グローカル外交ネット
未体験の「原子力・マルチ外交」 地方官庁職員の外務省勤務
外交実務研修員 加藤 和平
(愛知県から派遣)
1 はじめに
2019年4月より、愛知県庁から派遣され、総合外交政策局軍縮不拡散・科学部不拡散・科学原子力課で勤務しました。それまで、愛知県庁で障害福祉業務に携わっていた身であったのが、いきなり「不拡散・原子力」というまったく縁もゆかりもないジャンルで働くこととなりました。
2 不拡散・科学原子力課での業務
不拡散・科学原子力課では、核兵器を含む大量破壊兵器及び関連物資の不拡散、原子力の平和的利用に関する外交政策を所掌しています。私は、主に国際原子力機関(IAEA)に係る業務と国内の保障措置業務を担当しています。
(1)日・IAEA保障措置協定
IAEAでは、原子力が平和的利用から核兵器製造等の軍事的目的に転用されないことを確保することを目的として、各国の原子力活動に対して、査察を含む検認制度である「保障措置」を実施しています。日本はIAEAとの間で「保障措置協定」を締結し、我が国の核物質の在庫量や施設に関する情報などをIAEAに申告するとともに、IAEAが実施する定期及び抜き打ちの査察を全面的に受け入れています。
こうした「保障措置」に係る外交的事務は外務省が行っており、私は日本からIAEAへの各申告の提出業務やIAEAが行う査察の受入れに関する調整を担当しています。普段我々が利用している原子力エネルギーも、IAEAが実施する「保障措置」を誠実に対応することによって成り立っています。
(2)IAEA総会

竹本内閣府特命担当大臣(当時)の演説
毎年9月にウィーンで、全加盟国が参加する「IAEA総会」が開催されます。我が国からは閣僚レベルが出席し、政府代表演説や各国との会談等を通じて、我が国の東電福島第一原発事故後の取組や原子力政策、不拡散への取組、国際的な原子力の平和的利用の分野での協力といった各分野での取組に関する説明を行っています。
私は各国代表との会談のアポ調整、会談用資料の作成管理に加え、宿舎の留保、配車の調整、レセプションや展示ブース設営支援といった準備業務を、在ウィーン日本政府代表部や関係省庁等の担当者と連携し、入念に行いました。
昨年の総会期間中はウィーンに出張し、現地での最終調整や対応を担いました。その際、自分の業務がイベントの成否に直結するという、仕事のやりがいや重要さを学ぶことができました。加えて、国際会議の雰囲気を肌で感じることができ、大変貴重な経験となりました。また、今年の総会では新型コロナウイルス感染症の流行により我が国はリモートでの総会参加となったため、各オンラインイベントの調整や総会1日目終了後のオンライン記者会見など、オンライン参加により生じた業務を行いました。
(3)IAEA理事国大使の招へい

例年2月ごろ、IAEA理事会メンバーとなっている各国のウィーン代表部大使数名を、原子力の平和的利用における我が国の最先端技術、途上国への技術協力及び我が国の原子力政策に対する国際的な認識や信頼性の向上を高めるため、我が国に招へいする事業を行っています。
私の業務は、各種表敬先へのアポ入れ、旅程の調整、全招へい日程を通しての同行など、当招へい全般にかかる業務でした。日程を組むにあたり、国内機関とのアポ入れや原子力関連施設への視察先の選定だけではなく、食事制限・宿側の受け入れ態勢・移動時の交通手段など細かい部分にも配慮し、この招へいが日本の原子力産業のためだけでなく、招へい参加国からの日本の好感度が上がり、今後の外交における日本の地位向上に資するよう、丁寧に準備しました。細かい作業が多く大変でしたが、招へい後に参加した大使から大変丁寧なお礼状をいただいた際には自分も日本外交の一端に貢献できたという実感を持つことができました。
3 終わりに
不拡散・科学原子力課では、不拡散・原子力という非常に専門性が高く、また世間の注目度も高い業務を所掌しており、時期によってはかなり忙しかったです。しかし、そんな多忙な中でも、合間を縫って勉強会を催したり、専門家の話を伺う機会を作ったりと、課員の皆様の仕事への熱意・研鑽のための努力は素晴らしく、このような環境に身を置いて仕事をできたことは、今後の自分にとって大きな財産になるものであると確信しています。
この課での2年間の勤務を通じて、国際イベント・賓客招待に伴う準備業務、仕事への向き合い方や進め方、そして「外交」が多くの人の不断の努力で維持・進展していることを知ることができました。このような非常に恵まれた勤務ができたのも、不拡散・科学原子力課の上司・同僚をはじめ、外務省でお世話になった全ての人のおかげであり、感謝申し上げます。これから控えている在外勤務でも、培ったことを存分に生かし、邁進していければと思います。