。また、給水車の供与、医療機材の供与、自衛隊医官と現地の医者の協力など、援助も具体的に進んでいる。最近では、サマーワの保健局長や病院長が来日した。今後、人と人との交流も一層盛んになることを期待している。

(2) OECD開発援助委員会(DAC)対日援助審査について
 無償資金協力課より、昨年12月に開催されたDAC対日援助審査及びそれを踏まえての対応ぶりについて、以下のとおり説明を行った。

(イ) DACの援助審査は、ドナー国が他のドナーの援助を審査する場であり、審査対象となるドナーの本国(この場合日本)及び当該国が援助を実施している途上国(今回はタンザニア及びベトナム)において調査が行なわれる。今回の対日援助審査では、ODA改革、ODA大綱の改定、援助量など、様々なテーマが取り上げられた。

(ロ) 対日援助審査及びそれを受けて発出された勧告の中で無償資金協力に関連する部分としては、外務省からJICAへの運営の委譲が話題に上った。この点については、既に15年以上の議論があり、様々な意見があり得るが、JICAの独法化の際にも改めて議論の整理があり、無償資金協力について外務省とJICAの役割分担ははっきりしている。JICAは既に運営の重要な部分の役割を担っており、緊急時の政策的判断の対応等を考慮すると現在の役割分担が適当であると考えている。また、援助の現場の体制強化も勧告で取り上げられている。これは長年指摘されている話であり、JICAで現地化の努力を進めているが、現場に人が貼り付くと今度は本部で人が足りなくなるというジレンマがある。無償資金協力のより一層のアンタイド化も勧告の中で取り上げられているが、実際問題としては日本の援助の相当部分は既にアンタイドである。これは、日本の援助はプロジェクト型、日本の業者ばかりであるという誤解にも基づいているのではないかと考える。また、主契約タイド、調達アンタイドという方式はDACのアンタイド勧告決定の時に認められているものでもある。

(ハ) 今後の対応としては、現場への権限委譲については、当面、現地ODAタスクフォースを強化することなどで対応することとなろう。個人的にはアウトソーシングで現場の人員を増やすことが益々重要になっていると考えている。また、この8月に予定されている外務省の機構改革で、経済協力局は、国別アプローチの強化という方針の下、国別課がこれまでの1課体制から2課体制となり、被援助国の状況分析や、行うべき支援の計画立案により一層力をいれていく。

2. コンサルタント契約状況、入札実施状況(JICA)

 JICAより、閣議請議案件のE/N後進捗状況、コンサルタント選定状況について説明があった。

3. 一般プロジェクト無償実施予定案件の説明(外務省)

(1) 無償資金協力課より、5月閣議請議予定の案件に関連して、以下のとおり説明した。

(イ) 5月閣議では、4月閣議同様、分野は教育(15件)、水(9件)、保健衛生(8件)、人材育成(2件)、植林(2件)、電力(2件)、道路・橋梁(3件)等、多岐にわたっている。

(ロ) これまで既に多く実施している学校建設案件については、先方政府の要望も踏まえつつ、様々なやり方を用いている。例えば通常の一般プロジェクト無償以外にも草の根・人間の安全保障無償によりNGO等を活用して学校建設を行う場合もあれば、一般プロジェクト無償においても、我が国支援により施工管理のコンサルタントを派遣するとともに建築のための資機材提供を行い建設自体は現地の父兄会等の関係者が行うというケースもある。こうしたやり方であれば、額に比して多数の教室を建設することが可能となる。

(ハ) 今回の閣議では、中国に対する無償資金協力案件が含まれている。対中援助については厳しい見方があり、オリンピックの開催予定や有人宇宙衛星の打ち上げの成功、中国の第三国援助といった事情がこうした見方に拍車をかけているところがあるようにも見受けられる。しかしながら、例えば円借款については、ピーク時では毎年約2千億円に達していたが、現在では1千億円を切っており、さらに今後は新規供与額より返済額が多くなる見込みである。また、インフラの整備が進む沿海部に比べて引き続き深刻な貧困状態にある内陸部に力点をおいて援助を行っている。

(ニ) パレスチナについては世銀管理の信託基金に対して1千万ドルの拠出を実施する。財政支援については、日本の無償資金協力においてはかなりハードルの高い支援形態であるが、今回の基金への拠出については、パレスチナの財政状況の悪化に対処するための国際社会全体の取り組みの一環として実施するものである。

(2) 続いて、以下のとおり質疑応答が行われた。

(イ) 人材開発センター案件について

(委員) ビジネス人材の育成や日本語教育等のための人材開発センター建設という案件が今回の閣議の対象となるようであるが、上手くやれば宣伝効果の高い案件となることが予想される。他方、同センターの運営や維持管理等はどのように行っているのか。

(無償資金協力課) この種の案件は、当該援助国の発展の度合いによってその効果が異なってくるもの。また、施設を建てるだけではなく、技術協力により専門家の派遣等を行うことも、案件の効果を高めるために重要であり、今回の案件も技術協力との連携が図られている。

