平成12年12月
目次
序
外務省経済協力局長の私的懇談会である「21世紀に向けた対中経済協力のあり方に関する懇談会」(以下、「懇談会」という。)は、

株式会社大和総研特別顧問(元経済企画庁長官)を座長とし15人の委員で構成され
(別添1参照)、本年7月19日に第一回会合を開催し、以来9回にわたり会合を重ねた。この間、委員の間での意見交換のみならず、委員以外の有識者などからも意見を聴取した
(別添2参照)。本懇談会は79年に開始され、累積で我が国にとり第二位の被援助国となっている中国に対する政府開発援助(以下、「ODA」という。)について日中間の経済面での協力関係全般を視野に入れつつ、総合的に考察するとともに、日中関係の現状と展望を踏まえ、21世紀に向けた対中ODAのあり方を検討した。
ここに、そうした検討の結果を提言としてまとめた。この提言は当面5年程度を主として念頭において作成したものである。政府においては、本年度中に中国に対する「国別援助計画」
(注1)を策定する予定と承知する。本懇談会の提言が、同計画に最大限反映されることを望む。
我が国はこれまで、改革・開放政策の下で発展する中国との協力関係を強化することが、我が国のみならず、アジア太平洋及び世界の安定と繁栄に重要な意義を有するとの観点から、中国に対しODAを供与してきた。
我が国においては厳しい経済・財政事情を背景に、中国を含め各国に対するODAそのものに対して国民の厳しい視線が向けられるようになっているが、今後とも、中国の国際社会への参加を促し、より開かれた社会への進展を支援していくこと、そして、このような支援を通じ、日中両国が相互理解と相互信頼の関係を強めていくことは、我が国を含む東アジア地域、さらには国際社会の安定と繁栄にとり不可欠と考える。
同時に、中国に対しODAを供与するに当たっては、日中両国を取り巻く状況の変化を踏まえることが必要であり、また、我が国の国民の理解と支持を得なくてはならない。本懇談会は、こうした観点に立ち、我が国の国益に合致した対中ODAのあり方を見出すとの問題意識に基づき、検討作業を行ってきた。
1.日中関係の現状と展望
今後の対中ODAのあり方を検討する上で、まず、中国との二国間関係の現状を整理し、将来を展望しておきたい。
(1)日中関係の現状
(イ)中国の発展と変化
72年9月、田中総理(当時)訪中とその際発表された「日中共同声明」によって、日中両国は、戦後27年を経て国交を正常化した。78年8月には「日中平和友好条約」が署名された。同年10月に訪日した鄧小平副総理(当時)は、中国は自力更生を堅持しつつも日本を含む各国の先進的経験に学び参考とすること、日本の科学技術や資金の助けを借りて、中国の建設の足取りを速めるべきことを強調した。同年12月に、中国共産党第11期中央委員会第3回全体会議において、中国政府が改革・開放路線へ転換したことを踏まえて、翌79年には中国側より円借款供与要請があり、同年12月に、訪中した大平総理(当時)は、我が国の中国に対するODAの供与を約束した。これは、賠償を行うとの考えに基づくものではなく、中国の改革・開放政策を支援することが我が国のみならず、アジア地域、ひいては世界の安定と繁栄に合致すると判断されたことによるものである。
以来、中国は、改革・開放政策を推進する中で、国内総生産(GDP)(ドルベース)が約3.8倍に増加し、マクロ的に目覚ましい経済発展を達成した
(注2)。同時に、中国経済の国際化が進展し、今や世界貿易機関(WTO)への加盟を実現しようとしている。さらに、特に近年の情報通信技術(IT)の進展やインターネットなどの普及
(注3)により、経済・社会の開放の度合いも急速に増しつつある。また中国は、対外的にも、例えば、APEC(アジア太平洋経済協力)やASEAN(東南アジア諸国連合)+3(日中韓)、ARF(ASEAN地域フォーラム)といった地域協力の枠組みに対し参画するなど国際社会の責任ある一員としての役割を果たそうとの姿勢を強めている。
その反面、中国の一人当たりのGNPは750ドル(98年)と低く(経済協力開発機構(OECD)開発援助委員会(DAC)の定義によれば開発途上国の中の「低所得国」に属する。)、また地域間格差も極めて大きい。九州・沖縄サミットなどの機会に提唱されている「2015年までの世界の貧困人口比率の半減」という国際開発目標の中で、2億人を越えるとされている中国の貧困層への対応は国際的な課題の一つとなっている
(注4)。
(ロ)日中関係の質的転換
こうした中国における改革・開放路線の進展や市場経済のグローバル化を背景に、日中関係は様々な面で緊密化し、全体として望ましい方向で発展してきており、質的な転換も遂げつつあると言えよう。
第一に、貿易や投資といった経済面での繋がりの緊密化、さらには留学生や観光などを通じた人的交流の拡大に伴い、日中間の相互依存が深まりを増してきている
(注5)。
第二に、日本、中国ともに、グローバル化した国際経済社会の中に組み込まれつつあり、各々が国内において抱える経済・社会上の課題や問題も、国際社会のグローバルな努力の一環として解決される必要性が高まっている。中国のWTO加盟が実現すれば、中国の国際経済社会との一体化がさらに強まることとなろう。
第三に、特に、97年夏以降のアジア通貨・経済危機を契機として、日中両国のみならず東アジア地域各国において、東アジア地域の安定と繁栄に大きな役割を有する日本と中国が、地域全体のために、共に協力していく必要があるという雰囲気が醸成されるようになった。そうした結果として、98年11月、江沢民主席訪日の際に発表された「日中共同宣言」では、従来の二国間「善隣友好」という関係を越えて、「平和と発展のための友好協力パートナーシップ」の確立が謳われるに至った。
第四に、このように、日中間に全体として、共通の利益や関心が一層幅広いものとなり、日中両国政府の間でも、両国間の関係をより前向きで強固なものとする必要があるとの考え方が共有されている中で、両国間に少なからぬ問題が存在している。例えば、中国国内においては、歴史問題や台湾との関係を中心に、折に触れて我が国に対する懸念が表明されることがある一方、我が国国民の間では、近年の中国による核実験、軍事費の増大、武器輸出、最近の海洋調査船や海軍艦艇の問題などを背景に、中国の経済や軍事面での強大化、さらにはナショナリスティックな傾向と受け止められる事象に対して、警戒心の高まりが見られる。
こうした中で、我が国としても、日中間の意思疎通を一層密にして、相互理解を深めることが必要であり、また、中国も国際社会の責任ある一員となるよう前向きの努力を強化していくことが求められている。
(2)日中関係の展望と対応
我が国の対外関係の基本は、我が国の安全と繁栄を維持・強化することである。そのためには、平和な国際環境の保持が必要であり、特に我が国が位置する東アジア地域の平和と発展が不可欠である。そのためには、地域のいかなる国も孤立することなく、協力していくことが望まれる。中国もまたより開かれた社会となり、国際社会の一員としての責任を一層果たしていくことが強く望まれる。
そのためには、中国が国際社会への関与と参加を深めるよう働きかけるとともに、中国自身のそうした方向での努力を支援していく必要がある。
