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令和元年12月25日
(写真1)熊野古道と聖ヤコブの道との二つの巡礼道を歩いた1,000人目の巡礼者 熊野古道と聖ヤコブの道との二つの巡礼道を歩いた
1,000人目の巡礼者
(写真2)神として崇拝され,日本屈指の高さを誇る那智の滝と青岸渡寺 神として崇拝され,日本屈指の高さを誇る
那智の滝と青岸渡寺
(写真3)熊野本宮大社旧社地の夏祭り 熊野本宮大社旧社地の夏祭り

ブラッド・トウル
田辺市熊野ツーリズムビューロー
プロモーション事業部長

神聖なる熊野

 熊野は,日本の聖地であり,紀伊半島南部の起伏の多い地域にあります。熊野信仰は,力強い滝や印象的な巨石,畏敬の念を起こさせる風景に対する,古代の自然崇拝と密接に結びついています。日本神話では,熊野は黄泉の国,この世とあの世を結ぶ,霊が集まる聖なる道です。実は,火の神を産んで亡くなった女神,イザナミノミコトなど,神々の墓もここにあります。
 6世紀に日本に仏教が伝来した時,土着の信仰と混合・統合され,神仏習合が起こりました。巡礼者は,今では熊野古道として知られる,紀伊半島を交差する参詣道を通り,熊野三山と呼ばれる3つの離れた神社の神に引き寄せられました。
 2004年,これらの聖地と巡礼道が「紀伊山地の霊場と参詣道」として,ユネスコ世界遺産に登録されました。
 現代の巡礼者にとっては,熊野は人里離れた体験をもたらしてくれます。人がまばらな山の集落では,昔を垣間見,訪れた人が田舎の文化に没頭することができます。一日歩いた後は,色々な温泉が心と体を癒やしてくれます。そして,美味しく新鮮な地元の料理が食欲も満たしてくれます!地元の人のおもてなしと優しさは,世界レベルです。
 日本人にとって,熊野は,日本の信仰の源の真価を知る基準であり,昔を思い出す田舎の原風景があります。教義を感じる以上に普遍的な聖地であり,巡礼の旅好きで広い心を持つ旅行者にとって素晴らしい場所なのです。

自然の中へ

 1999年の夏,カナダの大学を卒業したばかりの私は,英語を教え,文化交流に携わるため,本宮町教育委員会でJETプログラムに参加することとなりました。地域の歴史と文化を理解するのに何年もかかりました―最初は日本語に挑戦です!地域の信仰や文化について,英語での情報は何もありませんでしたが,人がとても親切で,心が広く,私を受け入れてくれました―私が何度も間違いや滑稽なミスを犯した後でも!しかし,何かが違うと感じました。説明はできませんでしたが,無意識のうちに私はそれに捕らわれていました。

帰国と回り道

 JETの3年間の契約期間が終わった後,私は残念ながらカナダに帰国しなければなりませんでした。カナダでは,私はアウトドアが好きなので,夏はロッキー山脈で日本人旅行者向けのハイキングガイドとして働き,冬はスキーの仕事に携わりました。オフシーズンは,ヒマラヤで過ごしたり,友人を訪ねに和歌山に戻ったりしていました。

新しい地域の挑戦

 この頃,熊野地域はユネスコ世界遺産への登録や市町村合併など,いくつもの大きな変化を遂げてきました。小さな本宮町も田辺市と合併しました。本宮町での以前の上司から連絡を受け,新しく設立する田辺市熊野ツーリズムビューローで働かないかとお誘いがありました。
 ビューローに入って13年が経ちましたが,私は自分たちが設立した同じ組織で今も働いています。私の仕事は,海外からの訪問者のための質の高い観光インフラを開発して地域を活性化するため,地元の人を支援したり,地域のプロモーションを行ったりと多岐にわたります。私にとても親切にしてくれ,助けになってくれた地域に恩返しができることは,非常にやりがいがあります。

前向きなプロモーション

 主なプロジェクトの一つに,聖ヤコブの道と呼ばれるもう一つの有名な巡礼道,スペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラとのジョイント・プロモーションがあります。2つの道の巡礼者プログラムなど,世界遺産の巡礼文化を協力して推進しています。2つの全く異なる宗教的信仰を前向きに結びつけることができるのは,個人的にとてもやりがいのあることです。

前向きな開発

 地方の経営者や起業家が商品・サービスを広く,グローバルな市場に広げられるよう,しっかりとした基盤を築き,有益で機能的なシステムをつくるため,地域のステークホルダーと密に連携しています。観光客を増やすということに加え,より重要なこととして,地元の人が全てを自分たちで行うというストレスを感じることなしに,海外から多くの訪問者を迎えられるよう,スムーズに移行するという点で成功を収めてきました。地域の人から感謝の言葉をいただく時,いつも互いに感謝することの素晴らしさに心を動かされています。

挑戦

 地域にとって一貫した,長期的かつ全体的なビジョンやスタンスを得るには,多様な人々,団体,様々なレベルの行政機関と働くという真の挑戦に向き合うことになります。常に変化し続けるダイナミックな国際観光に適応するため,オープンなコミュニケーションと情報共有を進めているところです。

未来へ

 私たちは,自分たちのモデルとシステムに磨きをかけ,地域再生と質の高い地域の観光開発の機会を広げるため,近隣の市町村や県とともに働いていきたいと思います。日本の田舎は,素晴らしい伝統文化と大きなポテンシャルを持っているので,地元の人に管理,責任,そして地域を大切にするための手段と技術を授ければ良いだけです。私たちのような大きな夢を持つ小さな団体が,日本の他の場所においても,何ができるかというヒントを提供できれば幸いです。

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