ODAとは? ODA評価

ODA評価研究会報告書
「我が国のODA評価体制の拡充に向けて」骨 子

1.ODA評価研究会の設置と活動概要
1.1 背景と研究会の設置
 (1)背景
1) 政府開発援助(ODA)事業の量的拡大から質的向上への転換、透明性の確保、2001年1月からの政策評価の導入
2) 2000年3月河野洋平外務大臣に提出された「『ODA評価体制』の改善に関する報告書」におけるODA評価研究会設置についての提言

 (2)研究会の設置
1) 以下の主要課題を専門的・集中的に議論・検討するために、外務省経済協力局長の私的諮問機関「援助評価検討部会」(部会長:河合三良国際開発センター会長)の下に、2000年7月17日より設置

(a) 政策レベルの評価導入とプログラム・レベルの評価の拡充
(b) 評価のフィードバック体制の強化
(c) 評価人材の育成と有効活用
(d) 評価の一貫性の確保(事前から中間・事後に至る一貫した評価システムの確立)
(e) ODA関係省庁間の連携推進

2) 開発援助評価分野の専門家、学識経験者、経済団体、非政府組織(NGO)関係者のほか、外務省、国際協力事業団(JICA)、国際協力銀行(JBIC)関係者が委員として、また、ODA関係省庁(17)と会計検査院の関係者がオブザーバーとして参加

1.2 活動概要
 研究会会合は、計8回開催され、活発かつ積極的な議論が展開された。

2.討議の主要ポイントと今後の課題
2.1 政策レベルの評価の導入及びプログラム・レベルの評価の拡充
 委員の報告と外務省委託調査「政策レベル及びプログラム・レベルの評価に関する手法研究調査」の北米・欧州地域における調査結果、バングラデシュにおける試験的適用に関する調査報告を受けて議論・検討した。議論の主要なポイントと今後の課題は、以下のとおりである。
1) 政策・プログラムレベル評価の早期導入・拡充の必要性について、研究会参加者の認識が一致

2) 政策・プログラムレベル評価については、国際的に統一された具体的手法は未確立。我が国ODAに適した評価手法と体制の確立が重要

3) 援助政策、国別援助計画、プログラム、プロジェクト等の体系図が、事前段階から設定されていることの必要性。指標設定やモニタリング方法の明確化も大切

4) 評価に一貫性を持たせるため評価手法・手順に関する標準的なガイドライン、マニュアル、雛型等の整備

5) 他のドナーや国際機関との協力による合同評価の利用と拡充

6) 上位レベルの評価を効果的に行うための、援助国・被援助国双方の評価能力の向上

7) 上位レベルの評価における十分な準備・予算的手当の必要性

2.2 評価のフィードバック体制の強化
 委員の報告及びOECD・DAC東京ワークショップ(2000年9月末開催)での議論の報告等を踏まえて、我が国のODA評価フィードバック体制の改善について議論・検討した。議論の主要なポイントと今後の課題は、以下のとおりである。
1) 評価を効率的かつ効果的にフィードバックするメカニズムの構築。例えば、援助機関内に、意思決定者(組織の長又は同委任を受けた者、以下同じ)を長とし、企画部門、事業部門及び評価部門のメンバーから構成される常設の「評価フィードバック委員会」(仮称)等、適切なフィードバックができるしくみの整備が有効

2) 評価部門だけでなく意思決定者や企画部門及び事業部門における更なる意識改革の必要性。評価によって得られた教訓・提言等に基づいて、政策、事業計画等を改善するという評価の目的を明らかにし、評価の重要性の再確認

3) 事業の様々な段階、特に事業開始からの早期の段階でのフィードバックの強化

4) 評価結果の情報を共有するシステムとして、外務省、JICA、JBIC、ODA関係省庁が連携して「評価データベース」を整備することの有益性。第一歩として、関係省庁間における既存データベースの相互活用による連携強化

