グローカル外交ネット
静岡県におけるインバウンド観光の発展
トニー・エバリット
静岡ツーリズムビューロー(TSJ)
exploreshizuoka.com
私は,アジア太平洋地域のインバウンド観光の発展に30年間携わった後,静岡県がこの地域で最も魅力的な場所だと感じたため,ここに定住することを決めました。ニュージーランド,フィジー,シンガポール,上海,ジャカルタ,東京において生活し仕事をしてきたことは,もちろん場所はそれぞれ異なりますが,お互いの都市の間に多くの類似点があり,インバウンド観光をどのように発展させるかを互いに学ぶことができることを理解するのに役立ちました。
観光を開発分野として優先づけた日本政府の先見の明により,日本でのインバウンド観光の発展ははるかに容易になりました。2020年までに年間のインバウンド訪問者数4,000万人,2030年までに6,000万人という高い数値を目標として設定することで,この取組に注目を集め,非常に短い期間で見事な観光の成長を促進し,世界の羨望の的となりました。
しかし,そのような急速な成長に課題がないわけではありません。静岡の観光産業は活発です(静岡には,日本の都道府県の中で最も多くの旅館があります)。静岡県は,東京,名古屋,大阪という主要な人口集中都市から近い便利な場所にあり,東海道新幹線によって簡単にアクセスできることから,観光産業では主に国内市場をターゲットとしてきました。急速に観光産業のターゲットを海外からのインバウンド訪問者に広げると,地域で働く地元の人々にとって,大幅に学びなおす努力が必要となります。したがって,静岡ツーリズムビューローにおいて私は,静岡の人々が非常に新しく異なるタイプの訪問者である国際的なゲストへの対応を準備できるよう,セミナー,ワークショップ,その他のトレーニングイベントを,素晴らしいチームメンバーたちと協力しながら運営する仕事に注力しています。
もちろん,ラグビーワールドカップとオリンピックという今後のメガイベントによって,我々は自ずとさらに多くの海外からの訪問者を得る機会を目にすることとなります。静岡ではラグビーワールドカップの試合が4試合開催され,オリンピックでは自転車競技の会場にもなる予定です。私は以前,ニュージーランドでの仕事において,2011年に開催されたラグビーワールドカップを地元の観光促進に活用する方法について経験を積みました。今回,静岡県の人々と自分が学んだことを共有できることを嬉しく思います。また,県内の各市町村におけるワークショップやセミナーを含む大規模な講演ツアーを通して,これらのイベントに訪れるインバウンド訪問者のタイプとニーズを参加者がよりよく理解するための一助になればと,希望しています。
なぜ,私は静岡県を定住地として選んだのか。それは静岡県が,アジア太平洋地域で私が訪れた中で,最も美しく,そして面白い場所だったからです。ここでの私の業務の重要な部分は,地元の人々に,自分たちがいかに素晴らしい場所に住んでいるのかを理解してもらうため,海外から来た私の目を通して見えたものを説明することです。まず,静岡は世界遺産である富士山をはじめ,輝く太平洋,国立公園,森林,火山,豊富な温泉に至るまで,多種多様な自然の美しさに恵まれています。静岡で見られる四季や動植物は,とても興味深いものです。野生のイノシシ,野生の猿,野生の鹿のほか,日本で最も早く咲く梅や桜の品種があります。春から初夏にかけての数ヶ月間,森は,桃からツツジ,シャクナゲ,アジサイと毎月その姿を変える万華鏡のようです。5月には,家の周りの森を散歩して,朝食のために新鮮で美味しい野生の桑,キイチゴ,サクランボを採ります。夏になり,広大なビーチを楽しむ季節が訪れます。それから,秋の森の赤,黄色,オレンジの見事な光景。冬には雪遊びも楽しめますが,静岡の長く入り組んだ太平洋の海岸線を覆い,暖かく包み込む黒潮は,雲のない晴れた日が多い,穏やかな冬を保証してくれます。
静岡の魅力は,その自然環境だけにとどまらず,その歴史と文化にもあります。日本の西部と東部の勢力圏の中間に位置する静岡は,伊豆に亡命して育った最初の将軍(源頼朝)から家康の駿府城,浮月楼に隠居した最後の将軍(徳川慶喜)に至るまで,日本の歴史の中で重要な役割を果たしてきました 。日本はアジア,太平洋,アメリカの国々のうち,ヨーロッパ人の植民地となったことのない数少ない場所の1つであるため,静岡ではこうした歴史的出来事に起因する独特の地域性と文化が今でも強く息づき,今日の世界において,非常にユニークな場所として存在しています。さらに緑茶文化,広重,北斎,歴史的に魅力的な東海道,現代の漫画文化を加えてみてください。脳が文化的な刺激で破裂してしまうほどの魅力が,静岡にはあります。
そして,これら全てが,世界をリードする驚くべき最先端の新幹線や,素晴らしい在来線,バス,フェリーなど,世界中がうらやむ交通網によって,東京からわずか1時間以内で着く場所にあるのです。また,静岡には,国際空港,日本の主要港の1つである清水港,ピーク時にひどい交通渋滞に私たちが巻き込まれないようにしてくれる東名・新東名高速道路もあります。
インバウンド観光の準備という私たちの仕事は,海外からのお客様をこの地域に歓迎するとき,実を結びます。地元の人々が,海外からの訪問者のニーズに対応することを学び,実践する姿を見ると,勇気づけられます。そして,訪問者たち自身も,まだ外国人観光客で混雑するに至らず,新しい発見と喜びに満ちた地域を日本で発見することを喜んでいます。
異文化間の問題に対処するとき,言語や文化への理解が壁となる場合もあります。しかし私は,忍耐と粘り強さを通じて,インバウンド観光が世界のさまざまな人々が協力して,国際理解,寛容,平和を促進する力になると信じています。
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