グローカル外交ネット
日本の中古消防車・救急車等が紡ぐ地域間連携
一般社団法人 日本外交協会
日本外交協会は議会政治の父、憲政の神様といわれた尾崎幸雄(咢堂)らの国会議員有志により1947年に設立され、名称変更、一般社団法人への移行を経てこれまで内外への外交政策の啓発活動を中心に76年に亘って活動してきました。1997年からは現在協会の主要事業の一つとなる海外援助事業に取り組んでおり、外務省ODA「草の根・人間の安全保障無償資金協力」(以下、「草の根無償」)等を通じて日本から中古消防車・救急車(以下、機材)を本邦にて再整備のうえ開発途上国へ寄贈し、有効活用いただいております。2022年度までに、累計1,300台以上を、アジア、中南米、アフリカ等82か国に対して寄贈しており、機材を無償供出して下さる自治体等は沖縄から北海道まで全国各地に及び、その内訳は消防車・救急車に限らず塵芥収集車や給水車、マイクロバス、建機と多岐に亘ります。事業実績については下記をご参考下さい。
- 草の根無償は、従来、開発途上国において、「人間の安全保障」の理念を踏まえて、地域住民に根差し、比較的小規模な経済社会開発プロジェクトに対して資金が提供されるものですが、当協会が提供した機材を現地で引き渡した在外公館・日本大使館関係者からは「日章旗に加えて日本の自治体の名前が残った機材が街中を滑走し、地元の人々の生活風景に溶け込み、実際に貢献している風景を見て嬉しく思う。」旨のコメントがしばしば当協会に寄せられています。また、過去に中古救急車を供与した前駐ナミビア大使が当協会へ手記を寄せて下さり、引渡式への陪席を通じて、機材供与が直接市民レベルで裨益し、また、日本のプレゼンス向上にも大きく寄与したことを感じた旨述べられています。
手記については下記をご参考下さい。 このような反響を頂くことは事業を手掛ける当協会にとって大きな励みになるものです。
同時に、本事業は機材供出をいただく全国の自治体等のご理解無くして成立し得ず、改めて多大なご支援に感謝するとともに、日々多種多様な団体の、様々なニーズに対して適切に対応され案件形成に努めていただいている各国の日本大使館にもお礼申し上げます。
さて、このような事業ですが、今回ご紹介したいのは、草の根無償が、日本の地方と開発途上国の地方を繋ぐ重要なツールとなっている側面についてです。東京2020オリンピック・パラリンピック(以下、オリパラ)の際に始まった自治体の「ホストタウン」事業による繋がりをベースにして、オリパラ終了後も自治体と開発途上国との協力分野の拡大として、機材の寄贈に発展した例は幾つもあります。まさしく「オリパラ後も末永く交流を続けていく」というホストタウン事業の趣旨に沿った取組みといえます。例えば、ドミニカ共和国と千葉県松戸市の例では、2015年9月、外務省地方連携推進室が松戸市と共催した「駐日外交団による地方視察ツアー」に駐日ドミニカ共和国大使館公使が参加したことがきっかけとなり、松戸市はその後草の根技術協力事業で特産品である梨の栽培技術を支援しています。交流分野は年を経るごとに拡大し、昨年11月にはドミニカ共和国の自治体と松戸市の間でパートナーシップ協定が成立し、同国自治体との都市間協定として全国初となったことはグローカル通信(第169号 令和5年3月1日)でも取り上げられております。2022年12月にはこのような交流を背景として、中古消防車両の寄贈に繋がり、その実施に伴い松戸市より同国のコンスタンサ市へ現役消防士を派遣し、消防車の運用等の研修を実施しました。当協会もその寄贈の実現に松戸市と協力できたことを嬉しく思います。更に、ドミニカ共和国は連携の輪を拡大し同国と関係の深い神奈川県愛川町との繋がりも始まっています。近々、同国に寄贈される中古救急車の本邦からの送り出しが関係者の参加を得て行われる見込みです。
このようなホストタウン、その他の連携・交流の一環が中古機材の寄贈に繋がっていった事例は、これまでも多数あります。ホストタウン等の繋がりを含む事業実績については下記表の通りです。
自治体 | 相手国 | 寄贈品 | 日本と海外の自治体の繋がり | |
---|---|---|---|---|
1 | 群馬県片品村 | ホンジュラス | 消防車 | 東京オリパラ・ホストタウン |