5) 個々の援助機関単体の枠を超え、組織横断的で効率的・効果的なフィードバックの推進を図ることが重要。そのため、援助機関による連絡会議の設置

6) 評価結果の公開を一層推進して我が国国民に対する説明責任(アカウンタビリティ)の確保。解りやすく迅速な評価結果の公表を実現するため、インターネット等の活用 7) 被援助国側への評価結果に関するフィードバックの徹底

8) フィードバックの質的向上及び透明性確保のため、民間(有識者、シンクタンク、NGO、企業等)及び被援助国側からの評価活動への参加推進

2.3 評価人材の育成と有効活用
 委員の報告、外務省委託調査「評価人材の育成及び有効活用に関する調査研究」の調査結果を踏まえて議論・検討した。議論の主要なポイントと今後の課題は、以下のとおりである。
1) 評価人材育成を通じ、援助機関における評価体制の改善と能力向上を図ることの重要性

2) 高等教育・研究機関との連携推進、研修プログラムの拡充。さらに、国際機関及び他国援助機関における先進的評価手法・事例を学ぶため、評価人材の派遣交流の推進

3) 日本評価学会(2000年9月設立)等の専門学術機関を通じた評価に関する知識・技術の向上、及び各専門分野の知識を有する人材の確保と育成の必要性

4) 援助機関等が評価の重要性を認識し、評価市場(参加機会)の拡大を目指すとともに、十分な評価予算の確保

5) 援助機関内部だけでなく外部の評価人材育成にも注力し、アウトソーシング推進により効率的な評価活動を実現するとともに、透明性も確保

6) 評価人材のデータベースを開発することによる人材の有効活用

7) 国家公務員や一般企業に所属する評価人材をより有効に活用するために、インセンティブの拡大が必要

2.4 評価の一貫性の確保
(事前から中間・事後に至る一貫した評価システムの確立)

 JICA、JBICの報告を踏まえて議論・検討した。議論の主要なポイントと今後の課題は、以下のとおりである。
1) 事前段階において、目的、指標、達成目標、評価計画、フィードバックのあり方を網羅した「事前評価表」を作成することの有効性

2) JICA、JBICで行われている試みの問題点をレビューし、それを踏まえて具体的かつ標準的なガイドラインを作成することの意義の確認

3) 評価における定量的かつ定性的な手法の相互補完とバランスの重要性

4) 外務省、JICA、JBIC及びODA関係省庁の異なる組織間における一貫性確保の必要性

5) 事前から中間・事後に至る指標・達成目標設定のあり方や評価計画策定、フィードバックの活用状況等に関し、適切なクォリティ・コントロールを行うことが重要

2.5 ODA関係省庁間の連携推進
 本研究会のオブザーバーであるODA関係17省庁と会計検査院によるODA関連事業及び評価活動の概要、評価活動を実施する場合の懸案事項等を取りまとめ、議論・検討した。議論の主要なポイントと今後の課題は、以下のとおりである。
1) ODA関係省庁間の関連事業、評価活動に係る現況把握及び懸案事項の確認

2) ODA関係省庁の評価体制・能力の向上のためには一層の連携強化が必要

3) 今後の連携強化に当たっては、引き続きODA関係省庁間の意見交換・議論の場を設置し、定期的に会合を開催していくことの重要性

4) ODA関係省庁間における評価活動・成果についての情報共有・情報交換の体制づくり

5) 関係省庁による合同評価の実施、評価セミナーの合同開催、各省が活用できる標準的なガイドライン、マニュアル、雛型の作成等、具体的な連携活動の実施

6) 各種重要課題の検討。これらについての議論・検討を継続する必要性(以下、例示)

  • 政策・プログラムレベル評価の導入に向けた体制整備、手法研究等
  • 援助国側の国益等援助方針・計画等に必ずしも盛り込まれない事項に対する評価方法、評価の観点等についての検討
  • 専門家派遣、研修生受け入れ事業等の評価手法の検討
  • フィードバック活用のしくみ

