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令和5年10月19日

奈良市総合政策部秘書広報課シティプロモーション係 細野真由

1 奈良市英語スローガン作成の背景 市の課題解決へ向けて

市長定例記者会見での奈良市英語スローガン発表の様子

 2023年7月、奈良市は市の英語スローガンを発表しました。
 「Old History, New Discovery.
 市が長年抱える大きな課題に対し、「英語スローガン」というツールを用いて解決を模索する、奈良市初の取り組みがスタートしました。

 古都・奈良には、一日では周りきれないほどたくさんの魅力・観光資源があふれています。それにも関わらず、コロナ前の2019年、年間約331万人訪れていた外国人観光客の約9割が日帰りであり、その目的も「鹿を見る」「寺社仏閣の見学」がほとんどを占めるなど、王道コース以外のスポットや観光資源がほとんど認知されていないという課題がありました。また、別の調査では、奈良市を訪れる外国人観光客のうち約9割は初めての訪問であり、そのうちの多くの方が「また来たい」と回答していたことから、奈良市再訪を後押しするための、鮮度の高い情報発信が必要であることもわかっています。
 これら長年の課題は、奈良市の「情報発信力の弱さ」を解決することで解消できるのではないか、と想定し、私たちは、英語スローガンが、例えば「花の都パリ」「眠らない町ニューヨーク」というように、奈良市というまちの魅力を世界中に端的に分かりやすく伝え、課題解決をするためのツールになるのでは、と考えました。
 英語スローガン策定により市が目指したもう一つの効果は、世界へ向けて市の各魅力を発信することで、奈良市民の皆さんにも「まちへの誇り」を感じてもらい、その思いを高めてもらうことです。私たちは、住んでいる人がまちの魅力を正しく認知していることこそが最強の強みであると考えています。市だけではなく、行政の枠組みを超えて、市民の皆さんも奈良の新たな魅力を見つけ発信していく、それを受け取った世界中の方々が、新たな魅力を感じるためにまた奈良を訪れ、奈良を好きになってくれる、それを見た市民の皆さんも改めて奈良市が好きになる…そんな好循環をこの英語スローガンを活用して作り出したい、と考えました。

2 スローガン完成まで 一条高等学校附属中学校の生徒たちによる1,000本以上の案から

奈良市立一条高等学校附属中学校での英語スローガン作成ワークショップの様子

 奈良市というまちを表現するスローガンを作成するにあたり、ぜひ、奈良市で暮らす市民の皆さんに作成に関わってもらいたいと考え、当時開校したばかりの一条高等学校附属中学校の第1期生の皆さんに協力を依頼することにしました。
 2022年8月、ファシリテーターチームとして作成に関わってもらうことになった、コピーライターのキリーロバ・ナージャさんから、生徒たちに、ムービーと手紙で「日本へは奈良にだけ行ったことがないので、おすすめスポットを教えて!海外からの旅行者に向けて、みんなで英語コピーを考えよう!」という秘密のミッションが送付されました。奈良のおすすめスポットの紹介、それをもとに奈良を表す単語や魅力キーワードの収集、それらを英語化したリストを組み合わせてスローガンの開発、という流れで2022年8月から9月にかけてワークショップを行いました。生徒たちは、1人約12本の開発に挑戦し、最終的に考案された案は1,000本を超えました。
 2022年12月、最終7案をもとに、奈良で観光に関わる方や海外出身の方(奈良市在住や過去に在住していた方5名)にヒアリングを行いました。どの案が海外の方に効果的か、ネガティブな表現として受け取られる可能性がないか、活用しやすいのはどれか、市民の方にも自身のアイデアを乗せて使ってもらいやすいかなど、忌憚のない活発な意見交換が行われました。そうして、2023年1月、最終7案について、活用例を考察した資料も加え、市長、市職員、ファシリテーターチーム間で検討し、奈良市のスローガンを「Old History, New Discovery.」に、最終決定しました。

3 奈良市の英語スローガン「Old History, New Discovery.」が表すもの

奈良市にある日本最大の円墳「富雄丸山古墳」から、昨年新たに出土した盾型銅鏡。古墳時代の金属工芸の「最高傑作」と評価された。

 このスローガンを端的に表現するとすれば、「温故知新」です。
 豊かな自然と古い歴史を持つ古都・奈良の中には、キラリと輝く「New Discovery(新発見)」がたくさんあります。古い町並みに息づく新たなスポット。若手伝統工芸作家による革新的な作品。古来の文様の中に見出した素晴らしいデザイン。いつの間にか海外でメジャーになっている奈良の「何か」。あの仏像に秘められた知られざるエピソード。芸術品のような美食たち。
 奈良に来ていただく方々にも、このような「New」と「Old」のコントラストを楽しんでいただきながら、宝探しのように旅をしてほしい、そして何度も訪れてほしい。また、奈良に住んでいる地元の方にも、生活する中で気づかなかった「New Discovery」に目を向けることで、新たな奈良の魅力を再認識し、まちへの愛着をさらに高めるきっかけになってほしい。そのような思いを込めて、このスローガンを選びました。

