グローカル外交ネット
南伯から日本への想い
令和6年5月20日
在ポルトアレグレ領事事務所
所長 清水 一良
1 友情の証、「滋賀公園」の修復
- (1)1980年、ブラジル(伯)の南端に位置するリオ・グランデ・ド・スール(RS)州と滋賀県は、共に国一番の大きな湖を擁することをきっかけとして姉妹県州として提携し、その3年後の1983年には滋賀県から姉妹提携を記念して、州都ポルトアレグレ市に琵琶湖を型取った池を中心にした廻遊式の日本庭園、「滋賀公園」が寄贈されました(注:同公園の管理運営はポルトアレグレ市が担う)。
滋賀公園の建設にあたり、労力、資材、材料はすべてブラジルの土地のものが使用され、造園技術のみが日本からの手になるところとなりましたが、このことが現地の人々に大きな感銘と自信を与えることになったようです。付近に見捨てられていた材料が、日本の技術によって素晴らしく美しい公園に生き返った現実に、人々は驚かざるを得なかったようです。「滋賀公園」を寄贈されたポルトアレグレを始めとするリオ・グランデ・ド・スール州の人々は、日本人のそれとは違う自然感情をもって、この美しい日本庭園で憩い、無意識のうちにも日本への想いを募らせてきたのではないかと思います。 - (2)ポルトアレグレ市は、公園建設から40周年となる2023年を目途に、かなり痛んでしまっていた滋賀公園を再生させるべくプロジェクトを立ち上げ、滋賀県から専門家のアドバイスや現地日系人建築家の意見等を踏まえて修復工事を計画したのですが、コロナ禍の影響を大きく受けてしまい、最終的に工事が開始されたのは、2023年10月でした。そして本年3月15日、修復工事を無事終了して待望の竣工式が実施される運びとなりました。
- (3)竣工式には、セバスチャン・メロ市長のほか、関係者約70名及び当事務所からも出席して公園の修復工事完成を祝いました。また、この日のため滋賀県の三日月知事から祝辞が寄せられて当事務所で代読させていただきました。その祝辞において三日月知事は、「この“小さな滋賀県”ともいえる市民に愛されてきた滋賀公園は、両県州、そして日本とブラジルの絆として非常に意義あるものであり、滋賀公園がこれからもリオ・グランデ・ド・スール州の皆さんにとって欠かせない憩いの場として愛され続けることを願うと共に、両県州の友情が一層深まるよう共に手を携えて歩んでまいりたい」と表明されました。またメロ市長からは、「長い間計画されていた滋賀公園の再生がようやく叶ったことを大変うれしく思う。ポルトアレグレ市民を始め、多くの方々に滋賀公園を大切にしてもらい、この美しい状態を長く保ってくれることを望む」と述べられ、感謝を込めた挨拶がなされました。その後関係者が修復された美しい公園内を散策し、盛況のうちに竣工式を終えましたが、現地紙も市民待望の滋賀公園の再生に祝意を示す記事を掲載しています。
2 リオ・グランデ・ド・スール(RS)州の姉妹都市
- (1)実はRS州には、同州の他に、日本の都市と姉妹提携している都市が2つあります。それは州都ポルトアレグレ市とRS州南部地域の中核都市であるペロータス市です。それぞれの都市が、石川県金沢市と石川県珠洲市との間で姉妹都市を提携しています。特に珠洲市とペロータス市の姉妹都市提携は古く、1963年に遡ります。このブラジルの都市との姉妹都市提携は、石川県内はもとより、日本で初めての画期的な出来事として伝えられています。
- (2)この提携の実現には、ペロータス市出身で当時駐日伯大使館の文化担当官だったヴィニョーリス氏が橋渡し役となりました。同氏は日本政府の国費留学生として1957年に来日し、東アジアの音楽を研究して作曲家としても活動していたようです。
国費留学生としての日本滞在を終えた後、同氏は、駐日伯大使館の文化担当官として勤務することになりましたが、縁があって珠洲市立大谷小学校(注:その後、珠洲市立西部小学校に統合され、2016年4月からは市立大谷中学校と統合(併設)し、現在は珠洲市立大谷小中学校)の校歌を作曲することとなり、珠洲市に深い愛着を持つようになりました。そして度々珠洲市を訪れた同氏は、生まれ故郷のペロータス市と珠洲市との姉妹都市提携を提案し、その後両市議会の議決を経て、姉妹都市提携が成立したのです。 - (3)その後1966年5月、駐日伯大使のソアーレス氏とヴィニョーリス氏夫妻が珠洲市を親善訪問し、市民を挙げての盛大な歓迎を受けられて、大谷小学校においてはヴィニョーリス氏の校歌作曲記念碑が建立され、除幕式が行われました。