3.提 言
 本研究会では、(a)政策レベルの評価の導入及びプログラム・レベルの評価の拡充、(b)評価のフィードバック体制の強化、(c)評価の人材育成と有効活用、(d)評価の一貫性の確保(事前から中間・事後に至る一貫した評価システムの確立)、(e)ODA関係省庁間の連携推進、という5つの主要課題について集中的に議論を行った。
 これらは、我が国ODA評価体制の更なる拡充のために極めて重要な課題であり、研究会としては、議論と検討を踏まえて、以下の提言を行う。外務省やJICA、JBICだけでなくODA関係省庁を含め、関係者にとって今後我が国のODA評価体制の一層の改善に役立つことを強く期待する。課題ごとの提言は、次のとおりである。
3.1 政策レベル評価の導入及びプログラム・レベル評価の拡充
1)政策及びプログラム・レベル評価を早期に導入・拡充する必要性については、研究会会合メンバーの認識が一致した。これらの評価については、国際的にもその必要性が認められているが、統一された具体的手法は未だ確立していない。このため、我が国ODAに適した評価手法を開発・拡充すべきである。外務省委託調査で提言された評価手法等も援用しながら政策・プログラム評価を試行して、より実践的な評価手法・手続きの確立を目指すべきである。

2)現状では、政策やプログラムの目標を示した体系図が明確ではなく、目標、評価手法も設定されていないことが多い。今後は、上記1)の委託調査の結果等を踏まえて、十分検討すべきである。目的体系図の策定、指標の設定、定期的なモニタリングが不可欠であり、計画作成の段階から手当てする必要がある。

3)政策及びプログラム・レベルの評価には、他の援助国・機関との協力が重要との認識に基づき、他国援助機関や国際機関との合同評価を一層活用する。合同評価を通して援助効果における我が国の貢献度合いを把握する方法についても併せて検討すべきである。

4)政策及びプログラム・レベル評価の導入・拡充に当たっては、その手法開発、実施体制確立までにかなりの試行錯誤が必要と考えられる。また、政策及びプログラム策定の段階から指標設定・モニタリング手法の決定等多様かつ膨大な情報を分析し、相当な時間と予算をかけた準備が必要となることが予測される。これら上位レベルの評価を適切に行うには多くの時間と予算を要することを十分認識すべきである。

3.2 評価のフィードバック体制の強化
1)援助機関内部に効率的・効果的なフィードバック・メカニズムの構築が必要である。このためには、例えば、援助機関内に意思決定者を長とし、企画部門、事業部門、評価部門等のメンバーから構成される常設の「評価フィードバック委員会」(仮称)等、適切なフィードバックができるしくみの整備が有効と考えられる。

2)フィードバック体制強化のためには、評価部門だけでなく意思決定者や企画部門及び事業部門の更なる意識改革が重要である。評価によって得られた教訓・提言等に基づいて、政策、プログラム、或いは事業計画等のレベルアップを図り、組織全体としての「評価の重要性」に対する認識を一層深め、評価結果を最大限に活用する体制を確立する。このためのワークショップの実施も有効である。

3)評価結果の活用については、事後評価のフィードバックのみでなく、事業の様々な段階、特に事業開始から早期の段階でのフィードバックを適切に事業実施や計画に反映させられるしくみも検討し、ODA事業の効率化につなげることが望ましい。

4)外務省、JICA、JBIC、及びODA関係省庁の連携体制の下、評価結果のデータベース整備を推進する。まずは、ODA関係省庁との間で既存データベースの相互活用等、具体的な活動を始めることが望まれる。例えば、専門家派遣事業、研修生受け入れ事業、資金協力事業等に関し、この分野での評価結果について外務省をはじめとするODA関係省庁間の情報共有、連携推進が考えられる。

5)さらに個別援助機関の枠組みを超えて、組織横断的に効率的・効果的なフィードバックの推進を図っていくことが重要である。このためには、ODA関係省庁から成る連絡会議を設置することが有効である。

