グローカル外交ネット

令和6年5月22日

駐ジョージア日本国特命全権大使 石塚 英樹

1 はじめに

旧甲州街道と『七賢』店舗を中心とした都市の歴史的な景観

 3月25日と26日の二日間、用務帰国の機会に駐ジョージア大使として山梨県に地方連携に係る出張を行いました。自分は、日本産酒類を用いた公邸設宴や行事の開催に取り組んできましたが、特にジョージアにおいて、来賓客が日本酒と日本産ワインを高く評価しながらも、それら産品のサプライチェーンがアジアほど発達していない現実にかんがみて、これをどう実際の購買、輸入促進に結びつけるかを問題意識として抱えておりました。そのために、ワインなどの醸造文化で名高い山梨県を訪問し、将来的に、コーカサス地方への日本産酒類の輸出振興にどういった方途があるか考察する機会としました。今次出張においては、日本国内の著名な日本酒造メーカー等を訪問するとともに、山梨県知事に表敬して意見交換を行う機会を得ることができました。

2 山梨県内企業等訪問

日本ワイン歴史展(会場の山梨県立笛吹川フルーツ公園のパビリオン)

 出張一日目は『七賢』ブランドで知られる山梨県北杜市に位置する日本酒醸造メーカーである山梨銘醸を訪問しました。歴史的には、1750年(寛延三年)、信州高遠藩の造り酒屋の『中屋』の分家が、水と米にめぐまれた甲州台が原宿(現山梨県北杜市白州町)に造り酒屋を設けました。1835年(天保六年)、母屋改築の際、高遠藩主内藤家より竹林の七賢人をモチーフにした欄間の寄贈があり、家宝とされました。維新後、1880年(明治十三年)、明治天皇の山梨県、三重県、京都府行幸の折、この母屋が「行在所」として活用され、奥座敷には明治天皇が御一泊され、表座敷では同行した大膳が食事をテーブルの上に提供しました。当主はいわゆる一夜侍従の官職を与えられ、給仕にあたりましたが、その酒は提供されず、新たに掘った井戸「御膳水」の水だけが提供されたとのことです。この訪問により、母屋は「聖蹟」とされ、爾後門は堅く閉ざされ、注連縄が張られ、昭和8年(1933年)、当時の文部省により「史跡」に指定され、余人は入ることができなくなったため、結果として現状保存が良く、現在は公開されています。日本の地方にはこのような貴重な史跡が地元の努力で残されています。大正時代に当主を継いだ十代目は、このナラティブをもとに『七賢』というブランドに改め、近代的な株式会社組織を立ち上げ、積極的なマーケット戦略を行いました。現代では、今の当主により新商品の開発や海外輸出がはかられており、発砲日本酒の「アラン・デュカス」はパリの三つ星シェフとの協力で開発され、和洋両方に合う酒として高く評価され、当館公邸でも賓客に供しています。
 二日目は山梨県笛吹川フルーツ公園において開催されている「日本ワイン歴史展―日本ワインの夜明け―」を参観しました。甲州ブドウは、旧来日本の固有種と考えられていましたが、日本でのDNA研究の結果、欧州ブドウのヴィニフェラ種が71.5%、中国のトゲブドウ28.5%の交配種であることが近年明らかにされております。サペラヴィ種も含まれる欧州ブドウのヴィニフェラ種は、シルクロード経由で漢から唐までのあいだに華北に伝えられましたが、乾燥を好み、湿潤高温な長江流域にまで南下したのが、元の時代、地球が寒冷化した時代でした。中国南部で、長期間かけて交雑し、15世紀の明代、それが日明貿易によって日本に伝えられ、山梨で農法が開発され普及した由です。
 その後、山梨県のワイナリーが集中している甲州市勝沼地区を訪問しました。同地区には「ぶどう寺」とも言われる大善寺があり、奈良時代の創建と伝えられ、薬師如来をまつる薬師堂は、鎌倉時代(1286年)の建立であり、関東近県最古の木造建築物として、国宝に指定されています。近代史においては、戊辰戦争時に、近藤勇が最後の戦いをした場所としても知られております。本尊薬師如来は、手にブドウをもった姿ですが、秘仏であり、公開されていませんでした。
 続いて、勝沼醸造を訪問しました。『ARUGA BLANCA VINHAL ISEHARA』は伊勢原種の白ワインで、輸出も念頭におきつつ、日本産ブドウを使用して、丁寧に製造されております。『ARUGA BLANCA DENSHO』は新製品であり、甲州ブドウを100%使用したものです。また、古樽で熟成させたもので、きわめて豊醇な香りがあります。地酒感のあるジョージアのアンバーワイン(白葡萄から製造される琥珀色のワイン)にちかい仕上がりです。
 本来、甲州ブドウを使用したワインは、果実用を流用し、安価で品質があまりよくないとされていましたが、醸造用として収穫時期の見直しを行った結果、糖度が上がり、比類のないワインができました。
 また、将来的な国際交流拠点となることが期待される山梨県立美術館を訪問しました。同県立美術館は、県庁から自動車で15分ほどの立地でありますが、緑に囲まれた環境のよい場所に恵まれております。ミレーほかバルビゾン画派のコレクションで知られております。これはジョージアの農民の生活を活写したピロスマニの画とも親和性が高いと思われます。

3 県知事らとの意見交換

長崎幸太郎・山梨県知事への表敬(山梨県庁内)

 出張の最後に山梨県庁において、長崎幸太郎・山梨県知事を表敬し、県庁幹部同席の上で意見交換会を行いました。山梨県とジョージアの国際交流について議論を行い、山梨県の青少年交流事業への参加よびかけなどの協力、ワイン文化を中心とした学術交流の推進、県産品のプロモーションの継続に具体的に取り組んでいくことで意見が一致しました。

4 最後に

 山梨県とジョージアには多くの共通点があり、地方連携の潜在力が非常に大きいことを改めて実感しました。今後とも山梨県とジョージアの交流拡大に向けて取り組んでいきたいと考えております。

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