このような観点から、我が国としても例えば、政治面、経済面、さらには文化面といった広範な分野での二国間協力や、草の根レベルでの人的交流、学術交流などの強化を通じ、中国との間で幅広い関係を構築していくとともに、両国間の相互理解及び相互信頼の増進を図ることが極めて重要である。また、民間の貿易・投資活動の発展に加えて、ODAを通じて改革・開放政策を支援をしていくことは、引き続き大きな意義を有している。
さらに、近年アジア太平洋地域においては、APEC、ASEAN十3、ARFなど地域協力、地域対話のための枠組み作りが進んでおり、中国もこれら枠組みに参画するようになっている。こうした傾向を踏まえ、このような多国間協調の枠組みに対する中国の関与が一層強まるよう我が国としても支援していくべきであろう。
また、環境、国際組織犯罪、感染症など地球的規模の課題に対する共通の取り組みなども必要である。
さらには、そういった努力が実を結ぶためには、その前提として確固とした安全保障の枠組みが存在していることが不可欠である。その意味で、アジア太平洋地域全体の平和と安全に資する機能を果たしている日米安保体制は今後とも堅持されるべきである。また、これを補完するものとして、ARFといったアジア太平洋地域における多国間の対話・協力の枠組みの中で、信頼醸成や予防外交などの努力を進めていくことが重要である。
2.対中ODAを巡る状況の変化と新たな検討の必要性
(1)対中ODAを巡る状況の変化
79年に対中ODAを開始して以来99年度までに、我が国は、中国に対して円借款を中心として総額約2兆6,883億円のODAを実施してきた(交換公文ベース、円借款2兆4,535億円、無償資金協力1,185億円、技術協力1,163億円)。個々の協力案件は、概ね順調に実施されている。円借款の返済も滞りなく行われてきている
(注6)。また、これらのODAに加え、国際協力銀行(JBIC)の国際金融等業務(旧輸銀業務)においては、アンタイド・ローン
(注7)を中心に99年度までに3兆4,282億円の融資を実施してきた。
我が国の対中ODAは、主として円借款による協力を通じ、全体として中国の沿海部のインフラのボトルネック解消及びマクロ経済の安定に貢献してきた
(注8)。また、無償資金協力や技術協力は主に保健・医療といった基礎的生活分野や、環境分野、人造りなどの事業に寄与してきた
(注9)。国費留学生も含めたこうした協力は中国が必要とするノウハウや技術の移転に貢献してきた。このように我が国ODAは中国の改革・開放政策を支援する上で大きな役割を果たしてきたと言うことができよう。
DACによる日本の開発協力政策及び計画に関する審査報告書
(注10)においても、日本の対中ODAについて対中円借款などの援助が「貿易や直接投資と共に、中国経済の急成長に大きく貢献している」旨報告されている。また、中国側も日本のODAが中国の経済発展に果たした役割を高く評価している
(注11)。
しかし、ODA供与を開始した当時と比較すれば、近年ODAを巡る状況は大きく変化してきている。
中でも、重要な変化としては、我が国の厳しい経済・財政事情の下、日本国内においてODAのあり方について種々の厳しい議論が出されていることである。ODAが効果的、効率的に実施されているのか、国益にかなう形で取り進められているのかなど、そのあり方ついて議論が高まっている。特に中国の場合については、中国の国力の増大、すなわち、経済力・軍事力の進展やビジネスの競争相手としての存在感の増大といった変化があるため、対中ODAについての批判はより厳しいものとなっている。これまでの我が国のODAの成果を振り返る中で、中国に対する援助の一部が、「ODA大綱」(92年6月閣議決定)の「原則」
(注12)に則していないのではないか、円借款供与額を多年度にわたり約束してきた結果、中国はこれを一種の既得権益ととらえているのではないか、我が国の援助が中国国内において知られていないのではないか、といった批判がある。
第二には、中国が高い経済成長を遂げた結果、国内貯蓄額も高い水準となり
(注13)、これらが開発に活用されていくことが望まれるほか、開発上の課題の中には、中国が自ら国内外の民間資金を調達することにより手当可能なもの、あるいは民間自身で実施可能なものが増えてきていることである。そのために、供与条件の緩やかな公的資金、特に我が国のODA資金に対する期待や需要の対象が変化していることが挙げられる
(注14)。実際にも、すでに我が国ODAへの要請は、環境保全、貧困緩和、地域間格差の是正、内陸部開発などに資する事業への支援が多くなってきている。
第三には、中国において市場経済化が進展する中で、WTO加盟をも念頭に、むしろ国際経済への一体化のために不可欠な制度造りや法制度整備、あるいは人材の育成といった、資金の投入だけでは解決が困難ないわばソフト面での開発需要が高まっていることである。
(2)今後の対中ODAを進めるに当たっての考え方
このように中国に対するODAを巡る状況が変化する中で引き続き対中援助は重要な意義を有していると考えられる。特に、中国の国際社会への参加を促し、より開かれた社会の確立を促していく上で、また、環境、貧困削減や保健・医療、人造りといった中国における開発需要への対応、さらには、安定し良好で幅と厚みのある二国間関係を構築するための一助として、ODAによる支援は重要な役割を有していると考えられる。
今後の対中ODAを取り進めるに当たって、基本とすべき考え方は以下のとおりである。
第一には、中国の新たな開発需要を踏まえつつ、我が国国民が納得し、支持できるような援助をより効率的に実施する必要がある。
第二には、当然のことではあるが、中国が自ら実施できることは自ら実施するとの点である。中国の発展に伴い、中・長期的には中国自らの国内資金や海外からの民間資金調達がより大きな役割を担っていくべきであろう。
第三には、我が国の対中協力についても、ODAのみならず、その他の公的資金、さらには民間資金とも連携を図ることにより、その目標の効率的かつ効果的な実現に努めるべきである。
第四には、我が国の国益は、中国が国際経済社会の中に一体化され、政治的にも国際社会の責任ある一員となることであるとの認識を踏まえ、市場経済化などに向けた努力を促していくようなODAを実施することが重要である。
第五には、我が国の対中ODAが軍事力強化に結びつくことなど、「ODA大綱」の「原則」にそぐわないことのないよう注意を払っていく必要がある。
日中両国政府は、98年の首脳会談の際に、円借款について 多年度にわたって供与額を約束する方式を2000年度をもって終了させることで合意しており、明年度以降は単年度供与方式に移行することとなっている。こうした合意を踏まえ、今後は、無償資金協力、技術協力のみならず、円借款も含むODA全体について、従来の支援額を所与のものとすることなく、いわば「案件積み上げ方式」を採っていくことが重要である。即ち、中国の我が国に対する新たな支援需要に適切に対応しつつ、以下3.で述べる重点分野・課題を中心に、我が国の厳しい経済・財政事情を勘案し、個別具体的に案件を審査の上、実施していくことが適切と考える。