6)ODAにおける説明責任(アカウンタビリティ)及び透明性の確保に向けては、評価活動及びその結果に関する国民への公開が不可欠である。このため、インターネットを利用した迅速かつ解りやすい評価結果の公表を更に推進する。

7)被援助国側に対する評価結果のフィードバックも重要であり、評価活動及び評価結果を被援助国にきちんと報告することを徹底する。

8)被援助国側が我が国の評価結果からの教訓・提言を今後の事業計画の作成・実施等の改善に適切に反映させることを支援する。

9)現地ニーズを反映させてフィードバックの質を向上させるため、被援助国側関係者の評価活動への参加を推進すべきである。

10)我が国民間関係者の専門知識・知見を活用してフィードバックの質をレベルアップし、透明性を確保していくことも重要である。

3.3 評価人材の育成と有効活用
1)国内の高等教育機関における大学院レベルの長期研修プログラム(1~2年程度)と、実務家向けの短期研修プログラム(数日~数週間)を開発及び拡充することが有意義であり、必要に応じて予算措置を講じることも検討されるべきである。

2)日本評価学会等、国内における既存の学術研究機関・組織を最大限に活用し、援助機関内部及び外部における評価人材の資質向上を図るべきである。また、各専門分野の知識を有する人材を確保・活用・育成することも必要である。

3)海外の大学院等で開発援助等を専門に勉強している人材を、様々な形で評価に活用することを検討すべきである。

4)評価分野における海外での先進事例・手法を学ぶため、世銀(WB)、アジア開発銀行(ADB)、国連開発計画(UNDP)等の国際機関や、米国国際開発庁(USAID)、カナダ国際開発庁(CIDA)等のドナーの評価部署への人材派遣や人事交流を検討する。

5)援助機関が中心となって「評価人材データベース」を構築することにより、評価人材のネットワーク構築と有効活用を推進する。

6)評価の資質・能力を潜在的に有する人材が評価に関わる機会がそもそも少ないことが評価人材の育成を妨げていると思われる。予算を含む評価関連施策の拡充による評価市場の拡大が望まれる。

7)評価部門において、援助機関自体の評価能力向上に加えて、評価の質と量のレベルアップを図るべく外部専門家の活用を含む評価のアウトソーシングを推進する。

3.4 評価の一貫性の確保
(事前から中間・事後に至る一貫した評価システムの確立)

1)個別プロジェクトの計画段階で、目的、指標、達成目標、評価計画、フィードバックのあり方を網羅した「事前評価表」の作成を試験的に実施し、評価の一貫性確保のためのシステムの確立に向け、引き続き努力する。

2)今後、JICA、JBICで行われている試みの手法等をレビューし、それを踏まえて、標準的なガイドラインを作成することが望まれる。

3.5 ODA関係省庁間の連携推進
1)我が国全体としての効果的なODA評価体制を確立し、連携を通して関係機関全体の評価能力の向上を目指すことが求められる。このため、本年(2001年)からODA関係省庁間の定期的な意見交換・議論の場として「ODA関係省庁評価部門連絡会議」(仮称)を設置する。同連絡会議には、効果的な意見交換・議論を促進するため、評価に関する学識経験者、NGO、民間関係者も含める。同連絡会議を評価能力の向上を図るためだけでなく、情報開示の場としても活用していくことで、透明性の確保への貢献も期待される。

2)ODA関係省庁間で、評価活動や成果についての情報交換を行い、これら情報を共有すべきである。援助機関間の協力による合同評価や評価セミナーの開催、或いは評価学会等の活用も有益である。

3)共通テーマ、重要課題、評価手法等については引き続き、連絡会議等の場を利用して議論する。その上で具体的には、各省庁が連携し、専門家派遣、研修生受け入れ事業等、複数のODA関係省庁が関わるODA事業についての評価を実施する。

4)各省庁が使える評価に関する標準的なガイドライン、マニュアル、雛型等の整備が望ましく、今後、作成について検討すべきである。

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