グローカル外交ネット

令和2年10月26日

ジョナサン・ジェンキンス

 日本にやって来る多くの外国人は東京や大阪など大都市で働くことを夢見ていますが、私は北海道の地方都市で暮らした経験から異なる意見を伝えたいと思います。

1 日本での日々

 私の名前はジョナサン・ジェンキンスです。北海道札幌市から1時間ほど離れた浦臼町という小さな町で暮らしているオーストラリア出身の学校教師です。約20年前に大学を卒業して以来、私はほとんどの時間を日本で過ごしています。日本にきてしばらくは、東京から1時間ほど離れたつくば市で英会話教室の教師として働いていました。それから、より小規模で都会からより離れた町に暮らすようになりました。北海道東部に位置する釧路市で民間の英会話スクールの教師として働き、最低気温-41.2度を記録した遠く離れた幌加内町で外国語指導助手(ALT)として働いたあと、最終的にALTの教師と地域おこし協力隊の隊員として、浦臼町に移り住みました。

2 地方都市に暮らす理由

 私は周囲の人からよくこのようなことを聞かれます。「なぜそんなに小さな町で暮らしているの?オーストラリアでも2番目に大きな都市あるメルボルンで生まれ育ったのだから、札幌や東京のような大都市のほうが好きじゃないの?」

 私は日本で過ごしている間、47都道府県すべてを旅する機会に恵まれました。富士山に登り、沖縄の美しい海で泳ぎました。また、東京の裏道のカラオケで一日中歌ったり、京都の神社仏閣を巡ったり、山上の露天風呂につかりながら雪見酒を楽しんだり、日本最北端の宗谷岬から九州最南端の佐多岬までバイクで日本を縦断し、再び北海道に戻るまでいろんな人と交流するなど、おそらく日本にやってくる外国人が想像する日本でやってみたいことを一通り経験しています。

 このように日本の大都市や名所を旅するのは大好きですが、それぞれの地域の誇り、共同体意識、人々の温かさ、そして田舎生活の利便性という4つの点で、私は日本の地方に惹かれていくのに気づきました。

それぞれの地方都市の魅力

 地方都市を好きな理由として、まずは町の規模にかかわらずすべての日本の地方都市にはそれぞれ異なった魅力があり、地元の人はその点について誇りをもっていることが挙げられます。それは地理的な特徴や歴史的な行事、地元の特産品だったり、地元出身の有名人だったりします。私が浦臼町の地元の人たちにどんな誇りをもっているのか聞いてみたら、それぞれ違う答えが返ってきました。農家の人は、メロンや蕎麦、あるいは牛肉が日本一美味しいことだと答え、歴史好きの人は明治維新の立役者である坂本龍馬の坂本家の本籍が浦臼町にあると答えます。坂本龍馬の死後、その妻子は浦臼町に移住して家を構え、今では多くの人が坂本家の墓を訪れ、町の郷土資料館で坂本龍馬にまつわる歴史を学びます。また、他の人はブドウ農園の敷地面積が日本一大きいことだといっています。浦臼町で収穫した葡萄で造られるワインは本当においしく、またその葡萄とワインをモチーフにした「臼子ねぇさん」というかわいいゆるキャラもいます。
 もし、あなたが地域コミュニティに誇りをもつ住民が暮らす地方都市に移住して来たら、地元の人とその誇りを容易に分かち合うことができるでしょう。