3.21世紀の対中経済協力の重点課題・分野
今後の対中ODAは以下の重点課題・分野を中心として具体的案件の審査・採択をすべきである。これにより、今後の我が国の対中ODAは従来型の沿海部中心のインフラの整備から、環境保全、内陸部の民生向上や社会開発、人材育成、制度作り、技術移転などへの支援を中心とする分野をより重視し、また日中間の相互理解促進の分野に一層の努力が払われるようになることが期待される。
実際にも既に近年、円借款においては、例えば99年度に供与した19案件のうち、13案件が内陸部、14案件が環境分野となっているように、従来の沿海部におけるインフラ案件中心から、次第に内陸部、環境保全などに重点を移しつつある。
(1)改革・開放支援
中国の改革・開放政策への支援を通じて、中国がより開かれた社会へ発展していくよう促していくことが大切であり、特に、市場経済加速化への努力を支援し、中国経済の国際経済との係わりの一層の強化を促すことが極めて重要となる。また、市場経済化の担い手たる民間の活動を活発化させるためには、経済活動を律する法制度の確立などガヴァナンス(良い統治)強化を支援すべきである。
具体的には、世界経済との一体化支援としては、制度整備や人材育成を含む市場経済化促進のための支援や、経済活動を律する世界基準やルール(WTO協定を含む)への理解を促進するための支援が重要である。我が国としても、これまでWTO加盟支援のためのJICA(国際協力事業団)研修事業などを行ってきているが、今後そのような支援を一層強化していくべきである。
ガヴァナンス強化への支援としては、JICA研修事業において、我が国の刑事司法や科学技術に関する行政法の紹介を行ってきているが、今後は、特に地方の政府関係者などによる法の執行や行政における透明性・効率性の向上のための支援や草の根レベルでの啓発・教育活動支援などを実施すべきである。
(2)環境問題など地球的規模の問題を解決するための協力
中国においては、酸性雨の降雨面積及び砂漠化面積が急速に拡大し、それぞれ全国土の30%、18%を占めており、深刻な状況である(中国国家環境保護総局「1999年中国環境状況公報」(2000年6月公表)より)。また、エネルギー消費の急増は、地球温暖化を始め様々な環境問題を深刻化させるとともに、アジア太平洋におけるエネルギー・セキュリティに影響を及ぼす可能性もある。さらにHIV/AIDS感染者数・患者数は日本の50倍の約50万人(UNAIDS
(注15)資料(99年)より)、結核の推定患者発生数は約141万人(WHO資料(98年)より)に上る。今や、環境問題や感染症対策といった地球的規模の問題への対処は喫緊の課題となっている。
我が国はこれまでも、これらの分野への協力に取り組んできている。例えば環境分野においては、日中友好環境保全センターなどの拠点を中心とした協力により、環境保全に係る人材育成や、環境関連技術の普及を支援するとともに、「日中環境開発モデル都市構想」や「環境情報ネットワーク整備計画」
(注16)を通じて大気汚染・酸性雨対策や環境情報の収集・把握体制構築に協力している。
また、感染症については、我が国からの積極的協力もあり、94年を最後に野生株ポリオの発生は見られず、中国における野生株ポリオは根絶された
(注17)。
こうした酸性雨問題や生態系の破壊などの環境問題や結核、HIV/AIDSなどの感染症対策といった地球的規模の課題は、その影響が直接に我が国にも及ぶものであり、これらの課題に対処するための協力は日本にも直接利益をもたらすものと考えらえれる。今後ともこれまでの協力の成果を最大限活用しつつ、これらの課題に積極的に対応していくべきである。特に生態系の回復には、水資源の管理や植林が重要であることを踏まえ、こうした分野での協力にも努めるべきである。エネルギー関連環境対策の観点からは、新・再生可能エネルギー及び省エネルギーの導入に向けた努力を支援していくことが重要である。感染症対策については、上述のとおり我が国の協力によりポリオの根絶に成功した経験を活かし、HIV/AIDSや結核といった感染症の撲滅に向け、引き続き協力を行っていくべきである。
(3)相互理解の増進
両国国民間の相互理解の促進は両国間の長期にわたる良好な関係の基礎をなすものである。97年に行われた中国人に対するある世論調査によれば、思いつく日本人の名前の第10位までに軍人の名前が3人含まれるなど、中国人の日本に対する理解、対日観には、依然として過去の戦争が色濃く影を落としている
(注18)。このような状況に鑑み、中国自身が対日観の改善のため、具体的努力をすることが極めて重要であるが、同時に、中国人が実際に日本人や日本文化に触れる機会を増加させることが、両国国民間の相互理解の促進にとり有効な手段と言える。例えば、別の意識調査では、日本を「非常に好き」または「やや好き」と答えた人は、一般の中国人の16%であるのに対して、日本語を学んでいる中国人では4割に上った
(注19)。さらに、別の調査では、日本留学から帰国した人の63%が「日本を好き」と答えている
(注20)。
我が国はこれまで、留学生の招聘や、次代のリーダーとなる人たち、さらにはより広く一般の中国人に対して、日本人と直接交流し、また、現代の日本や日本文化を学ぶ機会を提供することにODAを必ずしも十分に活用してこなかった。この点、欧米諸国の努力には参考とすべきものがあると言えよう。今後はODAにより、専門家派遣や研修員受入れ、留学生支援、青年交流や文化交流、さらには日本研究の促進や日中共同研究を含む学術交流・大学間交流を通じて、相互理解の増進に資するような人材育成の強化など、人と人との交流を民間とも協力しつつ一層進めていくべきである。
その際、日中両国民が直接接触する機会をもたらす観光の促進のための助言などの支援も意義があろう。
(4)貧困問題克服のための支援
中国では、特に内陸部を中心に現在なお2億人以上もの人々が一日1ドル以下の生活をしている。こうした貧困問題への対処のためには、(i)一人当たり所得に大きな格差がある沿海部と内陸部の格差是正
(注21)、(ii)自然条件等に恵まれない内陸部を中心とした地域の農業生産性の向上支援等を通ずる都市と農村の格差是正、(iii)社会的弱者対策などへの支援が必要である。もとより貧困格差の是正は、一義的には中国国内の所得再配分に関わる問題である。中国政府が主体的に取り組むべき課題であって、我が国としては、この分野における中国政府の取組を政策・制度面での整備、人造りといった面で支援することを重視すべきであるが、同時に我が国を含む海外援助機関による支援は中国の貧困問題の軽減に貢献し、ひいては中国社会全体としての成熟度の向上に寄与することとなると思われる。
21世紀に向けた開発協力の方向性を定めたOECD/DACの「新開発戦略」
(注22)では、目標の一つとして、2015年までに世界の貧困人口比率の半減が謳われており、本年7月開催された九州・沖縄サミットにおいてこのことが再確認された。国際社会が協力して貧困の削減に努めていくことは、国際社会の一員たる日本の重要な役割の一つである。日本は、これまでも貧困地域に対し農業、保健・医療といった基礎生活分野の充足に協力してきたが、今後ともこれら貧困層を対象に、将来の人造りの基礎ともなる教育・保健分野を中心として草の根レベルで支援の手を差し伸べるとともに、貧困人口を多く抱える地域の民生向上に向けた協力も貧困層に裨益するようなものを中心として行うことが重要である。
