グローカル外交ネット

令和7年3月12日

山ノ内町 未来創造課長 堀米 貴秀
在リヨン領事事務所 副領事 都築 和仁

1 はじめに

 2025年1月8日、フランスはモン・ブランの麓に位置するサン・ジェルヴェ・レ・バン市と長野県下高井郡山ノ内町との間で友好交流協定が締結されました。両自治体の最初のコンタクトは2024年1月。本稿では、約1年の間に両首長の相互訪問が実現し、友好交流協定が締結された経緯、山ノ内町が本交流にかける想い、そして在リヨン領事事務所が担った役割について紹介します。

2 両自治体の共通する観光資源・課題

サン・ジェルヴェ・レ・バン市 (サン・ジェルヴェ・レ・バン市提供)
志賀高原 (山ノ内町提供)

 冒頭で触れたとおり、サン・ジェルヴェ・レ・バン市(以下、サン・ジェルヴェ)はアルプス最高峰のモン・ブランの麓に位置しており、斜面に沿って街が大きく分けて三層構造に形成されています。最も高い位置(標高1,000~1,900メートル)にはフランスで3番目に大きなスキーリゾートがあり、中腹地点の市街地を挟んで、低層部分(標高580メートル)が鉄道駅や高速道路のICがある交通の要衝となっています。さらに、この街にはもう一つ大きな特徴があります。それは、モン・ブランを源泉とする温泉施設です。水着での入浴こそ日本と異なる点ではあるものの、お湯の温度は38℃、露天風呂はフレンチ・アルプスの山々に囲まれた絶景付きと、日本人が思い描く温泉空間に近いものが感じられます。
 もう一方の山ノ内町は、日本最大のスキーリゾート「志賀高原」を有し、渋温泉や湯田中温泉などの信越地方屈指の温泉地でもあります。このように両自治体には共通する観光資源があり、それらの魅力を活かした観光振興はもちろん、自然環境保全への取り組みという特有の課題に至るまで共通しており、親和性の高い自治体同士であると言えます。

3 了解覚書署名から友好交流協定締結へ

協定締結式の様子

 「山ノ内町が、スキーや温泉などを通じたフレンチ・アルプスの自治体との交流を模索している。」と、長野県国際化協会から在リヨン領事事務所に連絡いただいたことがこの交流のきっかけです。この連絡を受けて、領事事務所で山ノ内町の特徴を調べていく中で、筆者(都築副領事)が過去に訪れたサン・ジェルヴェと特徴が似ていたことから、直接感触を確認しようということで、山ノ内町の資料を持参しつつ、2023年10月にサン・ジェルヴェを訪問の上、ペイエックス市長に山ノ内町との交流について打診しました。そうしたところ、なんと偶然にも、その年の5月にペイエックス市長が日本を旅行された際に山ノ内町を訪問していたことが判明し、我々(領事事務所員)よりも山ノ内町に詳しいという、何とも不思議な逆転?現象が発生しました。この偶然も相まって、ペイエックス市長からは、遠く離れた国との交流となるため、具体的にどのような交流が可能かしっかりと検討する必要はあるものの、両自治体で検討を進めましょうという前向きな回答をいただきました。
 2024年1月、領事事務所が仲介役を務めるかたちで、両自治体がオンラインで顔合わせを行い、それぞれの自治体の紹介や、関心事項についての意見交換を行いました。ここから一気に加速する両自治体の交流ですが、その大きな要因の一つとして、2024年4月の平澤山ノ内町長と湯本山ノ内町議会議長のサン・ジェルヴェ訪問が挙げられます。今後の交流の展望について、両首長間で意見交換を行い、まずは教育分野から交流を進めつつ、観光やスポーツ分野に交流の幅を広げていくとの方向性で一致し、友好交流に関する了解覚書(MOU)に両首長が署名しました。
 そこからさらに両自治体の間で、時に領事事務所も協議に加わりつつ、双方にとって有益な分野の選定、各分野での具体的な交流の中身についての調整を重ね、協定書案の両議会での議決を経て、2025年1月にペイエックス市長を含むサン・ジェルヴェ代表団が山ノ内町を訪問し、友好交流協定締結式が執り行われました。
 今回締結された友好交流協定書には、スキーや温泉、文化、食文化、スポーツといった多岐にわたる分野での具体的な協力案が明記されており、今後の両自治体の交流の発展が期待されています。

4 山ノ内町の本交流にかける想い

 サン・ジェルヴェを知るにつれ、山ノ内町と似通っている部分が多く、友好交流協定締結は必然の流れであったと感じています。この交流を通じて、互いの知識や資源を共有し、経済的・文化的な成長を促すことで、持続可能な地域づくりに貢献できることを期待しています。特に、次世代を担う子どもたちの交流が、国際的な視野を持つ人材の育成につながるものと確信しています。

5 在リヨン領事事務所が担った役割

 本件交流を形成する過程において、前述のとおり、当事務所は仲人的な役割を担いました。領事事務所を含む在外公館は、その地にある在外公館であるからこそ、共通点を見出し、交流の中でどのようなシナジー効果を生むことができるかを想像し、提案できる立場にあると考えます。また、日仏の自治体交流の促進については、2023年12月に日仏両国首脳間で採択された「特別なパートナーシップ」の下での日仏協力のロードマップにも明記されております。
 今後も、当事務所の管轄地域であるオーヴェルニュ・ローヌ・アルプ州と日本を繋ぐ仲人役として、双方に利益をもたらす自治体交流の促進に取り組んで参る所存です。

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