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宇陀×エストニアプロジェクト 中山間地域 宇陀の未来を切りひらく挑戦
宇陀市市長公室 行政経営課
奈良県宇陀市は、人口減少が進む中、未来を担う人材育成と地域活性化を目指し、IT先進国・教育大国エストニアとの連携によるアントレプレナーシップ教育を柱とする「宇陀×エストニアプロジェクト」を推進しています。
1 人口減少の危機感から始動した未来への挑戦

奈良県の北東部、三重県との県境に位置する宇陀市は、豊かな自然と日本遺産である女人高野室生寺をはじめとする歴史文化遺産に恵まれた、日本の原風景を残す地域です。大阪まで約1時間、京都まで約1時間半と都市圏へのアクセスに恵まれている一方で、人口は約2万7千人と少なく、少子高齢化と過疎化の課題に直面しています。この人口減少という危機感から、アントレプレナーシップの育成を通じ、課題発見から解決まで自ら考え実践できる人材、次世代を担う人材を育成することが急務であると考えました。そこで、ICTの活用や教育政策の革新など、世界的に評価の高い教育システムや思想を有するエストニアとの連携に着目しました。
2 エストニアとの連携による先進的な学びとアントレプレナーシップ教育

エストニアは、1991年に旧ソビエト連邦から独立回復した若い国ですが、デジタル社会の構築に成功し、人口当たりのスタートアップ企業数がEU1位と、起業が盛んな国に成長しました。この背景には、独自の政策やエコシステム環境に加え、教育が重要な政策に位置づけられ、アントレプレナーシップ教育やIT教育の充実していることがあります。
今、国内には様々な地域課題が山積しています。またグローバル化や技術革新が急速に進み、今の子どもたちが社会に出て活躍する頃には現職種の約半分をAIが取って代わるかもしれないという予測もあります。予測困難な時代、課題解決が急務の時代をたくましく生きていくために、子どもたちには、指示を待つだけではなく、好奇心を持ち、課題を見つけ、自ら学び、考え、行動に移すことのできる力、すなわちアントレプレナーシップが求められています。
エストニアにおけるアントレプレナーシップ教育は、社会課題への意識、共感力、創造性、実践的な学びを重視しています。その背景には、変化への柔軟性、自己効力感、問題解決志向、協調性といったエストニア特有のマインドセットがあります。「宇陀×エストニアプロジェクト」は、これらの要素を取り入れ、地域課題解決に貢献する人材育成を目指しています。
- <具体的な取り組み>
- エストニアへの短期留学:
2023年4月には、教育現場視察のためエストニアを訪問し、子どもへの伝え方やアプローチの仕方など、日本の教育との違いを目の当たりにしました。同年7月には、サーレマー市と教育分野における交流を柱とした基本合意書を締結し、学生の短期留学プログラムを実施しています。2023年と2024年には、市内の学生をエストニアへ派遣し、エストニアアントレプレナーシップ応用科学大学をはじめサーレマー高校での短期集中プログラム受講、将来を考えるワークショップ、地元スタートアップ企業CEOからの起業ストーリー聴取、スマートシティ視察などを体験しました。 - エストニア企業等と連携した人材育成事業:
2024年1月には、エストニアの自律走行配送ロボット開発企業クレボン、エストニアアントレプレナーシップ応用科学大学、人材育成企業ネクストイノベーションと宇陀市の4者で基本合意書を締結し、ロボット工学分野のスペシャリスト育成を目的とした3年間の留学プログラム「クレボンアカデミー」の開校に向けて連携しています。このアカデミーでは、工学の知識だけでなく、デザイン思考やビジネスモデル構築など、新たな価値創造とイノベーションを生み出すための実践的なスキルの習得をめざしています。さらに、アカデミー修了生の市内での活躍を目指し、関連企業の宇陀市への誘致も視野に入れています。
3 この挑戦で全国の過疎地域を変える、過疎地域から日本を変えるモデルケースに

宇陀市は、これらの取り組みを通じて、国際的な視野を持ち、アントレプレナーシップ精神にあふれた人材を育成し、彼らが宇陀市で活躍できる環境づくりを進めています。
本プロジェクトは、単なる教育プログラムではありません。教育は未来に向けた投資であり、私たちが目指すのは、チャレンジ精神とともに、自ら物事を考える力を持つ子どもや若者の育成です。この先、このような人材が社会として必要とされてきます。このようにエストニアから知見を得ることで、宇陀市独自の教育モデルを確立し、関係人口の増加と子育て世代の移住定住の促進を目指します。
将来的には、企業誘致や起業家育成支援策を構築し、雇用機会の創出と地域経済の活性化を目指します。
そして、この挑戦が、同じ課題を抱える他の過疎地域にとってのモデルケースとなり、ひいては日本全体の地域活性化に貢献することを期待しています。