4 現在の活動 スローガンと連動したSNSの活用

 市民の皆さんによって奈良での新しい発見が実際に発掘され、その発見をさらに世界に広めるための施策として、現在、奈良市ではSNS、特にInstagramをメインとした活動を行っています。2022年の観光庁の「訪日外国人消費動向調査」報告書でも、訪日外国人が滞在前に参考にした情報源は、ホームページよりも口コミやSNS等に偏っていることがわかっています。
 直観的に理解しやすく、言葉の壁も感じにくい、画像を主としたSNSの特性を利用して、市民や観光客の皆さんが、奈良市の「Old History, New Discovery.」なこと(=温故知新)を、魅力的な写真や英語スローガンとともに発信することで、奈良に行く理由もう一度旅する理由を作り、長期目線でリピーターを増やしていきたいと考えています。
 Instagramでは、市の公式アカウントとは別に、スローガン専用のアカウントを開設しました。「リポスト機能」を活用し、スローガンと連動した奈良市独自のハッシュタグ「# oldnewnara」をつけた投稿のなかから、秀逸なものを選び、英文や場所を加えるなど内容を補足したうえで投稿、さらなる拡散を狙っています。

 まずは、奈良市民の皆さんにこのスローガンを広く知ってもらい、ハッシュタグ「# oldnewnara」をつけて発信してもらうため、2023年7月、ロゴとともに市長の定例会見でスローガンを発表、あわせて同日より市内の駅に設置しているデジタルサイネージでも、スローガンのロゴの表示、Instagramアカウントの案内を開始しました。
 9月には広報紙でも、スローガンが決まったこと、なぜ英語スローガンが必要なのか、どう課題解消につながるのか、について、作成に携わったコピーライターのキリーロバ・ナージャさんによる「言葉を考えることは『まちを考える』こと」、というインタビューなども交えながら伝え、市民の皆さんにハッシュタグ「# oldnewnara」での発信を呼びかけました。広報紙作成にあたっては、奈良市民全16万世帯へ向けて、このスローガンに愛着を持っていただけるような紙面を心掛けました。
 現在、市民や観光客の皆さんによる「# oldnewnara」をつけたInstagramの投稿は、550件を超え、どんどんこのスローガンの認知度が高まっていると感じています。

5 その他の展開 長く愛されるスローガンとするために

 一時的ではなく、これからも長く愛されるスローガンとするために、様々な広報媒体を使って奈良市内、海外からの観光客へ向けた周知を行っています。

(1)市内駅デジタルサイネージ

 観光客の約6割が鉄道を利用していることから、市内12駅に設置している奈良市のデジタルサイネージを効果的なPRツールと考え、お昼の時間帯を中心に、スローガン及びハッシュタグ「# oldnewnara」の告知を行っています。

(2)英語スローガン専用ページの公開

 スローガンとハッシュタグに関する専用webページを、奈良市公式ホームページ内に開設しています。広報紙をもとに英訳したページも公開し、海外の方でもアクセスしやすいWeb環境にしています。

(3)奈良市内のインフルエンサーへ企画の周知

 市内のインフルエンサー(SNSのフォロワー数が多い方等)の方々を中心に、随時、英語スローガンを使用した魅力発信への参加のお声がけを行っています。

(4)名刺デザインの作成

 市職員の名刺のデザインとして、スローガンのロゴを活用したフォーマットを作成しています。2023年10月より利用予定です。

(5)海外の旅行者向けコンセプトブックの作成

 今年度作成を予定している外国人観光客向けのパンフレットについて、メインコンセプトをスローガンと連動させ、「奈良のNew discovery」が写真で可視化できる内容とする予定です。

6 今後の展望

 英語スローガンの作成は、奈良市のシティプロモーションに携わる私たち市職員にとっても、奈良市の魅力について改めて考える機会となりました。広報紙に掲載した、作成に携わったコピーライターのナージャさんの言葉「この『New Discovery』は、未来への技術的な発展を指すのではなく、『古い歴史の中に見る新発見』の意味合いが大きいのです。何百年経っても新しいものは生まれるでしょうが、歴史の中で生活するまちの営みは変わらないことから、他のまちにない進化がきっとあると感じています。それがどういうものか、訪れた人も住んでいる人も一緒に考えられたら素敵ですよね。」が印象的です。
 今後も市民の皆さんといっしょにこのスローガンを育てていくため、例えば投稿された写真の駅サイネージでの放映やカレンダーの制作など様々な方法を活用して、住んでいる人にこそ愛されるスローガンにしていきたいと考えています。
 そして奈良市は、英語スローガンをきっかけに魅力の幅をさらに広げ、市民や観光客の皆さんにとってかけがえのないまちになり、さらなる奈良市の活性化につながっていくよう、活動を続けていきます。

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