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米国イリノイ州シカゴ市ジャクソンパーク内「大阪ガーデン」の修復事業
大阪市建設局
大阪市と米国イリノイ州シカゴ市とは,1973年の姉妹都市提携以来,経済・文化・スポーツなど様々な分野で交流を重ねており,2018年には姉妹都市提携45周年を迎えました。シカゴ市は,古くから水運を軸とした商業の街として発展してきた歴史や,ジャズやブルースに代表されるような豊かで個性的な文化など,大阪市と共通点が多い都市です。
そんなシカゴ市の南部に位置するジャクソンパークの中には,「大阪ガーデン」と呼ばれる日本庭園があります。大阪ガーデンは,隣接するミシガン湖の湖水を取り入れた池を中心に,滝や石燈籠,太鼓橋等が配置された面積4,000平方メートルの本格的な池泉回遊式庭園です。この庭園の歴史は古く,1893年(明治26年)にシカゴ市で開催された「世界コロンビア万博(シカゴ万博)」までさかのぼります。当時の明治政府は,自国文化の質の高さを示し,文明国の地位を国外にアピールするため,平等院鳳凰堂を模したパビリオン「鳳凰殿」を建設しました。その後,鳳凰殿は火災により焼失してしまいましたが,かつて鳳凰殿があった場所には,シカゴ万博後に整備された日本庭園が残されています。この庭園は,1993年の大阪市・シカゴ市姉妹都市締結20周年の一環として,大阪市が修復に協力したことを契機に「大阪ガーデン」と呼ばれるようになり,現在も大阪市・シカゴ市の友好の懸け橋となっています。
このように,大阪市とも縁が深い大阪ガーデンですが,近年では経年劣化による施設の老朽化がみられるようになってきました。また,コロンビア万博から120年を超え,ジャクソンパークを含めた周辺地域の再開発が計画される中,日本文化を発信する貴重な地域資源としての役割があらためて見直されるようになってきました。
こうした背景のもと,国土交通省の海外日本庭園再生プロジェクトの一環として,姉妹都市である大阪市も修復のお手伝いをさせていただくことなりました。
2019年4月上旬,修復に向け,一般社団法人日本庭園協会の庭師の方1名とともにシカゴに渡航し,現場調査や現地関係者の方々との打ち合わせを行いました。現地では,庭園を管理しているChicago Park District(CPD)や現地の施工業者とともに,庭園の現状や課題等について話し合いました。その結果,今回の修復事業では,庭園の大きな見どころとなっている滝の石組みの修復と,庭園内の樹木の剪定を行うこととしました。施工時期は6月中旬頃とし,それまでに使用する石材や重機などの資機材の手配等をお願いし,日本に帰国しました。
外務省の在シカゴ日本国総領事館の関係者の方々にも温かく迎えられ,シカゴの人たちの庭に対する様々な想いも聞くことができ,修復に向けて大変意味のある渡航となりました。
2019年6月中旬,シカゴの寒さも和らぎ,過ごしやすい気候になったころ,再びシカゴに渡航しました。施工にあたっては,日本庭園協会から5名の庭師の方を派遣していただきました。私たちが渡航する前に,CPDや現地の施工業者が石材の調達や既存の石組みの撤去や準備作業等を行っていただいていたこともあり,施工はスムーズに進めることができました。今回の修復では,滝の上部にあたる滝口周辺の石組みを修復し,新たな石を据えていくことで,滝全体のボリュームアップや奥行感をつくることができ,シカゴの方々にも大変満足していただける出来栄えとなりました。
修復作業中,とても印象に残ることがありました。庭園内の樹木について,CPDや現地の施工業者,地元ボランティアの方々に対して,実際に剪定を行いながら,日本庭園の剪定の考え方について説明を行っていたとき,地元ボランティアの方の一人が「ここまで育った樹木を切りすぎているのはないか」と言い,剪定をやめてほしいと申し出てきたのです。実際に,アメリカでは,剪定はあまり行わずに木陰が多くある,こんもりとした樹木の形が好まれるようで,私たちが剪定を行う前は,庭園内の樹木もあまり手が入れられてないように見受けられました。しかし,日本庭園の樹木剪定においては,一定の枝を透かし,視点場からの景色の見せ方を意識することが重要であるといった考え方を伝え,対話を重ねることで,理解を得ることができました。
このやりとりを通して,樹木に対する考え方や好みは国や地域によってさまざまなので,今後,“シカゴにある”日本庭園ならではの庭園のあり方を追求していくことが大切だと感じました。そんなときに,今回私たちが伝えた日本の剪定の考え方を参考にしていただけたら幸いです。
このように,今回の修復事業を通し,海外の日本庭園の修復にあたっては,これまでこの庭をつくって管理し,守ってきた人たちの想いや,庭がその地に存在する意義と歴史を尊重し,未来に渡って継承していくことが重要であると感じました。今回の修復は無事に終えることができましたが,シカゴの方々にとっては,ここからが庭園再生のスタートです。今回の修復事業を機に,大阪ガーデンが今後ますます発展していくことを願っています。