珠洲市訪問の帰途、両氏は金沢市に立ち寄り、同市幹部と懇談する機会を得ました。かねてより金沢市の魅力を強く感じていた両氏は、石川県の県庁所在地である金沢市と、RS州の州都であるポルトアレグレ市との姉妹都市提携を望み、ポルトアレグレ市からも賛意を得ていました。その提携によって、既に姉妹都市である珠洲市とペロータス市の交流拡大はもとより、日本とブラジルの友好協力関係促進にも寄与することから、ポルトアレグレ市の意向を踏まえて、同市との姉妹都市提携を申し入れたのでした。その後、外務省からの姉妹都市提携に関する前向きな意見なども考慮し、金沢市として姉妹都市提携の意向を固めたことから、両市における手続きが開始されることとなりました。そして翌1967年3月には金沢市議会で都市提携の議決がなされ、同年5月にはポルトアレグレ市で提携に関する条例の署名式が実施されて石川県内の2都市とRS州内の2都市との姉妹都市提携が実現し、それぞれの姉妹都市間の友好協力関係が今日まで脈々と続いています。 - (4)本年1月1日に発生した能登半島地震の際には、甚大な被害を被った珠洲市の泉谷市長に対して、ペロータス市のマスカレーニャス市長からお見舞いと連帯のメッセージが送られました。
また、4月末からのRS州豪雨被害を受けて、滋賀県の三日月知事からレイチRS州知事宛に、また、金沢市の村山市長からポルトアレグレ市のメロ市長宛にお見舞いのメッセージが発出されました。
当地には、姉妹都市である金沢市をサポートしている「金沢友の会」と、RS州の姉妹県である滋賀県をサポートしている「滋賀友の会」があり、当事務所の文化行事やレセプション、また年々大規模になっている当地日系団体主催の「日本祭り」等において、それぞれ積極的にブースを設け、金沢市と滋賀県を積極的にアピールしています。2つの友の会の継続的なサポートは、RS州における日本のファンを確実に増やし、親日家・知日家の醸成に繋がっています。
3 姉妹県州と姉妹都市の交流促進
- (1)珠洲市とペロータス市、金沢市とポルトアレグレ市、そして滋賀県とRS州の姉妹都市提携の始まりがそうであったように、継続するにも姉妹提携都市、姉妹県州の人と人とのつながりが一番重要です。コロナ禍の2~3年間は、完全に人の往来が遮断されて、姉妹都市交流には大きなマイナスとなりましたが、その一方でオンライン環境・技術が発展・拡大しました。日本とブラジルには12時間の時差があり、それがネックにはなりますが、何千キロも離れた距離を一瞬に縮めることができ、相手の表情を見ながら会話をし、議論出来ることは画期的です。しかし、オンラインの活用が拡大しても対面で理解し合う効果は絶大であり、オンラインは対面を補完する一つの手段として、対面を凌駕できないことも確信しました。
- (2)本年3月上旬、林駐ブラジル大使が滋賀県の三日月知事を訪問し、来たる2025年が姉妹県州45周年、及び日伯外交関係樹立130周年でもあることから、一層の姉妹県州関係の交流活性化などについて同知事と意見交換を行い、三日月知事より滋賀県が有する琵琶湖の浄化技術をRS州のパトス湖に適用・応用することの可能性や来年の訪伯なども前向きにご検討いただくこととなりました。
また、上記のとおり、3月15日、三日月知事からは滋賀公園の竣工式への御祝辞もいただきましたし、レイチ州知事の滋賀県訪問を心から歓迎する旨の書簡も頂きました(注:後日、同県庁を訪問した小職が書簡を預かり帰任後州政府に手交)。
小職も3月中旬、一時帰国の際に滋賀県庁を訪問させていただき、浅見総合企画部長及び同部国際課の皆様に、三日月知事の竣工式・御祝辞への御礼をお伝えすると共に、パトス湖浄化対策や明年の姉妹県州45周年に向けたスケジュール、人的交流の活性化等々、意見交換させていただき、メールのやり取りだけでは理解しづらい個々の課題や詳細など、短い時間ではありましたが、有意義な対面ミーティングを行う事ができました。また、金沢市を訪問し、村山金沢市長を表敬の上、同市とポルトアレグレ市との友好協力関係について意見交換を行いました。 - (3)姉妹県州、姉妹都市間の交流活性化は、人と人との繋がりが基本であるからこそ、コロナ禍が過ぎた今、人の往来を活発化していくことが姉妹提携を促進する上で何より必要かつ重要であると考えます。昨年9月末、日本とブラジルは短期滞在査証の相互免除を実現しました。当地からも訪日旅行者が増加すると思われますので、RS州と関係の深い滋賀県や珠洲市、金沢市を是非訪問して欲しいと願っています。そうすれば、百聞は一見に如かず、必ずや日本、そして歴史ある姉妹都市・県のファンになってくれると信じています。
- (4)姉妹県州と姉妹都市間の交流促進には一層人の往来を活発化していくことが大切ですが、そのためにも、本邦の姉妹都市と外国の姉妹都市、乃至県州との間を、我々在外公館の職員がしっかり繋いでいくことが重要で、この事こそ、我々に求められている大きな役割だと思うのです。
そんな思いを新たに、南伯から日本への想いを、微力ながら繋いでサポートしていく所存です。