本研究会は、2000年3月に河野洋平外務大臣に提出された「『ODA評価体制の改善』に関する報告書」の提言を受けて、ODA評価に関する主要課題((a)政策レベルの評価の導入とプログラム・レベルの評価の拡充、(b)評価のフィードバック体制の強化、(c)評価の人材育成と有効活用、(d)評価の一貫性の確保(事前から中間・事後に至る一貫した評価システムの確立)、(e)ODA関係省庁間の連携の推進)について、集中的に議論を行ってきた。
これらの課題は、我が国の政府開発援助(ODA)評価体制の更なる拡充のために極めて重要な課題である。研究会としては、ここに研究会の議論と検討を踏まえていくつかの提案を行いたい。本研究会からの提言を主要課題別に取りまとめると、次のとおりである。研究会としては、十分な議論ができていない部分や今後の援助機関の検討を得なければならない点もあるが、外務省やJICA、JBICだけでなくODA関係省庁を含めた関係者にとって、今後の我が国ODA評価体制の一層の改善に役立つことを強く期待したい。
「政策・プログラムレベルの評価の導入」は、従来のプロジェクトレベル中心の評価にとどまらず、上位レベルの評価を確立しなければならず、評価関係者だけでなく援助の企画・立案に関係する者にとっても大きな挑戦である。「評価のフィードバック体制の強化」も、援助の改善につながる形での具体的なフィードバック・メカニズムの設定や援助関係者の意識改革等を伴って初めて意義のあるものとなろう。「評価人材の育成」、「事前から中間・事後に至る一貫した評価システムの確立」に向けても多くのことがなされなければならない。
また、この研究会には、外務省、JICA、JBICの関係者が委員として参加しただけでなく、ODA関係省庁の関係者がオブザーバーとして議論に積極的に参加し、貢献したことは注目されるべきである。「ODA関係省庁間の連携」は、新しいが重要な課題であり、本研究会の成果を受け、今後も組織横断的な意見交換・議論の場を創設することにより、関係省庁間の協力がより緊密になり、連携体制が確立されることが望まれる。
この研究会活動を通じて、外務省、JICA、JBICだけでなく、ODA関係省庁においても、「評価」の役割と重要性に関する認識が共に高まったことは何よりも大きな成果と言えよう。今後、研究会参加者だけでなく意思決定者及び事業部門における評価に対する認識がさらに深まり、この報告書が我が国ODA評価体制の更なる拡充に資することを期待する。
(1)政策レベルの評価の導入及びプログラム・レベルの評価の拡充
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1) 「政策レベル及びプログラム・レベルの評価」の早期導入・拡充の必要性については、研究会会合メンバーの認識が一致するところである。ただし、政策及びプログラム・レベルの評価の具体的手法について、国際的にもその必要性が認められ、一部の海外援助機関においては、導入が試みられているものの、統一された具体的手法は未だ確立していない。そのため、我が国ODAに適した評価手法を開発し、拡充していく必要がある。外務省委託調査で提言された評価手法、これまで行われてきたプログラム評価の実践等も援用しながら、政策・プログラム評価を試行してみることによって、より実践的な評価手法・手順の確立を目指していくことが重要である。
2) 政策レベル及びプログラム・レベルの評価を実施するためには、援助政策、国別援助計画、プログラム、プロジェクト等について、可能な限り事前段階からそれぞれの目標が絞り込まれ、明確に指標が設定されていることが必要となる。そのためには、上記1)の委託調査が提案している事前段階での目的体系図の導入は有効である。また、評価指標と目標の設定、定期的なモニタリングが不可欠であり、計画作成の段階からこれらを手当てすべきである。
3) 政策レベル及びプログラム・レベルの評価を導入・拡充する場合、他の援助国・援助機関の援助の動向を考慮して評価することは望ましいことから、これら他ドナーや国際機関との意見交換や合同評価を行うことは有益である。このためには、我が国ODAの貢献度等をより明らかにし、フィードバックを徹底するための方策について、今後も手法研究を通してより具体化していく必要がある。
4) 政策レベル及びプログラム・レベルの評価の導入・拡充に当たっては、その手法開発・実施体制確立までにかなりの試行錯誤が必要と考えられる。さらに実施に際しては、事前の準備が極めて重要であり、政策及びプログラム策定の段階から、評価指標・目標の設定、モニタリング方法の決定等の計画を立てる必要がある。このように上位レベルの評価を適切に行い、その結果をフィードバックとして活用できるような体制を構築するためには、多くの準備と十分な予算的手当が不可欠であることが、関係機関において認識される必要がある。
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(2)評価のフィードバック体制の強化
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対外経済協力審議会が2000年9月に発表した「『人間を重視した経済協力』の推進について」の報告書では、評価の重要性が強調されており、中でも経済協力が有効に行われているかのフォローアップや評価システムを強化し、評価結果を事後の事業へ効果的にフィードバックするための工夫が必要であるとしている。
「評価」を報告書作成のためだけの評価活動に終わらせずに、次のより良い計画作成や事業実施へつなげるための前向きなステップであることを十分に認識して、政策レベル或いは事業実施レベルで必要とされる情報に的確に応えられるよう、フィードバックの内容とレベル、タイミングを向上させるとともに、フィードバックを適切に活用・反映できるような「しくみ」を構築することが必要である。
