グローカル外交ネット
食が観光を呼び、観光が食の価値を高める:ドイツ・ベルリンで
「Japan Night Food & Travel」を開催
在ドイツ日本国大使館(農林水産省から出向)
川邉 隼之介
1 オールジャパンでの食と魅力のPR

3月4日、在ドイツ日本国大使館はJETRO、JNTOとの共催で、日本食と訪日旅行の魅力をドイツでアピールするレセプション「Japan Night Food & Travel」を開催しました。本レセプションでは、7自治体(北海道、長野県、京都市、大阪府、広島県、沖縄県、静岡県するが企画観光局)が食を1つのテーマにして、各地域の魅力を情報発信しました。また、日本産水産物と日本茶、日本酒のPRも行うべく、日本養殖魚類輸出推進協会提供のぶりとまだいを使った料理や公邸料理人による北海道産ほたてを使った料理、日本茶インストラクター協会提供の5県産の日本茶、震災被害を受けた福島県や石川県などの日本産酒類も振る舞いました。さらに、大阪観光局からは、大阪・関西万博のテーマの1つである持続可能性と絡め、大阪にはお好み焼きやたこ焼きなど関西圏のローカル食のみならず、ミシュラングリーンスター(持続可能なガストロノミーに対し、積極的に活動しているレストランに授与している)のレストランがあることについての紹介がありました。
レセプションには、レストラン格付け誌「ミシュランガイド」で星付きに選ばれたレストランを含むドイツ系の有名シェフ、ディストリビューター、旅行関係企業、メディアら約160名が参加し、(手前味噌ながら)多くの方々に素晴らしい日本食と訪日旅行の魅力を感じていただけたと思います。
2 なぜ「食」と「観光」を連携させたのか

「食と観光」を融合し連携させたPRイベントは、ドイツでは初めてでした。なぜこのような連携を仕掛けたかというと、ドイツ人にとって訪日旅行と食が切っても切り離せないという状況があったからです。コロナ前の2019年の観光庁による調査では、訪日旅行前のドイツ人の約48%が「日本食を食べること」を訪日の第一の目的に挙げ、また、実際に訪日したドイツ人の約70%がまた日本食を食べたいと答えていました。
食のPRと観光のPR自体は、従来からドイツでも行われてきました。ただ、これではターゲット層が分散してしまい、食と観光を合わせた「足し算型」のPRにすぎなくなってしまいます。そこで、「食」を一貫したテーマに据え、食の関係者には訪日旅行客による日本食マーケットの拡大について、旅行関係者にはドイツ人旅行客の取込みに食が有効なフックとなることについて、同時に訴えることで、日本の農林水産物・食品の輸出とインバウンド観光の相乗的な拡大を図ることを目指しました。食は食、観光は観光ではなく、「食×観光」のイメージです。
3 地方誘客の切り口としての食

各自治体のブースでも工夫を凝らした説明がなされていて、ドイツ人の参加者に食の地域性・多様性がうまくPRされていました。例えば、するがブースでは、お茶の産地としての魅力を伝えるべく同地域で生産された複数のお茶を提供しており、ドイツ人参加者は「静岡にこれほど多くの緑茶があるのか」と驚いていました。また複数の県産食品をアピールした広島県ブースを見た参加者からは、「広島がカキの産地だとは知らなかった」との感想が聞かれました。 旅行関係者だけではなく食品を扱う卸売事業者からも「料理の旅を通して、日本料理の多様性と繊細さを体験でき、日本とその文化に対する理解と評価が深まった」とのコメントがあったことから、改めて食が地方への理解醸成につながることが感じられました。
4 ドイツマーケットに合ったPRの重要性
農林水産省によると、2023年のドイツ向け日本産農林水産物・食品の輸出額は前年比8.6%増の約116億円と好調で、ドイツマーケットでの日本食人気は高まっています。10年前は「和牛」や「緑茶」すらほとんど知られていませんでしたが、例えば私の故郷である秋田県の稲庭うどんやあきたこまちの甘酒がセレクトショップで売られるなど、最近のドイツ人の日本食や日本の地方への関心の高まりを肌で感じています。各地方の食や観光のアピールの攻勢をかける良いタイミングが、今訪れていると思われます。
一方で、全てのPRが効果的に終わるわけではありません。例えば、日本人が好きな食材や食べ方をそのまま持ってきても、必ずしもドイツ人がおいしいと言ってくれるわけではありません。本レセプションで調理を担当したホテルシェフは、ドイツ人の好みに合わせて、日本人にはしょっぱいと感じられる味付けにしたそうです。また、緑茶のテイスティングでも、色も含めて茶葉や味の違いを一目で分かるようにしました。ドイツマーケットの消費者の好みは何か、保守的と言われるマーケットに入り込むためにどういった工夫や戦略が必要かなどをしっかりと踏まえることが、PRを成功に終わらせる鍵になると感じています。
在ドイツ日本国大使館は、農林水産物・食品の輸出促進や日本の食産業の海外展開支援をミッションの一つにしています。各自治体の皆様、ドイツマーケットでのPRで何か相談されたいことがあれば、遠慮なく当方までご連絡ください。