グローカル外交ネット

令和6年9月17日

さいたま市役所 スポーツ文化局文化部
大宮盆栽美術館
ハリー・タートン

1 自己紹介

美術館の来館者に盆栽を説明する著者(中央)

 さいたま市にある大宮盆栽美術館に勤めているハリー・タートンと申します。日本では日本人が苗字で呼び合うように私も「タートン」と呼ばれています。出身はイングランド(イギリス)の北部のウォリントンという町です。有名なリヴァプールとマンチェスターの間の真ん中にある町ですが、イギリス人以外はウォリントンのことをまったく知らないので、出身はどこか聞かれるときは、マンチェスター郊外と答えています。
 子どものころからよく父の出身地であるウィガンという町に行きました。ウィガンに住む人はみんなPie Eater(パイ食い)と呼ばれるほど、パイの店が多いです。私はウィガン人ではなくウォリントン人ですが、自分のことをPie Eaterの仲間だと今でも思っています。
 日本ではウィガンのミートパイの味が味わえないのが残念ですが、日本には代わりとなるおいしいものが多いため、郷愁を紛らわすことができます。
 子どものころ、パイのほかには、ゲームなどの日本産の子供向けコンテンツにはまっており、幼い時から日本という遠い国に不思議な魅力を感じていました。そして十代になって、もともと歴史に興味を持っていたこともきっかけに日本の歴史への興味も芽生えました。
 このような経緯で、大学で歴史学と日本語を一緒に勉強しようと思いました。

2 さいたま市の大宮盆栽美術館へ

 実は軽い気持ちで日本語の勉強を始めましたが、大学時代には日本人とよく話していて、イギリス人と日本人との交流を促進するためのイベントにも関わっていました。このような文化交流をもっとやりたいと思い、JETプログラムの国際交流員(CIR)の面接に応募しました。国際交流員としての活動は、大学を卒業した2020年に始まる予定でしたが、COVID-19の影響により、1年半遅れの2021年の秋に日本で活動を始めました。国際交流員は採用されるまでどこに派遣されるのかわかりません。自治体などに派遣されることが多いため、さいたま市の「大宮盆栽美術館」に派遣されるとは想像もつきませんでした。

3 盆栽の魅力

外国人向けの盆栽講座の様子

 大宮盆栽美術館に着任したときは盆栽については全く知りませんでした。それだけではなく、植物についてもほとんど知識がありませんでした。ガーデニングの民族であるイギリス人としては失格ですね。そのため着任した当初は学ぶことが多かったです。今でも学ぶことが多いです。
 しかし、大宮盆栽美術館に勤め始めてすぐに盆栽の魅力に目覚めました。盆栽は大自然の木や雄大な景色を、限られたスペースの中で表現しようとする芸術です。その芸術性に感銘を受けました。日本文化において、床の間など限られた空間を飾る盆栽は昔から自然を大切にしている日本人の精神を一番よく表していると感じます。

4 盆栽の国際化

大宮盆栽美術館の座敷飾り

 ここにきて一番驚いたのは、外国人の盆栽への愛でした。盆栽はもともと中国/日本発祥の芸術だと伝えられていますので、西洋人の文化にはないものです。それにもかかわらず、この数十年で外国(西洋)に盆栽の人気が高まっています。アメリカやドイツから来て、日本の盆栽マスターの下で何年も修業していた方もいます。そのため、この大宮盆栽美術館には、毎日多くの外国人のお客様が来ています。そして、来館者の外国人の割合が徐々に増えています。
 私は主に外国人来館者のための活動を行っており、美術館内のサインや毎週変わる展示のキャプションを英語に分かりやすく翻訳しています。盆栽には専門用語が多いので、正しい翻訳を見いだすことが大変な時もあります。しかしこのような英訳の展示解説を通して盆栽がもっと好きになる人が一人でもいれば、翻訳者冥利に尽きます。
 盆栽の良さをもっといろいろな人に伝えるために、英語ガイドを行ったり、SNSの活動を進めたりもしています。大宮盆栽美術館の公式SNSアカウントは合計9万人のフォロワーがいますが、その多くは日本人ではなく、外国人です。盆栽がそれほど外国に普及している証拠です。
 一方、盆栽は本場の日本では一部の愛好家の趣味というイメージがついているのではないでしょうか。実際に盆栽師の高齢化が近年進んでおり、後継者もいない盆栽園が多くなっていますので、日本の盆栽文化の将来には少し心配をしています。だからこそ日本人に、外国人が持つ盆栽への愛を示すことで、この大切な文化を再確認してもらえると嬉しいです。

5 大宮盆栽村の開村100周年とこれからの100年

 大宮盆栽美術館の近くには大宮盆栽村(埼玉県さいたま市北区盆栽町)があります。関東大震災(1923年)で大きな被害を受けた東京の盆栽業者が、盆栽育成に適した土壌を求めて大宮の地に移り住み、1925年大宮盆栽村が開村されました。今では大宮盆栽村は世界中の盆栽愛好家にとって盆栽の聖地になっています。
 来年2025年には、大宮盆栽村は開村100周年を迎えます。大宮盆栽村と大宮盆栽美術館にとってこの特別な1年のために、様々なイベントを現在準備中です。この活動が大宮盆栽村と日本の盆栽文化のこれからの100年のためになることを願っています。
 盆栽の外国人へのさらなる普及は盆栽文化と日本の文化を次の世代に伝えるために重要な任務だと確信していますので、これからも日本の文化を様々な人たちに伝えたいと思っています。

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