グローカル外交ネット
多世代がともに生きる地域づくり
差別・偏見のない地域をめざして
NPO法人Teto Company 奥 結香

こんにちは。奥結香と申します。私の住む大分県竹田市は、人口約19,000人、高齢化率は50%を超え、消滅可能性自治体にも該当するまちです。そんな竹田市で、私は二か所の多世代交流拠点を運営しています。ここでは、年齢や立場、障がいの有無に関係なく、多様な人々が賑やかに集っています。
- <奥結香氏プロフィール>
- 大分県出身。介護福祉士や特別支援学校の教員を経て、JICA海外協力隊に参加。マレーシアにて障害児・者支援隊員として活動。帰国後、大分県竹田市の地域おこし協力隊として多世代交流拠点『みんなのいえカラフル』を開所。現在はNPO法人Teto Company理事長として、ひとりぼっちをつくらない社会づくりを目指し、療育やデイサービス事業、大学生と地域の子どもたちが遊ぶイベント等も運営している。
1 青年海外協力隊の経験を地域に活かして
「障がいのあるお子さんは、知らない国にひとりぼっちで取り残されたようなものだよ」。特別支援学校の教員だったとき、研修で聞いたこの言葉が心に残りました。相手に寄り添った支援をするには、自分自身がその立場を体験することが必要だと感じ、2014年にJICA海外協力隊に参加しました。
マレーシアでの生活は、言葉がうまく通じなくて、細かな気持ちの表現ができないことへのストレスで、2年間ずっと帰国したいと思う日々でした。特に苦しかったのは、障がいのある子どもたちが体罰を受けたり、放置されたりしている現実でした。見ていられず、こっそり涙を流すこともありましたが、行動しなければ現状は変わらないと強く感じました。そこで、学校巡回やワークショップの開催、600人規模のフォーラムの実施、障がいのある子どもの成長を支える「サポートブック」のマレーシア語版作成など、できる限りの活動を行いました。
一定の評価を得られたものの、任期終了時には「何も残せなかった」という悔しさと虚無感が残りました。しかし、行動することで自分の殻を破り、自己成長を実感できたことには大きな自信を持ちました。帰国の際には、「これからは何でもできる!」という強い思いが湧いていました。
2 海外から竹田市へ
20歳の頃から「偏見や差別のない社会を作りたい」と考えていました。そのため、10年間は学びの期間と決め、福祉や教育の現場で経験を積みました。その中で感じたのは、学校や施設はどこも一生懸命に取り組んでいるということ。それでも差別や偏見が生まれる背景には、制度や仕組みに課題があると気付きました。同時に、「地域」にはまだ多くの可能性があると感じたのです。

“地域に焦点を当て、多様な人々がつながる場をつくりたい!”その思いから、多世代交流拠点「みんなのいえカラフル(以下、「カラフル」)」を開所しました。
高齢者は高齢者施設へ、障がいのある方は障がい者施設へ、という社会の分断が、認知症や障がいに対する差別や偏見を生みやすいと考え「カラフル」の外観ています。そのため、カラフルでは多様な人々が日常的に交流し、知り合える・繋がりあえる場を目指しました。開所から6年、来所者同士が助け合い、補い合う場面が多く見られるようになりました。最初は障がいのある方に戸惑っていた90歳近い方も、「○○くんは何を言っているかわからない時もあるけど、よく気づいて手伝ってくれるのよね」と、相手をありのまま受け入れて関わるようになりました。
また、昼食は子ども無料、大人は300円で提供しています。竹田市には農家の方も多く、野菜やお米などをお裾分けいただき、その日に来た人たちと一緒にメニューを決めて料理をしています。さらに、地域に不足していた療育事業も取り入れ、年間延べ利用者数は4,000人を超えるまでになりました。認知症や障がいのある方々もカラフルで役割を持ち、生き生きと過ごし、周囲から感謝されることで、笑顔が広がっています。多様性が力になることを実感する場面です。
また、子育てや行政手続きの相談対応、要支援家庭の子どもや独居高齢者へのアウトリーチも実施し、行政や社会福祉協議会と連携しながら活動をしています。
2023年4月には、竹田市荻町に新たな多世代交流拠点「Haru+」(ハルタス)を開所しました。カラフルとは異なる特色を持たせ、地域の中での選択肢を増やすことを意識しています。
3 今後について
少子高齢化が進む自治体は竹田市だけではありません。人口減少や働き手不足の影響で、特定の課題に特化した支援が難しくなっています。しかし、それらの課題が解消されていないわけではありません。多機能拠点を作り、地域の多様な課題に寄り添うことや、働く側とサービスを受ける側の境界を曖昧にし、つながり合うことで助け合いが生まれやすい環境を作ることが、課題解決につながると信じています。
「みんなのいえカラフル」はその一つの形に過ぎません。全国に多様な居場所が増え、誰もが自分に合った場所を見つけられる社会になることを心から願っています。