(5)民間活動への支援
中国においては、多数の日本企業が事業を展開しており
(注23)、両国間の幅広い関係強化に大きな役割を担っている。かかる観点から、日本企業による活動の促進に資するような支援を行っていくことも必要である。中国のWTO加盟や、その条件整備の一環として、例えば、知的所有権保護政策の強化のための支援など、中国側の投資受入環境整備努力を支援することは、日本企業の円滑な活動を確保することにもつながる。
また、対中援助においても、民間部門の知見の活用に努め、円借款の供与においては、大幅に低下している日本企業の受注率
(注24)を高めるための工夫が必要である。
(6)多国間協力の推進
日中両国は、上述のとおり、二国間の「善隣友好」関係を越え、東アジア地域、さらには国際社会全体にわたる課題の解決にともに協力していくという新たなパートナーシップの確立に合意したが、その促進のためにODAを通じても具体的な実績を積み上げていくことが、極めて意義のあることと言える。既に我が国は、シンガポールやマレーシア、タイなどとの間で、ともに他の開発途上国を支援していくといういわゆる南南協力
(注25)を推進している。中国との間でも、例えば我が国が重点的に支援してきた人造り拠点(例えば、日中友好病院など)の活動成果などを基にして、アフリカなど第三国に対する支援活動
(注26)を協力して行うべきであろう。
また、日中韓の枠組みや東アジア域内での環境分野での協力など、東アジアにおける域内協力の推進を積極的に図るべきである。
4.実施上の留意点
中国への援助実施に当たっては、以下の諸点に留意して進めるべきである。
(1)政策協議の強化
中国における国防費の増大やミサイル開発、民主化の進展及び人権の保障状況などとの関連で、我が国国内においては対中ODAに対する問題点が指摘されている。我が国は、「ODA大綱」に基づいてODAを実施してきており、中国についても、「ODA大綱」の「原則」に述べられた軍事支出や武器輸出の動向を注視するとともに、民主化の促進や基本的人権及び自由の保障状況についても十分注意を払うよう努めてきている。また、こうした大綱に基づく考え方については、種々の機会を通じて中国側に伝え理解を促すとともに、軍事面での透明性向上を働きかけたり、法制度整備などを通じた民主化に資する支援に取り組んでいる。中国側における「ODA大綱」についての認識を深めていくために、援助に関する政策協議の中で、大綱に関する議論を強化していく必要がある。
また、大綱に関する問題について、ODA関連の協議に限らず、ハイレベルの協議においても、随時中国側に提起していくことが必要である。特に、安全保障、軍備管理・軍縮、人権などの分野毎に両国の関係当局間の協議が実施されている。これらは大綱の趣旨についての中国側の認識を深める良い機会でもあることから、このような協議の場を積極的に活用していくべきである。中国の第三国への援助についても援助統計の発表など透明性の向上を働きかけていくことが重要である。
(2)日本国民に対する対中援助の透明性の向上
納税者である日本国民の対中援助に対する理解が促進されるようODA案件の選択の過程や実施状況、その成果などに対する情報公開を一層進めるとともに、インターネットの活用などを通じて、分かりやすい情報の提供に努めるべきである。
(3)顔の見える援助の推進
我が国援助が中国の国民に広く知られることが、我が国における対中援助への支持基盤を再構築するに際して不可欠である。先般訪日した朱鎔基総理も、訪日前の日本人記者との会見、あるいは本年10月に北京にて開催された日中経済協力20周年記念式典に出席した日本代表団との会談において、今後我が国からのODAについて国内に対する広報努力を高めていく旨述べている。こうした中国側の努力を促すとともに、我が国としても、例えば以下のような工夫を積極的に進める必要がある。
(イ)ODAは政府間の交渉に基づき実施されるものであるが、案件形成の段階で実際に案件を実施する地方政府の直接の意向をも反映できるような方式を工夫していくべきである。こうすることにより、地方政府は日本の援助であることの実感を深めることが可能となる。
(ロ)友好都市
(注27)関係などを通じて、中国と関係を有する地方自治体や中国に関心を有する我が国NGOは少なくない。例えば、大連市と友好都市の関係にある北九州市は環境分野の国際協力を81年から続けており、その間には、開発調査
(注28)を通じて大連市の総合的な環境保全対策の基本計画(マスタープラン)を策定するなど、地方自治体やNGOの中には、自ら協力事業を実施したり、政府のODA事業に参加・協力している例も少なくない。ODAの実施に当たって、これら自治体やNGOとの連携を積極的に進めるとともに、これら主体による草の根レベルでの交流活動も支援していくべきである。
(ハ)現地大使館・総領事館が主導して実施する草の根無償資金協力
(注29)は、中国において非常に活発となっており、額は限られるものの、直接住民に裨益し、住民からの評価も高く、よく目に見えることから、より一層積極的に活用していくべきである。
(ニ)近年中国においては、市場経済化の広がりと共にマスメディアの姿勢にも変化が見られつつあり、例えばテレビ局が、積極的に広告を受け入れるなど以前では考えられなかった状況になっている。また、テレビのみならずインターネットの普及も目覚ましい。これらマスメディアの変化に注目し、ODA広報を強化するために、ODA広報関係予算一般の強化や、協力案件の費用の中に広報費を組み込むよう努めるべきである
(注30)。
(4)対中技術協力の一層の活用とあり方の見直し
中国への技術協力は、同国の経済・社会発展に伴い、従来型の技術移転、人造りに加えて、政策・制度面での知的支援といったソフト面での援助がより重視される必要がある。
したがって、援助需要の変化に柔軟に対応し、効率的に事業を実施するためには、専門家、青年海外協力隊に加え、NGO、地方自治体、シニア海外ボランティアの一層の活用、あるいは我が国におけるソフト面での援助人材の育成など、我が国自身、既存の制度の見直し、体制の整備を図るべきである。さらには、ODA案件を中国側と共同で形成していく観点から、これまでの中国側の要請窓口が適当か否か、再検討する必要がある
(注31)。
また、資金協力との連携をより一層強めていくことが効果的な技術協力を行う上で不可欠である。さらには、これまでの技術協力の実績(日中友好病院、日中友好環境保全センターなど)を積極的に活かしていくために、そうした協力拠点に対しては、その効果が全国的な広がりをもつように継続的協力を行うことが重要である。
(5)プロジェクトの共同形成
案件採択において、従来は中国側がある程度要請案件を絞って我が国に提出してきたが、今後は、案件の形成の過程に我が国もさらに積極的に関わり、透明性を高めつつ、中国側と文字通り共同で案件を形成していく体制を採用すべきである。
