グローカル外交ネット
北海道むかわ町とアクメネ地域市の交流
駐リトアニア日本国特命全権大使
尾﨑 哲
1 恐竜の化石を縁に始まった交流
駐リトアニア日本国特命全権大使の尾﨑哲(おざき てつ)です。
北海道むかわ町は、合併(穂別町と鵡川町)10周年の2016年に制定されたキャッチフレーズによれば、「人と自然が輝く清流と健康のまち」であり、ハドロサウルス科の新属・新種恐竜「カムイサウルス・ジャポニクス(通称:むかわ竜)」のほぼ全体の化石が発見された「恐竜のまち」でもあります。そのご縁で、恐竜の歯の化石が発見されたリトアニアの北部の中堅都市「アクメネ地域市」と2019年に協力協定を締結、友好的な関係が長年育まれてきました。そのような中で、昨年10月にはアクメネ地域市のミトロファノバス市長が、二度目のむかわ町訪問を実現し、竹中町長との面会や住民レベルでの交流が行われました。このような背景から、昨年12月、一時帰国の機会を捉え、私もむかわ町を訪問することが実現しました。
2 むかわ町への訪問


本訪問にあたっては、同町の穂別にある「経済恐竜ワールド戦略室」の方々に大変お世話になり、温かな歓迎をいただきました。空港からむかわ町役場までの40分ほどの間、御担当者の方から色々と話を伺うことができました。特に、2018年の北海道胆振東部地震で甚大な被害を受け、今後想定される大きな地震・津波への対策を講じつつ、どのように町おこしを行っていくかについて外部のコンサルを活用しながら真剣な検討を重ねていること、また特産の「鵡川ししゃも」がここ数年の漁獲量激減のため「ししゃも孵化場」が設置され、驚いたことに今年は一時的に禁漁としていることについて伺いました。美しい自然と漁業・農業・林業という日本・北海道に典型的な組み合わせで、かつ、自然災害や気候変動の影響を直接被るという意味でも典型的な「むかわ町」の今後の町おこしプランは、北海道だけでなく日本のモデルケースになるのではないかと思いました。
竹中喜之むかわ町長との懇談では、お心のこもった歓待を受け、藤江伸穂別総合支所長、長谷川孝雄むかわ教育委員会教育長、藤田浩樹経済恐竜ワールド戦略室長等もご列席され、様々なお話を伺うことが出来ました。また、町おこしコンサルを請け負う「青山社中株式会社」の朝比奈一郎筆頭代表CEOも町長から招聘されており、第三者的視線での興味深い話も伺いました。
アクメネ地域市との交流について、竹中町長からは、子供達の交流を含め、その広がりを一つ一つ育んでいきたいこと、来年は「むかわ竜」の年なので竜を架け橋にしてお互いを更に繋いで行く年にしたい、との意欲を示していただきました。私からは、食と森林という取り合わせは、「森と湖の国であるリトアニア」と通じるところが大いにあり、来年は4年に一度の催事である「リトアニア歌と踊りの祭典」があるので、是非アクメネ地域市を訪問していただきたい、とお願いしました。最後に竹中町長から、背に「むかわ竜」の描かれた法被をいただき、リトアニアに大切に持ち帰り、神輿や盆踊り等で活用させていただくことにしました。
町長との懇談の後、産直施設である「ぽぽんた市場」を訪問しました。「ぽぽんた」の由来は、何と「たんぽぽ」であり、鵡川の河川敷に広がる群生たんぽぽ(「たんぽぽ公園」になっている)にちなんで付けられたそうです。同市場においても皆様に大変な歓迎をいただき心から感謝申し上げます。
今回宿泊させていただいた道の駅と温泉・ホテルの複合施設「四季の館」で行われた懇談会においても、竹中町長をはじめ多くの関係者様とむかわ町の魅力やリトアニアとの今度の交流展望について様々な意見交換を行うことができました。「四季の館」の臼井康彦社長、伊藤由里子支配人におかれましても温かなご歓迎を誠に有り難うございました。
3 若い世代・学生の渡航機会をもっと
本訪問を通じて、この魅力たっぷりの素晴らしいむかわ町に、リトアニアの多くの方々にお越しいただきたいと改めて感じた次第です。コロナ禍で落ち込んだ日本人の海外渡航の回復は、外国人の訪日の急速な回復に比べて依然としてかなりの低空飛行と感じています。航空運賃の値上がりと急激な円安といった悪条件の重なりもありますが、もっと根本的には若い世代を含め比較的安全で住みやすい日本から出ていく積極的な理由を見出し切れていないという状況かと思います。日本人のパスポート保有率が18%という衝撃的な数字もあり、やはり中央政府や地方自治体がもっと若者・学生の渡航を後押しすることが極めて重要と考える次第です。