グローカル外交ネット

令和6年8月26日

駐ザンビア日本国特命全権大使 竹内 一之

1 はじめに

ザンビアの皆さんと草の根交流を続ける主体である耕野まちづくりセンターの皆さんと竹内大使(中央)

 宮城県伊具郡丸森町。宮城県の南端にあるこの町と、私が赴任している南部アフリカ中部に位置するザンビア。直線距離ですら13,000キロメートルも離れている両地ですが、ここには人と人を介したとてもグローカルな交流があることをご存じでしょうか。今回、2024年6月に一時帰国する機を捉え、丸森町の皆さんとの意見交換に行って参りました。

2 丸森町とザンビアの交流

ザンビアフェスでの一幕

 丸森町とザンビアの交流の歴史は、2011年2月に遡ります。農村地域の活性化を目指すJICAのプログラムを通じて、ザンビアの農村の中小農家5名を研修生として一時的に受け入れたことが始まりでした。5名のザンビア人はホームステイを行いつつ、中山間・農村地域での農業普及状況を熱心に学び、多くの事をザンビアに持ち帰りました。折しも、彼らの帰国直後に発災した東日本大震災の被害を受けた丸森町ですが、ザンビアへ戻った研修生が主体となって義援金を届け、音楽で応援するなどし、友好の芽は続いています。その後も双方向での交流は続き、丸森町民が持っている農業技術、様々なアイデアや創意工夫などをザンビアの農家に伝えることで、貧困解消に貢献できるかもしれないという思いの中、丸森町とザンビア・ルサカ州の農村部との関係は深まっています。

3 交流の深化

丸森町・保科町長表敬訪問

 この関係は、2016年にJICAの草の根技術協力プロジェクトの地域活性化特別枠を活用し、ザンビア・ルサカ州内の農村部において丸森町の伝統的な農業技術を伝える技術協力が開始されることで、更に強化されます。農産物生産、加工・保存技術、マーケティング、栄養・調理の4分野を主として、技術指導員の往訪をはじめとした交流が進んでいきました。
 農業技術の支援を核とした丸森町とザンビアとの友好関係は、ザンビア側への一方的な技術支援に止まりません。丸森町側にも、様々な変化を与えたと聞きます。国際協力への理解が深まることはもちろんですが、何よりも町民の皆さまのモチベーションが変化したというのです。町民の皆さんが伝えた技術やアイデアが、ザンビアの中小農家の暮らしを豊かにしている。この事実が、自分たちの持っている知識や技術、経験の大切さを認識する素晴らしい機会となったとのことです。機械化などが進んでいないザンビアにおける中小農家の営農は、日本にとって原風景とも言える環境です。今ザンビアで起きていることへのアドバイスなどを通じて、やりがいを再び感じる事ができるようになったともお伺いしました。
 丸森町は、2019年に東京オリンピック・パラリンピックにおけるザンビア選手団のホストタウンとなり別ウィンドウで開く、代表団との交流を通じて更なる関係強化が行われる予定でした。新型コロナウイルス感染症の影響で、残念ながらこの交流は叶いませんでしたが、丸森町ではそれ以降も人の往来を再開し、またザンビア・フェスティバルを開催するなど、いっそう絆を深めています。

4 結びに

 2016年以来、丸森町とザンビアを結んでいたザンビア丸森プロジェクトは、本年10月で一区切りを迎えます。今回の丸森町訪問を通じて、丸森町の皆さんがザンビアの事をどれほど身近に感じているのか、人と人とを通じたグローカルなつながりがいかに強いかと言うことを、再認識することができました。保科町長への表敬訪問でも強い思いを拝察することができ、プロジェクトを主導している耕野振興会の皆さまからも熱い思いをお伺いすることができました。私がとりわけ感銘を受けたのは、活動に携わる方たちが、自らの活動を詳細に説明する資料を、全ての町民の皆さんにその都度配布して紹介されており、それにより活動が真に町ぐるみの理解を得ていたことでした。一つのコミュニティが国際交流活動に携わる、一つのモデルケースですらあるのではないか、と感じた次第です。プロジェクトは一区切りであっても人のつながりに区切りはなく、今後も丸森町とザンビアの遠くて近いグローカルな関係は続いていくと確信しています。私としても今後の友好関係の強化に向けて力を尽くしたいと考えています。

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