円借款については、本年度をもってラウンド方式が終了し、来年度からは3~5年程度を目途として候補案件を一覧するロング・リストに基づき各年度毎に案件を採択する単年度方式
(注32)に移行することで合意されている。この合意を着実に実施し、案件の選択に至る過程の透明性向上を図るべきである。
また無償資金協力の案件選定や技術協力における研修員、招聘される青年などの選択の過程についても透明性を向上させるべく、そのあり方を改めて検討する必要がある。
(6)その他
その他、以下のような課題についても積極的に取り組むべきである。
(イ)モデル・アプローチ(特定モデル地域開発のための重点的援助及びモデル・プロジェクトの実施と普及)
広大な国土と多くの人口を有する中国において、効果的かつ目に見える援助を実施するためには、特定地域の開発または特定分野に着目したモデル・アプローチが有効と考えられる。
第一に、特定の地域をモデルとして選定し、そこに我が国が有するあらゆる援助手段を動員し、集中的に地域開発を支援する。そうすることによって、各々の援助を個別に実施する場合に比べて、目に見える多くの成果を上げることができ、また、中国自ら地域開発を進める際の参考となれば、我が国の援助に対する評価が一層高まると考えられる。
第二に、「日中環境開発モデル都市構想」
(注33)のように、特定分野に関する目標を実現すべくモデル地域を定め、モデル・プロジェクトを実施する。そして、その成果をモデル地域のみに留めることなく、同様の問題に直面する他の地域に普及させることができれば効果的であろう。
(ロ)旧輪銀資金及び民間資金との関係の整理(役割分担の明確化と連携の強化)
99年10月、特殊法人改革の一環として海外経済協力基金(OECF)及び日本輸出入銀行の統合により国際協力銀行が設立された。OOF
(注34)の範疇に入る国際協力銀行の国際金融等業務(旧輸銀業務)は、我が国の対外経済政策を金融面から支援することを目的としている一方、円借款を含むODAは、開発途上国の国造りを支援することを目的としており、その目的・趣旨を異にしている。したがって、両者の重点分野、対象地域などについても、自ずと差異が見られるところである。
しかし、国際金融等業務のうち、特にアンタイド・ローンについては、円借款との間で運用面における区別が必ずしも明確ではない、といった批判が特に中国における案件においてなされている。
公的資金という限られたリソースを効果的・効率的に活用するために供与条件の緩やかなODA及び市場金利のOOFという資金の特性を踏まえつつ、その専門性、ノウハウを活かし、相乗効果が得られるよう従来にも増して配慮がなされるべきである。また、ODAであれOOFであれ、その実施に当たっては、我が国の対中外交を踏まえた形で運用されることが極めて重要である。
既に、我が国実施機関レベル(国際協力銀行)及び中国政府(財政部)においてODA及びOOFの一元管理が進んでいることを踏まえれば、今後は中国側の様々なニーズに対して、各々のスキームの目的・趣旨に応じ、明確に使い分けを行うことで、公的資金のより効果的・効率的運用を図るとともに、全体として我が国の国益の増進に資するよう、OOFについての我が国政府・実施機関における適切な取り進め方を至急検討すべきである。
また、中国の持続的な経済成長のためには、公的資金のみならず、民間の資金・ノウハウを導入し、インフラ整備などを進める必要がある。但し、その際、民間だけでは負うことができない種々のリスクが存在していることから、そうした民間活力によるインフラ整備などが円滑に行われるよう、公的資金を活用し、関連する基礎インフラ整備などの支援を行うことを検討していくことが必要である。
(ハ)国際機関(世界銀行、アジア開発銀行)など主要援助機関との連携強化
中国は、目覚ましい経済発展を達成した結果、世界銀行の融資ガイドラインに基づき、99年からは供与条件の緩やかな国際開発協会(IDA
(注35))資金融資の適格国の立場を失い、国際復興開発銀行(IBRD)資金のみの融資対象国となった。アジア開発銀行(ADB)においては加盟当初から供与条件の緩やかなADF
(注36)からの融資は受けていない。
しかし中国は、世界銀行やADBが有する貧困削減や社会開発政策についてのノウハウを引き続き有益と見なしており、資金の譲許性は低くなったものの、従来同様両行からの融資に大きな期待を寄せているものと見られる。
今後の我が国の対中ODAは、従来の沿海部におけるインフラの整備から、より内陸部の民生向上や社会開発、人材育成、環境保全などをより重視することが期待される。その際、プロジェクトの形成、実施に当たっては、これらの分野でそれなりの蓄積を有する世界銀行及びADBの有する人的リソースや各種情報の活用を図るとともに、これら機関による事業との連携を強化することが望まれる。
また、結核対策など、中国国内の広範囲において同時並行的に推進する必要のあるプロジェクトについては、これら国際機関との地域分担あるいは機能分担により協調して実施することが望まれる。
さらに、マイクロクレジット・プロジェクト
(注37)のような、実施に当たって多くの人的リソースが必要な援助を行う場合は、国連開発計画(UNDP)などとの共同実施の可能性を検討すべきである。
(ニ)二国間及び域内協力を念頭に置いたIT協力の検討並びに推進
中国では、近年ITの発展には目覚ましいものがある
(注38)。中国政府は国内開発においてITを積極的に活用することを表明しているほか、IT関連のベンチャービジネスも活発な動きを見せている。そうした中で、ITの開発・利用は民間を中心に進められていくものとの認識から、政府の役割は民間の取組を補完する形で、各般の政策的手段を組み合わせた柔軟な協力を検討すべきである。
具体的にはITに関わる基準や制度などのソフト面での支援の可能性の検討に加えて、IT発展の基盤を支える人材育成などに貢献していくべきである。
また、中国を始めとするアジア太平洋地域におけるITの普及は、我が国自身のITのさらなる発展に貢献し、また我が国の活力ある成長にも重要であるとの認識に基づき、IT分野の協力を通じて、そうした「好循環」の形成を図っていくべきである。
(ホ)国内における留学生受入れ体制の強化
留学生支援など人的交流を大規模に進めていくに際して、国内における受け入れ体制が隘路となり得る。したがって、ODAによりその隘路を解消する可能性を検討する。
(ヘ)「対中援助評価委員会」の設置
本年3月に公表された「ODA評価体制の改善に関する最終報告書」
(注39)においては、従来より行われてきた個別の援助案件に関する案件完成後の事後の評価に加え、政策・プログラムについての評価や、援助実施の中間段階での評価の重要性が謳われた。中国に対する援助についても、これまでの個別案件の評価のみならず、政策・プログラム・レベル(例えば、中国に対する国別援助計画、あるいは、円借款、無償資金協力、さらには専門家派遣や研修員受入といった技術協力などの援助形態別、環境、保健・医療などの分野別)での評価を積極的に実施すべきである。