(ロ) パレスチナ財政支援について

(委員) パレスチナへの財政支援案件について先程説明があったが、こうした形の支援は今回が初めてか。

(無償資金協力課) 世銀が管理する基金への拠出という意味では、過去にはアフガニスタンに関してARTF(アフガニスタン復興信託基金)への拠出例がある。財政支援については、相手国の援助依存度を高める虞、資金支出の透明性の確保、日本の支援のvisibilityの確保など、その実施に当たっては慎重に検討するべきいくつかの要素がある。

4、債務救済制度の現状について(外務省)

(1) 有償資金協力課より、債務救済制度の現状について以下のとおり説明があった。

(イ) 平成15年度から、債務救済の方式を変更した。これは、国際社会における議論も踏まえ、債務問題のより早期の解決等の観点から変更したものである。今回の方式変更については、あくまでも債務救済の方式の変更であり、対象国・対象債権の範囲に変更はない。

(ロ) この新たな方式の下で、平成15年度は7件、総額約2,494億円の債務免除を実施した。これで実施すべき債務免除が全て終了したわけではない。これ以外の適格国との間で交換公文の案文の交渉、対象となる債権の確定など作業は継続している。

(ハ) 拡大HIPCs(重債務貧困国)イニシアティブにおいては、PRSP(貧困削減戦略文書)の暫定版を策定しDP(決定時点)に到達したのち、PRSPの最終版を策定し、またその間のパフォーマンスが良好であればCP(完了時点)に到達できる。債務免除の対象となるにはCPに到達していなければならない。他方、HIPCsイニシアティブとは別に、UNCTADの枠内で採択されたTDB決議の対象となる国については、今後支払期限が来るものについて、粛々と債務免除を行っている。

(ニ) 債務免除を受けた国に対して、貧困削減及び社会経済開発について必要な措置をとるよう求めており、具体的には、現地大使館を通じてPRSPの策定・実施をモニタリングすることとしている。兼轄国もあるためなかなか大変ではあるが、外部の専門家の方々のお力を借りつつ実施していきたい。

(2) 上記を受けて以下のとおり質疑応答がなされた。

(イ)
(委員) 債務免除が国際協力銀行(JBIC)の財務に与える影響はどうか。JIBCの財務状態は健全であるといえるのか。また、PRSPの策定・実施をモニタリングするとのことであったが、具体的にはどのようにモニタリングしているのか。

(有償資金協力課) JBICはここしばらく黒字を計上しており、健全な財務状態である。ただ、これだけでは債務免除を行うことに必ずしも十分とは言えないので、平成16年度においては300億円の交付金が一般会計に計上されている。PRSPの策定・実施のモニターについては、具体的には、相手国政府が資料を作り、それに対し我が方を含め各ドナー・国際機関が意見を述べるという形で行っている。

(無償資金協力課) 交付金については、これまで採用していた債務救済無償という方式、すなわち、被援助国の自助努力を促進する観点からいったん返済させてそれと同額の無償資金協力を供与するというやり方を、債務免除を行うやり方に改めたことに由来するものである。

(ロ)
(委員) 債務免除のフォローアップに関連して、PRSPの実施状況のモニタリングや政策内容への提言等、様々な機会で日本の意見を示していくことが重要であろう。本省から大使館に対し、対応ぶりについて指示を明示的に出しているのか。また、フォローアップの方法については、債務免除額の大きさ、現地の人員体制、経済協力関係等をふまえて様々なオプションがありうると思うが、そういった違いをふまえた指示は出されているのか。免除額の大きいボリビア・ガーナなどへの対応はどうか。

(有償資金協力課) 平成14年12月に債務救済の方式を変更したが、その時に制度の変更と考え方を統一的に説明した。実際のモニタリングの方法については、個別に対応している。一例を挙げれば、ボリビアの債務免除については、各ドナーの債務免除額のうち一定額をHIPCs基金というボリビア政府内の基金に入れ、その使途を各ドナーが監視するという方式が進められている。ガーナについては、JBICが公共財政管理のための知的支援を行っている。

(委員) 債務免除の機会を日本にとって、被援助国との有効な政策対話のためのツールとし活用すべきである。また、国民への説明責任も認識したうえで対応ぶりを考えることが重要だろう。したがって、モニタリングや政策対話の進め方などで良い事例があれば、本省の方から、積極的かつ戦略的に他の在外公館に対し情報共有を行っていくのも一案であると思われる。



5、一般プロジェクト無償案件の閣議決定後の流れ(外務省)