地域コミュニティへの奉仕

 私が日本の地方都市を好きな2つの目の理由は、住民一人一人が自分の町をより良い場所にするために各自でできることを喜んで一生懸命に行うコミュニティの精神にあります。私は、浦臼町でただ一人の英語のネイティブスピーカーとして町の子供達の英語の教師となり、また日本語と英語の翻訳、通訳に従事しています。私は自身の教師という仕事に大変満足しておりますが、地元の人々と一緒に様々なイベントに参加することも同じくらい満足感を得ます。私は地元のミニバレーボール、パークゴルフ、玉入れ競争などのスポーツチームに参加しています。また、バンドでギターを弾くので、地元の福祉施設でクリスマスソングを披露したりすることもあれば、氷点下を下回る気温の中、冬の祭りのために地元の駅にアイスキャンドルを飾ったり、地元の人に伝統的なオーストラリア料理の教室を開催したりすることもあります。小さな町には娯楽と呼べるような映画館、ショッピングセンターやパチンコ店などもなく、このようなボランティアによって運営されるイベントはみんなにとってとても大切なものですから、多くの地元の人たちがコミュニティをよくするために自分の仕事終わりの時間や週末を費やしてボランティアで活動し、コミュニティを良くするために働いていることを思うと、とても温かい気持ちになります。

地方都市に住む人々の温かさ

 私が日本の地方都市を好きな3つ目の理由として、地方都市に住む人々の温かさが挙げられます。私自身小さな町に住んだ期間において、どのエピソードを紹介していいかわからないほど、たくさん助けてもらった経験があります。数年前私の両親が浦臼町を訪ねてきたときには、近所の人が私の母の具合があまりよくないと聞いて、新鮮なメロンと畑で取れたばかりの野菜を袋に詰めてやってきて、母のために体に良いメニューの作り方を教えてくれました。その人は私の母に会ったこともなく、ただ純粋に日本での旅行を楽しめるように、体調を治してほしいと思ってよくしてくれました。また他にも、冬に助けてもらった経験もあります。雪深い地域に住むということは、冬に雪かきをすることが日課ですが、仕事が忙しいとき、毎日雪かきをすることは大変です。そのようなとき、私が家に帰ると、近隣の人がトラクターで私の家の前の雪かきまでしてくれることもよくあります。私が地方都市に移住したその日から今まで、周りの人はとても親切で、困ったときは助けてくれて、また食事や地元の活動に誘ってくれて、その地域での生活や文化を教えてくれました。そして、何よりも大切なことは、地元の人は私のことをよそ者ではなくコミュニティの一員として扱ってくれたことです。

地方都市での生活の利便性

 最後に、4つ目の理由として、地方都市での生活の利便性が挙げられます。このようなことを言うと驚かれるかもしれませんが、公共交通機関が充実しておらず、ナイトライフが充実していることもなく、地元で買い物できる場所は限られていても、私は都心で暮らすよりも田舎での暮らしが快適です。
 日本での最初の仕事では、毎日家、オフィス、学校に行くために2時間は車に乗っていました。浦臼町に引っ越してから、家から職場の学校までたった60秒です。私の家は美しい樺戸連峰の麓に位置し、森や牧場、川に囲まれて暮らしています。空気はおいしく、住環境も静かで、町を歩いていると、キツネや鹿、鷲、うさぎやりすなどの野生動物を見かけ、たまに熊も出没します。夏には、北海道の地元の道をバイクで走り、日本でも有数の絵画のように美しい景色のコースでゴルフを楽しみます。冬には、すぐ近くの様々なリゾート地に赴き、世界でも有数のパウダースノーのスキー場でスノーボードを楽しみます。
 また、私の職場である学校のクラスは小さいです。クラスが小さいということは、生徒ひとりひとりと向き合って親しい関係を築くことができます。また、私は子供たちの親や祖父母とも近しい関係を築いています。また、最後にショッピングモールや映画を見たいときなどは、札幌など近隣の都市まですぐアクセスできます。

3 最後に

 もしあなたが、日本でユニークな経験をしたいと思っていたり、また、大都市での暮らしに疲れたりしたときは、日本の田舎に住むことを検討してみることを強くお勧めします。

(写真1)地元のお祭りでのボランティア(筆者:写真中央) 地元のお祭りでのボランティア(筆者:写真中央)
(写真2)日本各地で暮らした自身の経験を語る筆者 日本各地で暮らした自身の経験を語る筆者
(写真3)地元の中学校での英語の授業の様子(筆者:写真右手) 地元の中学校での英語の授業の様子(筆者:写真右手)
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