評価のフィードバック体制の強化については、日本がイニシアティブをとって東京で初めて開催したOECD・DAC東京ワークショップでも、その重要性は非常に高いと認識されている。かかる状況下、本研究会での討議を踏まえた本課題についての提言は、以下のとおりである。
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1) 効果的なフィードバック・メカニズムを構築することが必要である。評価部門が単に評価を実施するだけではなく、事業担当部門と協力してフィードバックを図るべきである。例えば、援助機関内に意思決定者の長の主催により、企画部門、事業部門及び評価部門等のメンバーが参加する常設の「評価フィードバック委員会」(仮称)等、適切なフィードバックができるしくみの整備が有効と考えられ、これらの組織を通した援助機関内部におけるフィードバック機能の強化が望まれる。
2) フィードバック体制強化のためには、評価部門だけでなく、意思決定者や企画部門及び事業部門の意識改革を図り、組織全体として「評価の重要性」についての認識を一層深め、評価結果を最大限に活用する姿勢が求められる。評価部門に限らない組織横断的なフィードバックの活用が重要であり、そのため、関係者の参加によるワークショップ等を積極的に開催すべきである。
3) 評価結果の活用については、事後評価のフィードバックのみでなく、事業の様々な段階、特に事業開始から早期の段階で適切に事業実施や計画に反映させられるしくみも検討し、ODA事業の効率化につなげることが望ましい。
4) 評価結果に係る情報を一元管理しデータベース化を図る、或いは教訓集を作る等、より活用しやすい情報管理システムを構築することが有効である。これについて、外務省、JICA、JBIC、ODA関係省庁の更なる相互連携が必要である。第一歩としては、援助機関間でデータベースの相互活用体制を確立するなどの具体的な活動がとられることが望ましい。例えば、ODA関係省庁は、専門家派遣事業、研修生受け入れ事業、資金協力事業等を行っているが、これらの評価結果についても外務省をはじめとするODA関係省庁間が情報を共有し、ODA関係省庁間の連携を強化・拡充していくことが適切である。
5) 個別援助機関の枠組みを超えて、組織横断的に効率的・効果的なフィードバックの推進を図っていくことが重要であり、そのためには、ODA関係省庁から成る連絡会議を設置することが有効である。
6) ODAの透明性確保には、評価の透明性を確保・向上させることが重要であり、我が国国民に対し評価活動及び評価結果の公開を徹底しなければならない。このため、インターネット等を利用し、より迅速な評価結果の公表を更に推進すべきである。
7) 被援助国側に対する評価結果のフィードバックも重要であり、評価活動及び評価結果を被援助国にきちんと報告することを徹底する。
8) 被援助国側が我が国の評価結果からの教訓・提言を今後の事業計画の作成・実施等の改善に適切に反映させることを支援する。
9) 評価の質を向上し、より良いフィードバックを得るためには、現地ニーズを反映させることが有益である。被援助国側関係者を評価活動へ参加させ、被援助国側の評価実施能力を強化していくためのエンパワーメント評価を推進し、援助事業全体の改善につながるような環境づくりが大切である。
10)我が国の民間関係者が有する専門知識・知見を活用することにより、評価並びにフィードバックの質をレベルアップし、透明性を確保していくことも重要である。
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(3)評価人材の育成と有効活用
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評価人材には、評価手法に堪能なだけでなく、専門分野への造詣、評価のしくみの熟知、援助や評価分野の深い経験等が求められる。しかしながら、現在、国内的には大学・大学院、或いは研究機関等において、このような評価人材を育成するための体制は十分整っているとは言い難い状況にある。
評価体制を改善していくには、それを動かす人を育てることが必要不可欠であり、既にODA事業及び評価に携わっている人材、これから評価に係わろうとしている人材、そして被援助国側の人材について、その育成を適切に行う体制を整えることが急務である。また、政策レベル及びプログラム・レベル等の評価の導入・拡充も予定されていることから、これらの分野における評価人材の育成も重要である。
現在、外務省の委託調査により、評価人材の育成と活用に対する方向性が検討されている。同調査の報告及び本研究会での議論を踏まえての提言は、以下のとおりである。
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1) 国内の大学院・研究教育機関等での長期研修コース(1~2年程度)や実務家向けの短期研修プログラム(数日~数週間)等人材育成に係る研修プログラムを開発・拡充することが有益である。また、必要に応じて、予算措置も検討されるべきである。
2) 日本評価学会(2000年9月設立)等、国内における既存の学術研究機関・組織を最大限に活用し、評価人材の資質向上を図る。また、各専門分野の知識を有する人材を確保・活用・育成することも必要である。
3) 海外の大学院等で開発援助等を専門に勉強している人材を、色々な形で評価の分野でも活用することを検討すべきである。
4) 評価分野での先進事例・手法を学ぶため、世界銀行(WB)、アジア開発銀行(ADB)、国連開発計画(UNDP)等の国際機関や米国国際開発庁(USAID)、カナダ国際開発庁(CIDA)等のドナーの評価部署との人材派遣や人材交流を検討する。