さらには、民間の有識者をメンバーとする「対中援助評価委員会(仮称)」を設置して、定期的に意見交換を行い、本提言及び今後政府によって策定される中国に対する国別援助計画の実施状況を点検するとともに、同計画が想定している5年間程度の期間が終了する時期を目途に、中国への援助計画全体についての評価を行い、政府に対し助言することが望ましい。
なお、こうした評価を実施していくに当たっては、中国側の考えや評価にも十分配慮すべく、共同評価などを行うことも有益である。また、第三国、国際援助機関などによる評価を対中ODAの改善のために役立たせることも重要である。
注釈
(注1)「国別援助計画」:
ODAの効率性・透明性向上に向けた取組の一環として、被援助国の政治・経済・社会情勢の認識を踏まえ、開発計画や開発上の課題を勘案した上で、今後5年間程度を目途とした我が国の援助計画を示すもの。これまで、9ヶ国(タイ、フィリピン、ベトナム、バングラデシュ、エジプト、ガーナ、ケニア、タンザニア、ペルー)につき策定の上、公表されている。
(注2)中国の経済発展:
中国の実質GDPは79年から98年にかけて2,522億ドルから9,609億ドルへと約3.8倍増加しており、いずれの年も同年の我が国のGDPの約4分の1である(『WORLD DEVELOPMENT REPORT 1981』及び『同1999/2000』より)。また、一人当たりのGNPで比較した日中間の経済格差は79年から98年にかけて約34:1(8,730ドル:260ドル)から約43:1(32,350ドル:750ドル)とむしろ広がっている(『World Bank Atlas 1981』及び『同2000』より)。
(注3)中国におけるITなどの進展:
例えば、固定電話の設置台数は約1億3,000万本に達している。また移動電話は7,000万台に達し、今後も2~3年で倍増する見込みである(本年10月16日、日本記者クラブにおける記者会見での朱鎔基総理発言より)。また、インターネット用ホストコンピュータの数は95年1月から2000年7月までの間に569台から87,923台へ150倍以上増加している(Internet Software Consortium資料より)。
(注4)中国の貧困層:
中国国内において一日1ドル以下の生活水準の人口は2億人以上存在すると言われる(『WORLD DEVELOPMENT REPORT 1997』及び『同1999/2000』より)。
(注5)日中間の相互依存関係の深化:
例えば、貿易面では、日本にとって、中国は米国に次ぐ第二位の貿易相手国であり、中国にとって、日本は第一位の貿易相手国となっている。また、日本の対中直接投資は、79年から90年の累計で1,424件、総額36.65億ドルに過ぎなかったが、95年には契約額が75.92億ドルに達し、史上最高を記録した。現在、日本の対中直接投資は99年末まで累計18,843件、353.04億ドル(契約ベース)に達している(中国対外貿易経済合作部統計より)。また、ここ一両年、日本の対中投資は、欧米特に米国とは対照的に減少したが、このところ再び増加の傾向をみせている。
人の往来についても、中国への渡航日本人は90年から98年にかけて約37万人から百万人超へ2.7倍増加したほか、今後は中国からの観光客の増加が見込まれる。中国での在留邦人数は80年から98年にかけて6,199人から44,657人へ7倍以上増加し、在日登録中国人数も90年から98年にかけて約15万人から約27万へ1.8倍増加している(外務省『海外在留邦人統計』より)。また、中国からの留学生数は大学・大学院合わせて90年度から99年度にかけて16,315人から26,877万へ増加しており(文部省『学校基本調査報告書(高等教育機関編)』より)、我が国に滞在する外国人留学生の約半数は、中国からの留学生となっている。
(注6)懇談会における国際協力銀行及び国際協力事業団の報告:
借款又は融資について国際協力銀行は、中国の利子元金の返済は順調に行われており(98年末までの円借款貸付実行額:約1兆5,422億円、回収額(元利合計):4,880億円)、他の被援助国と比較しても延滞、返済拒否のない「優秀な借り手」としている。
また、技術協力について国際協力事業団は、「中国は日本が求める費用をきちんと負担し、自助努力を行う国であり、日本のODAの精神に合致する優等生と言える」としている。
(注7)アンタイド・ローン:
我が国の輸出入若しくは海外における海外経済活動の推進または国際金融秩序の安定に寄与することを目的とした資金供与。市場金利ベース(長期プライムレート - 0.2%)で償還期間は現在のところ7~8年。我が国からの資機材の調達を資金供与の条件としないため「アンタイド・ローン」と呼ばれる。中国に対する累積承認額は99年度まで約2兆2,300億円(本年11月現在の残高は約4,000億円)である。
(注8)円借款による貢献事例:
例えば、中国における鉄道電化総延長(約13,000キロメートル)の約35%(約4,600キロメートル)、港湾における1万トン級以上の大型バース(約470)の約13%(約60)、下水処理場処理能力(約1,100万トン/日)の約35%(約400万トン/日)が円借款によるものとされる(国際協力銀行調べ、いずれも98年時点)。
(注9)我が国の無償資金協力及び技術協力:
例えば、我が国無償資金協力によって設立された日中友好病院では、一日に約3,000人の患者の治療を行うなど、主要な医療機関となっている。
技術協力についても、行政官の養成支援などの分野を中心に、98年度までの累計で9,000人近い研修員を受け入れたほか、4,000人の専門家を派遣した。
また、無償資金協力と技術協力双方を通じ支援を行っている日中友好環境保全センターは、環境保全に係る人材育成及び公害防止技術の開発・研究の中心的機関として、大気汚染・酸性雨対策などの面で積極的な活動を行っている。
(注10)OECD/DACによる日本の開発協力政策及び計画に関する審査:
DACでは各DACメンバー及び全体の開発援助活動の向上を図るために定期的な相互審査を実施しており、各メンバーは約3年に1度の割合で審査を受ける。相互審査はDAC事務局の代表とDACメンバーから選ばれた2ヶ国の審査国によって実施される。99年に発表された対日審査の審査国は仏及び英国である。我が国の対中ODAについては、審査報告書中の付属資料「中国訪問に関する報告」において以下のような記載例がある。
- 日本は事業ごとの援助に焦点を当ててきたが、現在はODAを5年程度の政策の中で考え、中国に対する国別援助計画を立案中である。その意図は、日本の援助制度の全ての要素を中国とのパートナーシップを通じて整合させることである。この方向性は妥当で積極的なものであり、日本援助の妥当性、有効性、効率を国単位で評価するために不可欠なものである。
- 学会、研究機関、各種の公共機関、民間機関及び市町村レベルなどで、研修、情報交換、相互訪問、一般調査等が活発に行われている。日中友好環境保全センターはその代表例である。このような日本の技術主導型のアプローチは成功例である。
- 両国政府が毎年全援助形態を対象とする協議において、政府や事業に関する話し合いが中期的な枠組みに基づいて行われることは有益である。
