グローカル外交ネット
ハワイの著名シェフとインフルエンサーによる訪日及び日本産水産物のSNS発信
日本貿易振興機構(ジェトロ)ロサンゼルス事務所
1 はじめに
ハワイ州は、人口の約4割がアジア系人種で、多くの日本食レストランや日系スーパーがあり、州外から年間1,000万人もの観光客が訪れます。そこで、日本貿易振興機構(ジェトロ)は、1月27日から2月2日まで、日本産水産物の米国ハワイ市場に向けた輸出拡大と魅力発信を目的に、ハワイで活躍するシェフとインフルエンサーを日本に招聘しました。
今回ハワイから、10店舗のレストランをハワイに構えるロイズグループのロイ・ヤマグチ氏をはじめ、ハワイで活躍する人気シェフ10人のほか、フードコラムニストのショーン・モリス氏などハワイ在住の人気インフルエンサー5人が参加しました。参加者は、東京都の豊洲市場のほか、愛媛県や福岡県も訪問し、各地の鮮魚市場や水産会社等を訪れ日本の多様な水産物の魅力に触れる一方、地元の魚介類を使った調理実演も行い、SNSを通じてその様子を世界に発信しました。
2 豊洲市場でまぐろの競り等を視察
東京都では、豊洲市場でまぐろの競り等を視察しました。参加者からは「このような競りから配送まで、大規模な一貫した組織があることに非常に感銘を受けた」、「食品の安全性、流通、魚介類の品質、そして魚市場と地域との関わり方について多くを学んだ」といった声が聞かれました。
3 福岡県の食を体験

参加者は29日に福岡県に移動し、柳川市名物のうなぎ料理を堪能し、30日早朝は九州や西日本各地の新鮮な魚介類が集まる福岡市の長浜鮮魚市場を見学した後、総合食品メーカーの久原本家が運営するめんたいこ工場やレストラン「茅乃舎」を視察しました。「茅乃舎」では、料理長がだしの取り方講座を実施し、かつお節の製造工程や削り方、だしを取る際の最適な温度などを参加者に伝えました。
また、参加者は服部誠太郎福岡県知事を表敬訪問しました。服部知事は、八女伝統の本玉露の水出し茶や八女玉露のテリーヌ、福岡県で開発されたイチゴ「あまおう」でもてなした上で、「鮮魚市場の魚を遠隔地にも新鮮な状態で届けるため、福岡県内の巨大冷凍施設の建設を支援している」と述べ、水産業に対する県の振興策を紹介しました。また、漁業活動による環境への影響に関する参加者からの質問に対し、服部知事は「われわれは漁師の方々に1週間先の気象、潮流、海水温の情報を伝えるシステムを構築している。これにより、漁師が適切な漁場まで迂回せず操船でき、燃料の節約にも寄与している」と説明しました。
4 愛媛県宇和島市での漁業関係者との交流

愛媛県では魚類の養殖業が盛んで、県内の各事業者が販路拡大に積極的に取り組んでいます。参加者、2月1日に宇和島市内の養殖魚の輸出事業者や生産者を訪問し、みかんの皮を魚の飼料に混ぜて育てる「みかん鯛」(注1)の養殖場の見学や一本釣り体験を行ったほか、市内の水産会社を訪問し、最新人工知能(AI)給餌システムで真鯛に給餌する様子や「だてまぐろ」(注2)加工場を視察しました。
また、一行は、愛媛県立宇和島水産高等学校(以下、宇和島水産高校)も訪問し、愛媛県事業者4社との交流行事に参加しました。愛媛県の事業者が用意した真鯛炊き込みご飯、アコヤ貝柱の素揚げ、ブリ刺し身などを試食しながら意見交換を行いました。また、会場となった宇和島水産高校の生徒が、同校で開発する缶詰(注3)について英語でプレゼンテーションを行いました。
その後、ハワイのシェフによる愛媛県産食材を使った調理実演が行われ、香草を添えたマダイの茶漬け、特製みかんポン酢がけブリや、隠し味に愛媛県のオリジナル品種の柑橘「甘平(かんぺい)」を使ったマグロのユッケなど、創作料理がふるまわれました。ハワイ側参加者からは、「ハワイには日系コミュニティーがあり、縁起物としての“めでたい”鯛にもなじみがある。おいしい養殖マダイがハワイでも手に入るようになればうれしい」「直接、生産者と対話できたことで、水産養殖について理解が深められた」との感想が聞かれました。参加した事業者からも、「ハワイにはすでに輸出しているが、どのように現地で消費されているのか知ることができたし、今後、輸出に取り組むうえでさらなるヒントを得た」などの声が聞かれました。今回の視察の様子は、ハワイの若者に人気のあるコリーナ・クアック氏、ブライシン・カレ氏をはじめとする有力インフルエンサーのSNSでも発信され、日本産水産物の絶好のPRの機会となりました。
5 まとめと今後の展望

今回の視察ツアーについて、ハワイの参加者から、「日本の鮮魚市場の取り扱い鮮魚、管理体制の水準の高さに驚いた」「日本産水産物の魅力を感じた。今回の訪問で知った鮮魚を早速、自分のレストランでも扱いたい」「実際の水産物の養殖現場などを視察し、日本産水産物の安全性へのこだわりなどを知ることができてよかった」などの感想が聞かれました。
ジェトロは今後も引き続き、日本の水産物の魅力をハワイに発信するプロモーションを実施していく予定です。
(注1)「みかん鯛」は、廃棄されるミカンの皮を再利用するサステイナブルな商品で、ミカンに含まれる抗酸化作用により身質の改善、褐変(かっぺん)防止などの効果があるという。
(注2)宇和海産クロマグロのブランド名。
(注3)宇和島水産高校では、数年前からブリや真鯛を使った缶詰を開発・製造しており、2018年に米国ハワイへ初めて輸出した。「新輸出大国コンソーシアム活用事例集」参照。