グローカル外交ネット
グローバルでローカルな活動の意義と可能性
(特定非営利活動法人「日本で最も美しい村」連合:在外研究員への書面インタビュー)
NPO法人「日本で最も美しい村」連合の在フランス研究員である高津竜之介さんに、地方の国際化などについて書面インタビューを実施しました。
1 高津様の自己紹介も含め、現在の活動や美しい村連合の取組に興味を持ったきっかけなどをご教示下さい。

NPO法人「日本で最も美しい村」連合で2016年より2年間事務局で勤務した後、現在は同組織の在フランス研究員を務めております。我が国での「最も美しい村」運動についてはグローカル通信第174号(2023年8月号)にて記事が掲載されておりますので、私からは日本が模範としたフランスの活動について簡単に説明させて頂きます。「フランスの最も美しい村」協会が設立されたのは、地方の過疎化が深刻な社会問題となっていた1982年に遡ります。そこから農山漁村に残る街並み保全活動に地道に取り組んだ結果、今日のフランス国民にとって「美しい村」はユネスコの世界遺産に匹敵するような確固とした信頼を集めるに至っています。その背景にあるのは、厳格な評価システムを通じて加盟村の景観保全を促し担保される「質」、訪れる人々による好意的な評価を積み重ねることで獲得してきた「評判」、観光客の増加のみに留まらず美しい村に魅了された人々が居住者となって新たな活力を生み出している「発展」、という3つの戦略の柱です。それらが正のスパイラルを生み出しており、今日のフランスの「最も美しい村」運動の強みとなっています。
私自身もこの運動の奥深さに魅了され、同運動をテーマとした論文で2024年にフランスのレンヌ第二大学にて社会経済学の博士号を取得するなど研究活動を続けてきました。在フランス研究員としての主な活動として、日本の「美しい村」加盟村の関係者やむらづくりに興味を持った一般の方々へ向けた、海外の優れた実践例に関する学びの機会の提供があります。「オンライン大学」と名付けられた学習会では、過去にベルギーの「美しい村」事務局が主導する建築家による講義、フランスではサント・スザンヌ村の景観保全・観光政策やイェーヴル・ル・シャテル村の先進的な植栽活動について、また岡山県新庄村とヴール・レ・ローズ村を結び日仏に残る茅葺民家の保全方法や課題等について学び合う場などを設け、それぞれの回でコーディネートを行いました。各国の専門家や住民などと直接連絡を取り合うことで、普段日本ではあまり聞けないような生の声を届けるお手伝いをしています。
2 日本の美しい村のどのような魅力を欧州始め海外に広報していきたいとお考えでしょうか。また海外における本邦自治体への関心について、お気づきの点がありましたらご教示下さい。

欧州の優れた実践例を日本の自治体の方々に紹介する役割も多いですが、日本の地方の素晴らしさを海外に伝える機会にも恵まれています。例えば、日仏友好160周年を記念してフランスで展開された「ジャポニスム2018」というイベントでは、長野県木曽町の代表団がパリを訪れ伝統の「木曽踊り」を披露しました。私がお手伝いした内容を「広報」という言葉で言い表すのは恐れ多く、自治体の方々の伝えたい内容と現地の方々の知りたい内容の間に立ってコミュニケーションのお手伝いをしていたに過ぎません。そんな状況でしたが、各国の人々が言語を超えて理解し合えていると思えるキーワードがありました。それは「オーセンティック(本物)」であるという事です。
海外の方々による日本の農山漁村への関心は、日増しに高まっていると実感させられます。東京や京都・大阪といった王道とも言える観光地を訪れる方々は多いですが、最近まわりのフランス人の知り合いたちからは伝統的な日本の暮らしが残る地方を訪れたという話も良く耳にするからです。その背景にあるのは、ブログやユーチューブなどのWebサービスを通じた個人の情報発信が大きな影響力を持つようになったからではないでしょうか。そんな時代だからこそ「我が村(町)にはこんなに魅力的な場所があるんだぞ!」という自分本位な情報発信ではなく、外部から訪問する人の立場にたち、「誰かに教えたくなるような場所にする」まちづくりが求められていると感じています。
3 国内自治体が国際化(国際的取組)を進める上で必要なことは何でしょうか。

日本の自治体が「国際化」するための第一歩として必要なことは、世界の中で自分達の強みと弱みを客観視することだと思っています。私自身既にフランスでの生活が10年近くになりますが、海外に出て良かったと思うことは自分が生まれ育った日本という国の良さをより強く認識できるようになった点です。そして国際感覚を持った自治体であるために必要なことは、日本と海外のどちらが優れているのかという二元論で捉えたり、海外の優れた実践例をそのまま持ち込めば上手くいくと考えたりする(もしくは、最初から不可能だと拒絶する)ことではありません。それよりも、どんな所を参考にできるのか、どうすれば自分たちの社会の中に効果的に取り入れることができるのか、というような建設的な視点を持つことで国際水準のまちづくりが進んでいくのではないでしょうか。
4 今日、日本の自治体では地方創生への意識が高まっています。美しい村連合も含め欧州等海外の先例で学ぶべきところがあればご教示下さい。
地方創生の必要性がこれほど強く認識される背景にあるのは、多くの人々が地方の人口減少と少子高齢化社会に対する危機感を抱いているからです。一方で、日本の自治体が取り組む事のできるアプローチというのは多様であると感じています。だからこそ日頃から、少しでも多くの優良事例に対してアンテナを張るように心がけています。一見すると正反対に見える2つのまちづくりの方向性が、実はどちらも有効という事もあり得るのです。例を挙げるとすれば、フランスはワインやチーズをはじめとする特産品に対する地域ブランド化の先進地であり、生産量が少ないからこそ高い価値が付く産業モデルは日本の農山漁村にとって示唆に富んでいます。一方で、特産品に頼らないことが活性化に繋がっている村というのも多く存在しています。近年の欧州の流行は地産地消であり、地元住民をメインの顧客として農業を営むのであれば多品種少量生産が好まれるからです。これは「あの人から買いたい」という顔の見える関係性を大切にしている小規模コミュニティだからこそ成り立つ、21世紀型の新しいビジネスモデルだと言えます。
私は現在10か国以上に広がる「最も美しい村」の優れた事例について研究・蓄積を行っていますが、日本の自治体が持っている課題のブレイクスルーとなりうる実践例が無数に存在していることに日々驚かされます。もし自治体の皆様が今後取り組んでいこうと考えている(もしくは長年取り組んでいるが、大きな成果となって現れてはいない)問題があるとすると、世界全体で1,000近く存在している「最も美しい村」の中に同じ課題に対して成果を上げている自治体が必ず存在しています。グローバルでローカルなネットワークを「日本で最も美しい村」加盟村には活用して頂きたいですし、その他の日本の自治体にとっては加盟を検討する価値のある大きな判断材料の一つであると考えています。