- インフラ整備のため円借款など、近年の日本の援助は貿易や直接投資と共に、中国経済の急成長に大きく貢献している。
- 日本が社会分野への援助を増やし、内陸部のより貧しい省を対象とし、難題である市場経済への移行を支援しようとするならば、日本はその援助のやり方を再検討する必要がある。
(注11)対中ODAに関する中国側発言:
本年10月の日中首脳会談において、朱鎔基総理は「日本のODAは、中国の経済発展、国家建設にとって大きな助けとなっており、両国の経済的関係の促進にも大きく寄与している。今後、中国での広報活動の強化などに取り組んでいきたい。また、特別円借款の供与は、日本よりの友好的な意思表示として受け止め、感謝している。」旨述べている。
また、日中経済協力20周年記念式典において、項懐誠財政部長(大臣に相当)は「中日双方の共同の努力の下、両国経済協力の分野、特に交通、エネルギー、教育、医療、農業利水、環境保護、社会保障、社会インフラなど多くの分野で絶え間ない発展があった。プロジェクトは31の省、自治区、直轄市に及び、良好な社会効果を得た。中日経済友好協力は我が国の経済発展を支え、投資環境を改善し、人民の生活水準を引き上げ、人材を育成するなどの分野で積極的な働きがあった。」旨述べている。また、呉儀国務委員(副総理級)は同記念式典において「中国政府を代表し、日本政府に対し、これまでの中国経済建設に対し提供いただいた支持に感謝申し上げる。」旨述べている。
(注12)「ODA大綱」の「原則」:
国際連合憲章の諸原則(特に、主権、平等及び内政不干渉)の他に以下の四点をODA実施の原則としている。(1)環境と開発を両立させる、(2)軍事的用途及び国際紛争助長への使用を回避する、(3)開発途上国の軍事支出、大量破壊兵器・ミサイルの開発・製造、武器の輸出入等の動向に十分注意を払う、(4)開発途上国における民主化の促進、市場指向型経済導入の努力並びに基本的人権及び自由の保障状況に十分注意を払う(92年6月30日、閣議決定)。
(注13)中国における貯蓄額:
中国国内のおける貯蓄総額は78年から99年にかけて211億元から5兆9,622億元へ増加した(中国国家統計局編『中国統計年鑑2000』より)。
(注14)中国に対する資金の流入量:
79~83年の中国に対する直接投資は総額で77.42億ドル(契約ベース)であったが、90年代に入ると大幅な伸びを記録し、93年の対中直接投資は総額(契約ベース)は1,114.36億ドルとなり史上最高を記録した(中国国家統計局編『中国統計年鑑2000』より)。なお、日本の対中直接投資額の推移については(注5)又は(注23)を参照のこと。
(注15)UNAIDS:
The Joint United Nations Programme on HIV/AIDS(国連合同エイズ計画)。94年、国連経済社会理事会において、5つの国連機関及び世界銀行が共同スポンサーとして参画する機関として設置が承認され、96年、途上国のエイズ対策強化支援、エイズ対策への政府の取組強化支援、国連のエイズ対策の強化と調整などを目的として、正式に発足した。なお、同機関は共同スポンサー各機関の有する資金、専門性、ネットワークの調整・強化を主目的としており、途上国へ資金供与したり、プロジェクトを直接実施したりする機関ではない。
2000年10月現在の共同スポンサー機関はUNICEF(国連児童基金)、UNDP(国連開発計画)、UNFPA(国連人口基金)、UNDCP(国連薬物統制計画)、UNESCO(国連児童基金)、WHO(世界保健機関)、The World Bank(世界銀行)である。
(注16)「日中環境開発モデル都市構想」及び「環境情報ネットワーク整備計画」:
両プロジェクトは97年9月の日中首脳会談において提唱された「21世紀に向けた日中環境協力」を構成する二つの柱である。「日中環境開発モデル都市構想」は、大連、重慶及び貴陽の三都市を対象にして、大気汚染対策を中心として循環型社会システムを築くために主要な汚染源対策やモニタリング・システムの構築を円借款を通じて支援するとともに、人づくりや制度作りなどのソフト面も技術協力よって支援しモデル・ケースを作り、それを他の都市に普及しようとするプロジェクトである。「環境情報ネットワーク整備計画」は、中国各都市において収集・分析している環境関連の情報を相互に共有・活用する情報ネットワークを構築するプロジェクトである。
(注17)我が国ODAによる中国の野生株ポリオ根絶:
我が国は91年から99年までプロジェクト方式技術協力(研修員受入れ、専門家派遣及び機材供与の三つの協力形態を総合的に組み合わせて実施する協力事業)である「ポリオ対策プロジェクト」及び無償資金協力「ポリオ撲滅計画」でのワクチン供与などを通じ、WHOが掲げた2000年までのポリオ根絶目標達成に大きな貢献を果たした。中国では94年を最後に野生株ポリオの発生は見られない。なお、本年10月、WHOは中国を含む西太平洋地域から野生株ポリオが根絶された旨宣言した。
(注18)朝日新聞社と中国人民大学世論研究所(中国)が実施(97年)
(注19)国立国語研究所(日本)と中国人民大学(中国)が実施(98年)
(注20)国立国語研究所(日本)と中国人民大学(中国)が実施(95年)
(注21)沿海部と内陸部の格差:
例えば、98年の上海の一人当たりGDPが30,805元に対し、貴州は2,463元であり、格差は約12:1となっている(中国国家統計局編『中国統計摘要2000』より)。
(注22)「新開発戦略」:
96年にDACが採択した21世紀に向けての援助指針。本戦略は「すべての人々の生活の向上」を目標としており、その実現のために開発途上国の自助努力と国際社会による一致した協力の重要性を指摘している。日本はその策定過程において主導的な役割を果たした。
(注23)日本企業数の推移:
90年代初めまでは、中国の投資環境が整備されていなかったこともあり、日本企業は対中投資に慎重であったが、改革・開放政策が加速され始めた92年を境に日本の対中投資は本格化した。95年には米国を追い抜き、世界最大の対中投資国となった。また、ある調査(東洋経済新報社『海外進出企業総覧(国別編)』(99年))によると、中国への日本からの進出企業は1,531社にのぼる。アジア通貨危機や日本の景気低迷などにより、96年以降は投資契約額の大幅な減少を背景に、98年の日本の対中直接投資額(実行ベース)は、9年振りに減少へ転じた(前年比27.0%減)ものの、99年には前年比4.9%減と減少幅が縮小し、現在は回復基調にあると言える(日本貿易振興会『ジェトロ投資白書2000年版』より)。国際協力銀行の調査(『2000年度海外投資アンケート調査』)でも、今後3年程度の中期的な海外事業展開先として中国を挙げる日本企業(製造業)が最も多い。
(注24)日本企業の受注率:
対中円借款の日本企業の受注率は、34%(96年)、36%(97年)、15%(98年)、4%(99年)となっている。また、同時期各年の中国企業の受注率は、それぞれ30%、43%、60%、80%である(国際協力銀行調べ)。
(注25)シンガポールなどとの南南協力:
開発が比較的進んでいる国との間でパートナーシッププログラムの枠組みを作り、第三国に対して我が国と当該国が費用を分担し、技術協力などを行うもの。
(注26)中国における第三国研修:
アジア・アフリカ諸国を対象に98年から2002年まで「食肉加工技術」の研修を実施している。
(注27)友好都市:
各国の個別都市の間で文化交流や親善を目的として友好関係を結ぶこと。日本と中国の間では、東京都と北京市、横浜市及び大阪市と上海市、神戸市と天津市といった多くの例がある。
(注28)開発調査:
開発途上国の社会、経済発展のための公共的な開発計画に対し、開発途上国からの要請を踏まえて専門家、コンサルタントなどから構成される調査団を派遣し、相手国の開発計画の推進に寄与する計画を策定し、提案するとともに、調査の実施過程において相手国カウンターパートへ必要な技術移転を行うもの。
(注29)草の根無償資金協力:
開発途上国の多様な開発ニーズに応えるため、途上国の地方政府、教育・医療機関及び途上国において活動しているNGOなどが実施する比較的小規模な事業に対し、当該国の諸事情に精通している我が国の在外公館が中心となって資金協力を行うもの。中国に対しては99年度に78件の事業に対し支援を行い、全世界において一位となっている。
(注30)対中ODAの広報:
我が国の援助であることを明示するために使用されているODAマークやプレートなどを活用し、中国国民に対する一層の理解の増進を図ることも考えられる。
(注31)技術協力の中国側要請窓口:
従来、中国に対する技術協力については技術の効率的移転を重視するとの観点から、科学技術部を中国側の窓口機関としてきた。昨今の市場経済化に伴い新たな経済的・社会的政策課題が生じており、これに対応する援助需要を適確に把握するためには技術協力の要請窓口の再検討も必要であろう。
(注32)単年度方式及びロング・リスト:
単年度方式とは、複数年度にわたって供与限度額を決定するラウンド方式に対して、各年度毎に政府間協議によって供与限度額を決定する方式。単年度方式での案件の採択に際しては、被援助国が作成する向こう3~5年程度に亘る要請案件のリスト(ロング・リスト)を基に、各々の案件のニーズ、成熟度などを検討する。
(注33)「日中環境開発モデル都市構想」については、上記(注16)を参照。
(注34)OOF:
Other Official Flows(その他の公的資金の流れ)。開発途上国への公的資金の流れのうちODAに含まれないもの。
【ODAとは(DAC基準)】
ODAとは以下の三つの用件を満たす資金の流れを指す。
(A)政府ないし政府の実施機関によって供与されるものであること。
(B)開発途上国の経済開発や福祉の向上に寄与することを主たる目的としていること。
(C)資金協力については、その供与条件が開発途上国にとって思い負担とならないようになっており、グラント・エレメント(G.E.:供与条件の緩やかさを表す指標。商業条件(金利10%と仮定)の場合、G.E.が0%、贈与の場合、同100%)が25%以上のものであること。
(注35)IDA:
International Development Association(国際開発協会)。世界銀行グループの一つであり、開発途上国に対し国際復興開発銀行(IBRD:International Bank for Reconstruction and Development)よりも緩やかな条件で融資をしている。
(注36)ADF:
Asian Development Fund。アジア開発銀行(ADB)が実施する低利長期の借款資金をプールする目的で設けられた特別資金であり、一般的な借款資金であるOCR(Ordinary Capital Resources)よりも融資条件が緩い。
(注37)マイクロクレジット・プロジェクト:
インフラ支援など大規模な資金援助とは対照的に文字通り小規模の資金援助を行うプロジェクト。同プロジェクトの例としては、バングラデシュの貧困農民を主な対象として小規模の融資を無担保で行い、大きな成果を上げている「グラミン銀行」が上げられる。
(注38)中国におけるITの普及状況については上記(注3)を参照。
(注39)「ODA評価体制の改善に関する最終報告書」:
98年11月、ODAの評価体制全般にわたる課題を検討するため、経済協力局長の私的懇談会である「援助評価検討部会」の下に「評価研究作業委員会」を設置した。その後、評価の目的、対象、体系、体制、人材、時期、手法、フィードバック及び情報公開・広報の諸点につき検討され、2000年3月、具体的な改革案を提示した報告書(『ODA評価体制の改善に関する最終報告書』)が河野外務大臣に提出された。
(別添1)
「21世紀に向けた対中経済協力のあり方に関する懇談会」(構成員)
(全15名、50音順)
有馬 真喜子
(ありま まきこ) |
財団法人横浜市女性協会理事長、国民生活センター会長 |
行天 豊雄
(ぎょうてん とよお) |
財団法人国際通貨研究所理事長 |
國廣 道彦
(くにひろ みちひこ) |
元駐中国大使、株式会社NTTデータ顧問 |
小島 明
(こじま あきら) |
株式会社日本経済新聞社常務取締役・論説主幹 |
小島 朋之
(こじま ともゆき) |
慶應義塾大学総合政策学部教授 |
田中 明彦
(たなか あきひこ) |
東京大学大学院情報学環教授 |
千速 晃
(ちはや あきら) |
新日本製鐵株式会社代表取締役社長 |
遠山 敦子
(とおやま あつこ) |
国立西洋美術館館長 |
中田 慶雄
(なかた よしお) |
日本国際貿易促進協会理事長 |
中野 良子
(なかの よしこ) |
財団法人オイスカ会長 |
福川 伸次
(ふくかわ しんじ) |
株式会社電通 電通総研・研究所長 |

(みやざき いさむ) |
株式会社大和総研特別顧問、元経済企画庁長官(座長) |
森下 洋一
(もりした よういち) |
松下電器産業株式会社代表取締役会長 |
渡辺 利夫
(わたなべ としお) |
拓殖大学国際開発学部教授 |
渡里 杉一郎
(わたり すぎいちろう) |
株式会社東芝相談役 |
(別添2)
本懇談会において意見を聴取した有識者など
(全8名、50音順)
徐 放鳴
(じょ ほうめい) |
中華人民共和国財政部金融司司長
「中国政府からみた日本の対中ODA」 |
中村 修三
(なかむら しゅうぞう) |
世界銀行東京事務所長
「世界銀行グループの対中融資活動」(資料配布のみ) |
西野 俊浩
(にしの としひろ) |
財団法人国際開発センター(IDC)副主任研究員
「過去20年間の対中ODA事業について行われた各種評価活動報告のとりまとめ結果」 |
平松 茂雄
(ひらまつ しげお) |
杏林大学社会科学部教授
「中国の総合国力」 |
星 文雄
(ほし ふみお) |
国際協力銀行(JBIC)・国際金融第一部部長
「国際協力銀行における国際金融等業務(旧輸銀業務)の現状」 |
松澤 憲夫
(まつざわ のりお) |
国際協力事業団(JICA)・元中国事務所長
「JICAの対中技術協力」 |
宮本 雄二
(みやもと ゆうじ) |
在中華人民共和国日本国大使館特命全権公使
「現場からの対中経済協力報告」
その他、対中ODAに詳しい中国人研究者
|