グローカル外交ネット

令和7年2月12日

駐ジンバブエ日本国特命全権大使
山中 晋一

1 日本とジンバブエ

 ジンバブエ共和国は、1980年に独立した南部アフリカに位置する気候が温暖で農業および鉱業が盛んな国です。ビクトリアの滝など観光資源にも恵まれ、日本からも年間約1万人の観光客が訪れます。
 2000年代初めの経済危機以降、残念ながら両国のビジネス関係は必ずしも活発とは言えませんが、「ジンバブエ産ペタライト」はこれまで60年以上に亘り日本に輸出され、土鍋の原料として使われてきました。

2 萬古焼土鍋とジンバブエ

萬古焼土鍋

 土鍋の起源は縄文時代まで遡りますが、1950年代に日本の一般家庭にガスコンロが普及したことに伴い、直火に耐えられる耐熱性と強度をもつ土鍋が必要となりました。研究の結果「ジンバブエ産ペタライト」を原料に混ぜることで土鍋の強度が増すことが分かり、特に8割のシェアをもち土鍋の代名詞とも言える「三重県の萬(ばん)古(こ)焼」は、1950年代末からジンバブエ産ペタライトを原料に用いてきました。
 ペタライトには4%程度のリチウムが含まれます。近年EV車の普及によるリチウムイオン電池の需要拡大等に伴い、長年に亘り日本にペタライトを供給してきたジンバブエのペタライト鉱山会社が2022年に中国企業に買収され、以降日本へのペタライト輸出が困難となってしまいました。

3 ジンバブエでの土鍋外交

筆者、荒木田公邸料理人、大統領顧問

 筆者がジンバブエに赴任した2023年末は、既にペタライト輸出停止後2年が経過し、いよいよ三重県の土鍋生産者のペタライト在庫が枯渇しかねないタイミングでした。
 このため、面談での働きかけに加え、関係者を大使公邸に招いて土鍋料理を振る舞う「土鍋外交」を思いつきました。土鍋が単なる料理器具ではなく、土鍋を囲んだ家族の団らんが冬の日本家庭で不可欠なものであり、日本の食文化の象徴であることを実体験頂くためです。
 幸い、鉱山大臣や大統領顧問などジンバブエの皆さんに土鍋の重要性をご理解頂くことが出来ました。そして早速、鉱山大臣から鉱山会社に対し日本向けペタライト輸出再開の指示を頂き、2024年4月からペタライトの供給が再開しました。この背景に、これまで諸先輩方が積み上げてこられた日本に対する信頼が土台にあったことは言うまでもありません。

4 三重県への訪問

一見三重県知事との面談と熊本理事長より土鍋製造現場のご案内

 2024年12月に一時帰国した際、筆者は三重県に出張し、一見勝之三重県知事や萬古陶磁器工業協同組合の熊本理事長にお会いし、ペタライト輸出再開後の現状、問題点、要望などにつきお伺いする機会を得ました。
 当面の土鍋生産に必要なペタライトは入手することができたものの、価格は以前の3~4倍であり、価格もさることながら継続的なペタライト確保が不可欠である旨をお伺いしました。在ジンバブエ大使館として、ペタライトの安定的な供給に向け引き続きジンバブエ政府に働きかけていくことをお約束しました。
 また一見知事との面談では、土鍋のご縁から、是非三重県とジンバブエとの間での人材交流も進めたいとのお話もさせて頂きました。

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