(1) 無償資金協力課より、別添3の図を基に、一般プロジェクト無償案件が閣議決定後どのような過程をたどるのかについて説明がなされた。

(イ) 配布している図(別添3)を見ていただきたい。まず閣議決定後、交換公文(E/N)署名まで時間がかかることがある。これは相手国内での調整及び相手国政府と大使館の日程調整が上手く行くかどうかにかかっている。E/N署名後は、コンサルタント契約、その契約認証(入札図書作成)、その後業者選定のための入札、業者確定、業者契約、その契約認証、といった過程を経て漸く案件着工の運びとなる。それぞれの過程ではある一定の時間をかけることが必要とされる。例えば、入札期間については、競争性を高めるためにはある程度長めに設定することが重要となる。また、その他の項目については、必要となる時間を短くすることは努力次第で可能であるように思えるが、実際には、先方政府からの返事を何度も督促しなければならないなど、我々が東京にいて想像する以上に大変でありまた時間もかかっている。

(ロ) こうして見ると、無償案件のE/N締結から着工まで、時間がかかることがあるのは事実である。よくある批判の中に、「日本の援助は遅い」というのがあるが、しかしながらODAの透明性を確保し、手続きの公正さを担保するために時間をかける必要もあるという側面が見逃されてはならない。また、日本の援助は「やり始めれば早い」のであり、全体として考えれば日本の援助は遅いどころか他ドナーの援助に比べてもむしろ迅速であるとさえ言えるのではないかと考えている。

(2) 上記(1)を受けて、さらに以下のとおり補足説明がなされた。

(無償資金協力課) この図(別添3)でご説明しているのは、閣議決定後の話であるが、これに加えて、案件採択に至るまでの事前の調査にも時間がかかる。大まかな目安を申し上げれば、調査には平均しておおよそ1年半必要であり、従って機材案件については2年半、施設案件については3年半、それぞれ必要となると言える。但しこれは繰り返しになるがあくまで目安である。この図で取り上げているのはある意味理想型である。大使館が設置されている国であればまだ何とか比較的順調に行うことも出来ようが、例えば大使館の設置されていない兼轄国については、E/N署名のアポイント一つとりつけるのも容易ではない。こうした一つ一つの過程におけるずれが工期に大きく響く可能性があるため、我々としては、案件が確実に執行されるよう、相手国政府に対し、これらの過程が出来るだけ迅速に行われるよう協力を求めまた注意喚起を随時行っている。

(無償資金協力課) こうした工期の問題は、実は、前回ご説明した無償資金協力の予算執行の制度とも関連している。すなわち、繰越については、明許繰越でも説明を行った上で承認を受けているのが実情であり、事故繰越については全くの例外とみなされ、承認されるのは極めて限られた件数しかない。というのも、E/N署名の遅れや入札の遅れといった理由では事故繰越が承認されないからである。

(無償資金協力課) 明許繰越の後の更なる繰越となる事故繰越は、例外中の例外とされており、(i)避けがたい事故(天変地異、戦乱等)、(ii)繰越を行えば当該案件が繰り越された年度内に完了する目処が立っていること、の2つの条件がみたされなければならないとされている。


(3) 質疑応答

(イ) 案件の評価について

(委員) この会議の関心事項の一つは、その名のとおり、無償資金協力案件の実施が適正であるかどうかということであるが、ある無償案件がどのようにして相手国に受け入れられているか等、案件の評価についてはどのように行っているのか承知したい。

(無償資金協力課) 案件の評価方法については、最近様々な動きが見られるところであり、それ自体大きなテーマであると考えられる。お差し支えなければ、次回の適正会議で改めて議題として取り上げ、詳細をご説明することとしたい(委員了承)。

 最後に、次回第13回会合は7月20日(火)に外務省(霞ヶ関)にて行うこととし、会合は終了した。


別添1


出席者

I.無償資金協力実施適正会議委員(50音順)
1.大野 泉   政策研究大学院大学教授
2.小川 英治  一橋大学院商学研究科教授
3.敷田 稔   アジア刑政財団理事長・元名古屋高検検事長
4.脊戸 明子  日本外国語専門学校
5.西川 和行  財団法人 公会計研究協会会長・元会計検査院事務総長
6.星野 昌子  日本NPOセンター代表理事

II.外務省
7.山田 彰   経済協力局無償資金協力課長
8.高田 潔   経済協力局有償資金協力課企画官
9.松井 正人  経済協力局無償資金協力課地域第一班長
10.田村 良作  経済協力局無償資金協力課業務班長

III.国際協力機構
11.中川 和夫  無償資金協力部長
12.上垣 素行  無償資金協力部 管理調達グループ 管理チーム長


別添2


無償資金協力実施適正会議(5月25日12:30~14:30)議題(案)


場所:霞ヶ関(南庁舎)5階584号室


  1. 報告事項(外務省)

    (1)対イラク支援の最新状況
    (2)DAC(開発援助委員会)対日援助審査の提言と無償資金協力について

  2. コンサルタント契約状況、入札実施状況(JICA)

  3. 一般プロジェクト無償実施予定案件の説明及び質疑応答(外務省)

  4. 債務救済制度の現状(外務省)

  5. 一般プロジェクト無償案件の閣議決定後の流れ(外務省)

別添3


一般プロジェクト無償案件の閣議決定の流れ(例)


以上
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