2 | 宮城県蔵王町 | パラオ | 消防車、救急車 | 太平洋戦争後、パラオから引き揚げた在留邦人の移住先 |
3 | 八王子市 | ミクロネシア | 塵芥収集車 | JICA青年海外協力隊(職員派遣)、廃棄物処理問題の改善事業 |
4 | 福岡県みやま市 | バヌアツ | 消防車 | 東京オリパラ・ホストタウン |
5 | 神奈川県愛川町 | ドミニカ共和国 | 救急車 | ドミニカ共和国籍の外国人が多い、駐日大使との交流 |
6 | 群馬県甘楽町 | ニカラグア | 消防車 | 東京オリパラ・ホストタウン |
7 | 愛知県豊田市 | ハイチ | 消防車 | 前駐ハイチ大使のご出身地が五輪ホストタウン(幸田町)、フランス語で「ハイチ」を「アイチ」と発音すること等からの友好交流 |
8 | 北海道恵庭市 | グアテマラ | 救急車 | 東京オリパラ・ホストタウン |
9 | 福島県いわき市 | サモア | 消防車、救急車 | 島サミット |
10 | 高知県(高知市) | トンガ | 塵芥収集車 | ラグビーワールドカップ2019の事前キャンプ地 |
11 | 神奈川県横浜市北山田町 | ブルキナファソ | 消防車 | 市議、町民による友好交流 |
12 | 東京都町田市 | ブータン | 消防車 | 市の国際貢献としての友好交流 |
13 | 千葉県松戸市 | ドミニカ共和国 | 消防車 | 東京オリパラ・ホストタウン、JICA梨植樹事業等 |


また、単に機材を寄贈するだけでなく、松戸市の例をあげましたが、実際に使用していた自治体から専門家を海外へ派遣頂き、安全且つ適切な運用及び維持管理を目的とした現地短期研修を実施する例も多くあります。直近では7月末から8月にかけて、はしご車の寄贈のため、京都中部広域消防組合(亀岡市、南丹市及び京丹波町)より現役の消防士2名をチリ共和国首都圏タラガンテ地区へ派遣いただき、現地消防隊員23名に対して研修を実施しました。研修は単なる操作方法の説明に留まらず、消防士の知見に基づく、安全を配慮したコミュニケーションや活動ノウハウも伝達されました。研修最終日のデモンストレーションでは、自信と誇りに満ちた隊員たちの活動の出来栄えを見届けた京都中部広域消防組合の消防士が思わず涙する場面も見られました。正に草の根レベルで、こういった人と人の交流、取組みの積み重ねが地方間連携の絆の構築・強化に大きく貢献していくと考えています。
このような我が国の中古機材、特に消防・救急車を海外支援に活用する草の根無償は、目的が明瞭で寄贈先地域住民に対して高い裨益効果を期待できる国際貢献の一つとして認知されており、これを受けて外務省を初め関係機関で、今後3年かけて寄贈台数を大幅に増加させる方向で検討されています。今後、寄贈台数が増えていくとともに、既存の自治体同士の交流促進は勿論のこと、新たな海外の自治体との結び付きに繋がる契機となることを期待しています。
最後に、中古機材の開発途上国への寄贈事業に関し、以下の三点を述べたいと思います。
- (1)当協会として、自治体を中心とした諸団体に対し、長年にわたり機材の無償供出にご協力をいただいたことに改めて感謝申し上げるとともに、このように沢山の自治体が「目に見える国際貢献」の主旨を真に理解され、国際貢献に取り組んでおられることに改めて光を当て、今後とも積極的にPRしていきたいと考えています。
- (2)中古機材の海外への寄贈・供与は、「顔の見える国際貢献」、「日本と外国の地方同士の繋がりを後押しする極めて重要なツール」となっています。各自治体で管理された機材の多くが通常、一定期間経過するとスクラップされている実情の中で、自治体にとって開発途上国への寄贈活用は検討し得る有効な選択肢であり、地方連携のグッドプラクティスの一つになり得ると考えられます。
- (3)これからもより多くの自治体に、この開発途上国への寄贈事業に参加していただけることを願っています。中古機材の寄贈に関するお問い合わせは、遠慮なく当協会に寄せていただけますようお願い致します。
- 一般社団法人日本外交協会 海外援助事業
- 電話:03-5401-2121、メール:recycle@spjd.or.jp
