グローカル外交ネット
日本人移住の歴史、音楽が紡ぐ都市間交流
(福島県川俣町・コルドバ州コスキン市)
在アルゼンチン日本国大使館
1 2024年川俣町・コスキン市姉妹都市提携
文化交流、親善、相互理解促進を目的として、異なる国の都市間で結ばれる「姉妹都市」。日本各地の自治体が、世界の様々な都市との間で、姉妹都市関係を構築する中で、日本から見れば、地球のほぼ反対側に位置するアルゼンチンにも、最近、日本の自治体との間で、新たに姉妹都市提携した都市があることをご存じですか。2024年12月19日、年の瀬も押し迫る中、東京にある駐日アルゼンチン大使館には大きなテレビ画面が設置され、藤原一二福島県川俣町長をはじめとする関係者が集まっていました。テレビ画面の向こうはアルゼンチンにつながっており、笑顔で微笑む姿が映っているのは、ラウル・カルディナリ市長はじめコルドバ州コスキン市の関係者。その他両国の関係者が見守る中、オンライン上で「川俣町・コスキン市姉妹都市提携式」が実現しました。地理上の距離、文化や言語の違いを越えて、この2つの都市が、姉妹都市提携するまでには、これまでどのような交流の歴史があったのでしょうか。
2 コスキン市:肺結核療養地から文化色豊かな都市へ
コスキン市は、アルゼンチン共和国の首都ブエノスアイレス市から約750キロ、国内第2の都市であるコルドバ州コルドバ市から約45キロ離れた山間部にある、人口2万人程度の都市です。コルドバ州は、1886年に牧野金蔵氏が日本人第一号としてアルゼンチンに入国し移住したことから、日本移民発祥の地であると言われていますが、緑豊かで、街中に小川が流れるコスキン市の景色は、どことなく静かな日本の都市の風景を思わせます。一方で、町を散策してみると、華やかな色彩を使った壁画、広場で開催されている民芸市等、文化色の豊かさにも驚かされます。
コスキン市は、音楽や舞踊等の文化活動や国際交流に力を入れる国内有数の文化都市として知られており、その背景には、1900年初期からの肺結核の流行も関係していると言われています。当時、澄んだ空気や乾燥した気候が結核治療に適しているとの理由で、コスキン市は、結核患者の療養地となり、専門病院やサナトリウムが建設されました。治療のために国内各地からこのコスキン市に集まった患者の中には、日系人移民をはじめ異なるルーツを持つ者や、音楽家、画家、作家等の芸術家もおり、このような多様性に富んだ人の動きが、人的交流や文化・芸術活動の発展につながったのです。
3 中南米を代表する音楽祭「コスキン・フォルクローレ・フェスティバル」

コスキン市で開催される文化活動の中でも、代表的な音楽イベントと位置づけられているのが、同市の新たな魅力を発信することを目的に、1960年に始まった音楽祭「コスキン・フォルクローレ・フェスティバル(Festival de Cosquín Folklore)」です。年々規模が拡大し、アルゼンチンのナショナルフェスティバルとして中南米を代表する音楽舞踊祭にまで成長したこのイベントが開催される9日間には、毎年、アルゼンチン国内各地に加え、世界中からも多くの観客が押し寄せ、訪問者数は8万人以上にのぼると言われています。
4 音楽が紡ぐ都市間交流

実は、この世界的にも有名な音楽祭は、川俣町とコスキン市との交流の上でも非常に重要な役割を果たしてきたイベントなのです。川俣町出身の(注)フォルクローレ音楽家のアイデアで、1975年からは川俣町でアルゼンチンのフォルクローレをテーマとしたフェスティバル「コスキン・エン・ハポン」が開催されており、優勝チームは、日本代表として、このコスキン市で開催される音楽祭に参加しています。2025年1月にも「第65回コスキン・フォルクローレ・フェスティバル」が開催され、1月25日に開催された開会式では、日本代表チーム「Horizontes de Esperanza」が演奏と舞踊を披露し、大きな喝采を浴びました。さらに、川俣町との姉妹都市提携後、初の音楽祭という点でも日本代表の存在は注目を集め、日本代表チームの演技の後には、カルディナリ市長と共に山内駐アルゼンチン日本国大使が登壇。司会者から、コスキン市が結核患者の療養地となっていた時代の日系人医師アルマンド・シマ氏の活躍をはじめ、長きに亘る日本との関係の重要性が説明されました。続いて、カルディナリ市長が「日本式にお礼をしよう」と観客に呼びかけると、「ありがとう」の掛け声に合わせて、会場の観客が皆で一礼する場面もあり、この地における日本へ愛着や長い歴史の中で培われてきた信頼関係、そして誠実で勤勉な日系人の存在が高く評価され、多くの市民が日本に対する親しみを感じていることが改めて感じられました。
(注)アルゼンチンおよびその周辺の地域の民族音楽のこと
5 2026年アルゼンチン日本人移住140周年に向けた交流促進

この「第65回コスキン・フォルクローレ・フェスティバル」に合わせて、川俣町からも代表団がコスキン市を訪問。日本への帰国前には、大使館を訪問いただき、カルディナリ市長はじめ関係者との間で、これまでの音楽交流に加え、教育・観光等の分野における交流も深めていこうとの意見交換を行ったとの報告をいただきました。日本人移住の歴史と音楽が紡いだこの姉妹都市の関係は、これからも多くの分野、そして多くの人の間での交流を促進し、将来的には、国と国との関係を更に強いものとする絆となっていくことでしょう。
2026年には、アルゼンチン日本人移住140周年という、二国間交流における節目の年を迎えます。この機会に、両国間および両国の国民間での相互理解促進、交流が一層深まるよう、在アルゼンチン日本国大使館でも、この周年に向けて、機運を盛り上げていきたいと考えています。