5) 評価を専門分野として確立し、評価人材のデータベースを開発して、外務省、JICA、JBIC、ODA関係省庁、コンサルタント、研修機関、国内公共事業実施機関との有効活用を推進すべきである。また、国家公務員や一般企業に所属する評価専門家をより有効に活用するためには、財政面・制度面での措置等によるインセンティブの拡大も必要である。
6) 評価の資質・能力を潜在的に有する人材が評価に関わる機会がそもそも少ないことが評価人材の育成を阻んでいる状況があると思われる。これに関し、プロジェクトの計画当初から評価予算を組み込む等、予算を含む評価関連施策の拡充を図ることが必要である。
7) 人材活用の観点から、評価部門で外部の専門家を短期雇用する等、外部の人的資源の活用を含む評価のアウトソーシングを推進することが有効である。これは評価市場の拡大や評価の透明性確保にもつながり有益である。
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(4)評価の一貫性の確保(事前から中間・事後に至る一貫した評価システムの確立)
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本課題については、JICA及びJBICからの報告で明らかなように、JICA、JBICにおいては、評価の一貫性確保の重要性を認識し、様々な活動が行われている。こうした状況に基づいて、本研究会の提言は、以下のとおりである。引き続き試験的に実施してみて問題点や課題をレビューして、事前から中間・事後に至る一貫した評価システムの確立を目指すことが必要である。
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1) 個別プロジェクトの計画段階において、目的、指標、達成目標、評価計画さらにフィードバックのあり方までを網羅した「事前評価表」の作成・適用を試験的に実施し、評価の一貫性確保のためのシステムの確立に取り組むべきである。併せて、評価活動やフィードバックのクォリティ・コントロールについても、その体制を強化・拡充することが必要である。
2) このため、外務省等ODA関係省庁、JICA、JBICによって、現在JICA、JBICが試みに行っている手法をさらにレビューすることにより、事業目的の整理分類、指標・達成目標の設定方法、評価のタイミング、フィードバックの方法についての標準的なガイドラインを整備することが望ましい。この標準的なガイドラインについては、ODA関係省庁との間にも横断的な一貫性が保たれるよう配慮される必要がある。
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(5)ODA関係省庁間の連携推進
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対外経済協力審議会の「『人間を重視した経済協力』の推進について」の報告では、特に評価体制の整備について、「政府全体として関係省庁の行うODA事業全体についての評価においては更に改善の余地がある」とし、「現在、政府全体にわたるODA事業の評価について意見交換・議論をする場がないので、関係省庁間で議論をする場を作ることは検討に値する」と強調されている。
本研究会においては、ODA関係省庁の評価担当者間では初めて定期的な会合を持ち、情報・意見交換を行う場を提供することができた。このことは、本研究会の大きな成果であるとともに、今後、こうした場の重要性は、ますます高まるものと認識する。
本研究会の提言は、以下のとおりである。
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1) 本研究会の活動を通じて築いたものを拡大し活用していくために、2001年度も外務省評価室が中心となり、ODA関係省庁の連携強化に係る活動をさらに具体化していくことが肝要と考える。そのため、2001年からODA関係省庁間の定期的な意見交換・議論の場として「ODA関係省庁評価部門連絡会議」(仮称)を設置する。同会議での効果的な意見交換・議論を促進するため、評価に関する有識者、シンクタンク、NGO等の民間関係者を参加者に含め、評価能力の向上を図るとともに情報開示の場としても活用していくことで、透明性の確保への貢献が期待される。
2) ODA関係省庁間の連携による合同評価等も視野に入れ、各省庁の評価活動の成果についての情報交換を行い、情報を共有すべきである。また、関係省庁による合同評価の実施や評価セミナーの合同開催、評価学会の活用等も、連携推進の上では有益である。
3) ODA評価に関する共通テーマ、重要課題、手法研究等については、引き続き、上記連絡会議等の場を利用して議論・検討を行う。その上で具体的には、専門家派遣、研修生受け入れ事業等、複数省庁が関わるODA事業の評価を実施することが考えられる。分科会を設置する等、より具体的な議論を行う上で効果的と思われる。
4) 各省庁が共通して活用できる評価に係る標準的なガイドライン、マニュアル、雛型等の作成・整備も有益であり、今後具体的な検討を進めていくことが必要である。
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ODA関係省庁間の連携については、各省庁の評価結果を相互に配布したり、合同セミナーを開催する等、取り組みやすいところから始め、情報共有・情報交換の体制を次第に構築するとともに、本研究会のような定期的会合を今後も開催することが有効である。
外務省、JICA、JBIC及び関係省庁の連携なくして評価を含むODA全体の効率化はなしえないという気持ちで取り組むことが大切である。
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